今の……か前のか。
また抑えに回って欲しいですよね。
ついに来ました弥生賞。
何? 展開が早いって? そんな事言われても、人生だってそんなもんだろ?
気づいたらラストスパートってもんだ。
みたいなことをじいちゃんが言ってた。
なおその言葉を聞いて十年くらい経っても元気なじいちゃん。今はどうしてんだろうなぁ。今じゃもう会えないけど、どうせ日本酒ぐびぐび飲んで贔屓球団の愚痴でも言ってるんだろう。
よくよく考えたらなんで贔屓球団に愚痴言うんだよ。応援しろよ。
「取り敢えずスカイの野次を飛ばすのが最優先か」
「頼みますから応援してくださいね」
「てめぇ本気で走ってないじゃねぇかー!! みたいな感じでいいかな」
「応援してくださいね!? ていうか、8割って言ったのトレーナーさんですからね!?」
大丈夫だよ、流石にそんな、空気読めないやつじゃねぇから。まあ、デスソース祭りをしながらスカイの勝利を祈ってることとしましょう。
「ここに取り出すは応援グッズ」
「……怒りますよ?」
「……カレンチャンのも買ったんだけど」
「カレン、こういうバラエティ系はちょっと……」
しょうがない。やはりこういうノリはゴルジがいないとできないらしい。そのうち何かを生贄にしてライドするしかないみたいだな。
「……茶番はここまでにしよう。ってことで、スカイ。前俺が言ったことは覚えてるな?」
「うん。今回に関しては、トレーナーさんはあれしか教えてくれなかったもんね」
「まあな。作戦としては……スペシャルウィークとの距離感だけ注意しておいて欲しい。恐らく、スパートは相当ペースが上がってくる。スタート確実に切って、レースのテンポを常に早くだ」
「うん」
「スペシャルウィークのスパートをかけるタイミングより先に、こっちもスパートをかける」
「スパートも8割」
「そうだな。因みにスパートは直感で切ってくるらしい。行けると思ったタイミング……つまりスカイがペース落ちて距離が縮まりはじめたタイミングだ。桐生院さんがスペシャルウィークのトレーナーに直接聞いたから間違いない」
いけると思ったタイミングというのは勝てると思ったタイミングと言ってもいい。スペシャルウィークがスパートを確実にかけてくる=確定演出みたいなもんだ。
逆にまだだけど、ここでかけないと不味いという気持ちにさせればこっちの勝ちだ。後はここだと思ったら相手もまだ体力ありあまってて手遅れだった、とか。
今回は前者を選ぶわけだ。
「さりげなく同期を工作員扱いですか。ていうか、トレーナーさん姑息ですね」
「ズルはしてない。情報が欲しいなーと思ったら情報が入ってきたっていう、ただそれだけだ。ゲロったスペシャルウィークのトレーナーが悪い」
「「うわぁ……」」
2人して引かれた。そんなやばいことしてたかな、俺。
「いいか、昔のような力任せの勝負はもう終わったんだ。これからは強く、速くはもちろんのこと頭のいいウマ娘が勝つ。その中でも情報戦は特に重要な役割になるんだ。野球でも苦手なコース、苦手な球種、打球が行きやすい場所とか、そこら辺全て頭に叩き込んで、ようやくチームが動き出すレベルになってきたしな」
野球だけじゃない。サッカーだって、テニスだって何もかも情報が力の1つとして数えられるんだ。
「……なるほど。それで私にレースのデータを叩き込んだって訳ですね」
「数字で覚えて、動画と実践で感じて、本番で結果を残す。とりあえず今回はこのステップを踏んで見た感じだな。後は、スペシャルウィークだけじゃなくて、他のウマ娘の情報もレースと距離適性を考えてタイプを分類してみた。そうなると、スカイの頭の中にあるレースプランとしてはどうなる?」
俺はホチキスで止めたA4の資料を手渡した。
「これだと……ふむふむ。何通りかあるけど、スペちゃんをやり込めるのなら……うん、なんとなく想像出来そうです」
「良かった。なら後はスカイに託したぞ」
「ま、のんびり気ままに、頑張っちゃいますかね」
俺はスカイとグータッチを交わした。
「ああっ! ズルい……カレンの時はやって貰ってないのに」
「まだまだじゃのう……カレンちゃんよ」
「むぅぅ〜〜〜……」
「安心しろ、カレンも重賞ならラムパルドばりの頭突きを交わしてやる」
「それ可愛くない!!」
「あっはっは」
まあ頭突きは嘘だ。ウマ娘のにそんなことをしたら俺の頭が割れる。
スイカ割りだ。
「んにゃ、頑張ってこいよ〜」
「軽いなー……」
◇◇◇◇
トレーナーさんの気の抜けた言葉に送り出されて、私は控え室に向かった。
なんていうか、控え室くらいは別に来ていいよーとも思うんだけど、何故か来ようとしない。
前トレーナーさんに聞いたけど「球場の雰囲気を楽しみたい」とかいう謎の発言をされた。
レース場です、トレーナーさん。
「靴紐の緩みは無し。蹄鉄も問題ない。表情も……固くない。緊張はほぐれてる。いつも通り、いつも通り」
よし、適度な緊張感。ちゃんと保ててれば、レースでも油断することなく固くなることなく、自分のペースで走れる。
そろそろパドックに出ないと……。
「セイちゃん」
「あ……スペちゃん……とキング」
「私をついでのように言わないで頂戴」
いやだってさぁ、スペちゃんの後ろに隠れてたじゃん。気付くわけないでしょ。
「絶対……負けないから」
「私も全力で相手をしましょう」
……そういえば、トレーナーさんが言ってたなぁ。ウマ娘ってレースってなると気性荒くなるよね。獣だろ獣って。
あの時はだいぶムカついて蹴っ飛ばしたけど、確かに分からなくは無いかもしれない。
スペちゃん……今まできにすることは無かったけど、レースになると威圧される。まるで虎が獲物を睨むみたいに。
……でも、私はそんなものを気にしない。いくら睨んでいても、天高く飛ぶ鳥を捕まえることは出来ない。
高みの見物……っていう程の実力はないけど、のらりくらりでやり過ごす。
「言われなくても、負けるつもりでレースなんて出るわけないでしょー? ま、気負っても良くないし、気楽に行きましょー」
気楽に……外側だけは気楽に。
内に秘めるこの思いは絶対に出しちゃダメだ。
私は握りこぶしにギュッと力を込めて歩き出した。
◇◇◇◇
「パドックってなんの意味あんの? これいらなくね?」
「身も蓋もない……。カレンはランウェイみたいな気分かなーって思ってるよ。カレンの可愛さをファンの皆に見てもらうの!」
なるほど、選手が入場する時のやつか。
選手入場……待てよ。それなら、やらなきゃ行けねーことがあるんじゃないのか……?
「ゴルシちゃん、来てくれ」
「おう、何の用だ」
流石頼りになる……いや、焼きそば売って回ってただけか。
「突然で悪ぃ。焼きそば10個でこれを放送室に……この曲を流してくれ、頼む」
「曲ぅ? 焼きそば買ってくれるならやってやるけどよ、なんでいきなり……」
「これは……俺の魂なんだ。選手交代のお知らせなんだ。ジャンプするんだ……横浜を……横浜スタジアムを揺るがすんだ……っ!!!!」
「……っっっっ!! 分かった。お前の魂、しかと受けとったぜ!」
ゴルシちゃん焼きそばを袋に詰め込んで俺に渡すとUSBを持って駆け出した。
「まだ時間はあるか……間に合う、よな」
「お兄ちゃん、今から何をするの?」
「ヤスアキジャン……セイウンスカイ・ハイだ。お前らァ!! 今からセイウンスカイが登場するぞ!! 音楽とともに一斉にジャンプしろぉ!!」
俺が叫び、観客はざわめく。そして、大地を揺るがす重低音がパドック全体に響き渡る。
そう、これだよこれ。
俺はタオルをブンブン振り回した。
「カレン、お前もやれ」
「ええ……」
『パドックに回るウマ娘を紹介致します。2番人気、スペシャルウィークに代わりまして、3番人気、セイウンスカイ。7枠、3番、セイウンスカイ』
ゴルシちゃん、いい声で放送するねぇ。そして、最高の放送だ。燃える……燃えるぞ!!
「おーおーおっおっおーおーおおおおーっおーっおースッカッイーー!!」
「え……お兄ちゃん……? え……!? ええ!?」
観客も一緒になって大声でコールする。
パドック全体が一体になって、まだ冷えきっている季節を激熱の超真夏に変貌させた。
「……な、なんですか……? トレーナーさん? もしかしてこれ、トレーナーさんがやった?」
スカイは完全に動揺している。なんならさっき帰ってったスペシャルウィークもひょこっと顔を出して目をまん丸にして口をあんぐりと開けている。
そう、これが……野球だ。
「おーおーおっおっおーおーおおおおーっおーっおースッカッイーー!!」
「もおおおおぅっ!! 私のトレーナーさん嫌だぁぁぁぁぁ!!」
重低音のパドックに響き渡った甲高い声。
これはスカイの遠吠えと呼ばれ、後世に語り継がれることになる……かもしれない。
ということで今の大魔神さんです。
以前生で見たんですけど、圧巻ですよ。
コロナ明けとかで見てみてください。野球ファンでなくてもあれはヤバいってなります。
某YouでTubeな動画サイトにもあるかもしれませんので是非。