「お兄ちゃん、待った?」
「結構待った」
「もう……そういう時は『全然、今来たところだよ』って言わないとダメ!」
なんだこれ。……もう一度言おう、なんだこれ。
待ち合わせはショッピングモールの広場。噴水を眺めると気温が一気に下がったような気持ちになる。寒い。
てかデート、マジですることになっちゃったよ。これいいの? ダメだよね?
どうしよう、この世界にもセンテンススプリングあるのかな。これ抜かれない? そこら辺に記者が待ち構えてたりしない?
「お兄ちゃん、キョロキョロしてないで私の事見て欲しいな〜」
そういう問題じゃねぇんだよこっちはクビが掛かってるんだ。あんの畜生が……機嫌が治るならいいかと思ってた俺が間違いだった。
もし俺の身に何かあったらお前のトレーナーも道ずれだからな。
……今の発言結構なクズ野郎だな。
「ねぇ、こっち見て! 今日のカレン、どうかな」
カレンチャンが腕をひろげて、自分を見せつけるようにその場でクルっと一回転した。
コートの下に見えるのは白いセーターと赤いスカート。制服とジャージくらいしか見てないもんだから、余計に大人っぽく見える。
何? 今の中学生ってこんなにオシャレなの?
「白じゃなくて銀ならウルトラマンだったな」
「そんな服着ないよ……じゃなくて! なんかこう……もー! 他にないの!?」
「似合ってるぞ」
「なんか、釈然としない……」
ふん、褒めてやっただけうれしく思え。
俺の部活は服褒めるやつなんていねーぞ。
ちょっとオシャレでもしてみろ。「こいつ透かしてやんのーw 汚そうぜー」ってなるのがオチだ。
因みにマジでは汚さない、流石に線引きはあるからな。
まあでも、言われるとムカつくよね。俺も何度やり返したことか……。
「さて、買い物……行くとしたら俺は自宅のAmazonかな」
「帰らないでぇぇ!! お兄ちゃんとのデート、凄い楽しみにしてたの。だからそんな事言わないで!」
「冗談だよ、行こうぜ」
やっべ、そういやこれデートだったな。
今スーパーで惣菜買って帰る気まんまんだった。危ない危ない。
いや、電気屋も寄った方がいいか、そろそろトースターが欲しくなってきたんだよ。あとカメラも見ておきたい。
……じゃねぇ、なんかあれだ。
「釣具……いかんいかん、アイツに脳みそ乗っ取られそうになってるな」
「……今セイちゃんのこと考えてた」
いやマジごめん。
「やっべ腹減った。昼はうどんかな」
「むー……」
どうしたんだい? そんな目からビームでそうなくらい睨んで。おや、実はビーム出ちゃってる当たっちゃってる?
「……いやごめんて。俺さ、デートとかよく分からないんだよ。ぶっちゃけ、ジャージで来ようとしてたし」
「なんでジャージ……なのかは分からないけど、そっか。お兄ちゃんは初めてなんだ」
そう、俺はデートなんて初めてなんだよ。高校生にもなって何言ってんだって話だけどさ、野球しかやってこなかったから。
いや……待てよ、スカイとの釣りはどうなんだ?
よくよく考えるとさ、なんか見方によってはデートって言われても納得できなくはないよな。
うん、余計なことは忘れよう。口は災いの元。変なこと言わなければ話が拗れることは無い。
「ウン、ハジメテダヨ」
「……怪しい」
早速災いが起こったらしい。
「……まあいいや。実は、カレンも初めてなんだっ! いつかお兄ちゃんと会える時が来るってずっと思ってたから、全部断っちゃった」
いや重いよ。最近転入してきたんでしょ? いつから俺のこと知ってるわけよ。
流石にそれジョークかなんかだよね。
「使えねーな……」
「え……」
カレンチャンはめちゃくちゃ悲しそうな顔をした。
「あ……いやその……すまん、スカイとは大体こんな感じで軽口言い合ってたからつい……。別に、本当にそう思ってるわけじゃないんだ」
「そうなんだ……。でも、セイちゃんはそんなこと言われて平気なの?」
「まあ、向こうも冗談って分かってるから」
「そうなんだ。でも、そんなこと言われた時セイちゃんはなんて言ってるの?」
「言葉なんてない、拳で語るのだよ。基本ぶん殴られるか蹴り飛ばされるのかの2択だ」
「カレンも蹴った方がいいの?」
何その返答。怖いんだけど。
「ごめん、やっぱそれ無しで。ほんじゃ、適当に洋服とか見てみるか」
よくよく考えたけど、スカイだけならともかくカレンチャンにまで同じ扱いされたら堪らんわ。
ただでさえ湿布貼ったり氷で冷やしたりでケアが面倒臭いのに……え? ならやめろって?
いやいや、それやめちゃったら俺とスカイのアイデンティティが……ねぇ?
まあそんな感じで、あまりに宜しくないスタートダッシュを決めた俺たちは洋服屋を見ることにした。
俺は服にこだわりとかはないし、メインはカレンチャンの買い物だ。
「見て見て、ちょっとイメチェン!」
と、フリルの付いたワンピースを持ってきた。
ふわふわした雰囲気も……てかカレンチャンならなんでも似合うんじゃないかね。
「若手の時と移籍した後の木田優夫さんのピッチングくらいイメージが違うな」
「むう、何その例え方。可愛くない……」
「おま……舐めんなよ。速球派から腕下げて技巧派に転向するのって相当勇気いるんだぞ。メンタルもやばいし、そこまで追い込まれた状態でも変わろうと必死になれる人ってなれば尊敬するしかないだろ」
「んん……? もしかして、カレン怒られてるの? なんで?」
「分かったら後で木田さんググッてこい。カレンチャンもこれで野球ファンだ」
「……木田さんっていう選手いないみたいだよ?」
なに……!? この世界に木田さんがいないだと? まて、よくよく考えたら二刀流の話題も聞いてないし、トレセン学園でもやたらとユタカ選手の話しか聞かない。
今まであんだけ野球のこと調べててなんで気づかなかったんだよ。
「そんな……じゃあ俺は一体なんなんだよ」
「えっと……お兄ちゃん、元気だして?」
「うん、落ち込んだらダメだよな」
「そうそう、辛い時は上を向い――じゃなーい! カレンの洋服の話! なんで野球の話になるの!?」
「せやな。時を戻そう」
てことで、カレンチャンはまたコーディネートを考え始めた。俺は「ほーん」とか「ええんやない?」とか適当に相槌を打ってカレンチャンが喜んで俺が罪悪感を持つっていうループを延々と続けている。
カレンチャンは可愛い物好きというのもあって、服にも人一倍気を使っている。色んな服を見ては組み合わせを考えてみたりと、こだわりがあるようだ。
「お兄ちゃんなら、どっちを着て欲しい?」
悩みに悩んで、俺に助けを求めてきた。
「俺はその人が好きな服を来て欲しい主義」
「むぅ……1番難しい質問だね」
確かに、そんなこと言うなら別のにしてくれって言われた方がまだマシだろうか。
「なら〜、カレンはこっちにする!」
と、ベージュのロングスカートを選んだ。
さっき黒のシャツを選んでたし、今日来ていた大人っぽいけどなんか可愛いみたいな雰囲気は変わらずだ。
「良いんじゃないか? 俺も似合うと思うよ」
「そう? えへへ、選んで良かった……じゃあ買ってくるね」
カレンチャンはスカートをギュッと抱きながら笑顔で笑った。
さて、暇になった事だし今のうちにレースのことでも考えておくか。
カレンチャンのデビューはもうすぐ……と。実力的にも恐らく問題は無いだろう。
正直、レースだけに関しては心配入らないと思う。
まあ……だからこそ、レース以外がどうしても気になるんだよな。
カレンチャンのキャラは可愛いキャラ。そしてSNS、リアル共に表裏は無い。
そうなると、レースが全てみたいな人には好かれなさそう。トレセン学園にカレンチャンのファンが多くいるのは確かだが、初手で多くの敵を作る可能性は充分ある。
それは、ウマ娘ファンも然りだ。
アンチを魔法みたいに一瞬でファンにするみたいな必殺技があるけど、そんなの大勢に使えるわけないしな。
「……別のところでつまづきそうだな。メンタルとか気にせんとヤバいのかも」
実力があってもメンタルでダメになるなんてことはよくある話だ。
タチの悪いところは、落ち込んでいる時に限って落ち込んでいると自分で気づかないこと。
お? ちょっとトレーナーっぽくなってきたんじゃないか? 俺。
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