毎夜死ぬかと思いながら布団にくるまって寝てます。
「んじゃまあ、ここがトレーナー室だな」
カレンチャンのトレーナーになったということで、まずはトレーナー室に案内した。
正直、トレーナー室はトレーナー室出会って部室ではないっていうのもあって、本当なら生徒が頻繁に来る場所という訳では無いから、態々紹介するような場所では無い。
ただ、俺の場合はスカイと度々作戦会議やら現状分析やら2人してサボるもとい休憩をする時に使うので、場所は覚えてもらわなければいけない。
「ここがお兄ちゃんのトレーナー室なんだ〜。カレン、今日から頑張っちゃうぞ〜!」
まあ、スカイ然り実力を知らないまま引き入れてる以上今日から気合い入れてもらってもやることがないんだけどな。
「カレンチャンは、転入してきたのはいつなんだ?」
「一昨日! まだトレセン学園のことあまり知らないから、お兄ちゃんが教えてくれると嬉しいなっ」
ごめん、俺もあんまり知らないんだわ。
「……それは後々として、一昨日ってことはまだレースのタイムも測ってないってことだな?」
「そうなの。でも、安心していいよ。カレンの実力、きっとお兄ちゃんも納得すると思うから」
まあ、あの超手短な面接だけでも努力家なのは充分分かった。だから、そこら辺はあんま気にせんよ。
まず、SNSでのフォロワーがめちゃくちゃいるってのがミソだ。あれ、運要素ももちろんあるけど努力なしでは大量にフォロワーを……なんてことはまず無理だ。
表ではかわいいかわいい言ってる。そして、ちゃんと表裏なしに真っ直ぐそう思っていることだろう。
かわいくなるための努力はどれだけのものだったのかは分からないが、自分なりに調べて試して反省して……相当な時間を費やしてきたはずだ。
その土台があって、更にSNSの知識があって更にフォロワーを増やす努力をして今がある。こいつ、見た目によらず中身は超超熱血スポコン主人公だぞ。
要するに、努力の方向を正しい向きに使える人ならなんも心配ない。意地になって無理したりとかが無ければ、勝手に練習して勝手に強くなることだろう。
そう、まさに俺が望んだウマ娘が向こうからやってきたというわけなんだ。
「そこはそんなに気にしてないよ。レースに関しては、これから幾らでも伸びるだろうし」
「うん! カレンいっぱい練習して、もっとかわいくなるから、トレーナーさんもちゃんと見ててね?」
「ま、ちゃんと見るのがトレーナーの仕事だしな」
間違った方向に進んでいないか、明らかに道をはずれていないか、そういうところを見るのが内野守備コーチであるワイの仕事である。
「ただいま〜」
ガラガラ、とドアの開く音と共にのんびりとした声が聞こえてきた。
「……拉致? トレーナーさん、幾ら早くチームを作りたーいとか思ってたとしても、道は外れちゃダメですよ?」
「待て違う」
スマホを構えたスカイほど怖いものは無いな。こいつ嘘か本当か全然わかんねぇし。
「にゃはは。冗談ですよ、久しぶりにトレーナーさんの焦った顔が見れて、セイちゃんは満足です」
そう言って、スカイはノートを机に置いてメモリをパソコンに差し込んだ。
「ったく……。紹介するぞ、今日から俺が担当することになったカレンチャンだ。そんで、こっちは相棒のピカチュウ」
「ピカ……?」
「セイウンスカイだよ。間違えないでね」
さすがに間違えないだろ。
「お兄ちゃん、もう担当してる子がいたんだ」
「まあな。……おい、勝手に呼んでるだけだからそのスマホをしまえ」
くそ、これじゃ気を抜く瞬間がありゃしねぇな。いつ通報されてもおかしくねえ……。
カレンチャン、本当何言うのか分かったもんじゃないからな。
「はいそうですかなんてならないですけどね。あ、お茶飲みます? 今日はなんとなーくお茶っ葉を買ってきたんですよ」
「ぜったい俺に入れさせる気だろ。全部分かってるぞ」
「バレちゃいましたかー」
そんでもって、それ経費申請する気だろ。その申請用の紙が見えてるぞ。
まあ……今に始まったことじゃないしな。なんなら最初からずっとこれだからな。最初くらい、ちょっと真面目にしててもいいんじゃないかな。
取り敢えず、電気ポットに電源を入れた。ちょっと小腹が空いて来たし、丁度いい。スカイとカレンチャンの交流会も含めて……待てよ、スカイはなんで戻ってきたんだ?
そういや、俺は勉強させてたよな……。
「まさか、ほとぼりが冷めるのを待って帰ってきた?」
「……てへ」
やっぱそうなのか……でも残念だな。気付いてしまった以上はこっちにも考えがある。
「まあ、今回は交流会ってのも含めて勉強はなしだな」
「流石、トレーナーさんは分かってますねー」
「その分宿題が増えるだけ、なんだけどな」
「……」
スカイは愕然として俺の顔を見ていた。
そんな顔しても何も変わらないからな。
「どうせ、帰っても他のウマ娘の研究とかしてるんだろ? やることは変わらないって」
「ぶーぶー。自分からやるのと強制的にやらされるのではモチベーションが違うんですー」
「うむ、そうだな。だが、サボったスカイが悪い」
「うぐっ……」
「と言うと思ったかね、ワトソンくん」
と、カレンチャンの方を振り向く。
「カレンの名前はカレンチャン! ニックネームをつけるなら、もっとかわいい名前がいいかなって」
「……ワトソンくん、キミはスカイの仕込みに気付いたかね」
「無視しないでーっ。もうっ……」
怒ってもだめだ。このノリについてこないとここではやってけないぞ。
「トレーナーさん。それは、どういうことで?」
「今持って帰ってきたノート。そこに何が書いてあるのか……私は少々気になってね」
今スカイが持ち帰ってきたのはノートとメモリ。最初出る時は何も持たず出ていったということは、スカイはもう一度この部屋にやってきてメモリを抜いて持ち去ったということ。
何故それをするのか。
古くから敵欺くにはまず味方からという言葉がある。味方が騙されるくらい綺麗に嘘をつけたのなら、敵が騙されないはずがない。
スカイなりに考えた、皐月賞へ向けた仕込み、仕掛けと言ったところだろうか。
敵にサボっていると見せ掛ける。すると、レースで出来ることは限られてくる。
弥生賞では八割で走りタイムは伸びない。
すると、相手はデビューとオープンで勝った自信のある走りをまたしてくると予想。
しかし、弥生賞とは走りを大幅には変えずどストレート勝負。
裏を考えすぎると複雑になるが、要するにやる気がないと見せ掛けるってことだ、
「分かったかい? ワトソンくん」
「……お兄ちゃんのいじわるっ」
どうやら拗ねてしまったようだ。
「はぁ……外にはバラさないで下さいね? 何重に網を張っても、誰かのミスで全てがーなんてなったら全部だめになっちゃいます」
「分かってる。でも、安心しろ。俺達のこと何て思われてるか知ってるか? 2人してどっかに消える不真面目なやつって思われてるんだぜ?」
主に外部にばっか頼るのが原因だろうが、全容を知っている理事長やたづなさん。シンボリルドルフのような、本質を見抜いてくる人みたいな人以外からはそんな感じに思われている。
かつての倒れてまでウマ娘のために働く聖人みたいな噂は何処へ行ったのやら。
「……あれ? トレーナーさん、カレンチャンは?」
「んにゃ?」
カレンチャンならさっきまでそこで拗ねてて……いないな。
「トレーナーさん、私にちょっかい出すのは構わないですけど、置いてけぼりにしたら可哀想ですよ」
「そうだな……」
うーん、主に直さなきゃいけないとこってこういうところなんだろうな。直せって言われても難しいけど。
「そうだな……じゃなくて、早く追いかけて下さい!」
「え……でもお湯が沸いたんだけど」
「また沸かせばいいでしょ!? もう、鈍臭いこと言ってないでさっさと行く!」
ウマ娘に逃げられたら追い付けないんだけど。
スカイが追っかけた方が早くない?
……とか思ったけど、まあこれは仕舞っておいた方が良さそうだな。
風邪は引かないようにだけ気を付けておこうと思います。
読んでいただきありがとうございます。
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