話が動き始めたので書くのすっごい疲れました。
「俺さ、レース生で見るの初めてかも」
「そんなわけないですよね、トレーナーさんなんですから……え? 本当なんですか? 私、そんな人から教わってるんですか?」
「冗談に決まってるじゃないかアッハッハッハッハッ」
実はマジのマジなんだよ。野球ならしょっちゅう見に行ってた訳だが、さすがに競馬は行かない。というか、競馬をしょっちゅう見に行ってるなんてなれば学生としてどうなんだっていう話になる。
「紛らわしいこと言わないでくださいよー。トレーナーさんのその手の話は本当なのか嘘なのかわかんないんですから」
「すまんすまん」
いやー初めてだからってのもあるけどマジで広いな。
感想的には甲子園球場に初めて言った時みたいな、そんな感覚だ。
客席がずらりと並び、人は……デビュー戦というだけなので満員御礼というわけでは無いが賑やかだ。
売り子とかもいて、何やら食べ物を売っているみたいだ。
「ビールはねぇのか。球場といえばビールだろ」
「トレーナーさん、レース場ですから。……って、それ以前にトレーナーさんは未成年ですよね」
「そうだよ」
「そうだよじゃないです」
なんだよ、別に親父の真似しただけだろうが。
あ、でもこれは言わないといけないか。未成年の飲酒を助長している訳ではありません。お酒は20歳からだぞ。
てかさ、あの売り子よくよく見たらゴルシちゃんだよ。何やってんだアイツ。
「トレーナーさん。レースはどう走りますか?」
「んえ?」
「いや、だからレースはどう走ります? 逃げか先行か、レースの立ち位置、スパートをかけるタイミング、気をつけるべきこと。もちろん私も調べてきてますけど、トレーナーさんからちゃんと聞きたいです」
「……ああ、その話か」
流石にそんなの分かんねぇよ。とは言えないし、それなりにこっちも準備はしてきている。
大変だったよ。最低限の知識を入れるための勉強の傍ら出走予定のウマ娘を調べて、桐生院さんにも話を聞いてレース場の特徴やらを聞き漁った。
ハッピーミークの『なんでお前そんなことも知らねぇんだ』みたいな視線をグサグサと感じながら桐生院さんから丁寧かつ親切に教わるのは正直辛かった。
あの子あんまり表情は変わることないんだけどさ、分かるんだよ。形で言うとハッピーミークと一緒に教わっているみたいな形で、隣から「おー、なるほど、おー」とか間抜けかよって突っ込みたくなる言葉を聴きながらの勉強。
で、俺の質問の時に明らかに隣の気温が下がるんだよ。それに気付かない桐生院さんがしっかりわかりやすく教えてくれるんだけどそこで更に気温が下がるんだよ。もうね、あれはおっそろしい。
おっと、思い出に耽ってて忘れるとこだった。このレースで注意すべきことだったな。
「バ場状態は問題なし。しっかり晴れてる。このレースで注目されているウマ娘はいい意味でいない。だから、スカイはいつも通り走れればにも問題なく勝てる。注意すべきところっていうと……ほぼない。敢えて言うとしたら、スタートは絶対に外すなってことだな」
スカイの体力的に後半追い上げを食らうことはないとは思う。何せ俺と張り合っていつも練習してたわけだからな。
実を言うと、速度だけでいえば馬の方が圧倒的に早いが、スタミナに関していえば馬よりよっぽど人間の方があるんだ。
それに、人間の方が怪我もしにくい。だから、普段アホみたいに走ったりする俺みたいな人種についてけるのならもう勝ちだ。
だからこそ、スタートさえ完璧に切れればそのまま逃げて抜かされることなくゴールできる。
「スカイ、今の説明で不備はありそうか?」
どうせスカイのことだ。俺なんかよりよっぽどレースの下準備には抜かりないはずだ。
「いやー全然。むしろ、思ったよりまともでびっくりしました」
「当たり前だろ。俺はトレーナーなんだぜ?」
名ばかりだけど。
「そうでしたね。すっかり忘れそうでしたけどね」
「おい」
「冗談です。……トレーナーさん、レースに出る前に一言欲しーかなーなんて」
「一言?」
「そうです。なにか、セイちゃんが気合いの入る一言」
難易度が高いんだよな。スカイの性格自体未だに読み切れてるわけじゃないし、どういう言葉なら頑張れるのか。
「うんちっちうんちっちそりゃあ」
スカイの頬を人差し指でツンと触った。
「トレーナーさん、蹴られたいんですか?」
「ちょいやめろやめろ……。まあ、なんだ。この学校のウマ娘は全員実力は均衡だ。誰だって1着になる可能性がある。でも、そのウマ娘の力を最大限引き出すのはどれだけ競技に向き合って細部までこだわれるかだ。俺たちは、誰よりもレースのことを、自分の走りのことを研究している。前評判を聞けば、このレースで注目のウマ娘はいない。それをひっくり返すのは俺たちだ」
自分たちが出来る出来ないはここに来たら関係ない。とにかく闘争心を奮い立たせて、集中力を最大限に高める。だから、この場はとにかくかっこいいことを言ったもん勝ちだ。
「平凡な私には苦重すぎますよー」
「何言ってんだよ。いわゆる天才って言われるやつは大概最初からレースを勝つって疑わない存在だ。だから番狂わせってのは、天才には出来ないんだ」
本当なら、平凡か天才かは単純に能力の差で、何をするかによっては能力の差なんていくらでも埋められるのだと言いたいが、それは普通の練習の時に言ってればいい。
「これ勝って、さっさと次のことを考えよう。番狂わせって言うにはまだレースが小さすぎる」
「……そこまで言うのなら、セイちゃんに任せなさい。絶対、悪いようにはなりませんよ。じゃあ、いってきますね」
「おう、頑張ってこい」
◇◇◇◇
ファンファーレが鳴り響き、出走するウマ娘達がゲートインした。スカイはと言うと、なんてわか分からないがゲート前でモタモタしていた。
係の人に無理やり押し込められて、スカイはようやく落ち着いたみたいだ。
「美しい青空が広がる中山レース場。ターフも絶好の良バ場になりました」
「どのような勝負が繰り広げられるのか楽しみですね」
「1番人気はこの子、4枠のセイウンスカイです」
「しっかりと合わせてきましたね。好走に期待しましょう」
「2番人気は……」
まあなんだ、よく分からんけどパッと見でよく調子がわかるもんだな。どこ見ればわかんの?
観客も『1着はこの子かな〜仕上がりも良いし』なんて言ってるけど、どこをどう見たらわかるの? 頭おかしいんじゃないかな。
それにしてもいい番号だな。レースはよく分からないけど、エースに4番。野球ファンの俺にとっちゃこの番号を聞けるだけで満足できるんだよ。
まあでも実際のところどうなのか気になるし、また桐生院さんに質問することにしよう。
スカイ、切り替えは十分だな。ゲートに入る前とは違って目に力を感じる。勝ちたいという思いがこっちにもひしひしと伝わってくる。
そして目付き、あの目付きがいい。例えるなら優勝まであと一生に迫った球団が、抑えとして登板させたのがエース。
重圧がのしかかる中でも極限まで集中力を高めて、そして見せる威圧感。女の子ながら、そんなものを感じる。
「これなら、本当に1着取れちゃうかもな」
俺は、客席から誰にも聞こえないように呟いた。
それは、今のレースについてでは無い。これから先もっともっと未来の話だ。
オールスターゲーム……は無いんだろうけどそれみたいなでっかいレースで、すごいヤツらが集まる中で先陣切ってペースを握って、そのまま逃げ切る。
スカイなら、それができるんじゃないかって思ってしまう。
――ガコン、という音ともに一斉にウマ娘たちが走り出した。
読んでいただきありがとうございます。
評価、感想ありましたらよろしくお願いします。
多分嬉しくなってやる気が上がります。