蒼天を駆ける野球バカ   作:FAKE MEMORY

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タイトルで釣ってくスタイル


故障は突然に起きます

「……あれ? カレンちゃん、トレーナーさんは?」

 

 授業が終わり、トレーニングの時間になって、私はトレーニング室に来たわけだけど……いつも何かに追われてるような顔をして、パソコンにせっせと向き合っているトレーナーさんがいなかった。

 代わりにいたのは耳がへなりと倒れているカレンちゃん。なにか悪いことでもあったのかな。

 

「えっと……セイちゃん、トレーナーさんは……」

 

 うーん? なんだろう、この答えを渋っている感じ。

 

「まあいいやー。トレーナーさんが来るまではフリーってことで、セイちゃんはゆっくりお昼寝ターイム」

 

「ち、違うのセイちゃん。今日、お兄ちゃんは来ないって……」

 

 来ない。あーなるほど。たまーにあるよねそういうとこ、トレーニングサボるなんて、トレーナー失格だよ。

 全く、担当ウマ娘の顔が見てみたい……私か。なら納得。

 そういえばずっと気になってたんだけど、なんでトレーナーさんのことお兄ちゃんって呼ぶの? 別に家族でもなければ、親戚という訳でもないのに。

 なんか……そういうアレがあるのだろうか。

 

「トレーナーさん、また仕事かぁ……それかサボりか〜……」

 

「えっとね、お兄ちゃんはその……さっき連絡があったんだけど……その……」

 

「なんで渋るの? 別にそんな重要なことでもないでしょ?」

 

 そういうと、カレンちゃんは致し方なしとトレーナーさんについて話すことを決めたみたいだった。

 

「うーん……。お兄ちゃんね、故障したって……」

 

「……はい?」

 

 故障? 何、故障って。ウマ娘が故障ならまだわかるんだけど、トレーナーが故障って何?

 いや、そもそも言い方がおかしいよ。怪我でしょ、なんでわざわざ故障って言い換えるの?

 

「どこを怪我したとかって聞いてるの?」

 

「なんか、右肘に違和感……って」

 

「右肘に違和感」

 

 ……いやなにそれ。右肘に違和感ってなに? 違和感位で休むな。来い。

 というか、それで故障って……貴方は野球選手かなんかですか?

 

「それで休みって……良いの? トレセン学園さん」

 

「でも、場合によってはクリーニング手術を受けるかもっていうので診察してもらうっていってたから……」

 

「野球選手じゃん」

 

 それもう野球選手だ。トレーナーさん、野球選手なんだー今度サインもらおっかなー。

 ……セイちゃんの馬鹿。違うでしょう。

 なんだろう、トレーナーさんって本当になんだろう。人のことからかうし、ウマ娘と走りで張り合おうとするし、なんか野球はやたらと上手いし、故障するし……。

 

「トレーナーさんって、なんなんだろうね」

 

「うーん……分からないけど、でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ? カレンの大好きなお兄ちゃん」

 

 健気だなぁ……。

 

「申し訳ありません! 遅れてしまいました……!」

 

 息を切らしたマックイーンが遅れてやってきた。

 マックイーンは部屋に入って、身だしなみを整えて……「ゴールドシップさんがあんなことをしなければ……」と愚痴を言って咳払い。

 こう……見た目はすごいお嬢様って感じだけど、中身は親近感があるというか……なんか私に通ずる何かを感じるよね。

 

「いやぁ、全然。寧ろトレーナーさん休みだし、練習も休んじゃおうかなーって考えてたところだよ」

 

「休み……? 私のトレーニング初日だというのに、説明も何もせず休みですの?」

 

「うん、お騒がせトレーナーでごめんねー。なんか、故障しちゃったみたいで」

 

「故障……そうでしたの。心配ですわね、ゆっくり休んで早く出走できるように……でき……」

 

 マックイーンが人差し指を顎に当てて首を傾げた。

 そうだよね、そういう反応になるよね。

 

「今、トレーナーの話しているんですの?」

 

「そうだよー。トレーナーさんは故障しました」

 

 マックイーンは頭を抱えた。

 

「本当に……トレーナーさんはなんで私をこんな所へ……?」

 

「因みに、右肘に違和感があったらしいです」

 

「……トレーナーさんは野球選手か何かですの?」

 

 まあ、そういうツッコミになるよね。ていうか、そうとしか言えないよね。

 

「何故スカイさんとカレンチャンさんは動じないのですか? 流石に、トレーナーとして明らかにおかしいでしょう。トレーナーの自覚がかけていますし、故障したとはいえせめて顔出しくらいはするべきでは?」

 

「うーん、それに関してはごめんね。トレーナーさん、そういう常識が通用しないから。ここはね、常識人だと生きていけないようになってるんだ」

 

「お二人はもう、手遅れなのですね」

 

 手遅れ言うな。まるで私たちまで頭おかしいって言われてるみたいじゃないか。

 これも全部トレーナーさんのせいだ。

 

「まあ、私からトレーナーのことは叱っておくからさ。今日は今日でやれる事をやりましょうよ」

 

「立場が逆転してますわね……。スカイさんの言う通り、いつまでも引き摺っていてはマイナスにしかなりませんものね。では、私はお先に準備して参ります」

 

 うーん、さすがお嬢様。更衣室に向かう所作全てに気品を感じる。

 私も、なんかこう……そういう動きをしたら気品を感じるようになるのかな。

 ……ならないかな、というか、似合わないかな。私には。

 

◇◇◇◇

 

 トレーナーさんは、場所取りだけはしてくれたらしい。しかし、芝の端っこにちょこんとだけ。できることと言えば、軽くアップも兼ねてストレッチをしたり、バネを鍛えたり。

 走れるほどの距離は無い。走るとすれば学園の外周かぁ。既にカレンチャンは外周を走ってるところだろうし、合流してもいいかもしれない。

 

「なんと言いますか……、この負荷で本当に良いのでしょうか。私のチームだと、もっと精神的にも追い込むようなトレーニングをしていたのですが」

 

「あー。それなんなんだけどね、トレーナーは精神論ってそんな好きそうじゃなくてさ」

 

「そう……なんですの?」

 

 あ、これだと真っ向から否定してるみたいになっちゃうかな。

 

「いやー、なんかさ。『精神鍛えたいだけなら足使わなくても良くね? きつい想いしたいだけなら護摩行でも行けば?』だって」

 

「足を……つまり、ウマ娘の命である足をできるだけ温存したいと」

 

「というよりも、必要な練習が結果的にキツかったって方が合理的ってことなんだろうね。トレーナーさん、効率をとにかく重視するからさー。だから、別に楽なわけじゃないんだよね」

 

 カレンちゃんのトレーニングは明らかに地獄だ。私から見ても完全に短距離適正なカレンちゃんが中距離を走るとなると、それなりのトレーニングが必要になる訳だけど……さすがにきつすぎるよね。

 効率重視のトレーナーが、逆にこの練習をさせるってなると……このレベルでトレーニングしないと追いつけないということ。

 カレンちゃんは素直にすごいと思う。

 

「このトレーニングが……ベストだと、スカイさんは仰るのですか?」

 

「ベターかな? 最高とは言わなくとも、ある程度適してるって、私は思ってるかな」

 

「スカイさんは、それでいいのですか? もっと上のトレーニングをして、貪欲に速さを求めて……その方がずっといいのでは?」

 

「トレーナーさんはいつも練習を改良してくれるし、ちゃんと今の自分に1番必要なトレーニングを作ってくれるよ。まー、満足するかどうかなんて、その人の考え次第だよ」

 

「考え……ですか」

 

「そう。たまーに話してるときふと感じる時があるんだ。あー、このトレーナーさんダメだなーとか、逆にこういうのもありかーみたいな」

 

 最初こそトレーナーさんが言うことは全部疑ってかかってた。

 才能なんて、トレセン学園まで来てしまえば考える必要は無い。誰だって強くなれる。強くなるための方法が分かってしまえば強くなれるって。

 ほんと、バカみたいとか思ってたけどさ。いざ一緒にトレーニングしてみると、そうやってバカにすることは出来なくなったよね。

 私が思ってたよりも自分の成長速度は早いし、それになんだかよく分からないゾーンみたいなのも手に入れた。

 もうそろそろ無理なんじゃないかって思っても、ちゃんと根拠があってまだ強くなれるって言ってくれるし、凄く応援になる。

 あんなトレーナー、良くも悪くも他にいない。

 

「そうですか……でしたら、私も吸収できるように頑張りますわ」

 

 なんて言ってるマックイーン。まだちょっと不満げだけど、表情は少し晴れたような気がした。




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