英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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大変お待たせしました。
第九話になります。よろしくお願いします。


第九話 洋館へ

 

 ○

 

 日も傾き、カラスの鳴き声が空に響くころ。

 ボク達は、馬岱さんの報告を聞きながら、早めの夕食を摂っていた。

 

「霧が動いていないのは良かったけど……ゾンビが増えてる。かぁ」

 

「あぁ、たいした敵じゃ無いが。街のいたるところで見るとなりゃ、なあ?」

 

 馬岱さんが言葉と共に、固いパンを強引に噛みちぎる。

 その表情は義憤に駆られ、不快感を隠そうともしていなかった。

 大輝は同意する様に頷き、手を挙げる。

 

「その事で一つ、伝えることがある」

 

 口数の少ない彼からの意外な申し出に、視線が彼に集まる。

 いつも、重要な局面で正確な判断を下してきた彼の事だ。今回も何か重要な話に違いない。

 僕達が期待する様に見ていると、彼は突然庭の方を向く。

 その視線は何も無い空中に留まり、彼が何かを思い出しているのは明白だった。

 

「それをしているのは、雁夜と言う死霊術師だ」

 

 ボクと馬岱さんは共に首を傾げる。

『死神』でも『冥府の火』でもなく、一介の死霊術師? 

 それが町全体に手先を潜ませる……そんな事が出来るのだろうか。

 

「大輝、それは流石に……」

 

「不可能」と言おうとするボクを遮り、大輝は庭の方を見ながら言葉を続ける。

 

「死神の腕。それを用いれば可能だ」

 

『死神』大輝から出たその言葉に、ボクと馬岱さんの気が引き締まる。

 ……正直、大輝からその言葉が出るとは思わなかった。

 馬岱さんの事を考えるに大輝もまた、『英雄』を受け継いだ者であり。儀式について明るくはないと思っていたからだ。

 

「死神の腕って?」

 

「死神の召喚に使われた、聖遺物だ」

 

 召喚に使われた聖遺物。確かにそれがあれば、『死神』の真似事は出来るだろう。

 だが、それ以上に聞き流せない事がある。

 

「死神は召喚された英雄なの!?」

 

 もしそうであるならば、ボクもまた儀式に呼ばれた事になる。

 ボクの問いに、彼は少し考えるように腕を組むと、静かに語り出した。

 

「厳密には、神降ろしに近い」

 

 神降ろし、限定的な神霊の憑依現象のことだ。

 それ自体は神事の際に行われる。珍しくは無い。

 ……だが、それはつまり。

『死神』が英雄の異名ではなく、神そのものであった事を意味している。

 ──その時点で、儀式は破綻していたのだ。

 

「てことは、死霊術師は神降ろしをしてる可能性が高いって事か」

 

 馬岱さんの言葉に「あぁ」と彼が頷く。

 となると、本当に勝ち目がない。

 そもそもの存在の格が違うし、この異界の霧の中で魔物や狂戦士など、さまざまな敵を相手取りながら勝てる保証はない。

 

「そんなのどうやって……」

 

 絶望に顔を青くするボクを正面から見つめて、彼は言う。

 

「大丈夫、まだ止められるはずだ!」

 

 真っ直ぐに確信を持った彼の言葉に思わず息が詰まる。

 どうして、戦うことを選択できるのか。

 ボクにはまるでわからない。

 しかし、彼ならやってくれるかもしれないとそう思った。

 

「わかった。その術師を止めに行こう」

 

 そんな自分の判断に苦笑いをしながら。

 ボクは目の前の『英雄』を見てそう言った。

 

 

 彼の言葉に従い屋敷を出発し。なぜ彼が、今戦えると判断したのか理解する。

 

「あれは……」

 

「ゾンビ……だな」

 

 ボクと馬岱さんが呟く。

 敵の乱入。懸念事項だったそれは、目の前の隊列を見て、無駄な悩みだったと理解できた。

 十や二十じゃすまない大量のゾンビ。

 それらと共に、列をなす不気味な人魂。

 無数のアンデット達が、その隊列を崩さずに教会へと向かっていた。

 

 死霊術師が儀式に参加する以上、狂戦士は、確実に分かっている敵だ。であれば、その討伐に戦力を割くのは自然なこと。

 むしろ昨夜、ボク達が巻き込まれた事の方がイレギュラーだったに違いない。

 大輝は悩み不安定な心で、その事に気づいたに違いない。

 思わず彼を見ると、真っ直ぐ何も居ない路地裏を視野に入れ一言。

 

「慎重に進もう」

 

 歩き出す彼の言葉に静かに頷き、思考を切り替える。

 イレギュラーが現れたとなれば、使役能力のある術師は何か行動に移すに違いない。

 ボクは瞳に魔力を回し、辺りを見る。

 空に2羽。物陰に5匹。

 禍々しさを感じる、紫の魔力光が視界に映った。

 

「見られてるね」

 

「ぽいな」

 

 警戒し敵を把握しながら進むボク達とは対称的に、鎧の彼は全て気づいているのか、

 空に舞うカラスへ視線を向け。

 ネズミの隠れる路地裏を通り。

 あえてその姿を見せながら、目的地へと向かっていく。

 

 一体彼はどこまで読み切っているのか、ボクの中の憧れは大きくなるばかりである。

 

 ●

 

 迷路じみた商店街の裏路地を、迷い迷い進むこと数十分。

 金属門や煉瓦塀に葛の葉が絡んだ、一見廃墟にしか見えない洋館へとたどり着いた。

 洋館の鉄門は大きく開け放たれ、両脇に立つ枯れ木の上に大量のカラスが停まっていた。

 

「こっからどうする?」

 

 ──“どうするー? ”

 

 カラスの止まり木と化した枯れ木を、睨みつけながら馬岱が言う。

 ……カラス、お嫌いなんですか? 

 恐らく的外れなことを思いつつ、俺は少し考え。馬岱と凛花に言葉を返す。

 

「当然。正面から行く」

 

 洋館は不気味なほど、静かである。

 よってこっそり入れば、ゾンビにも合わず。幽霊少女とおじさんを合わせてやれるに違いない。

 

 馬岱はニヤリと笑うと一歩前に出る。

 息を吸ったかと思うと、あろう事が大声で叫び始めた。

 

「逃げ隠れる臆病者よ! 出てくるがいい。『英雄』馬岱は、ここにいるぞ!!」

 

 その宣言をするやいなや、彼は目の前の鉄格子を一閃のもと切り倒した。

 

 ……バカなの!? 脳筋なの!? 

 

 ○

 

 馬岱さんが堂々とした名乗りを挙げ、門の敷居を跨ぐなり、屋敷の屋根から。木の上から。塀の陰から。

 人の眼に捉えるのが難しい速さで。

 カラスが、ネズミが。一斉に襲い掛かる。

 

「ハァッ!!」

 

 常人であれば、散弾の嵐と変わらぬそれは。

 一切怯む事ない『英雄』に、一刀のもと。切り払われた。

 

 どこか、腐敗臭のする亡骸が、一瞬遅れて地に落ちる。

 油断なく槍を構えた彼は、駆け出す。

 

「グルルァ!」

「遅い!!」

 

 中へは入れまいと、屋敷から飛び出して来た狼を切り捨て、一切引くことなくグングンと屋敷へ先行して行った。

 

「行こう」

 

 ボクがそう声をかけると、大輝は光に包まれ。白銀の装甲を身に纏う。

 

「あぁ、止めに行くぞ!」

 

 彼の言葉に甘いな、と思う。

 ……敵の儀式に対する渇望は明白だと言うのに。

 彼は止めに。『救いに』来たのだ。

 

「うん!」

 

 ボクは笑みを深め、彼と共に屋敷へ駆けて行った。




第九話 いかがだったでしょうか?
今回は死霊術師の洋館へ向かいましたね。
物語の裏では当然、さまざまな人物達が動いています。
誰が、どこで繋がって居るのか是非考察してみてください。

では、次話をお楽しみに!

追伸、更新はしばらく土日になります。

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