謎の疲労感が休日なのにあります。
そういえば取り敢えず今言えることは……石貯めたからキタサン引こうっていう……それだけです。
『皐月賞トライアル、弥生賞。優先出走権を狙い、ウマ娘達のはいつも以上に真剣な眼差しでゲート前に立っています』
『注目の3人はやはり外せません。セイウンスカイはパドックの際にアクシデントがあったらしいですが、それをものともしない強い走りを見せて欲しいですね』
『音響トラブル……らしいですが、そのせいもあってか観客席のボルテージは振り切っていますね』
『演出としては最高でしたからね』
実況も外せないヤスアキ……セイウンスカイ・ハイ。さっきたづなさんから電話がかかってきて、後でお話がありますって言われた。
あれは半ギレだよ、ヤバいよ。
「……てか、カレン。トライアルって何? 優先出走権ってなんぞ? 意味はわかるんだけど、これそんな重要なレースだったの?」
「ええ……お兄ちゃん、本当にトレーナーなのか心配になってきたよ」
「いや、そうじゃなくて……まあそうでもあるんだけど」
でも、引っかかるのがあるんだよ。
「それならスカイも知ってるはずなのに。あいつ、これはリハーサルだーとか言っててさ。そんな、重要なレースみたいな言い方してなかったんだよ」
「だとしても、トレーナーさん自身で調べないのはどうかと思うけど……」
うん、それは言えてる。
「まあいいや。もう何しても変わらんし、終わるの待つか。おら寝るだ」
「応援!! お兄ちゃんおうえんんんん……!! 3着までに入らないと、優先出走権は取れないんだよ? ここで決めないと……」
カレンがポカポカと肩を叩いてきた。
ゆっさゆっさと揺らしてきてカレン酔いが……。
「3着……あれ、実はきつかったり?」
「諦めないでーー!!」
いや、大丈夫。今回蒔いた種の内1つ、すんごいのがあるからな。
寧ろ、スカイがぐっちゃぐちゃにした分。確実に見えるようになるはずだ。
◇◇◇◇
『スタートしました。外からじわじわとセイウンスカイが上がってきました』
『逃げを取りたいように見えますが……思うように前に出れませんね』
「……本気で走らない、かぁ」
セイウンスカイのトレーナー。新人らしいが何を考えているんだ。皐月賞の枠に入るのなら、セイウンスカイの実力から考えてそんな指示を出せるはずがない。
スズカのような足があるならまだしも……読めないな。
「トレーナー、セイちゃんのこと?」
テイオーが不思議そうにセイウンスカイを見ていた。そういえば、たまに遊んでるなんて話を聞いた。
仲がいいとなれば、他チームだとしても気になるか。
「そうだ。トレーナーがそんな指示を出したらしい。流石に、俺たちが実力を測り違えたなんてことはありえないと思うんだが……どうやら本気でこの走りをするみたいだな」
「なんだか苦しそうに走ってるわね」
スカーレットも何かを感じとったらしい。
そりゃあ苦しいだろうな。作戦が逃げなのだとすれば、スピードに乗るまでは差しの容量で逃げを取るなんていう、無茶苦茶な考えで走らないといけない。
「……マークを外しておいて正解だったか」
この走りなら、後で焦ったとしても先は見えている。他のウマ娘と同じような考えか、スペとキングヘイローに注目が集まってるように見える。
スペのパワーがあれば何も問題がない。セイウンスカイは余計なことに集中力を割いてそのまま沈むことになる。
あとはスペの感じるま間に走らせて、末脚でそのまま差し切ってしまえば全てが決まる。キングヘイローに遅れを取ることは絶対にないと言える。
「まずは一勝……」
そう、一勝。
だが……なんだ、この胸騒ぎは。
あの時からそうだ、パドックの時から何かがおかしい……。
正直、今回はセイウンスカイがどう走ろうとキングヘイローさえ抑えてしまえば勝てるレースだ。ここまで圧倒的な強さで勝ってきているのもあり、他のトレーナーは警戒している人もいたようだが……そこは確実なはずだ。
でも、この違和感の感じる先は……観客だ。あのパドックの時から、ほとんどがセイウンスカイの味方に付いていると言ってもいい。それくらい、一人のウマ娘を応援する熱気が、全てを飲み込もうとしている。
だが、これは直接レースに影響するようなものじゃない。レースのスイッチが入れば外なんて殆ど関係ない。これは、あくまでも何かが起こる予兆に過ぎない。
違和感の先は……。
「まさか……」
もしかしたら、俺はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
◇◇◇◇
「きっつ……!!」
流石になんとか前に出ることは出来たけど、後ろとの差が詰まってる。こんなの逃げでもなんでもない。
競り合ってたせいで、抜いたぶんちゃんと体力が残ってるかと言われれば、逃げよりかは余っている……という程度でしかない。
皆を欺くためにサボった振りをして、トレーナーさんも便乗してくれた。そのトレーナーさんも、いっちばん最初に弥生賞について話した時に私は嘘をついた。皆を騙した。
騙して、騙して……私の出せる全力は全て出し尽くした。寧ろ、トレーナーさんの助力もあったし私以上の力が出せたかもしれない。
勝つために全て出し尽くしたけど、もしかしたらまだピースが1つ足りないのかもしれない。
入着は……トレーナーさんに言われた通り出来るかもしれない。でも……3着までは……。
「嫌だ……」
これだけやっても、まだダメなの?
まだ、スペちゃんに届かないの?
『残り1000mを切りました。セイウンスカイは沈んでしまいましたが――』
皆がペースを上げ始めた。そろそろレースを動きはじめる。スペちゃんもキングも、溜めていた足を使い先頭に距離を詰めていく。
「嫌だ……」
キング、待って……。スペちゃん……私を抜かさないで。
「負けたくない。負けたく……あれ?」
私の目の前から音が消えた。誰もいなくなった。あるのは私の先に見える真っ白に光る蹄鉄で抉った足跡だけ。その足跡からはとめどなく数字が溢れ出てきている。
それが何なのかは分からないけど……私の直感的に、あの通りのストライド、あの通りのルートで通れば……まだ勝機があるのかもしれない。
分からないけど……もうやるしかない。
「くっ……」
ありえない……体力残ってないのにこんな広いストライド取らせるって……。
でも、速度は保ててる。で、このストライドを考えるとスパートの場所は……あそこか。
なにこれ、セイちゃん……差しでも追い込みでもないんだけどなぁ……。逆だなぁ、セイちゃん得意なのは逃げなんです。
『おっと、沈みかけていたセイウンスカイが動いた。セイウンスカイが動いた動いた! 息を吹き返したように、スルスルスルスル音もなく前にセイウンスカイが上がってきた!』
周りが見えてきた。1番前に戻ってきた。隣にいるのは……スペちゃんか。
「スペちゃん、私は負けないよ」
光る軌跡を辿って、とにかく前に出る。スペちゃんよりも……前に……!!
8割とか、軽く走れとか……そんなもの知るか!!
私は、スペちゃんには……スペちゃんだけには絶対に負けたくないんだ。天才とか……神童とか……そんなのクソ喰らえだ。ここまで登り詰めたらそんなもの関係ないんだって、トレーナーさんは言った。
それを私が証明するんだ……っ!!
『セイウンスカイ上がってきた!! 内からスペシャルウィーク! スペシャルウィーク! しかしセイウンスカイ! スペシャルウィーク!』
「ああああああああぁぁぁ!!!!」
肺が焼き切れそうなくらい痛い。そりゃそうだ、体力はとうに切れてる。私はただ、道標にしがみつくだけで精一杯。
それができるのは負けたくない、勝ちたいっていうただ一つの欲望がエネルギーになってるから。
最後の直線。
走って、走って走って……走っ……う、うん……?
足跡がない……いつもの光景だ……おかしい、戻ってる。いや、おかしかったのはさっきまでの方か。
『勝った! 勝った! 三連勝!! スペシャルウィークの末脚を諸共せず、デビュー三連勝! セイウンスカイッッ!!』
そっか……ゴールしてたんだ。だから、道がなかったんだ。
「やった……」
勝てた。スペちゃんに勝てた。
「やっったーーーー!!!」
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