そういえば最近、ちょっと自給自足出来ないかなぁと思ったんですけどすぐ断念しました。
1人だと生きていけないっていうのがよく分かりましたね。
ということでよろしくお願いします。
「一斉にスタートしました。ハナに立ったのはセイウンスカイ、非常にスムーズにスタートしました」
おお、なんだ今気付いたけど実況って流されるのな。
あれ、競馬は別にこんな事しないんだよな? ウマ娘だからやってるんだよな?
いや、まあなんだ、こう……スタジアムでの楽しみ方っていう観点から行くと違和感が凄いんだよ。
取り敢えず、スタートは綺麗に切れたから安心か。
先ずは確実にスタートを切って、相手との駆け引きから逸脱する。
どのウマ娘もまだレースに慣れ切ってない状態と考えれば、1番早くスタートして単純な力勝負で行けば問題なく勝てる。
それに、スカイの頭の良さを現段階では隠しておきたい。恐らく、スカイは俺の考えなんてお見通しだろうし理解はしてるはず。
確実に勝つための布陣が出来ればそれ以上は求める必要は無いし、逆に強いやつを倒すには手の内を隠すことが必要になる。
野球がそうだ。例えば高校野球。
強豪私立は勝てる相手にベストメンバーでは戦わない。
そして、公立で偶然覚醒した無名のエースが決め球を温存して、強豪に当たった時に決め球を解放。相手打者をキリキリマイにさせ無双なんてことがある。
寧ろあれだな、能力を隠すことが全力で勝ちに行く事の大事なピースになるんだ。
「セイウンスカイ、後続を気にもせず逃げる逃げる! まだスタートしてまもないですが既に6バ身のリード。これは掛かってしまっているのか!?」
「掛かってるかもしれませんが、これが実力とすればかなりの好タイムが期待できますね」
6馬身だしん!! あ、すんません。
でも、しょうがないと思うんだ。こんだけ上手くいってたら、そりゃテンション上がるんだよ。
スピード的には、ハッピーミークとやった時みたいな大暴走は起きてない。ちゃんと自分のペースだし、このままゴールできるはず。
頑張ってくれよ……。
「よっ」
「あん? ああ、ゴルシちゃんか」
さっきまであちこちへ焼きそばを売り捌いていたゴルシちゃんが、いつの間にかこっちまで来ていた。
カゴには売り切れの立て札。無事に売り切ったみたいだ。
「おめー、なんか珍しいよな。アタシのことちゃん付けするの、おめーだけだぜ」
「そうなのか」
なんだ、てっきり皆ゴルシちゃんって呼んでるのかと思ってた。
「まあいいや。それよりさ、あの子いい走りしてるじゃねぇか。流石、アタシが見込んだだけはある」
なるほど、ゴルシちゃんから見てもスカイがかなり優勢ということか。うん、ゴルシちゃんが言うなら間違いない。
うん……ちょっと小腹減ったな。
「売り切れだぜ」
ドヤ顔やめい。
◇◇◇◇
全くトレーナーさんは、ろくな作戦も考えずウマ娘に委ねるなんて……やっぱり私のトレーナーさんはどうかしてる。
作戦は逃げ、それは分かる分かりますよ。でも、もうちょっとデータとかあっても良いんじゃないって思うんだよねー。
逃げるのはいいけど、後ろがどのくらいスピードがあるのか瞬発力があるのかどこでへばるのか末脚はどうなのか。結局、私が調べることになった。もう、ブラックですよ。ブラックトレーナーですよ。
まあ、一応トレーナーさんの考えは理解してるつもりだけど……それでも走る側は不安なんです。
ここで負けても次があるなんて言われても、私は負けたくない。
作戦通りに走っても、相手の状況が分からなかったらどのペースで逃げれば良いのかもう少し情報があれば、力の抜きよつもあるんだけどなー。
思ったよりまとも……? いえいえ、トレーナーさんへのお世辞ですよ。日頃の感謝を込めて……ね。
「どうにでも、なれっ!!」
私はカーブに差し掛かり、私はスピードを緩めず踏ん張って遠心力にひたすら耐えて走る。
今日のレースは1600m。距離は少ないから私の体力なら多少無理をしても十分に持つ。
カーブは滑らないようにしっかりと芝を踏みしめる。
ここでヨレたりすればタイムロスになって勝てるレースも勝てないし、一歩間違えれば選手生命だって危ない。絶対に気を抜かず……カーブを……抜けるっ!!
「後ろは……」
息は上がってる。上がってるふり……は流石にないと思うし、恐らくこれ以上ペースは上がらない。
あの団子状態のが差しを止めてくれれば、万が一は起きない。
まだ距離はある。でも、このレースは貰ったも同然だ。
後ろは絶対に、私に追いつけない。
勝ちを確信した瞬間、目の前の景色が鮮明に映り出した。
誰もいない世界で、私は走っている。
何も気にする事はない。ペースは自分次第、マイペースマイペース。
うん、自由気ままにゆるゆるのんびりとするには、矛盾してるかもだけど1番前が良いのかもしれない。
とはいえ、そんなことを言っていられるのも今だけ……っていうのはあるけど。
このレースにグラスちゃんがいたら、絶対にこうはならない。私は抜かされないために後ろを気にして、必死に、懸命に走っているはずだし。
でも……それは後々考えればいいよね。だって、今見せるべき私の姿は才能あるウマ娘なんかじゃない。
一見どこにでもいるような、普通で平凡なウマ娘。風が吹けば倒れてしまうようなか弱いウマ娘。
そうでないと……トレーナーさんの言っていた大番狂わせなんか、到底出来そうにないんだから。
◇◇◇◇
「さあ直線に入りました、以前先頭はセイウンスカイ……」
勝てる……よな、なんだろう。レースってこういうのすっごい不安になるんだな。
大丈夫、なんだよな?
「後続が迫る、追い上げる!! セイウンスカイ懸命に走る!」
スカイが後続をチラチラと気にしているのが見れた。前半は何も気にしていなかったのだが、ここに来て後ろを確認。実況が聞こえて気になったとかだろうか。
そして、スカイは姿勢を弛めて流し始めた。
「セイウンスカイ、ペースが落ちるが何とか踏ん張る! セイウンスカイ、リードをギリギリで保ちながら今、ゴールイン!!」
うおー危ねー……。大丈夫だから抜いて走ったのだろうが、俺からすればもうヒヤッヒヤなレースだ。
「あんだ? なんでそんな焦ってんだよ。あの子、今のはかなり上手い見せ方だったぜ?」
「見せ方?」
「おう、誰かを相当意識してるんだろうな。どのタイミングでスパートをかければいいのか、想像しやすい走り方だった」
「なるほど」
イメージをしやすい走り方を敢えてした。だから、相手が自分の対策を考えてくる前提での走りだということ。
そんな簡単にバレやしないだろうとか思ってたけど、分かるやつには分かってしまうということなのか
「……まじで腹減ったな」
「デスソースならあるぞ。飲むか?」
「ざけんな飲まねーよ」
「は? アタシの出したもん食えねーってのか?」
いや、食えねーって言うか飲めねーってほうだろ。当たり前だよ、デスソースは飲めねーよ。
いや、でもゴルシちゃんが出したデスソースか……それなら飲んでもいいような気もしなくはない。
「そうか、そうだよな。ゴルシちゃんのデスソースだもんな。これを飲まない訳にはいかねぇ」
「そうだ、その意気だぜトレーナー!!(マジかよこいつバ鹿なんじゃねぇの?)」
「うん? なんか言ったか?」
「いやぁ何にも? ほら、それより飲むんだろ? トレーナーのちょっといい所見てみたい!!」
お、上げてくるじゃねぇか。そんなこと言われたら、もう飲まない訳には行かないな。
「はっ!! 俺のカッチョいいところ見せてやんよ」
「ヒュー!! やっちまえー!!」
「「うぇーいうぇーい!!」」
そーれ一気にグビ。
◇◇◇◇
「……で、トレーナーさんは唇を真っ赤に腫らしたと」
「ひゅんまひぇん」
スカイを迎えに行ったら、喜んでいるなんてことはなく寧ろおかんむりであった。
いやぁ、馬鹿なことをした。俺、辛いのめっちゃ苦手なんだよ。今更だけど。
「いやー、なんていうかさ? レース中瞬き厳禁で私の事ずっと見ててくださいとは言いませんよ。でも、ゴールしてトレーナーさんに手を振ってる時に完全無視してデスソースを飲むとかいう訳の分からないことはやめて欲しいわけですよ。意味、分かります?」
全然気づいてなかったが、どうやら手を振ってくれていたらしい。それは悪い事をしたな。
「まかってまひゅ」
「本当に分かってます?」
ジト目で睨んでくるスカイに対して、俺はブンブンと首を振るだけだ。
この奇行に対して、言い訳は、出来ない。
「……今度はちゃんと見ててください。それで、手を振り返してくれたらセイちゃんのこれからのやる気もググッと上がりますから」
うん……ちょっと申し訳ないことしたな。そうだな、思えばトレーナーのすることじゃなかった。
ゴルシちゃん、ありがとう。君のお陰で俺もトレーナーとしての自覚が湧いてきちゃったぜ!!
「なんてねー。ドキッと来ちゃいました?」
カチンと来ちゃいました。
「へぇ、そんなもんでやる気上がるんだ。じゃあ今振ってあげるよ。わーいわーいぐぼぉ……!!」
レース後でも威力は相変わらずだね。でもさ、口では口で返してんだから手はやめて欲しいんだ。
俺の意識は、はるか遠くに飛んで行った。
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