蒼天を駆ける野球バカ   作:FAKE MEMORY

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昨日絵が上手くなりたいと思ってイラストを書き始めました。
ウンスを書いてあまりの下手さに絶望しましたが、ちゃんと道を間違えなければそのうち上手くなると思うんで、ちょこちょこ挫折しながら続けていこうと思います。


お叱りの言葉

「予想通りといえば予想通りだが……やっぱり知名度は持ってかれるよな」

 

「しょうがないしょうがない。まあ、私の実力といえばそんなものですよ。いやートレーナーさんが羨ましいですなー」

 

 練習前、俺はトレーナー室でスカイとダラダラ喋っていた。

 レースが終わり、無事にデビューは勝利したというのは良かったが、結局のところメディアから大きく取り沙汰されることは無かった。

 ウマ娘のファンからの評価もイマイチで、大きく褒められるようなことはない。

 逆に、中卒トレーナー初勝利と、俺の名前が先行する始末。それで、嫌味ったらしくスカイが妬みをグサグサと言ってくるわけだ。

 

「今は我慢だな。後の勝利のために、絶対に必要なことだから」

 

「いいや、それでも納得できません! だってだって、レースで無理でも他でカバー出来ることもあるんですよー?」

 

「うっ……」

 

 他、とは一切の考慮の余地なくライブのことだと理解出来た。

 ライブ自体は盛大に失敗した訳ではなく、かといって成功したわけでもなく無難に終えた訳でもない。そして、ぎこちなさみたいな初々しさを感じるものでもない。

 若干失敗した、というのが一番しっくりくる。

 学校にたまにいるだろ? 一応形に放ってるけど、なんかちょっとカッコ悪くてノレないダンスする人。若干歌が下手で反応に困る人。

 スカイは歌こそ良かったものの、ダンスではそのレベル。

 失敗でも成功でも、思いっきり振り切っていれば話題になるものの……これは痛い。痛すぎる。

 会場の皆さんはノリノリでサイリウムぶん回してくれたものの……どこか感じる違和感に、俺は目を逸らすしかなかった。

 

「まあでもだからと言ってダンスの練習が最優先になることは無い。だから安心しろ」

 

「安心できないですよ!?」

 

「いや、だから骨は拾っておいてやるって」

 

「拾うどころか、あれじゃ犬の餌になってますって! もう……穴があったらお茶飲んでのんびり寝たいぃ……」

 

 ……隠居生活かな?

 

「まあ、なんだ。骨なら幾らでも拾ってやるからさ。泥に乗った気持ちでいてくれよ」

 

「もはや船でもない!? ていうか、骨になってる時点でダメなんですって。私死んじゃってるじゃないですかー!」

 

 だって、次も死ぬでしょ? 精神的に。

 

 ピンポンパンポーン

 

『三浦トレーナー。セイウンスカイさん。至急生徒会室にお越しください』

 

 お呼び出し……? 俺とスカイが?

 

「なんだスカイ。飲酒か? 喫煙か?」

 

「なんでやらかした前提なんですか……」

 

「いや、だって俺変なことしてないし……してないよね?」

 

「私に聞かれても、トレーナーさんの頭はいつも変だとしか言えないですけど」

 

 酷い。俺の事そんなして思ってたんだ。いや、だろうなって思ってたけどさ。

 

「どうする、すっぽかす?」

 

「流石のセイちゃんでも今回は出来ないですね」

 

 前はやったのか少し気になるところだが、まあいい。どちらにせよ、あまりいい予感がしないのは確かだ。

 うん、じゃあ腹を括るか。

 

◇◇◇◇

 

「よく来てくれた。私は生徒会長のシンボリルドルフだ。改めて、よろしく頼む」

 

 その立ち姿は、インテリアと相まって厳かな雰囲気を放っていた。

 バブル時代の応接間……いやもっと古いな。明治時代の応接間みたいな、アンティーク調の部屋だ。いやアンティーク調と言うより実際に古いんだろうな。

 うーん、よく来てくれたって言ってる割にはなんかピリピリしてるんだよなぁ、雰囲気が。スカイはいつもよりしんなりしてるし、多分怒られるって内心わかってるんだろうな。

 

「先ずは、初勝利おめでとう。1年目で、しかもこれだけの若さでウマ娘に結果を出させる。それができるのは極わずかだ。それに、セイウンスカイの1つのレースを全力でではなく長期的な視点を取り入れた走りは、私も素晴らしいと思っている」

 

「恐悦至極でござる……痛っ」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

 スカイが肘で付いてきた。結構強かったからマジで怒ってんのかな。

 ふむ、それにしてもシンボリルドルフさんは怒ってないのかな。なんか、普通に褒めてくれるし、特に要件もないとか?

 

「だが、終わりよければすべてよし。この言葉を知らないという訳でもないだろう」

 

 違ぇわ。さっきの建前だわ。これ、普通に怒られるパターンだ。そんで、怒られる理由もすぐ察しが着いた。

 

「ライブは、声援を送ってくれたファンへの感謝の気持ちを伝える場。厳しい言葉かもしれないが、君達の感謝の気持ちというのは、つまりその程度だったと受け取っていいのだろうか」

 

 ……怖っ!? おい、これ野球部の監督の比じゃねぇよ。

 そういやなんかで聞いたな。番長みたいな感じで普段から怖いってわかる人より、静かに怒る人の方がよっぽど怖いみたいな。

 うう……これなに、俺がなんか喋らなきゃいけないの?

 

「……やーい怒られてやんの(小声)」

 

「……いや絶対違います。練習しないって言ったのトレーナーさんですから(小声)」

 

「私は、2人に向けて言ったつもりだが」

 

「「すいません」」

 

 うぐっ……だからさり気なくエルボーをかますのはやめろ。

 

「まあ、なんて言いますか……。練習はしなくていいからって言ったのは俺です。スカイは、それでもちゃんと練習してたんですよ」

 

「というと?」

 

「スカイは責めないでやってください。彼女は、ベストを尽くしました。まあ、あれがベストってのもお笑いものぐふっ」

 

 3回目!! 今ので3回目!!

 

「……なるほど」

 

 シンボリルドルフが少し笑った気がした。

 

「長い話説教は退屈だろう。どちらにせよ、君達に言うことは一つだけしかない」

 

「あ、はあ」

 

「次のライブはきっちりとやりきるように。どのレースに出るにせよ、私はまた次も勝てると踏んでいる。だから、次こそはライブを成功させてファンに感謝を伝えること。そして、それが出来ないのであれば、こちらも次の対応を取らざるを得ない」

 

 次の対応……ってのはまあどうせトレーニングは禁止でダンスのレッスンをひたすらさせるとかそういうところだろう。

 面倒なことこの上ないし、何とかこれは解決しないといけないよな。

 

「すんません。以降は気をつけます」

 

「ああ。こちらからは以上だ。なにか質問は?」

 

「ないです」

 

「なら、行きたまえ。次のレース、期待してるぞ」

 

 なんだ、結構厳しい人なんだろうけど優しい人なんだな。レースも期待してるって言ってくれたし、最初の褒め言葉も建前なんかではなく本音で思っていることなんだ。

 最近スカイとしか話してないから感覚が狂ってるな。表と裏がある前提で話してしまう癖がある。

 

「んじゃ、スカイ。行こうか」

 

「……ぷっ」

 

 ん? ……なんか、シンボリルドルフさん笑いました? え? なに、笑うってか吹いたよね。どゆこと?

 

「以降、気をつけます。じゃあ、行こうか……ぷっ、くくっ……」

 

「え、怖」

 

 なに、ダジャレってこと? いや、寒い。まって、シンボリルドルフさんそれは……お願いだからそんな残念な部分は見せないで厳かな生徒会長であってくれよ!!

 

「三浦トレーナー……すまない。出来れば無視してくれると助かる」

 

「あ、はい」

 

 隣にいるウマ娘がげんなりとした顔で俺たちを送り出した。

 あの顔、何度も何度も同じようなことを体験している人の顔だ。てことは、シンボリルドルフさんはあれが通常運行なわけなの? え? あれはネジが外れちゃったとかそういうのじゃないの? 

 嘘だろ。

 

「スカイ、今日は疲れたし。お布団にくるまってオフといこうか」

 

「ぷっ……くっ……」

 

 おい嘘だろ。流石に今ので笑うのはおかしいでしょ。くっそわざとらしい寒いダジャレやん。

 

「お願いだから、これ以上会長のスイッチを入れないで欲しい」

 

「あ、分かりました今すぐ出ます」

 

 やっばい。生徒会長の見てはいけない一面を見た気がする。うん、これは墓場まで……持ってけそうにないなぁ。




読んでいただきありがとうございます。

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