アルビノ美少女にTS転生したと思ったらお薬漬け改造人間状態にされた上にシティーハンターの世界なんですけど?   作:らびっとウッス

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投稿遅れてすいません。
せっかくのバレンタインデーなんで、それにちなんだ回をと思いまして。
書き上げが間に合わなかった。

皆さんはチョコレートを用意したりされたりするご予定はありますか?
私はリモートワークになって職場に行くこともないので今年はないですね……


閑話「白い悪魔とチョコレート」

香と白の二人は近所のデパートで日用品の買い足しを行っていた。

普段は香一人で行くことが多いのだがこの日は白が暇だったこと、(リョウ)が朝からどこかへフラッと出かけてしまっていたこともあり、白もついてきていた。

流石に香は慣れているのだろう、次々と日用品を購入していきスムーズに買い物は進んでいく。

白は売り場から売り場に迷いなく進んでいく香の後ろをついて回りながら、周りに目をやったり小さい買い物袋を持ったりする程度だ。

例の猫耳パーカー姿で、窓からの日差しをよけるためにフードを被ったままにしているため、頭の上で揺れている猫耳にまわりの小さい子の視線が注がれたりしているが、白は気にしていない。

時折香と会話はするものの、香の脳内には買い物ルートが構築されているのだろう。

よどみなく店内を進んでいく。

と、そんな香の足が急に止まったことで、白は香にぶつかりそうになり慌てて急ブレーキをかけた。

何事かと香の顔を見上げると、香は今通り過ぎようとした売り場のほうに目を向けて何とも言えない表情を浮かべている。

香の視線を追うと、そこにあったのはチョコレートの山だった。

それを見て、ああ、と納得する白。

そういえば明日は2/14。

バレンタインだ。

あれはバレンタインの特設コーナーなんだろう。

今も数名の女性がチョコレートを手に取り吟味しているのが見て取れる。

それを見つめる香の横顔は、そうとわかってみれば少し寂しそうにも見える。

そんな様子を見た白は口を開く。

 

(リョウ)にあげるの?」

 

すると、香の顔はみるみる赤くなり、ぶんぶんと手を振りながら否定する。

 

「えっ!? いや、違うわよ。どうしてあんな奴にチョコレートなんて!」

 

勢いよく否定した香だが徐々にその勢いもしぼんでいき、力ない笑みを浮かべるだけになってしまった。

 

「それに私みたいな男女から貰っても(リョウ)だって困るでしょ……。」

 

ハハハ、と乾いた笑いを零す香。

それを見た白はというと

 

(そんな訳ないんだよなぁ。)

 

呆れ半分で思わずじとっとした視線を香に送ってしまう。

普段(リョウ)が香をあんまり女扱いしないせいか、どうにも自己肯定感が低いというか、なんというか。

(リョウ)の態度はアレはアレでわかり易いほうだと思うのだが。

 

(やれやれ、ここは背中を押してやりますか。)

 

ふんす、と一つ鼻息を立てると白はわざとらしく首を傾げて香を見上げた。

 

「バレンタインデーとは職場の人間関係を良くするために女性が男性にチョコレートを贈る日だと聞いた。違うの?」

 

「え?……あー、義理チョコね。間違ってはいないけど。」

 

香とてそういう文化がある事は知っているし、白がよく(リョウ)が読み終わった後の新聞を読んだりしているのを見ているので、そういうところからバレンタインについて偏った情報を得てしまったのだろうと納得した。

だが義理チョコは比較的最近できた文化で、本来意味するところは違う。

もちろん白はそんなこと知っていてわざととぼけているのだが。

白になんと伝えたものかと香が頭を悩ませていると、続けて白が口を開く。

 

「それなら、香がパートナーの(リョウ)にチョコレートを渡すのは普通の事だと思う。」

 

「……そっか。そうよね? これは義理チョコ。それくらい渡してやんなきゃ逆に可愛そうよね?」

 

何度も頷くとチョコレート売り場に近寄っていき、チョコレートの吟味を始める香。

白はやれやれと肩をすくめると、二つのチョコレートを手に持ったまま石像のように固まっている香を見て、もう一押し必要かと自分もチョコレート売り場に足を向けた。

 

 

 

 

 

いつもより少しだけ長い買い物を終えての帰り道。

上機嫌に新宿を歩く香についていく白。

あの後熟慮を重ねた香は普段はちょっと躊躇ってしまう値段のチョコレートを購入した。

一口サイズの色んな味のチョコが複数個入っているタイプのやつだ。

大きな交差点で赤信号に引っかかるも、香は鼻歌を歌っていてご機嫌の様子だ。

白から義理チョコという大義名分を貰ったことで、チョコを渡す口実ができたことが嬉しいらしい。

とはいえ

 

(義理チョコって感じのチョコでもないよな、あのチョコレート。)

 

結構気合入ったチョコレートになってるので、これを渡して義理チョコと言われてもって感じになっているが。

まあ本人が満足そうだからいいか、と思考をぶん投げることにした白。

香から目を外し、交差点の先に目をやった時に飛び込んできた光景に思わず

 

「うわ。」

 

と声が漏れてしまった。

交差点の向こうでは、(リョウ)が道行く女性に片端から声をかけてはフラれ、次の女性に声をかけるを繰り返している。

 

(お前よりによってこのタイミングで……!)

 

香が気づく前になんとかしてこの危機を(リョウ)に伝えなくてはと周囲を見るが、使えそうなものはない。

その時、ふと香の鼻歌が止まっていることに気づいた。

恐る恐る香の様子を見上げると、さっきまでの上機嫌はどこへやら。

眦を吊り上げ、交差点の先を睨みつけている。

 

(ああ、終わった。)

 

その様子に南無三と手を合わせる白。

歩行者用信号が青になった途端、解き放たれた香が獣のような速度で(リョウ)に迫っていくのを見て、どうにも間の悪い(リョウ)に呆れの溜息が零れた。

白が騒動が治まるまで待つためにあえて青信号を一度見送ってから次の青信号で交差点を渡ると、歩道に埋没した(リョウ)と鼻息荒く100tハンマーを肩に担いでいる香の姿があった。

香はフン、と大きく鼻を鳴らすとハンマーを鞄にしまい(!?)白に声をかける。

 

「帰るわよ!」

 

「イエスマム。」

 

香の気迫に逆らう事をせず、敬礼と共に答える白。

そのまま肩を怒らせて帰り道をいく香を駆け足で追いかけた。

 

 

 

 

 

明けて翌日。

2/14バレンタインデー。

……(リョウ)はあれから帰ってきていなかった。

あのまま夜の街に遊びに繰り出したのだろう。

朝食の時間になっても帰ってこない事から、まだ遊んでいるか酔いつぶれてその辺で寝ているのか。

食卓に着いた白はもそもそとサンドイッチをかじっているが、正直気が気じゃない。

ちらりと横目で香の様子を窺うと、見たことがないほどに真顔。

なんの感情も浮かんでいない顔でサンドイッチを食べ進めている。

……しかし、白にはそれが噴火直前の火山だとか、津波の前に大きく引いていく海だとか、そんな状態に見えた。

普段は会話しながら行われる朝食も、一切の無言である。

そんな空間で気まずさの極致のような朝食を進めていると、白の耳が千鳥足の足音を捉えた。

思わずびくりと肩が跳ねる白。

頼むからこっちに来てくれるな、という祈りも空しく足音はまっすぐこの部屋に向かっている。

こうなっては香が気づく前に脱出するしかないと、香のほうをチラッと見てみると、香は変わらず能面のような顔をしたままじっと廊下に続く扉を見つめていた。

恐らく白の反応で(リョウ)が帰ってきたことに気づいたのだろう。

脱出するには今香が見つめている扉を開いて出ていくしかないが、今の白に香の視線を横切る勇気はなかった。

前門の(リョウ)、後門の香の状態で、この後の展開を考えて震えすら起きてきた白は、かくなる上は窓をぶち破ってでも逃げ出そうと立ち上がる。

だが時すでに遅し。

ガチャリと音を立てて扉が開いてしまった。

 

「香しゃ~ん!(リョウ)ちゃんれすよ~!たらいまー!」

 

(もうだめだ、おしまいだぁ……)

 

白は(リョウ)の第一声を聞いた瞬間に机に突っ伏して頭を庇い、対ショック姿勢を取った。

後ろからは(リョウ)の戸惑った声が聞こえる。

 

「あ、あれ? 香? 香さーん? あっそうだこれあげる!」

 

「……なにこれ?」

 

「お店の女の子に貰ったチョコレート! 好きだろ?」

 

(ああ、もう、バカ!)

 

火に油を注ぐ(リョウ)の行動に頭痛がしてくる白。

(リョウ)の声に焦燥が入ってきたなと思った次の瞬間には連続して打撃音が響く。

7回か……多いな。

そしてそのままの勢いで、香は爆発した。

 

(リョウ)の……(リョウ)の馬鹿ァ!!!あんたなんてもう知らない!!!」

 

ドスドスと大きく足音を立てながら部屋を出ていく香。

あちゃあと額を押さえていると香が去って行ってから(リョウ)が埋まった床から這いだしてきた。

 

「な、なんだぁ?香の奴。」

 

「……さっきのは流石に(リョウ)が悪い。」

 

白にそういわれて、腕を組んでしばし考える(リョウ)だが、何も思いつかなかったのか。

 

「俺、なんかした?」

 

と白に聞き返した。

 

「さっきのチョコ。なんで貰ったの?」

 

「なんでって……。顔馴染みだから……?」

 

なるほどバレンタインデーを認識してなかったか。

バレンタインだと分かったうえでの行動じゃないだけ救いがあるのか、認識すらしていないぶん救いがないのか。

これは白から教えるべきか、自分で気づかせるべきか。

いや、(リョウ)は決して鈍いわけじゃない。

香がバレンタインを気にするとは思ってなかったり酔っぱらってて判断力が鈍っただけで、放っておけばすぐに自分で気づくはず。

それよりも今は香のフォローが先だ。

(リョウ)によく考えるようにだけ言って香を追いかけると、簡単な手荷物だけ持ってマンションの敷地を出たところだった。

小走りで追い付いて香に声をかける。

 

「香、どこいくの?」

 

「気分転換! あんな朴念仁と一緒に居たらどうにかなっちゃいそうだわ!」

 

取り付く島もなさそうだし、一人にしておくのも心配なので白はとりあえずついていく事にした。

なんと声をかけたものかと考えていると、ぽつりと香が言葉を零した。

 

「こんなことなら、買わなきゃ良かったな……。」

 

「ッ……」

 

その呟きを聞いて、余計な事をしてしまったかと沈む白。

多分、原作の香ならチョコレートは買わなかっただろう。

この状況は白が背中を押したから発生しているはずだ。

そのせいで香と(リョウ)が険悪になってしまっている。

これで原作への強い影響が出てしまう可能性がある事に思い至り、白は狼狽え始める。

 

「そ、その、香。……ごめん、私が余計な事言ったから……。」

 

「え? やだもう、白ちゃんのせいじゃないわよ。」

 

そういって香が白の頭に手を伸ばした時だった。

二人の前にスキール音を立てて、黒いワンボックスカーが停車した。

何事かとそちらに視線をやる二人の前で後部座席の扉が開き、中からサングラスにマスクをつけた大柄な男が車から降りながら香に無遠慮に手を伸ばしてくる。

瞬時に敵だと判断した白が男と香の間に割って入り、反応される前に顔面に向かって飛び膝蹴り。

車から降りようとしていた男を車内に叩き返しつつ一緒に車に飛びこんだ。

車内は後部座席にもう一人顔を隠した男と、運転席に一人。

蹴りを食らった男はそのまま気絶したようだが、もう一人の後部座席に居た男が白を取り押さえようとしている。

 

「このガキ!」

 

「むぅ!」

 

狭い車内では白の機動力を活かすことはできず、咄嗟に伸びてきた腕を叩き落として白から掴みかかろうとするも、この狭さでは体勢を整えることも難しいため技ではなく体格がものをいう。

逆に男に首を掴まれて後部座席に押し倒されてしまった。

そのまま両手で首を締めあげられるが、拘束が甘く自由になっている右膝で男の腹を強打。

怯んで思わず首から離れた右手に思い切り噛みつく。

男は痛みに叫び声をあげながら白を引きはがそうとしているが、白は意地でも噛みついて離れない。

そこに車外から香が乗り込んできて参戦。

後ろから白に嚙みつかれている男に飛び掛かった。

 

「白ちゃんに何すんのよ、この!」

 

女性にしては身長が高めの香が組み付いたことで、男はいよいよ抵抗できなくなり、白が噛みつくのをやめてトドメの一撃を放とうとしたところで、運転席の男が後部座席に振り返った。

 

「動くな。」

 

そういって香の側頭部にリボルバーが突きつけられる。

香はもちろん、香を人質に取られた白も抵抗を止めてゆっくりと手を上げるしかなかった。

 

「お前ら、女子供に何を手こずってやがる。さっさとずらかるぞ。」

 

「へ、へい兄貴!」

 

白に噛みつかれていた男も冷静になったのか、懐から自動拳銃を取り出すと白に突きつけた。

 

「大人しくしてな。」

 

「……わかった。抵抗しない。」

 

白と香が大人しくなったことを確認すると後部座席の扉が閉められ、ワンボックスカーが急発進する。

白は香の膝の上に座るように指示され、香と一緒に後部座席の隅に追いやられた。

横には自動拳銃を構えた男が座り、最初に気絶させた男を起こそうと頬を叩いている。

この体勢では香も白も咄嗟には動けないため、白はとりあえず抵抗を止めて流れに身を任せることにした。

後ろから白を抱きしめる形になっている香が僅かに震えていることに気が付き、香の手をそっと握る。

香も白の手を優しく握り返した。

 

(はあ、またあっけなく攫われちまったよ。)

 

この間に引き続き、再び攫われてしまったことに少しへこむ白。

 

(一人なら他にもやりようがあったんだが、香と一緒だと難しいな。護衛対象が居る時の動きとか(リョウ)から教わったほうがいいのかね。)

 

香の様子をちらと見ると、手を握ったことで落ち着いたようで震えは収まっているようだった。

今はむしろ、子猫を抱えた親猫のように周りの男たちに鋭い視線を送っている。

白を抱く腕にも強く力が入っているので、なおの事白は咄嗟には動け無さそうだった。

 

(ま、攫われたのはマンションの目の前だし。(リョウ)がなんとかしてくれることを信じておこう。俺もできることはするけどな。)

 

万が一の時はこの身に代えても香だけは。

そう覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

白と香が連れてこられたのは海辺の倉庫地帯だった。

薄暗い倉庫の奥に銃で追いやられるなか、香が男たちに叫ぶように言う。

 

「こんなところに連れてきてどうするつもりよ!」

 

それに答えたのはアニキと呼ばれていたリーダー格の男だった。

 

「大人しくしていろ。お前たちは餌だ。シティーハンターを釣りだすためのな。」

 

(リョウ)を……?」

 

男はニヤリと笑うと得意げに話し出す。

 

「俺は実力はあるものの運に恵まれず、今一名が売れない。ここらで大物を殺して一気に名を売ろうってことさ。シティーハンターなら殺せば名は知れ渡るし、しかも女子供連れなんていうでかい弱点があるんだ。これほど美味しい獲物もいねぇや。」

 

その言葉に、白は思わず呆れた視線を送ってしまった。

 

(緩やかな自殺じゃん。)

 

わざわざ(リョウ)を呼び出してくれるっていうんだから、あとは本当に何もしなくても(リョウ)が解決してくれそうな案件だ。

となると、白の仕事は(リョウ)が来るまでの間にコイツらが変な気を起こして香に危害を加えないかというところくらいだろう。

倉庫の一番奥の暗がりまで連れてこられたところで、リーダー格の男が手下の片方に指示を出す。

そっちは白に噛みつかれていたほうだ。

 

「おい、そっちの女はそのままでいいが、その白いガキは縛り上げておけ。」

 

「へい。」

 

リーダーの言葉にロープ片手に近寄ってくる男。

白は特に抵抗せず、いつもの無表情でじっと男を見つめる。

それが気に食わなかったのか、男が白にドスの効いた声で話しかけた。

 

「おいガキ、なんだその目は。」

 

「……。」

 

下手に刺激しないほうがいいと判断した白はこれを無視。

というのも、口を開いたところでシンプルな言葉しか出てこないだろうという思いがある。

何が男の怒りに触れるかわからないため、ここは黙殺を選んだ。

しかし、それはそれで男の怒りを買ったようだ。

 

「なんだって言ってんだ!」

 

「ぐっ」

 

男は怒声を上げると同時、白の横面を殴りつけた。

ガードもせずに受けたものの、体幹で衝撃を流して数歩後ずさるだけで耐える白。

切れてしまった唇から流れる血が白い肌を滑っていく。

それをみて激高した香が怒声をあげた。

 

「白ちゃんになんてことすんのよ!」

 

その勢いのまま飛び掛かろうとする。

白は殴ってきた男の後ろでリーダーの男がリボルバーを抜いたのが見えた。

飛び掛かろうとしている香に飛びつくように白が跳ねる。

一発の銃声が鳴り響いた。

白に押し倒されて覆いかぶさられるように倒れこんだ香は、銃声がしたわりに自分に撃たれた様子がないことがすぐにわかった。

もしや自分を庇って白が撃たれたのではと顔を青くするが、自分に覆いかぶさっている白も目を丸くして驚いたようにしていることから撃たれていないことがわかった。

撃たれていたのは、白を殴った男だった。

腹を撃ち抜かれて膝をついている男に、リーダー格の男が冷たく話しかける。

 

「人質は丁重に扱え。お前と違って替えが利かねえんだ。」

 

男はそういうと、もう一人の男に顎で指示を出した。

 

「おい、てめえがやれ。その白いの縛り上げて、そこのバカの始末だ。早くしろ。」

 

「へ、へい!直ちに!」

 

その冷酷なふるまいに香は身を固くしているが、白は逆に少し安心していた。

ひとまず身の危険は無さそうだと判断できたからだ。

白はもう一人の男にロープで後ろ手に拘束されると、柱に縛り付けられた。

香はその横に座るよう指示され、座り込む。

その様子をみて準備が整ったと判断したのか、リーダーは満足そうに頷くと声を上げた。

 

「さあ早く来いシティーハンター! お前を殺して俺が頂点だ!」

 

 

 

 

 

暫くして、日がすっかり沈んだ頃。

照明で照らされる倉庫地帯にゆっくりと、しかし堂々と進む足音が響く。

足音を立てる人物は迷いなく照明のついていない薄暗い倉庫に入っていくと大きく声を上げた。

 

「来たぞ! 二人は無事なんだろうな!」

 

(リョウ)!」

 

「香! 無事か!」

 

すぐに(リョウ)の名を呼んだ香の声と同時、倉庫内の照明がついた。

(リョウ)の目に飛び込んできた光景は、後ろでに柱に縛り付けられている白と、大柄な男に自動拳銃を突きつけられている香。

そしてその香の前に立っているリボルバーを持った男。

 

「ようこそシティーハンター。早速で悪いが勝負をしようじゃないか。」

 

「なに?」

 

その言葉に鋭くリボルバーを持った男を睨みつける(リョウ)

男はこれ見よがしに香の目の前に立つと、上機嫌に話し出す。

 

「早撃ち勝負だ。同時に抜いて、相手を殺したほうの勝ち。ただし、俺の後ろにはあんたのパートナーを置かせてもらう。」

 

(リョウ)の表情が一段と険しくなる。

怒髪天といった様子だ。

 

「貴様!」

 

「お前の愛銃、コルトパイソン357だろう? そんな銃で俺を撃てば、弾丸は貫通してパートナーのどこに当たるかわかったもんじゃないぜ。それでもいいなら撃ちな。」

 

(リョウ)撃って! 私はいいから!」

 

香が声を上げるも、(リョウ)は反応一つせず男を睨みつける。

男がホルスターに手をかけると、(リョウ)もゆっくりと胸のホルスターに手をかけた。

ぴりぴりと空気が張り詰めていく。

先に動いたのは男のほうだ。

 

「死ねぇ!シティーハンター!」

 

銃声は一発。

 

「ば、馬鹿な……」

 

倒れたのは先に動いたはずの男だった。

(リョウ)は男が動いたのを見てからより早く銃を抜き、発砲していた。

そしてその後ろに立たされていた香は驚愕に目を見開いている。

香の体に弾が当たったからではない。

崩れ落ちた男の向こうに見えた景色がそれだけ衝撃的だったからだ。

(リョウ)は自分のリボルバーの銃口を左手の甲に宛がうことで、自分の左手ごと撃ち抜いていた。

そうすることで弾丸の貫通力は落ち、男の体を貫通することなくその体の中に留めたのである。

 

「ア、アニキが! こうなりゃ!」

 

「いやっ! 放して!」

 

残された子分は咄嗟に香を人質に取りその場を切り抜けようとする。

しかし、(リョウ)は既に銃をホルスターにしまっていた。

 

「うちのじゃじゃ馬娘から目を離しすぎたな。」

 

「な、なに? がっ」

 

「白ちゃん!」

 

香を人質に取っていた男の側頭部に鋭い蹴りが突き刺さり、一撃で昏倒する。

それを成したのはいつの間にか縄を抜けていた白だ。

左手が不自然に脱力していることから、左肩を外したのだろう。

 

「香、無事?」

 

「え、ええ。私は大丈夫だけど。って(リョウ)! あんた手が!」

 

「ふん。これくらいどうってことは……」

 

そこまで言った(リョウ)の顔には徐々に汗の量が増えていき、さーっと血の気も引き始めていた。

 

「ど、どう、どうって、こと、は、いいい、いってええええ!痛あああああ!」

 

「当たり前じゃないの! ほら、動かないで! 軽く応急処置したら早く帰って治療よ!」

 

痛みで転げまわる(リョウ)をハンカチ片手に慌てて追いかける香を見て、どうにも締まらない、とひとりごちる白だった。

 

 

 

 

 

その後。

マンションに3人で帰ってきてから(リョウ)の治療をしたりなんだりで、落ち着いた頃にはもうすぐ日付が変わろうかという時間帯になっていた。

白と香は香の部屋に引っ込み、(リョウ)も一人寝室へ入った。

前にもこんな事があったなと思い出しつつ、前回よりも丁寧に巻かれた左手の包帯を見つめていると、ふと見慣れない箱がベッドの上に置かれていることに気づいた。

攫われた香達を追いかけて家を出た時にはなかったので、帰ってきてから香か白が置いたのだろう。

なんだと思って開けてみると、高級店のチョコレートだった。

添えられたメモ用紙には、『義理よ!』というメッセージと、あっかんべーをしている顔のイラストが描かれている。

それを見て笑みをこぼした(リョウ)は、小分けにされているチョコレートを一つつまむと、口に含んだ。

ゆっくりと味わってから、一言呟く。

 

「あめえなぁ。」




左手撃ち抜きは有名なシーンなので、そこだけ知ってる!って人も多いんじゃないでしょうか。
白の登場タイミング的に飛ばさざるを得ないシーンだったので、今回入れてみました。

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