まあ、この主人公のことですからお察しって人もいそうですね。
「カレンチャン!」
急にいなくなったカレンチャンだったが、どうやら走って去ったわけではなかったらしく、追いかけるのは簡単だった。
廊下の曲がり角を曲がるとすぐそこにいた。
「お兄ちゃん?」
「どうしたんだよ急にいなくなって。俺、サボり癖系キャラ2人もいたら流石に疲れるんだけど」
本音を言えば、スカイみたいに結果を残してくれるならバンバンサボって良いんだけど、俺もその分時間が増えるし。
ただ、ちょっとリアルな話になると書類作成が面倒になる。
スカイに対してどのような練習を組んでいるのか、上に報告しなくてはいけない決まりになっている訳だが、スカイがいないと書きようがない。
仕方なく嘘でまかせでっち上げの三本柱をふんだんに使った偽造文書が出来上がる。
なるほど、書類偽造はこんなくだらない理由で出来ちゃうんだな。
「もしかして〜カレンのこと心配して追いかけてきてくれたの〜? カレン、嬉しいな〜!」
あれ? 意外と元気そうじゃん。
なんだ、スカイがごちゃごちゃ言ってたからなんか気に触ったのかと思ってた。
「なんだ、用事でもあったのか? それなら言ってから「そんなわけないでしょーが!!」がふぅっ!!」
突然、背中に衝撃が走り吹き飛ばされる。
どうやら、スカイのライダーキックを食らったみたいだった。
「お、お兄ちゃん!? ……大丈夫?」
「気にしなくていいよー。トレーナーさん、こう見えて普段から鍛えてて丈夫だし」
「……っ。セイウンスカイ、さん」
「セイちゃんでいいよー。もう仲間になったわけだしね」
仲間……? その言い方だと、なんかドラクエのパーティみたいだな。
「トレーナーがいきなり迷惑をかけちゃってごめんねー。ほんと、デリカシーなくてさー」
なんか言い方にトゲがない? 俺の事怒ってんの?
「トレーニングかと思えば勝手に逃亡したり、人の名前を間違えたり、理事長を泣かせたり」
「ええ……!? お、お兄ちゃん、理事長さんを泣かせたの……?」
信じられない顔で見ている。なんか、この話するとみんなこんな顔するのな。
「いや、でもあれはやむを得なかったというか……痛い! スカイ痛い! あ、今のちょっと韻踏んでかっこいいかもぐはぁ!!」
「……ちょーっと、うるさいですねぇ」
怖っ!? 待ってスカイさん怖いですよ!?
「まあこちらにも非があったというのは謝ります。謝りますよー? でもね、ちょーっとこっちも気に入らないことがあってね」
……あれ? んん? なんか雲行きが怪しいな。これってさ、仲良くなってちゃんちゃんな話じゃないの?
これから頑張っていきましょーね的な感じで締めるんじゃないの?
これじゃまるで宣戦布告みたいな……。喧嘩始まりそうな感じじゃん。
「これはこれそれはそれ。ちゃーんと切り離さないといけないもの、あると思わない? セイちゃん、そういう人と練習はしたくないかなーって思うんだよね」
「どの口が言って……待て、手の甲をつねるな痛いから!」
「それって……どういうこと?」
カレンチャン!? ちょっとスカイさん? なんかカレンチャンオコなんですけど? いいのこれ、絶対ダメなやつだよね?
「レースでもかわいくーとか、そういうのは別にいいんだけどねー? トレーナーさんと、くっつきすぎじゃないかなーって」
と、威圧感十分に話すスカイ。レースが始まった時くらいのオーラは出ていそうだ。
……ちょっと必要以上に怒りすぎじゃない?
これ、カレンチャンマジでやめちゃうんじゃねぇかな……なんて心配したのだが、意外なことにここから流れが変わった。
――カレンチャンの口角がほんの少し上がったのだ。
それは、カレンチャンがちょっと前からずっと言っていたかわいいとは程遠い笑みだ。
そういえば、聞いたことがある。笑顔とは、本来なら獰猛な意味で使われるべきものなのだと。
獲物を見つけて、ニタリと笑う……カレンチャンは見たくないかなぁ。
「なーんだ。まだ進んでなかったんだね。カレン、ちょっとほっとしちゃった!」
スカイははて……? と首を傾げた。
「つまりーセイちゃんはー……」
と、甘えるような声で俺の方に歩み寄ってきて……。
「「なっ……」」
「――私に嫉妬しちゃったんだね!」
おい、なんか柔らかい感触が……じゃない。
なんか抱きつかれてるんだが。
「ち、す、ストーップ!! カレンチャン、な、何してるの〜!?」
「もう、焦っちゃって〜。カレン、そんなセイちゃんも大好きかも!」
あれ、カレンチャンってスカイと比べたら学年って下だよな。俺の野球部上下関係は一般的な野球部と同じくらいだったから、そこそこ厳しかったんだよ。
だから、なんか、先輩に対してこうガツガツ行くのって違和感しかないんだよね。
「な、な……セイちゃんが何を焦る必要が?」
「えー? だって〜、さっきの話とか聞いてたら全部分かっちゃうよ。セイちゃんは、トレーナーさんのことが……」
「わぁーーー!! やめて! 言わないで〜!!」
「えー? どーしよっかなー」
どういう内容の話かはイマイチ理解できないが、取り敢えず形勢が逆転したのは分かった。
スカイのオドオドしてるところ初めて見るよな、結構普段飄々としてるくせに、ちょっといじられるとこうなるわけか。
カレンチャンは意外とやりおるわけだ。スカイがこうも簡単にやられるとなると、俺も油断出来ないな。うん、気をつけないと俺まで飲み込まれかねない。
……なんて、冷静に分析してるように見えるじゃん? 今、絶賛抱きつかれてる状態だから。
自分で言うのもなんだけど、結構シュールよな。この状況でこの思考ってのは。
「慌ててるスカイってオモロイな。カレンチャン、追撃だ」
日頃の鬱憤……はスカイの方が多そうだけど俺だって溜まってないことは無いということだ。
「トレーナーさん!?」
「のんびりしてるセイちゃんもいいけどー、慌ててるセイちゃんもかわいい!」
「ひゃう……」
おお〜あれか、普段言われ慣れない言葉だと途端にしんなりしちゃうタイプか。
とはいえ、俺はそういうところを突いてちょっかいをかけるタイプじゃないし、これは使えそうにない。
俺はあくまでも突拍子もないことを言って、相手を混乱させるメダパニ系YouTuberだからな。
んだよそのYouTuber。超嫌われてそうな名前じゃねぇか。
「スカイ、かわいいってよ」
「トレーナーさんはなんでそんな淡々としてるんですかー!」
「カレンは負けないけどー、セイちゃんもかわいい!」
さらに畳みかけてきやがった。
「セイちゃんかわいい!」
「かわいい!」
俺も便乗してみた。
「う、う、うわーーーん!!」
どうやら、またもスカイは休憩しに行ったようだった。
多分だけど、今度はマジで帰ったな。
「カレンチャン……ちょっとやりすぎじゃない?」
「てへ、カレンってばやりすぎちゃった!」
「うん、それはいいから早く離れような」
ここは廊下だ。誰かに見られでもしたら大変なことになる。
本当に、時と場所を気をつけて欲しい。いや、時と場所を気をつけてもやっちゃダメなんだよこういうのは。俺、トレーナーだからな?
「ごめんね。さっきのカレンは、かわいくなかったよね。ちょっと弱気になってた」
「いや、俺はよくわからん」
「ううん、かわいくなかった」
うーん、なんだろう。かわいいのにかわいくないとか言うのやめてもらっていいですか?
「カレンのこと、ちゃんと見ててね。誰よりも速く、かわいく走って……セイちゃんにも勝って、トレーナーのことちゃんと振り向かせてあげるから!」
「カレンチャンのことはもう見てるけど」
「そういう意味じゃなーい!」
プンプンっていう擬音語がウマ娘イチ似合うのは恐らくこの子なのだろうなって感じだ。
そういえば、ちょっと前にニックネームがーとか言ってたよな。もしかしたらだけど、俺、めちゃくちゃいいニックネームを思いついたかもしれない。
……うんうん。これだよ、カレンチャンにはこれしかない。
「カレンチャンのニックネームをワトソンくんから変更しよう。誰よりもかわいい、そんな意味を込めた最高の贈り物だ」
「本当!? カレン、嬉しい!」
今のカレン嬉しいってやつで思い出した言葉があってさ。『オレ、オマエ、コロス』ってやつ。今、超思い出し笑いしそうになった。
「今日からカレンチャンは……川井さんだ!!」
「かわ……?」
「そう! 究極の可愛いを目指すカレンチャンにはぴったりな名前だろう!」
どこかには綾部さん綾部さん呼ばれてるウマ娘もいた事だし、問題は無いはずだ。
「……お兄ちゃんのいじわる!!」
……どうやら機嫌を損ねたみたいだ。
どう上手い塩梅で関係を作ればいいのか……この2人、結構ムズいですね。
読んでいただきありがとうございます。
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