せめてゴルシ焼きそばは食べたかった……!!
「トレーナーさん、さっきの作戦って言っていいのか分からない作戦は、本当に上手くいくって思ってます?」
「というと?」
「いやぁ、体力鍛えたからって最初から最後まで全力で行けるなんて……そんな上手く行きますかねー」
「うーん……まあ、そこら辺はウマ娘のプロってわけじゃないから分かんないね」
「……もうそのネタはツッコミ疲れましたよ。ほんと、その程度の知識で良くトレーナーになれましたね」
程度っておい。
︎ いやぁ、多分トレーナーになる頃まではマジでやべーやつだったんだろうよ。
それが俺に変わった今、取り敢えず人を頼ることによってなんとなく首の皮一枚繋がってる感じで生き延びている。
いつボロが出るかね。……ほぼほぼ出てるようなものか。
「……トリプルティアラなんて、大きく出ましたよね。私、やっぱり現実は知るべきだと思いますよ」
スカイは澄んだ瞳で、ゲートに入っていくカレンを見つめていた。
パドックでもアピール十分のカレンは注目の的だ。誰もがあの子かわいいなー……なんて話しながら見とれていた。
これだけの注目を集めることが出来るカリスマ性に、それでも平然と自分を見せることが出来るメンタル。プレッシャーに押しつぶされる……なんてことは、考えられない。
あとは実力だけだが……本当の実力は今日見れる訳では無い。
「随分と弱気だな」
「だって……。トレーナーさんは体力さえつけばなんとかなるって思ってるのかもしれませんけど……距離の適正ってそういう意味じゃ無いですからね」
「……っていうじゃん? でも、ここは中央のトレセン学園なんだよ。そこに集まるウマ娘に差なんてない。それに関しては、一番最初に言ったと思うけど」
「そういうものでもないんです。昔からレースが何度もあって、適性が関係ないなんてウマ娘はほとんど居なかったんですよ。その事実があって……」
「魅入ったら止められなくなるんだよ。スカイもそれくらい分かるだろ?」
「……」
この言葉は流石にずるかったか……? でも、そういうことなんだ。いや、結局そこでしかない。
ポジティブに言うにしたら……憧れとかロマンとか、まあ言い方は色々あるだろうが、ネガティブな言い方を考えるのなら呪いという一言に落ち着く。
結局のところ欲望に囚われるという呪いでしかないわけなのだが、そうなってしまった以上は……アスリートとして考えるのなら、突き進むしか道はない。
無理なんてない。出来るはずだ。やれる。
ひたすら自分に問いかけ続けて、道の見えない道を進まなければならない。例え、その先に何が待っていても。
俺は親ではない。だから俺は、どちらの方が客観的に幸せになれる確率が高いか、なんてものは度外視だ。
「それに……カレンなら最後まで続けられる」
俺は、スカイの前では勝てる……なんて言葉は使わなかった。
最後まで続けられる。
だからその間になんとか取ってくれれば……というのが、今の現状。
本人の前では、可能性がゼロでない以上は出来ないとは言わない。ただそれだけだ。
どれだけ馬鹿なことを言ってるかなんて、本人が一番わかってんだし、現実なんていくら語ったところで無意味だ。俺も、その一人だったしな。
『ゲートが開かれました。各ウマ娘一斉にスタートしました! ハナを取ったのはカレンチャン。グングングングン飛ばしていく、これは大逃げだぁ!!』
『大きくかけに出ましたね。それだけデビュー戦の思いが強いということでしょう』
「カレンチャン……さすがに飛ばしすぎじゃねぇか?」「いや、あのCurrenだ。何か考えてるはず……」
なんて言う話がチラホラ。
「トレーナーさん、今チラホラ聞こえてきた言葉……どう思います?」
「どうもこうもない。力こそパワー、ただそれだけだ」
お前も筋肉やらマッスルやら言ってただろ。
「つまりあの言葉は伏線だったと」
「俺はそんな頭良くねぇ」
まあなんだ。実力見てどのウマ娘こっちが上と分かってしまえば単純な力勝負で勝ちに行けばいいってだけだ。変にあれこれ考えるのは練習の時と、本当に切羽詰まりそうな時だけだ。詰まった時じゃなくて詰まりそうな時ってのがキモね。
『カレンチャン、距離関係なし力で勝負の全力疾走。でも……カワイイカレンチャン!!』
『短距離でもこれだけ突き放せる脚力は凄いですね』
そう、カレンは凄い。めちゃくちゃストイックなのだ。何をするにしても一切妥協せず、計画から実行まで何もかも完璧にこなす。
カレンは自分が成功する方法を知ってる。
そして、もう既にカレンはこのレースを見ていない。カレンの目に写っているのは……。
これは油断だとかそういう訳では無い。詰みの手筋が見えたのと同じ。勝ちは決まっているのだ。
だから、こっちも次に向かって集中しなくてはいけない。
『1着はカレンチャン!! 最初から最後まで、一切譲らず独走!! 強さをこれでもかと見せつけました!! 2着は……』
「スカイ。カレンの短距離、凄いだろ。カレンも、こっちの方が成功する確率は圧倒的に高くて、自分がどうすれば成功するのかも分かってるはずなんだ」
こっちに手を振るカレンに応えるように、俺達も手を振った。
「そんなカレンがこっち捨ててまでトリプルティアラを取りたいって言ったんだ。そんなことされたら……もう応援するしかないだろ」
なるほど、てっきりカレンがトリプルティアラに魅せられたのかと思ったが……実は俺がカレンに魅せられていただけなのかもしれないな。
◇◇◇◇
「お兄ちゃーん!! カレンのことちゃんと見てた?」
「ああ、よく頑張ったな」
実況までも魅了してしまうなんて……てかこいつは魔法かなんか使ってないか? 前々から思ってたけど、洗脳的なまでの魅了ってなんなの?
ちょっと……いやかなり怖いんだけど。
「うん。だって、絶対に負けられなかったから」
「そうだねー。次あるし今日くらいは負けても問題なかったんだよ?」
「へ〜……」
やめなさい。スカイと突拍子もないタイミングでバタバタになるのやめなさい。
「ま、まあこれでスカイも気合い入るってもんだろ」
「そうですね。ここはセイちゃんの先輩らしいところを見せないといけませんね」
「才能が……とかブツブツ言ってたヤツが偉そうだなぐほぉ!!」
「トレーナーさんはもうちょっと空気読んでください」
ごめんなさい。
「んにゃ、取り敢えず祝勝会ということで……うどんを食べに行こう」
「祝勝会でうどんですか……部活の生徒のノリですね」
だってちょっと前まで野球部員だし。
「あら、スカイさんも来てたの?」
「あ、キング」
ん? どうやらスカイの知り合いらしい。
キングキング……あ、あれか。
「キングヘイホーみたいな」
「ぶっ……!」
「なっ……私の名前を知らない? なら教えて差し上げましょう。私の名前なキングヘイロー。ですから、そんなヘイホーの上位個体みたいな呼び方はやめてくださる?」
「ヘイローなんてマリオにいたっけ」
「……さぁ?」
「マリオから離れてくださる!?」
いやぁ、久しぶりにマリオの話聞いたもんでさ。うん、急にやりたくなってきたな。あれ、ニュースーパーの対戦が地味に面白くてなあー。友達にチート使われてボコボコにされた経験。
「はぁ、てっきりチームとしてボロボロなのかと思えば……。ですが……失望しましたわ。トレーナーさんまでこうだとは思いませんでした」
こう、というとちゃんとカレンへの言伝は噂として広まったみたいだな。
スカイの方を見ると目が合った。これは……スカイも気付いてるな?
「だってさ、トレーナーさん」
「いやはや、手厳しいですなぁ……」
「ふんっ。余裕ぶっているのも今のうちよ。弥生賞を勝って、皐月賞を制するのはこの私、キングヘイローただ一人よ。おーほっほっほっ!」
「そりゃ勝つのは1人なんだから、キングヘイローが勝ったらただ1人に決まってるだろ。何言ってんだこいつ」
「トレーナーさん、そういうの直接は言わないであげてくださいね」
どうやら高笑いで今の会話は聞こえなかったらしい。
そのまま去っていくキングヘイロー。
「作戦は順調のようだな」
「そうですね」
「高笑いしたあとひっくり返って頭打たなかったな」
「あの忍者のアニメですか? あの人みたいって……キング泣きますよ」
あ、なんかお嬢様タイプかと思ってたら残念系お嬢様タイプか。怒るんじゃないしかといってやり過ごすわけでもなく、泣くと。
「で、あいつも出走予定……と」
「弥生賞では本命です。今、スペちゃんより注目されてるんです」
なるほど、そうすると初めて会った時スカイが弱気になっていた理由のうちの一人というわけか。グラスワンダー、スペシャルウィーク、キングヘイロー……敵が多いな。
「そうか……なら、なおのこと順調だ。スカイ、油断しなかったらマジで勝てるぞ」
「分かってます。絶対に取りますから」
スカイの目の色が変わった。これは本当にもしかしたらもしかするかもしれない。
「今追い風が吹いている。何もかもが味方に着いてくれている。これで、気合いが入らないやつがどこにいるってんだ。三冠を取るのはキングヘイローでもスペシャルウィークでもない……この俺だ」
「……いや私ですからね?」
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