でも、もうこっちの方が言いやすいので直す気もないんですけどね。
「いやぁ、なんだかんだレース見るの初めてなんだよな。スカイってさ、本当に走れんの?」
「なんですかその質問、今更すぎやしません?」
「いや、なんか人が時速60、70で飛ばすのってやっぱ信じ難いよな」
こいつは馬だ……って考えるのが無理だ。だって耳としっぽ以外人だもん。
「全く……ほんと、レースでもブレないですね」
ブレない……というのかは分からない。単純に、今の俺ではできることが限られていると言うだけだ。
今不安がっていたらスカイは満足したのだろうか。なんて意地悪なことは言わない。
今俺がすべきことは、ちゃんと意図を持って、俺が胸を張って送り出すことだけだ。
「これは本番じゃない。だから、手の内はできるだけ隠して課題を洗い出そう。間違っても全力を持って相手に勝つなんてことは考えないように」
「分かってますって。そういうのはセイちゃんの18番ですから。……でも、別に勝っても構わない、ですよね?」
どこで覚えたのかは分からないが、スカイがニヤリと笑いながら生意気な事を言ってきた。
まあ、出来るなら構わないのだがそんな強いんかな。
いやね、もちろん速いのは分かってるよ。でも、本番ってそれだけじゃ崩されるわけだしそこんところどうなのか。
「やれるもんなら、な。うし、じゃあ合図は俺がやるか」
「はーい。ミークちゃん、よろしくね」
「……よろしくお願いします」
お互いスタート位置に立ち、静かな時間が流れる。
――この瞬間だ。試合になった途端切り替わる瞬間。これが良いんだよ。
セイウンスカイも真剣そのもの。威圧感凄い、ちょっと前先発で無敗だった選手を思い出すな。
「位置について、よーいドン……って言ったらスタートだから……あ、さーせん」
わかって水を差しに行った訳だが……3人からの視線が痛い。うん、真面目にやろう。
「位置について、よーい……ドン!」
目の前を一陣の風が抜ける。芝が舞い、彼女達が遠くへ行った頃にゆっくりと落ちてきた。
リードを作ったのはスカイの方だ。ミークと差をつけてさらに加速する。
スカイが実は注目されていたのか、それともハッピーミークを見に来ただけなのかは分からないが、野次馬も集まってきた。あ、こっちだと野次ウマなのか?
めんどいからどっちでもいいや。
いやー速い速い。そんでもって教わっていたフォームでしっかりと走っている。思ったよりスピードが出ていて驚いたのか、スカイは気持ちよさそうに笑顔で芝を駆け抜けていく。
芝をものすごい速さで駆け抜けるって言ったら……やっぱレッドスターだよなぁ。外野を縦横無尽き駆け抜け全力プレーでアウトをつかみ取りに行く。ああいう人がいたら両翼は安泰なんだよな。
「これが塀際の魔術師ってやつか」
「えっと……?」
桐生院さん、すみません。こっちの話です。
「良かった良かった。スカイもあれだけ走れるなら俺も一安心」
「あら、勝負はまだ終わってませんよ?」
「レースですが、今日必要なのは勝ちではないですから」
本番ではない以上はどれだけ勝ちたくても大事なのは内容だ。勝ったとして、走りが最悪であれば意味が無い。逆に、ちゃんと走れているのであれば反省点は明確になって、本番には確実にプラスに働いてくれるだろう。
となれば、いま必要になるのは質のいい経験だ。
……とまぁ、レースの知識はほぼ無いしそんなこと言ってもって言うところはあるんだけどな。
「あ、詰んだ」
最終コーナーでスカイのペースが落ちて、代わりにハッピーミークがすっと伸びてきて抜かしていく。
あっさり抜かされた時のスカイの表情は、最初の楽しそうな表情と変わり明らかに満身創痍。完全なスタミナ切れだ。
遠目でもどちらが先にゴールしたのか、それは明白だった。
ゴールを駆け抜けて、スカイとミークは息を整えながらゆっくり戻ってきた。
「……悔しい」
「だろうな。なんか、それっぽい駆け引きしてそうな感じに見えたからそこは良かったかな」
「感想適当すぎません?」
「見てた範囲だけだし、スカイが本当に頭使ってレースしてるか分からないだろ?」
「それは確かにそうですけど……」
「そうそう、そんで実はスカイがとんでもないお転婆おバカウマ娘だったり……痛い痛い蹴らないで」
「本当に、悔しい!!」
「You are an idiot.ahahahahahaはっはー!! あーヤバいやめろ!! 死ぬから! 流石に強すぎるから!!」
某ブラウザクラッシャーの如くって言うかまんまそれで嘲笑ってみたら死にかけてるんだが。
「ケツが無くなる」
「本当なくなって欲しいですねー。比喩でなく」
あれ、なんか今日のスカイさん毒舌じゃあありませんか?
「あの……よろしいでしょうか?」
やべ、スカイおちょくってたら桐生院さんのこと忘れてたわ。
「あ、ごめんなさい。今日はありがとうございます。えっと……スカイはどうでした?」
「走りが力強くて、すごく綺麗でしたよ。前半は特にそれが目立っていて、そうですね……表すならまるで……まるで飛んでいるみたい……って言いますかね。ちょっと陳腐な表現かもしれないですけど、それがしっくりきます」
お……? 競馬でその実況だけは知ってるんだよ。野球の迷実況漁ってて「なぜあそこでインコースのストレートを使わない。使えないのか、使いたくないのか使う度胸もないのか」とかいう有名な実況でツボにハマってた頃見つけた動画だったな。「翼を広げた!!」ってのはちょっと鳥肌もんだよ。そんときちゃちゃっとしらべたんだけど、騎手がインタビューで飛んでるみたいって言っててそこから取ったんだっけか。いや、ホント実況の語彙力は凄まじい。
ちゃんと準備して、それをあそこで使う度胸が凄い。
あれ? じゃあもしかしてスカイも飛べんじゃね?(浅はか)
「桐生院さん、それってつまりスカイは有馬記念で深い深ーい衝撃を残すことが出来ると、そう言ってるんですね?」
「ごめんなさい……期待は持てますけど、そんなことは全然言ってないです」
「あ、はい」
「ミークの走りで、なにか気づいた点はありましたか?」
走りについて俺に聞くのやめません? 俺に聞いてもなんもないですよ?
まあでも、スカイとの比較っていう話だったら……。
「オーソドックスでかつ全てが平均以上で上手く纏まってる……とか、スカイもそんな感じだと思わない?」
「私に振らないでくださいよ。でもまあ、トレーナーさんの言う通りそう感じたのはあります。正直、グラスちゃんみたいな光ってる何かを感じました」
桐生院さんはその言葉を聞いてぱっと顔を明るくした。良かった、合ってたみたいだ。
「そうですか! ありがとうございます。とは言うものの、逆に尖ってるものがないところですよね。課題も見えてきたので、今度はそこをどうするかですね」
「そうですよね。まあ、そこら辺はメイクデビューに完璧に持ってくる必要はないですし」
「えっ……でも、コンディションは完璧にしなければレースは……」
て思うだろう。でもさ、最初の最初って単純な考えでいた方がいいんだよ。
「自分のウマ娘が他より速ければいいんですよ。無理なら次で勝てばいい。レースのことをちゃんと意識して質のいい練習をしてれば勝てます。無理でも、その反省を活かして次勝てばいいんです」
最初ならいくらでも潰しが効く。色んなことを試して何度も失敗すればいい。そしたらそのうち答えも見えてくる。
「三浦トレーナー。また、機会があったら一緒に練習しませんか?」
「まあ、そのうちですね」
今はまだ、ライバルだとか情報戦だとか、そういうレベルの戦いではないし、今は構わないだろう。
読んでいただきありがとうございます。
ちなみにデバフは赤特です。自分に悪影響ないけど赤特って呼んでます。
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