アルビノ美少女にTS転生したと思ったらお薬漬け改造人間状態にされた上にシティーハンターの世界なんですけど?   作:らびっとウッス

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仕事がとりあえず落ち着いたので今日からまた定期更新していきます。

感想欄で白に元ネタとしたキャラはありますかと聞かれていましたが。
特には居ないんですね、これが。
ただまあ、私の性癖を煮詰めた主人公なので、私の性癖を歪めた色んなキャラの要素を併せ持っている可能性は大いにありますね。

これが元ネタでは?という例を挙げてらっしゃる方もいらっしゃいましたが、その中には私の知っているキャラは居なかったです。
無論、白の元ネタを疑われるようなキャラなのでもれなく全員刺さりました。


第7話「白vs危険なハーレム野郎の巻!(前編)」

冴子の依頼を終えた翌日。

白が目覚めると、既にベッドに香の姿はなかった。

時計を見るといつもより少し長く眠っていたようだ。

 

(思えば、薬が切れてから全力で動いたのは初めてか。道子の時は素人一人だったしな。)

 

自覚していたより疲れが溜まっていたようだ。

自分の状態がしっかり把握できていないというのは少々マズイ。

この感覚のズレは修正していかないとな、とそのような事を考えながらベッドから降りた。

白が身支度を整えてダイニングに顔を出すと、一人で朝食を食べている香の姿があった。

 

「おはよう、香。」

 

「おはよう白ちゃん。よく寝てたわね。」

 

「うん。」

 

今日の朝食はサンドイッチのようだ。

白がそろそろ起きてくるのを見越していたのか、それともそろそろ起こすつもりだったのか、テーブルには白の分のサンドイッチも用意されていたため白も席に着いた。

 

(リョウ)は?」

 

「さあ。知らないわよ、あんなヤツ。」

 

流石にまだ外で宙づりになっていれば気配で気づくため、それはなさそうだが。

香の様子を見るに簀巻きから解放されてそのまま出かけたのだろうか。

どこにいったのか聞いてみようとしたところ、その前に香が口を開いた。

 

「ところで、白ちゃん!」

 

「な、なに?」

 

香の語気に少し引いて答える白。

 

「今日からあなたに女の子のなんたるかを教育するわ。」

 

「む……?」

(え、なにそれは。)

 

白が困惑している中、香の目は燃えていた。

 

「白ちゃんは割と男女の機微みたいなことは自然とやってる気がしていたから気にしてなかったけど、思えばそのほうがおかしかったのよ!」

 

「む、むう。えと……。」

 

なんとか言葉を返そうとする白だが、香の勢いは収まらない。

 

「白ちゃんの生い立ちなら、女としての振る舞いがわからないのも仕方がないわ。いうなればこれは淑女教育よ!」

 

(あかん、止められんわこれ。)

 

香が燃え上がっているのをみて、止めるのは無理だと気づいた白。

一晩吊るされて流石に疲れていたであろう(リョウ)がそそくさと居なくなったのはこれに巻き込まれるのを恐れたからか、と理解した。

 

(お、おのれ……!見捨てたな(リョウ)!!)

 

何をするのかすら想像がつかないが、中身成人男性の白にとって楽しい時間にはならないだろう。

どうにかこの場を切り抜ける方法を考えていると、先に動いたのは香だった。

 

「と、いうことで!今から私は依頼の確認に行ってくるけど、今日は出かけないで家に居ること!いいわね?」

 

「は、はい……」

 

結局最後まで気圧されっぱなしで頷いた白。

香はついでに教材を色々買ってこなきゃ、などと言いながら飛び出していった。

その背中を呆然と見送った白は、どうしてこうなった、と胸中で呟きを漏らした。

何はともあれ、帰ってくるまでには朝食は済ませておこうとサンドイッチに向き直る白。

 

(腹が減っては戦はできぬってね。)

 

体のサイズ的に少しずつしか食べ進められない白の食事は、(リョウ)や香と比べてやや時間がかかる。

そう考えると、ユニオンの頃の主食だったブロック食や流動食のようなものは、時間効率的には優れたものだったのかもしれない。

 

(ま、味は比べるべくもなく香の飯のほうがうまいんだけどな。)

 

ぶっちゃけ前世で食べたまともな食事の味を知っていなければ、香の食事を食べた瞬間号泣不可避だったと思う。

 

(あれ、俺の前世の好物ってなんだったっけ……。)

 

ふと考えるが、やっぱりもう前世の事はうまく思い出せなかった。

なんというか、知識のようなものはある程度残っているのだが、思い出とかそういうものが何も思い出せない。

 

(少なくとも、随分薄情な人間ではあったみたいだな。)

 

忘れたくない記憶とかがあったなら流石に覚えているだろう。

それが親しい人間はおろか、両親の事も覚えていないとは。

 

(あー、だめだ。考えてたら頭痛くなってきたわ。どうでもいいか。)

 

頭を振って気を取り直すと、再びサンドイッチに集中し始める白。

三分の二ほど食べ進めた頃だろうか。

白の耳が異音を捉えた。

低く響くような音と、甲高い空気を裂くような音だ。

連続して響くそれが、徐々に近づいてくる。

 

(うん?これは、ヘリのローター音?)

 

妙に近くを飛んでいるな、と窓際まで寄ってみる白。

白が窓を開こうと手を窓にかけたのと、窓がガタガタと揺れだすのはほぼ同時だった。

 

(おいおい、いくらなんでも近すぎ……)

 

その直後。

白の目と鼻の先、窓の外に黒塗りの軍用ヘリが上空から降下してきた。

部屋の中を伺うように目の前でホバリングする軍用ヘリ。

白が何事かと思っていると、軍用ヘリの底部に取り付けられた機銃が鈍い光を放つ。

 

(なんっ……!)

 

背筋を走った悪寒に従うまま、白は全力で横っ飛びした。

次の瞬間には弾丸の嵐が部屋の中に吹き荒れた。

轟音と共に部屋の壁やらテーブルやらお構いなしに全てが挽きつぶされていく。

白はナイフを右手に構え、部屋の扉をぶち破るようにして廊下に飛び出した。

なんとかしてヘリの視界から外れなくては。

交戦?冗談じゃない。

白の武装じゃ直接乗り込みでもしない限りヘリ相手にできることなどないのだから。

ここは逃げの一手。

マンションから退避して身を隠し(リョウ)達に合流するのが最良だが、敵の正体もわからない。

白が廊下に逃れたことで一旦機銃掃射はやめたようだ。

破壊音が落ち着いたが、階下から複数の人間が登ってくる足音がする。

それに舌打ちする白。

 

(ヘリから降下……にしては人数が多い。別動隊か。)

 

軍用ヘリを使っていることもそうだし、かなり組織立った相手だ。

恐らく装備もしっかりとしているだろう。

こちらの装備はナイフ一本。

今から回収に行く暇はなさそうだ。

 

(この状況では、殺しもやむを得ない、か。)

 

いきなり機銃掃射なんてしてくる奴等だ。

恐らく、何かしら連射の利く銃くらいは持っているだろう。

そんなの相手に人数不利で不殺を意識して立ち向かえば、返り討ちにあいかねない。

 

(ひとまずはこっちだ!)

 

白は全力で駆け出すと、壁を蹴って跳躍。

天井に突っ込む。

すると、天井の板が外れるようになっておりそこに作られた空間へと飛び込んだ。

(リョウ)が主に生活しているこのフロアはこの空間で繋がっており、どこからでも人目につかずに移動できるようになっていた。

 

(自分の拠点にこういうスペースを作ってるんだから、(リョウ)も抜け目ないよな。)

 

なお、実際は(リョウ)が客間に泊めた女性に夜這いを掛けられるように作られたのが発端だったりするが白はそのことを知らない、というかその原作知識を覚えてない。

この空間で襲撃自体をやり過ごせればベストなのだが、白が室内に居たことは既に相手にバレている。

そのうえダイニングの天井が機銃掃射で崩落したようでそちらから光が差し込んでいるため、敵がそこまで到達すればこの空間はすぐ見つかるだろう。

どうにか敵と入れ違いで階下に降りられれば脱出も見えてくるのだが。

そのまま階段の真上まで移動して下の様子を伺うと、どうやら敵は既にこのフロアまで上がってきたようだ。

階段前に見張りを二人置いてフロア内の捜索を開始したようである。

幸いまだこちらが発見されている様子はない。

気配を頼りに見張りの真上まで移動すると、静かに天井の板をずらして目視で相手の様子を確認する。

軍服姿の女性兵士が2名。

武装はぱっと見で確認できる限りだと構えているサブマシンガンと腰にハンドガン。

全員がこのレベルの武装をしているのなら、正面からぶつかっては白に勝ち目はなさそうだ。

 

(殺すしかないか。幸い奇襲にはもってこいの状況だ。悪く思うなよ……!)

 

ナイフを逆手に構えると、天井裏から飛び降りる。

空中でのすれ違い様に見張りの片方の首を刈ろうとした白。

しかし、ナイフを握った右腕が意思に反して不自然に硬直した。

殺害という手段に及ぼうとした白の右腕を止めたのは、不意に訪れた強い忌避感、嫌悪感ともいう感情だった。

恐怖にも近いかもしれない。

今迄全く感じることのなかった人殺しという行為に対するそれが、今、このタイミングに白に襲い掛かった。

 

(なん、で今更!)

 

どうにか身をよじるようにして切りつけたが狙いは大きくそれ、背中を浅く切りつけただけ。

それも頑丈な軍服や装備に阻まれて相手の体には傷一つつけられていない。

無論そんなことをすれば見張り達はどちらも気づく。

 

「貴様!」

 

「あっ」

 

突如襲った感情に動揺の収まっていなかった白は、顔面に飛んできた蹴りを見て状況に気づいた、といえるほど致命的に判断が遅れた。

咄嗟に右腕をガードに入れるが、軽い白の体はガードの上から吹き飛ばされて壁に激突する。

ろくに受け身もままならず、壁に頭を打ってしまったのか視界がぐらつき、感覚に靄がかかる。

額を切ってしまったのか、視界が赤く染まる。

朦朧とした意識の中、手で血をぬぐうといつのまにかナイフを持っていないことに気が付いた。

慌てて周囲を見れば、衝撃で取り落としてしまったのか少し離れたところに転がっている。

なんとか手を伸ばすが、うまく体が動かせなかった。

 

(なんて、様だ……!)

 

ふと視界に影が落ち、そちらを見あげれば、先ほどの女性兵士がサブマシンガンを振り上げるところだった。

 

「香、ごめ……」

 

そのまま振り下ろされたサブマシンガンの銃床で頭部を強く殴られた白は意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

香は鼻歌混じりに機嫌よく帰り道を歩いていた。

残念ながら依頼はなかったものの、白の教育に必要そうなものを買いそろえることはできた。

学校で習うような保健体育の教材から始まり、リボン等白の外見でつけていても違和感のない装飾品、簡単な化粧品までを買いそろえて買い物袋片手に歩く。

しかし、その足取りはマンションの前で止まった。

 

「な、なな、な、なによこれぇー!!」

 

見慣れたマンションはボロボロ。

特に上のほうが酷い。

外壁が崩れて中が丸見え。

まるで戦争でもあったかのような有り様だ。

しかもあそこはダイニングではないか。

外から見てもその損傷具合がわかるくらいには破壊されていた。

 

「え、待ってよ。中には白ちゃんが……!」

 

衝撃から立ち直った香が自宅待機を命じた白が中に居ることに思い至り、顔を青ざめた。

 

「白ちゃん!」

 

買い物袋を投げ捨ててマンションに駆け込む香。

階段を一気にかけあがって目的のフロアにつくと、まず目についたのは階段近くの壁の比較的新しい血痕と、小さな子供の血の手形だった。

状況的に白の物で間違いない。

この時点ではまだ返り血の可能性もあるのだが、香にはそんな冷静な思考はできなかった。

脳内に過るのは、銃撃されてもがき苦しんでいる白の姿である。

 

「白ちゃん!!白ちゃん、どこ!居るんでしょ!!!」

 

もはや悲鳴のように叫びながら駆け出す香。

ボロボロに破壊されたダイニングに辿り着くと、壁にナイフで張り紙が縫い付けられていた。

 

『娘は預かった。

返してほしくば、マイクロフィルムを持って埠頭の第三倉庫まで来い。』

 

「マイクロフィルムって、昨日の依頼の……?」

 

壁に張り紙を固定しているナイフを引き抜くと、それは間違いなく白が持っていたものだ。

娘というのは白のことだろう。

 

「ああ、白ちゃん……!」

 

思わずナイフをぎゅっと握りしめる香。

とにもかくにも、(リョウ)を探さなければと立ち上がったところで、甲高いスキール音が響いた。

誰かがマンション前に車で激しく走りこんできたようだ。

ボロボロのダイニングからは下がよく見えた。

見慣れない赤い乗用車だが、降りてきたのは冴子と(リョウ)だった。

なぜ二人が一緒に居るのかはわからないが、探し人が向こうから来てくれたのだ。

香は壁の残骸から身を乗り出すようにして声を上げた。

 

(リョウ)!」

 

「香、無事か!」

 

(リョウ)もすぐに気づいて下から叫び返す。

 

「大変なの、白ちゃんが!」

 

「白がどうした!」

 

「白ちゃんが攫われちゃった!」

 

「なんだと……!?」

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

朝になり起きてきた香によってようやく宙づりから解放された(リョウ)は、自室で寝なおそうかと思っていた。

そこに香がやってきて、白に女性の何たるかを教え込むから協力しろと言ってきたのだ。

確かに必要なことだとは思うが、自分がその教育で役立つかは甚だ疑問だし、なにより面倒なことになるのは間違いない。

香の燃え上がり具合も凄いし、止めても聞きそうにない。

そのため、こっそりと香の目を盗んで家を出てきたのである。

特に目的地があったわけではないので、ただぶらぶらと新宿の街を歩く。

と、そんな(リョウ)に声をかけてくる者がいた。

歩道を歩く(リョウ)の横に、赤い乗用車が停止したのだ。

 

「はーい、(リョウ)。」

 

「あぁ!冴子、お前昨日はよくも……!」

 

運転席から手を振っているのは冴子だった。

昨晩こっそり姿を消した冴子に文句を言う(リョウ)を諫めるように冴子が口を開く。

 

「そのことで話があるのよ。ちょっと乗っていかない?」

 

「話だぁ?お前の話を聞くのは報酬を頂いてからだ!」

 

「そのためにもお話がしたいんじゃないの。ねっ?」

 

どこか釈然としない様子の(リョウ)だが、口では勝てないと思ったのか、一発への未練が捨てきれないのか、結局冴子の車に乗り込んだ。

(リョウ)が乗ると同時、ゆっくりと車は走り出す。

 

「で?話ってなんだよ。」

 

「そのためには、昨日の依頼の詳細を話さないといけないわね。」

 

「なに?」

 

怪訝な顔で返した(リョウ)に、冴子が語った依頼の詳細はこうだ。

昨日のマイクロフィルム奪取の依頼。

そもそもマイクロフィルムの中身はロキシア王国という国から持ち出された、とある軍事機密だ。

それを盗み出したのは反体制派の一味だと思われるが、相手のトップが不明だった。

そして今回の依頼の真の目的は、敵の首魁の特定にあった。

本来想定していた流れでは理由をつけて(リョウ)を依頼に巻き込み、マイクロフィルムを盗んだ後にあえて騒ぎを起こして敵に捕まる予定だったのだ。

捕まった先に居るであろう敵の首魁の元に乗り込み、流れで(リョウ)に始末してもらうというつもりだったのだが、そうはならなかった。

イレギュラーの白という存在のためだ。

白が事前に警備室を制圧、脱出までの道のりを作ってしまっていたため、騒ぎは起こらず脱出できてしまった。

マイクロフィルムを回収はできたものの、これでは結局敵の首魁が誰かわからない。

そのため、冴子が打った次の手は『マイクロフィルムはシティーハンターが盗み出した』という情報を流すことだった。

このマイクロフィルムはこれだけ大掛かりな仕掛けで運び出したものだ。

反体制派は絶対に確保したいもののはず。

この情報には絶対に食いついてくる。

あとはロキシア内部に目を光らせておけば、敵の首魁が動いた瞬間に誰かわかるという寸法だ。

 

「あんたね……。人を釣り餌扱いするんじゃないよ。というかそれならそうと、最初からそういう依頼をしろ!」

 

「やーね、そんなつもりないわよ。それにこうでもしないと、絶対受けてくれないじゃないの。」

 

あんまりといえばあんまりな冴子の言い分に、歯をむき出しにして威嚇する(リョウ)

それをみて冴子はさらに続ける。

 

「それに、相手が誰かさえわかればその初動で無理やり止められるから、実際に被害は出ないわよ。」

 

「はぁ?そりゃどういう意味だ。」

 

冴子が語るには、犯人の目星さえつけば良いとの事だった。

その理由は、依頼人がロキシア王国の次期国王である第一王子シュロモ・ダヤンその人であるためだ。

首魁さえわかればその強権で強引に捕縛してしまえばよいため、実際に敵が(リョウ)のもとまでたどり着く可能性はない。

それが冴子の言い分であった。

それを聞いた(リョウ)は、情報を咀嚼するためか助手席で腕を頭の後ろで組んで、斜め上を眺めながら声を漏らす。

 

「なるほどね……。」

 

「そ。だから安心して頂戴。これを話したのも、あなたへの義理立てという部分が大きいわ。本来は機密事項なんだから。」

 

「ふむ……。」

 

(リョウ)は腕組みを外して体を起こすと、冴子に鋭い目を向けた。

 

「冴子。急ぎで俺の家に向かってくれ。」

 

「え?ええ、いいけど。どうしたの、急に。」

 

「……どうにも胸騒ぎがする。」

 

そうしてマンションに戻った(リョウ)と冴子を出迎えたのは、無残に破壊されたマンションと白が攫われたという報告だった。

(リョウ)は香とダイニングの跡地で合流し、香が発見した白のナイフや張り紙、そして周囲の状況から今後の行動を考えていた。

ちなみに、冴子は既に居ない。

急ぎ本庁に戻り、依頼人のシュロモ・ダヤンへの連絡と、白の救出に全力を挙げると約束して車に飛び乗っていった。

 

(敵の動きが早い。早すぎるくらいだ。冴子の想定が楽観的だったというよりは、敵が想定以上に強大だったとみるべきか。)

 

破壊の状況や、壁に刻まれた弾痕を見るに戦闘ヘリの類が使われている可能性が高い。

即日でそんなもので強襲をかけてくる相手だ。

恐らく真犯人はかなり絞られているはず。

そちらは冴子に任せて、こっちは白の事を第一に動いていいだろう。

腕を組んで目をつむり敵について考えている(リョウ)

香は力なく床に座り込んでしまっていた。

 

「ねえ、(リョウ)。白ちゃん、大丈夫かな。本当はもう、死んじゃってたり、とか……。」

 

その言葉に、(リョウ)は座り込んだ香に目線を合わせるため屈みこむと、安心させるように微笑みかけた。

 

「大丈夫だ。白は生きてる。」

 

「で、でも。ここもこんな有り様で、とても無事だなんて……。」

 

「壁に残っている弾痕は大型の機銃によるものだけだ。小銃の薬莢もない。あんなもんで撃たれたらこの辺は血の海になってるはずだ。」

 

(リョウ)が指摘するように、破壊痕から想定する限り、白が銃で撃たれたという線は無さそうだった。

それに、と(リョウ)は続ける。

 

「あいつは俺と真正面から戦えるんだぜ?そうそうやられはしないさ。」

 

「う、うん……。」

 

まだ不安気ではあるが、一応納得した様子の香。

(リョウ)は口には出さなかったが、疑問も残っていた。

白は弱体化しているとはいえ、そこらの木っ端ヤクザくらいなら鼻歌混じりに伸してみせるくらいの強さはある。

それに、こと隠密に関しては明確に(リョウ)より上だ。

隠れ潜んで敵の包囲を抜ける、というシュチュエーションなら(リョウ)よりうまくやってみせるだろう、という印象があった。

にも拘らず、特に抵抗したらしい痕跡がない。

壁に一か所血痕があるが、逆に一か所しかないということは一度の交戦で、しかも相手が銃を使わずに戦闘が終わったことを意味している。

それほどの強敵だったのか、それとも何かアクシデントがあったか。

そこが唯一の懸念点だ。

 

(しかし、まあ。関係ないな。)

 

おもむろに立ち上がった(リョウ)の目がスッと冷える。

ゆっくりと周囲を見回し、最後に未だ不安そうに白のナイフを握りしめる香に目をやった。

 

「誰に喧嘩を売ったのか、わからせてやらないとな。」

 

(リョウ)はそういって自信に満ちた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

暗い。

真っ暗な海を、ゆっくりと沈んでいく感覚。

不思議と息苦しさはなく、包まれているような安心感だけがある。

白は、その中をゆっくり沈んでいた。

 

ああ、またここか。

 

抵抗せずに、そのまま沈んでいくと、そのうちおぼろげに人影が浮かんだ。

 

よお。久しぶり。まだこんな深いところに居るのか。

……。

なに?別に怒ってはいないよ。気持ちもわからんでもないしな。

……?

むしろ、嬉しいくらいだぜ。お前が自己主張してくれるようになったのがな。(リョウ)のおかげかな。

……。

そうか?まあいいや。お前がそういうなら、そうなんだろう。

……。

ああ、そうだな。わかったよ。ここでの事を俺は覚えてはいられないが、不思議とお前との約束だけは向こうに持っていける。だから、約束しよう。

……?

任せろよ。俺はそのための俺だ。約束だ。俺はもう……。

 

 

 

 

 

「はっ。」

 

白の意識は、唐突に覚醒した。

打ちっぱなしの灰色の天井が目に入る。

ゆっくりと体を起こして自分の体を確認すると、コートが没収されてシャツにホットパンツ姿。

頭には包帯が巻かれているようだ。

周囲の様子を見るとどうやら独房のようになっている。

コンクリート打ちっぱなしの壁、床、天井に自分が寝かされていた簡素なベッド。

覗き窓がついた頑丈な扉。

窓はないことから、もしかしたら地下なのかもしれない。

 

(あのまま捕まったのか。酷い失態だ。)

 

思わず額に手をやり項垂れる白。

 

(なんで今更、殺しへの罪悪感なんて……。日常生活に少し触れたからか?)

 

原因を考えるが、どうにもこれだという答えはない。

取り留めもなく続きそうな自己嫌悪を頭を振って無理やり振り払うと、立ち上がった。

 

(とにかく状況の確認だ。俺は誰に捕まったんだ。)

 

最悪の可能性がユニオン。

しかし、どうもやり口がユニオンらしくはない。

あそこはどちらかといえば少数精鋭を好む傾向にある。

無論、雑兵というべき兵隊も多いが、強い敵には強い人物単体を宛がう傾向がある。

それに、白の事が知られていたとしても、シティーハンターに手を出すには早すぎる。

まだ間が空くはずだ。

となると、敵の狙いは白ではなく(リョウ)のほうだというのがしっくりくるのだが。

そんなことを考えていると、白に声がかかった。

 

「おや、目が覚めたようだねお嬢ちゃん。体に痛みはないかい?」

 

そちらに目をやると、誰かが覗き窓からこちらを覗き込んでいた。

生憎と白からは目元しか見えないが。

声からして恐らく女性。

声音に侮蔑の色はなく、純粋に優しさや心配の色が滲んでいる。

その様子から、ある程度会話が可能な相手と白は判断した。

また、相手はこちらを脅威とは思っておらず、普通の少女だと思われているのではなかろうか。

少なくとも、明確な敵に向ける声音と視線ではなかった。

そうなれば。

白は動きにくい表情筋を必死になって操り眉根を寄せると、怯えたように後ずさった。

その様子を見た覗き窓の女性も、困ったように眉根を寄せる。

 

「手荒なマネをして悪かったね。急にナイフもってとびかかってくるもんだからさ。もうそういうことはしないよ。お嬢ちゃんがシティーハンターとどういう関係かは知らんが、大事な人質だ。大人しくしておいてくれ。」

 

「……ここはどこ?」

 

「それは言えんが、危険なところではないさ。無法者もいない。扉の前には必ず見張りが立つから、何かあったら声をかけな。」

 

そういうと、覗き窓から女性が消える。

気配自体は残っているので、言葉の通り扉の前で見張りに立っているのだろう。

 

(態度と発言からして、相手は俺の正体は知らない。それに、どうも統率が取れているように見える。襲撃時の装備からしても、どこかの軍隊にでも捕まったのか?)

 

腕を組んで目を閉じ、思考を回す白。

 

(このままじっとしていれば、多分だが(リョウ)が助けには来てくれるだろう。だが、それでは……。)

 

恐らく自分はもう戦えなくなる。

白には強い確信があった。

ここで何もしないで居れば、この場でホワイトデビルは死ぬ。

自分は今後ただの少女になり下がる。

そして、またこのような目にあったとき。

同じように無様に連れ去らわれて、窮地のヒロインを(リョウ)が助けに来てくれるのだ。

それでいいのか。

自分は今後、ただの少女として生きていくのか。

(リョウ)が昨日、白に依頼を手伝わせたのはなぜか。

それができるという信頼があったからではないのか。

その直後にこの体たらく。

信頼を裏切ったまま、安穏とその庇護下に収まるのか。

 

(それはちょっと、気にいらねえよなぁ!)

 

白の瞳に火がともる。

自分の失態を自分で挽回せずしてどうする。

しかし、また人を殺そうとすれば、その身が意思に反して固まってしまう可能性も考えられた。

それゆえに。

 

(ノーキルノーアラート。誰にも気づかれず、誰も殺さず。制圧してみせようじゃないか。)

 

今迄はなんとなく、殺さないで済むなら殺さない程度だった白。

しかし今この時明確に抱いた、不殺の決意。

暗殺者ホワイトデビルとしてではなく。

ただの少女冴羽 白としてじゃなく。

スイーパー冴羽 白の戦い方が明確に定まった。

(リョウ)と香の二人と暮らすようになってからこっち、流されるままに過ごしてきた白。

今この時、初めて精神と肉体が合致したような爽快感さえ感じながら、彼女が初めて自分の意志で舞台に立った。




ちょっとずつ白というキャラを深堀していきます。
後編は木曜日投稿予定です。

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