リアルの都合で毎日投稿が難しくなって参りました。
なるべく早くあげられる様に頑張ります!
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噴水広場でおじさんの事を引き受けた俺は、そのまま海岸の方に降りる。
どうやらそこに、渡したいものがあるらしい。
──“あった! あそこだよ! ”
頭の中に響く声。
凛花の指差す先に、白銀に光る何かが落ちている。
それは2枚の板だった。恐らく何かの部品であったであろうそれは、半分で断ち切れ、機械的な複雑な配線が飛び出している。
そして、異様なのがその光沢。
太陽の光を反射するだけではなく、
不定期に。
脈打つ様に。
不思議な光の脈動が、その物体を目立たせている。
──“多分、これが私の依代なの”
幽霊少女が呟く。
なるほど、これと共に別の場所に連れて行ってほしいと……。
……え、これ触らないといけないの?
思わずそれを見る。
心なしか先ほどより早くなった気がする脈動。
正体不明のオーパーツという事もあり、最近厄介ごとだらけの俺は気遅れする。
──“やっぱり、迷惑だよね……”
落ち込んだ少女の声。
慌てて俺は少女に言う。
「大丈夫だ! 男に二言は無い!」
キラキラとした視線が、俺に突き刺さる。
情けない事だが、俺には断りきれないダメ親の才能があったらしい。
ため息を一つ。大きく深呼吸をし、まっすぐにオーパーツを見た俺は、手を伸ばす。
「うぉ!?」
手に触れた瞬間。オーパーツが破裂する。
眩い灰色の閃光。視界を煙と光が覆う。
目が慣れてくると、見慣れたバイザー。
どう言う訳か、俺は例の鎧を装着していた。
──“すごーい! どうやったの!? ”
驚く少女の声に、俺も混乱する。
突然変身した事もそうだが、バイザー内に浮かぶ文字。“Focus Boost”
自慢にもならないが、俺は英語が苦手だ。
……ふぉくっぼおすと? ダメだわからん
腕を組み、全力で首を傾げる。
──“ふぉーかす、ぶーすとだよ! ダイキさん! ”
少女からサポートが入る。どう言う仕組みかは知らないが、少女は俺と視界を共有しているらしい。
てか、よく見たら装甲自体も少し変わっている気がする。
全体としては大きな変化はないが、背中のブースターに着いた三角形の翼。
不可思議に脈打つそれは、どこからどう見ても先ほどのオーパーツだった。
……寄生された!?
──“これで、問題なくダイキさんと一緒にいけるねー! ”
嬉しそうな少女の声が響く。
なんだか悩むのも馬鹿らしくなった俺は少し能天気に呟く。
「あぁ、そうだな。……ところで、フォーカス・ブーストって」
『──―ready,〝Focus Boost〟』
どこかから電子音が響く。そしていつも以上に強力なタービン音。
嫌な予感を感じる間も無く。
俺は耐えようの無い重力に、意識を失った。
○
「おーそーいー」
ところ変わって武家屋敷。
和室で手足を伸ばしながら、机に突っ伏す少女が一人。
夕食のシチューの仕込みを終えた少女。レッドである。
現在馬岱は情報収集兼食材調達中。
大輝が戻ったときの行き違いを考慮して、彼女が留守番を担当していた。
「特訓でもしようかなぁ……でもここじゃなー」
真剣に悩む少女、二本の太刀を机に置き。
手入れでもしようか、と思い至った所で思い出す。
白木の鞘と柄からなるシンプルな小刀。
寺から拝借してきた聖剣である。
「んふふー、やっぱいいなぁ〜」
魔力を目に通し刀を見る。
地脈を感じさせる黄金の魔力。
神秘の代表と言えるそれが、この剣には定着し、むしろ周りの空間へと揺らぎを与えていた。
強力な祝福がかかっている。その証拠である。
「どんな力があるのかなー」
二つの太刀の隣に小刀を並べたボクは、鼻歌を歌いながら、武器の手入れを開始した。
●
「……ぃ。? 生きてますか?」
聞き覚えのある声に目を覚ます。
こちらを見つめる紫の瞳。そして整った顔。
ただ、それ以上に気になるのは、視界いっぱいに柔らかそうな山が二つ見える事。
そう、俺は所謂膝枕と言うものをされていた。
思わず顔を逸らし、今度は彼女のふとももが視界に入る。
「あ、元気そう」
……元気そう。じゃないが!
思わず起き上がりかけて、この姿勢だと山に突っ込むと理性的な判断をくだす。
決して、この極上の枕を味わっていたいわけでは無いのだ。(断言)
「久しぶりだな……」
「そう? 一日くらいですよ?」
彼女が面白そうに笑う。その楽しそうな顔は記憶通りで思わず俺も顔が綻ぶ。
……よかった、彼女は何かに巻き込まれていないらしい。
「あぁ、そうだったか」
少しおかしくなって、軽く笑いながら返す。
思えば短い間に、濃い経験をしたものだ。
「それでお兄さんは、なんで岸に打ち上げられてたの?」
彼女が海の方を見る、視界の先には小魚を摘むアビの群れ。
「あっ」
彼女は思わずと言った感じで横に置いたカメラを取り、下にいる俺に構わずカメラを構える。
すっかり俺のことを忘れているらしい彼女は俺の顔にその双山を押し付ける。
「ぅぉ…ッ」
カシャっと懐かしい音。
「うーん」という悩ましい声と共に、俺の呼吸が幾分か楽になる。
ーー“ぁわわ…”
広がった視界の端に、ワタワタと不審な動きをしながら、手のひら全開で目を隠す幽霊少女。
思わず間髪入れず身体を起こす。
幸い彼女は横に置いた、日記帳らしき物に記録していてぶつかることはなかった。
無言で立ち上がった俺は、スッと幽霊少女に近づく。
「どこまで見た」
少女は「ぴぇっ」と言う謎の鳴き声と共に答える。
──“久しぶりだな……。から”
……ほとんど最初からじゃねぇか!!
思わず気恥ずかしさから、顔を抑える。
少しだけ彼女の香りがし、複雑な気持ちになった。
俺がそんな事をやってると、彼女が面白そうに声をかけてくる。
「おにーさん。突然一人でどうしたの? そっちに何かいます?」
その顔には若干の揶揄いが混ざり、カメラを構えている。
俺がそっちを向くなり、カシャっとシャッター音。
満足そうに頷いた。
「消しといてくれ……」
「ダメだよ、面白いしー、って、あれ?」
写真の確認をした彼女が、一瞬動きを止める。
しばらくすると写真とこちらを交互に見つめ、興味深そうに口を開く。
「ほんとに何か居るじゃん」
──“見えるの!? ”
彼女は幽霊少女のいる方に、目を向ける。
思わず幽霊少女が近づくが、その視線は少女のいた場所を見るばかり。
実際に見えてるわけでは無いらしい。
「写ったのか?」
「うん、お兄さんは……見えてるんだね?」
俺が凹んでいる少女の方に目を向けると、彼女もそちらに目を向ける。
どうやらオカルトを信じるタイプらしい。
そこに何かいる事を疑う様子はまるで無かった。
『〜♪』
俺が何かを言おうとするタイミングで、可愛らしいオルゴール音が一つ。
彼女は指を唇に当てると、パーカーのポケットからスマホを取り出した。
何度か頷く彼女。しばらくするとその両手を合わせ申し訳なさそうに告げる。
「ごめん、急用できちゃった。せっかくだからまた今度、話聞かせてね」
そう言うと彼女は、ヒラヒラと手を振って立ち去っていく。
相変わらず、風のように自由な子だ。
苦笑いをしながら、見慣れたピンクのパーカーを見送ると、俺は屋敷への帰路についた。
第八話 いかがだったでしょうか。
若干のラブコメも入れていきたい、今日この頃。
一話にて登場のヒロイン翔子さんのエントリーです。
では、また次話をお楽しみに!