そりゃあ、オリジナルが上手くいかないもんだと思います。
てことで今回はちょっと真面目回なウンス視点です。
「お、今のは良い感じですね。走りにかなりバランスが取れている。蹴り足の力とストライドが数値的にかなり上がっている。慣れてくればこれだけでスピードとスタミナは上がります」
「ほうほう……」
……謎の研究施設に半分拉致のような形で連れてこられた私は、何故かゴールドシップさんとここの職員の3人でフォームチェックを延々とされている。
まだトレーナーさんのことは信用しているわけじゃないから、正直自分の走るフォームを弄られることには抵抗があったんだけど……こんなに細部までこだわっているということを知ってしまうと、あのトレーナーさんの凄さを肌に感じる。人をからかったり暴走したり訳の分からないトレーナーが正しく自分の行動力を使えばこうなるんだろうなーって。
お願いだから、あんな雑な連行の仕方はやめて欲しいかなーって。思ってるんですよ、私は。
「スカイは、見た感じふつーに見えんのに飲み込みは早いんだな。それ、絶対武器になるぜ」
「セイちゃん的には、そういう天才肌系っていうよりかは自分のことをよく知ってるというだけなんですけどね」
「なんだ、意外と卑屈だな」
うっ……こう的確にグサグサ付いてくるのは来るものがありますな。
ゴールドシップさんは天才肌というか、本当に……うん訳分からないね。
「おろ? あのちんちくりんのトレーナーはどこ行った?」
ちんちくりんって……まあ確かにちんちくりんなトレーナーだけど。
そういえば、練習に集中して気づかなかったけど、トレーナーさんがどこにも居ない。
さっきまであそこにいたのに。ま、まさか……セイちゃんを置いて1人で昼寝……!? 許せない、私が勝手に昼寝するならともかくトレーナーさんが昼寝をするなんて許せない。
なんてね、トレーナーさんのことだから仕事が終わらなくて室内で内職ってことなんだろうけど……私をここまで連れてきておいてそれは無いと思うわけですよ。
これは……私がしばきに行かなくては。
「すみません。セイちゃん、ちょっと外れますねー」
私は研究室内に入り、耳と鼻に全神経を集中させる。
トレーナーさんの居場所は……こっちかな?
廊下を歩いてトレーナーの痕跡を辿っていくと、だんだん何かの音が聞こえてきた。
カーン、カーンと乾いた木で何かを打つ音だ。
トレーナーの声も聞こえる……何してるのかな。
音のする扉を見つけた私は、トレーナーを引きずって連れていくつもりで扉を開けて……言葉を失った。
――カァァァァァン!!
鋭い音と共に勢いよく飛んでいくボール。
打ったのはトレーナーさん。どうやら、ピッチャーとバッターだけで野球していたらしい。
トレーナーさんは打球を見て、バットを地面に置いてボールの行き先をビシッと指さしてゆっくりとバッターボックスから離れていく。
そして、感極まったのか勢いよくガッツポーズをした。
「いよっしゃぁぁぁぁぁ!!」
「うそやろ……? 今ゾーン完璧やん……うわ、マジか……」
ピッチャーをしていたらしい人はガックリと項垂れていた。
「引っ張って右中間真っ二つ! 勝ちですよねこれ、俺の勝ちですよね!」
「うん……まあ、認める。認めるからもう1回やろ。お願い」
「いいっすよ! やりましょやりましょ!」
トレーナーさんは、ピッチャーの泣きのもう一打席を簡単に受け入れて打席へ立った。
今度こそ抑えてやると意気込むピッチャーが、振りかぶって投げる。
だが、トレーナーさんはまたもや完璧にボールを捉えた。
さっきよりも速い打球がネットに突き刺さった。
「これ行った!! 絶対行ったでしょ!!」
「マジかよ……うわ……いや、エグイな……。いや、ありがとう。今ので気合い入れ直せたわ」
「いえ! こちらこそありがとうございます! まさか打席に立たせてくれて、しかも打たせてくれるとは……」
なにやら短くトレーナーが会話を交わして、名刺……かな? を交換するとピッチャーは練習に戻っていった。
トレーナーはというと、その名刺を大事そうにしまってから人の気配に気づいたのかこっちを見た。すると、私を見つけてすごい笑顔で近付いてきた。
トレーナーさんもこんな楽しそうな顔をするのか……と不覚にもときめきそうになってしまったのは気のせいだと信じたい。だってこんなトレーナーなんだよ? あんな暴走するトレーナー……なんてありえないありえない。
「スカイ! 見てた!? あの人プロ15年のデーベテランだぞ。7年前の5完封はリーグ最多、最優秀防御率と最高勝率と最多勝を取ったレジェンド! 最近怪我がちだったって言うのは聞いたんだけど、それでもプロから打てたんだよ! ヤバくない?」
マシンガンみたいに降り注ぐ野球の知識。
ごめんね、何も知らない私からすれば全部右から左に通り過ぎるだけなんだ。
「あーはいはい。分かりましたから、トレーナーさんは落ち着きましょ?」
「ん? ああ、ごめんごめん」
トレーナーさんは本当に野球が好きなんだなー。ここまで来るとなんでトレーナーになったのか分からないよ。
「それにしても知らなかったですよ。トレーナーさんって野球が上手なんですね」
「ああ……まあ、そう……だな」
おや? 今ちょっと答えが曖昧だったな。
トレーナーさんを見た感じだと、何か後悔がある……? ような感じだけど、まだ野球を諦めきれないとか?
でも、中央のトレーナーは中卒でなれるよんなものじゃないはず。然るべき機関で然るべき教育を受けて、サブトレーナーとして経験を積んで、ようやくなれるもの。
トレーナーさんは中卒、となれば高卒認定試験を取って専門学校で最速かつかなり高い成績を収めて、ようやく入れるレベル。
普通に考えれば、中学卒業までに並大抵じゃない信念で努力をするはず。それなのに、後悔?
分からないなー。トレーナーさんの頭の中は、色んな意味でよく分からない。
「――てか、なんでスカイがここにいるんだ? まだ練習の時間だろ?」
「……てへ」
ここは俊足のセイちゃん。華麗な逃げあるのみです。
◇◇◇◇
「トレーナーさん、トレセン学園に着いたら起こしてくださーい」
「おいマジかよ」
すやぁ……とスカイがタクシーの中で気持ちよさそうに眠りについた。
俺もはしゃぎすぎて眠たいんだよ。俺を眠らせろ。
「トレーナー、名前なんてんだっけ?」
帰りもゴルシちゃんと一緒でよかったわ。話し相手がいると暇な時間もそれなりに楽しめるし。
「俺?」
「お前以外誰がいるってんだよ。ほら、トレーナーだとアタシのトレーナーと被るだろ?」
「ああ、なるほど。俺は三浦悠介だけど」
「三浦トレーナーか……その子、ちゃんと見てないとダメだぜ?」
「え? ああ、うん」
あれかな、練習ほっぽり出して勝手に野球したりパソコンイジイジして内職してるのがダメってことなのか。いや、そりゃダメだよ。俺も分かってるし。
「平気な顔してると思いきや、実は平気じゃなかったり、逆に怒ってると思いきや全然そうじゃなかったり、隠すの上手そうなんだよ。その子も、三浦トレーナーも」
「俺? そりゃ唐突な」
「唐突も何もその通りだろ? 本当かどうかはおめーが一番分かってる」
「……そうかもな」
こいつは、すげぇやつだな。
はっちゃけた性格してるようで、意外と人をよく見てるし、頭も切れる。それでいてあの身体能力となれば、レースは敵無しなんだろうな。
とはいえ、ゴルシちゃんの性格から想像するに『本気を出せば』というところなのだろうが。
「ま、それなりにやるよ。俺だって、スカイのトレーナーだってちゃんと自覚はあるんだ。少なくとも、業務時間は手を抜くつもりは無い」
「それなら安心した」
ゴルシちゃんはサングラスをかけた。
「ふっ……お兄さんもトレセンで降ろしてしまって良いのかい?」
「お客さん、私のセリフを奪わないで欲しいのですが」
うん、まあ、ブレないな。ゴルシちゃんは。
「まあ……うん。スカイを送らないといけないし、それに……家に直帰できるほど仕事進んでないし」
俺の話を本当に聞いてるのかよくわからんゴルシちゃんのよくわからんドヤ顔に俺は苦笑いをした。
その時、隣から「ふわぁ〜……」と気の抜けた声がした。
基本野球関係は全部だめ元ネタとかあるんで良ければ当ててみてください。
実は、主人公の言葉にも元ネタがあったり……?
感想評価等ありましたらよろしくお願いします。