蒼天を駆ける野球バカ   作:FAKE MEMORY

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ようやく重賞を取りにいくことになります。
長かった……けどこっからが本番ってことですもんね。
いやー書くの楽しみです。


始動

「ふむ……」

 

 PCに保存された書類と睨めっこしながらひたすら悩む俺である。

 そして、後ろからそれをのぞき込むのがスカイ。

 

「レースのデータが送られてきたんですか?」

 

「いや、これは別件だな。なるほど……バレルゾーンが少し手前になったか、すると引き付けて打てるってのがミソなんだよなぁ」

 

 バットを振った時にバレルゾーンは簡単に言えば長打が打ちやすいエリアのこと言う。

 これを参考にすれば、長打を狙う時は何処で当てればいいかが明白になるというわけだ。

 

「ちょっとー、セイちゃんのは?」

 

「スカイのはメモリに保存してあるぞ、あの1テラのメモリがそうだな」

 

「むぅ……サボってないで仕事してくださいよ」

 

 お前も授業サボってるよな?

 

「授業出ないなら丁度いいな、そのレースのやつちょっと見て見たらいいよ」

 

 量は……まあお察しだ。1テラのメモリに入ってる時点で、生半可の量ではないということ。

 まあ、参考動画やらも入ってるから一概にめちゃくちゃ多いとは言えないだろうけど。

 

「あ、サイダー飲む?」

 

「いやはや、トレーナーさんは気が利くねぇ」

 

 とぽぽ、という涼し気な音が鳴った。まあ、時期的には涼し気な音はもう寒くてやってらんないのだが、ガンガン暖房つけてるしノーカンだ。

 そういえばさっきスカイに渡したデータだが、ちゃんと俺も確認済みだ。流石に、確認せず使えないようなものを渡す訳にはいかない。

 情報だっているいらないちゃんと精査してある。正直、無駄なものを切り捨ててくの本当に面倒だった。

 久しぶりに徹夜してたづなさんに雷を落とされたのはいい思い出になった。

 その次の日も懲りずに徹夜したら、次の日から定時になるとたづなさんがトレーナー室にやってくるようになった。

 ちょっとうざい。

 

「……なんか、今まで飲んだことの無い香りがしますね」

 

 スカイはコップに注がれたサイダーを飲んで、顔を顰めた。

 

「それ。なんか……変な匂いっつーかさ。そんな感じするんだよな」

 

「変な匂いというより、これはちょっと臭いですよ。その瓶なんですよね」

 

「ああ、そうだけど」

 

 スカイは15センチ程度の瓶を手に取って、ラベルを見た。

 

「えっ……」

 

 固まった。スカイが固まったぞ。

 いやぁ珍しいものが見れたもんだ。スカイがこんなんなるの、マジそんなにないから

 手で口を押さえて、段々と顔が青くなるスカイ。一応弁明しておくが、毒が入っているわけでもなければタキオン印とかいう謎のブランドという訳でもない。

 

「トレーナーさん、これって本当に……その、入ってるんですか?」

 

「なんか、エキスは入ってるらしい」

 

「うぷっ……」

 

 おい、やめろよ。こんなところでやらかされたら堪らん。

 つーか大袈裟すぎだろ、別に食べれるものにそこまで反応する必要ないだろうに。

 スカイが静かに置いた瓶には大きくタガメの文字が入っている。

 そう、俺がスカイにあげたサイダー。そこには、タガメから抽出したエキスが入っているのだ。

 日帰り旅行に行った時に偶然目にして飲んでみたのだが、罰ゲームとかじゃなくて普通に飲めるジュースだったので、何本か買ってみた。

 

「因みに、タガメはカメムシの仲間らしい」

 

「その情報今いらないですってばぁ! ううっ……なんか臭いが残ってるぅ……」

 

 スカイは涙目になりながら、もう1台のパソコンにメモリを繋げた。

 そんなに嫌がるほどかな。俺はまあまあいけるんやけど。

 

「あ、綺麗に纏まってて見やすいですし、ボリュームも凄いですね……ぐすっ」

 

「そうかそうか泣くほど美味しかっ……「黙っててください」はい」

 

 機嫌を損ねてしまったらしい。

 だが、今回は怪しまずにそのまま飲んでしまったスカイが悪いのだよ。

 

「むー。あ、このパターンってやっぱりこういう傾向が強かったんだ。すると対策は……うんうん、これが順当だよねー」

 

 ブツブツと呟きながら、じーっとパソコンと向き合っている。こういう努力家なところがあるよな。努力というか、こういうことを好きでやっていると言った方が近いが、傍から見れば努力してるのに変わりはない。

 前のレースもそうだ、スカイは相手の特徴を掴むことによって、自分の手の内を隠して勝つことに成功している。

 相手の弱点をつくとか、自分の弱点を隠す欺く、武器を隠す。それだけ種を撒いてもしっかりと勝ちをもぎ取った。

 全力を出さないで勝つというのは、本当に難しい。

 理由としては簡単だ。出力を何処まで抑えて勝てるのかが確信できないからだ。それで、何処かでは焦って本気を出してしまうというのがほとんど。

 結局のところ、それだと温存してるのはすぐバレるし相手に強さを印象づけることになりかねない。

 スカイの場合はそれを狙っている訳では無い。できる限り目立ってはいけないのだ。少なくとも、最初のGIを取るまでは。

 

「トレーナーさん、皐月賞取りたい……ってなると、やっぱりその前は弥生賞だよね」

 

「ん? なんで?」

 

「で、でた〜……トレーナーさんのにわかトレーナー知識」

 

 マジ時々失礼なんだよお前は。

 

「トレーナーさん。皐月賞前にある弥生賞は、皐月賞と同じ中山レース場で、距離も同じ2000mなんです。皐月賞を取る前にはピッタリのレースだと思いませんか?」

 

「なるほど……試合前の球場練習くらいのイメージか」

 

「トレーナーさんの頭はどうなってるんです? 野球、少しくらい離れられないんですか? 良ければ、ネジくらいなら締めてあげますよ?」

 

 ハハハ、頭のネジが外れてるってか? 馬鹿野郎。

 あとごめん、競技は野球くらいしかまともに知らないから自然と例えも野球になるんだよ。

 

「要するにリハーサルですよ」

 

「ああ、その言い方があったか」

 

 つまるところ、重賞ではあるがここは取りにいくと言うよりかは調整程度に使っておいて、皐月賞に完全に合わせてそっちを本気で取りにいくというわけか。なるほど、野球のタイトルベースで考えてたからそういう考えは浮かばなかったな。

 

「なるほどな……まあそうだとしても、弥生賞までの目標は必要になる」

 

 弥生賞は中間地点となる。そして、中間地点というのは非常に大事な目標になる。

 どのような状態まで持っていけていれば皐月賞で勝てる実力がついているのか、中身の部分をどれだけ詰め込んだ目標にできるかがキモだ。

 

「だから、目標によっては……弥生賞で1着取るって言うのが条件になったりとするわけですね。でも、それは絶対条件では無さそうではありますけど」

 

「そうだな、そこは俺も同感だ。そうすると、目標……ふむ……」

 

 まあ、リハーサルだとか調整となるとある程度本気で走りはするが、型は絶対に外してはいけない。

 本気で走るのではなく、自分たちがこれで勝てると踏んだ走りが果たして何処まで正解に近いのか確かめて、修正点を見つける場所だ。

 幸い、皐月賞についてのデータはあのメモリに腐るほど入っているはずだろうし、そこからスカイに合う戦略を磨けばいい。

 その戦略をどこまで使えるか……どこまで使えれば正解か……。

 

「まあ、本人の感覚次第にはなるけど8割とかかな。7、8割で走って入着するってのが1番わかりやすい」

 

 観客の声援。他のウマ娘のプレッシャー。それら全てを受けながら8割で走って、それで入着できるなら十分過ぎるだろう。

 

「力加減難しそうですね」

 

「まあ、8割って言葉に執着しすぎなくても問題は無い。大事なのは、この力加減で入着できるのであればこの作戦で十分通用するってのを確信するためだ。あとは、裏と表、本番にどれを取るのかってところだな」

 

「裏表……あ、セイちゃんこれは分かっちゃいましたよ。追い込まれたら何投げるかってことですね」

 

「まあだいたいそういうことだ」

 

 作戦をバカ正直に2回使うのがいいのか、それとも対策してくるのに備えて裏を書いた作戦で出るのか。

 まあ、これに関してはほとんど運だからな。本人に決めてもらうしかないだろう。

 

「裏か、表か、スカイはどうする?」

 

「そうですねぇ……。私は正直者なので、真っ直ぐ表で突っ走りますよ」

 

 と、いうこった。

 つまり、勝負どころはまだ先にある。油断するなということだろう。

 

「よし、決まりだな。頑張ろうぜ」

 俺はスカイに拳を前に出した。

 

「……」

 

「どうしたスカイ。グータッチだけど」

 

「……あ、はい」

 

 コツンと、スカイの小さな拳がぶつかった。

 そして、スカイは自身の拳をじーっと見つめた。

 

「どうした?」

 

「いやー? 別になんでもないですよー」

 

 直ぐにパソコンに向き直るスカイ。

 うむ……なんだったんだ? 今の。




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