アルビノ美少女にTS転生したと思ったらお薬漬け改造人間状態にされた上にシティーハンターの世界なんですけど? 作:らびっとウッス
このSSが面白く感じたけど原作知らないよ、って人はぜひご一読ください。
アニメもあるよ!
うーむ、もう少しシリアルするつもりが想定よりシリアスになってしまった。
流石シティーハンター、油断すると雰囲気に飲まれる……!
萩尾の依頼を受けた翌日。
日の高いうちに
といっても3人とも同じ席についているわけではない。
テーブル席を二つ使い、
この店に今回騙す相手である
ややあって、萩尾の席に一人の男性が現れた。
「久しぶりですな、松井さん。私は天地を呼んだはずだが。」
「一年ぶりか。先生がわざわざお前などに会われるか!第一秘書の私が来ただけありがたいと思え。」
やってきたのは天地の第一秘書の松井だった。
高圧的な態度で用件を萩尾に問いただしている。
依頼をした時の暗さやおどおどした様子はなく、負けじと堂々とした態度で接する萩尾。
萩尾は懐から一本のテープを取り出すと、松井に一億での買取を要求した。
「一億?ふざけるな、そんな大金!なんだ、そのテープは!?」
「あの時の会話が入っている。一年前、私に偽装自殺を命じた時のな。」
そういって萩尾がテープを再生すると、テープからは娘の養育費の面倒を見る代わりに偽装自殺を命じる天地の声が再生された。
そのうえ、断れば娘の命はないと脅している。
「これは、確かに先生の声!貴様、いつの間にこんなものを!」
「俺を甘く見たな。買い取らないならこのままサツに出頭してやろうか?」
凄む萩尾に、冷や汗を流す松井。
「貴様、本当にあの気が弱かった運転手か……!?」
「お前たちに全てを奪われ、隠者のように過ごした1年が私を変えた。さあ、この取引に応じるのか、否か!?」
「わ、わかった。とにかく先生に相談せねば。」
追い詰められた様子で席を立つ松井。
松井はさっさと店を出ていき、その背中を見送った萩尾は脱力してテーブルに崩れ落ちる。
「はぁー、こんな感じでよかったでしょうか?」
「名演技だったわよ!」
「上出来だよ。あとは連絡があるまで待機だな。」
店から出た松井は少し歩いた後、忌々しそうに店に振り返る。
「消すしかないな。総裁選の近い先生にこんなことに関わっている時間はない。」
そうぼそりと呟き、近くの公衆電話へと歩いていく松井。
公衆電話をダイヤルし、なにがしかを手短に伝えたあと、受話器をおく。
用を終えて立ち去ろうと振り返ると、すぐ近くに小さな女の子が立っていた。
全身真っ白の出で立ちにサングラスの少女がいつの間にか真後ろに立っていたことにたじろぐ松井。
だが、少女は松井の横をすりぬけ公衆電話に背伸びして電話をかけ始める。
「もしもし、おとうさん?いまどこ?おむかえきてー。」
舌足らずに話し出した少女に毒気を抜かれたのか、フン、と鼻を鳴らして松井は立ち去った。
少女、白はサングラス越しに横目で松井を窺い、松井が背を向けた後に無表情のまま舌を出して見送った。
適当にダイヤルしてどこにも繋がっていない受話器を置くと、
今回の作戦はこうだ。
まず、
恐らく本人が来ることはないだろうから、似た声でかつ、萩尾の記憶をもとに再現したテープなら偽物とは気づかれない。
それを強請りのネタとして法外な金額を突きつけてやる。
この場合、相手は萩尾を消しにくるだろう。
元々脅しで偽装自殺なんてやらせるやつらだ。
まず間違いない。
殺し屋に依頼をする場合、最もやりやすいのが町中の公衆電話だ。
足が付かず、話し声は雑踏に飲まれてしまう。
その電話を盗み聞きして、依頼した殺し屋を特定。
そして依頼通りに萩尾を殺したと見せかける。
これが一連の流れだった。
そして白の役目は会話の盗み聞きと電話番号の特定。
松井に気づかれることなくぴったりと後ろに張り付くことで容易に達成してみせた。
任務達成した白は、ファミレスに入ってまっすぐ
それに気づいた香が軽く手を振ってきた。
「どうだった、白ちゃん。」
「ん。やはり依頼してた。場所は新宿公園、目印は赤いバラ。これが番号。」
松井の電話していた番号を控えたメモを
番号を見た
「ありゃ、奴さんここに依頼したのか。」
「……知り合い?」
「ああ。ちょっとした友達のところだ。」
そういってニヤリと笑みを浮かべる
香と萩尾はなんの事かわかっていない様子だが、白は知っていた。
(ああ、こりゃ相手は海坊主だな。)
海坊主というのは、シティーハンターに登場するスイーパーの一人だ。
比較的軽武装で戦う
なんと
ライバルともちょっと違うし、悪友というほど馴れ馴れしくもない。
時に協力し、時に敵対するキャラクターなのだが、かなり味のある人物だ。
(そういえば海坊主の初登場はここだったか?がっつり出てくるのはいつだっけなぁ。)
そんなことを考えていると、
どうやら得意の声帯模写で松井になりすまして海坊主を騙し、集合場所の変更を願い出るようだ。
そして新宿公園には
白はというと、ファミレスに備え付けの時計に目をやると、別行動を申し出た。
そろそろ用事の時間である。
内容は
白が向かう先はタクシー乗り場だ。
タクシーに小さな女の子一人で少し驚かれたが、お金は持っていることを見せるとタクシーは走り出す。
ややあって到着したのは、昨日萩尾の依頼を受けた公園だった。
時刻は15時。
もうしばらくすれば子供たちの姿が見られるだろう公園で、白は木陰に陣取った。
木に背中を預けるようにして座り込むと、ポケットから
目線は本に落ちているが、意識は周囲に集中していた。
(昨日の不審者の姿は未だ無し。やっぱりあの子狙いかな。)
誰でもいいから一人の子を狙っているのなら自分を釣り餌にもできたのだが、と内心で舌打ちする。
何はともあれ、こうなったら仕方がない。
小説でも読みながらあの子と不審者が現れるのを待つしかない。
目が滑るばかりだった小説に意識をやる白。
(なになに……。『そうして俺は柔らかな彼女を包む衣を一枚一枚ゆっくりと剥ぎ取り』って官能小説じゃねえか!)
ま、それはそれとして読むか……。
しばらく小説に集中することにした白。
ちなみに内容はハーレムものでした。
とても良いものだと思います。
すっかり小説の世界にのめり込んでいた白だが、目当ての気配が現れたことを察知し顔をあげた。
公園の入り口のほうから昨日の女の子が入ってくるところだった。
どうやら友達と一緒ではなく、一人のようだ。
(そういえば昨日も一人だったな。)
萩尾が姿を現せなくなってから1年。
その間この子はこのあたりに住んでいるはず。
1年もあれば友達の一人二人出来ていそうなものだが。
あまり視線を送って気づかれても面倒なので、ぼんやりと女の子を観察してみる。
活発な子なのだろう。
砂場遊びをしている姿は明るく、いかにも友達が多いタイプに見える。
しかし、他の子ども達の姿もチラホラあるこの公園で、誰もあの子に近寄らない。
どころか、避けているのか砂場に誰も寄らない始末だ。
と、問題のほうも来たようである。
白が陣取っている反対側。
木の陰に気配があった。
昨日の不審者だ。
視界の端で確認したところ、同じ人物のようである。
(同一人物ってことは天地のところの人間じゃないな。何かの組織の人間ならこういうのは一人じゃやらないし。単独犯か。)
再び小説を読むふりをしながら思考を巡らせる白。
容赦なくぶちのめしてから、襲われたことにして警察に突き出してもいいのだが。
(流石にそれは良心が咎めるよなぁ。いまんとこ怪しいのは見た目と行動だけだし。ぶちのめすなら現行犯じゃないと冤罪になりかねん。)
あれだけ素人丸出しの相手だ。
ぶちのめすなら何時でもできる。
萩尾の依頼が終わればあの女の子はここから居なくなるし、予定通りそれまでガードでいいだろう。
そう方針を決めた白は、再び周囲警戒に戻ろうとした。
しかし、ここで問題が起きた。
件の女の子がこちらに歩いてきているのだ。
白は意識して小説に目をやり、目が合わないようにする。
(見張っているのが気づかれた?いや、まさかそんなはずは。)
「ねえ、あなた。昨日のおじさんと一緒にいた人よね?」
(覚えられてたかー!)
凡ミス中の凡ミス。
白は自分の容姿がかなり特徴的であることを計算から外していた。
今迄、こういった護衛なんてやったことがなかったというのもある。
白の姿を見た者は、全員亡き者になってきた。
それゆえにホワイトデビルは正体不明の暗殺者だったのだ。
それが二日連続で同じ場所に、しかも一年間会えない父を探してくれるといった男と一緒に公園に居る姿を見られている。
記憶に残るのも当然といったところだろう。
「ねえ、あなたお名前は?私、萩尾
「…………。白。冴羽 白。」
こうなっては仕方がない。
もうなるようになれ、と白は女の子……道子とのコミュニケーションを試みた。
「ねえ、あのおじさん、白ちゃんのパパなの?」
「う、うん。そう。探偵なの、パパ。」
「探偵さん!そうなんだ!」
嬉しそうに手を合わせた道子は、今度は不思議そうに首を傾げる。
「白ちゃんは、今日は一人でなにしてるの?おじさんは?」
「パパは道子のパパを探してる。私は……ここでパパを待ってるの。」
そういうと、道子は一度俯き、意を決したように顔をあげると、座ったままの白に右手を握手するように突き出した。
「じゃ、じゃあ一緒に遊んでくれない?」
その差し出された手に、どうしようか悩む白。
(一緒にいる口実にはなるけど……。この年の女の子ってなにするんだ?わっかんねぇな……。)
本を読んでいることを理由に断るかとも思ったが、道子の不安そうな表情を見て、白は手を取った。
「いいよ。なにするの。」
パッと明るい表情になった道子は、白の手を引いて砂場のほうに歩いていく。
「お砂遊びしよ!」
(お砂遊びか~。なにすればいいんだ……?)
いざとなれば実力行使でどうにでもなると思っていた護衛任務。
まさかの障害が白の前にそびえたった。
「白ちゃんすごいすごーい!」
(し、しまった。つい普通に楽しんでしまった。)
最初は道子と二人で砂の城を作って遊んでいたのだが、拘っているうちに砂場を埋め尽くす見事な洋風の城が完成した。
途中からほぼ白が一人で作っており、道子はその横で歓声をあげていた。
ちなみにモデルはカリオストロの城である。
一番苦戦したのは塔を繋ぐ渡り廊下だ。
ここを崩さないために重心が……と、それはいいか。
そんなことをしているうちに気づけば日も沈み。
公園には白と道子、あとは未だに木の陰に潜んでいる不審者だけになった。
ちなみに白は帽子とサングラスは日が沈むと同時に外したため、今は素顔だ。
(というかアイツどんだけ長時間いるんだよ。逆にすごいな。)
ちらりと時計を確認すると、時刻は19時。
あの不審者は数時間こちらを観察していた事になる。
もはや病的ですらあった。
「白ちゃん、そろそろ帰っちゃう?」
白が時計を見たためだろう。
道子が不安そうに聞いてきた。
その言葉に白は道子に向き直ると、
「道子はまだ帰らない?」
と逆に聞き返す。
「うん、私はパパを待たなきゃ……。」
そういって寂しそうにする道子。
今迄もこうして、ずっとここで、一人で待っていたんだろう。
道子は悲しそうに俯いたまま、ぽつりぽつりと語りだす。
「パパがね、待っててって、言ったの。迎えに行くからって。でね、私はずっと待ってるの。でもね、いつまでも来てくれなくて。友達もみんな、私の事嘘つきだっていうの。それでね、怒ったら、みんな、遊んでくれなくなっちゃった。」
話してるうちに悲しくなってしまったのだろう。
しゃくり上げ始める道子。
白はどうしてあげればいいかわからず狼狽えてしまう。
そんな時、
白は意を決して俯く道子の前に片膝をつくと、道子の目元に溜まった涙を指先で軽く拭った。
それに驚いて白を見る道子。
意識してしっかりと目を合わせる白。
「大丈夫。道子のパパはりょ……私のパパが連れてくる。だから、もう少しだけ。それまでは、私が一緒に待ってあげる。」
「白ちゃん……。」
「だから、今日はもう帰ろう。家まで送ってあげる。」
そういって、道子の手を取り二人は公園を出る。
家への道は昨日で知っているため、迷いない足取りで二人は歩いて行った。
本当に公園に近い家だ。
子供の足でも5分ほど。
その間、二人の間は無言だったが、気まずい無言ではなかった。
道子は笑みすら浮かべて手を強く握ったり緩めたりを繰り返している。
白もそれにあわせてあげていた。
道子の家の前まで来て立ち止まった二人。
道子は手を離すと家のほうに歩きだすが、家の手前で振り返った。
「白ちゃん、かっこいいね。ヒーローみたい!また明日ね!」
そういって家の中に消えていく道子。
まさかそんなことを言われると思っていなかったのか、目を見開いて驚く白。
自分の胸に右手をやり、少し考える。
(ヒーロー、か。だとしたらそれは、俺じゃなくて
自分はあくまで
この世界に生まれ変わって、ふと思うことがある。
自分のロールはなんなのだろう、ということだ。
皆の憧れるヒーローだ。
香はその相棒。ヒロインであり、パートナー。
この世界はシティーハンターという作品の世界であり、みんな何かしらのロールを持って生まれる。
なら、自分は?
この世界の不純物である自分のロールはなんなのか、それが気になってしまう。
何色にもなれない白。
どこにあっても浮いてしまう色。
それが自分なのではないかと、そんなことを考えてしまった。
(柄でもないか。とりあえず例の不審者君も道子が家に入ったのをみて帰ったようだし。こっちも帰るかね。)
タクシー捕まえて帰ろうと、ポケットに手を突っ込んで歩き出す白。
その時、右手に鈍い違和感が走る。
なにかと右手を見てみると、右手の甲が赤く腫れていた。
日光には気を遣っていたつもりだったが、砂場遊びとなるといつの間にか日に晒してしまっていたようだ。
アルビノの肌が日に焼かれて火傷になっている。
幸いというべきか、白の痛覚は鈍い。
今も痛みは特に感じず、突っ張るような違和感があるだけだ。
特に支障はないはずのその火傷に、明るい場所に居ることを否定されたような気がした白だった。
タクシーを捕まえてマンションまで帰ってきた白。
香の部屋の前まで来て、部屋に入るのを躊躇ってしまっていた。
さっき変な事を考えてしまったせいか、少し気が重い。
香はアレで結構鋭いのがここ数日の暮らしでもうわかっているので、どうにか気分を切り替えねば。
ぶんぶんと頭を振り、気を取り直そうとする白。
ドアノブに右手を伸ばすが、どうにも踏ん切りがつかず手が彷徨う。
と、部屋の前でもたもたしていた白が気になったのか、声をかけてくる人物がいた。
「なにやってんだおまー、そんなとこで。」
「
訝し気にこちらを見ていたのは
たまたま通りかかったのか、それとも白が帰ってきた事に気づいて様子を見に来たのか。
どちらにせよ、変なところを見られたものだ。
と、
咄嗟に隠そうとしたが、遅かったようだ。
「白、お前、これは……。」
「日に焼けただけ。気にしないで。」
その白を見て眉根を寄せた
「ほら、こっちこい。手当してやるよ。」
「いや、大丈夫。たいしたことない。」
「ダメだ!第一、それを見た香がどんな反応をすると思う?お前さん、また缶詰に戻りたいのか?」
「む、むう……。」
確かに香ならめちゃくちゃに騒いだ後に、過保護に外出禁止令を出すだろう。
それは嫌だ。
ここは大人しく従ったほうがいい。
連れられるまま
「ほら、手、出せ。」
「ん。」
そうしながら、今日の道子と不審者の様子を聞いてきた。
白もそれに答えつつ、
無事に殺し屋として入れ替わりには成功したようで、あとは明日、更に要求を吊り上げることで相手を焦らせるようだ。
焦った松井は殺しの決行を早めるだろう。
決戦は明日の晩と思われた。
お互いに情報交換をしているうちに消毒が終わり、火傷に効く軟膏を塗り、包帯まで巻かれた白。
元々痛みは感じていなかったとはいえ、なんとなく落ち着いた気がするのが不思議だ。
「で、白。お前さん、なんで香の部屋の前でグズグズしてたんだ?」
「う、それは。」
嫌な事に突っ込まれてしまった。
適当に誤魔化そうとも思ったが、真剣にこちらを見てくる
観念した白が口を開く。
「今日、別れ際に道子に言われた。ヒーローみたい、って。……ヒーローになれると思う?
「……はぁ?」
その言葉に
白の真顔から色が無くなり、目はじとっとした気配を帯びる。
「笑うところじゃない。」
「あっはっは、いや、これが笑わずにいられるかよ、ったく。」
ひとしきり笑った後、ガシガシと白の頭を撫でまわす
がくがく頭を揺らされた白が、左手で
「なにをする。」
「俺がヒーローなんて柄かよ!俺の事そんな風に思ってたのか?」
「む、それは……。」
からかうような笑みを浮かべる
「それにな、白。ヒーローなんてもんは、成れる成れないってもんじゃない。成ろうとするかどうかだ。」
「成ろうとするかどうか……。」
「そうだ。そうありたいと思い、そうあろうとした奴がヒーローになるのさ。誰だってな。」
そういって笑みを浮かべる
そんな
と、その時
咄嗟に右手をポケットに入れて隠す白。
どうやら白が中々帰ってこないため、
そこに白が居たためだろう、驚いた表情をしている。
「白ちゃん、帰ってたの?私の部屋に顔くらい出してよ、心配したじゃない。」
「ごめん香。あー……そう、借りていた本を
左手でコートの内ポケットにしまった小説を取り出す白。
しかし、右手で内ポケットにしまった小説のため入っているのはコートの左側。
ひねるように取り出す必要があり、思わず手が滑る。
「あ。」
地面に落ちた小説は良く開かれて癖がついているであろうページが勝手に開いた。
それはよりによって挿絵付きのページ。
一人の男性が複数人のモッコリ美人に囲われてモッコリしているモッコリ塗れのイラストだ。
それに3人の視線が集まり、ゆっくりと顔を上げた
(お前勝手に俺のモッコリ小説を……!)
(……無言で目を逸らす。)
白が目を逸らした先を
「
「いやまて、香誤解だ!これは白が勝手に!」
「白ちゃんが自分からそんなもんに興味持つわけないだろ!天誅ッーーーー!!」
「ぎいいやああああああ!!!」
「南無。」
もはや自分にできることはない、と白は静かに手を合わせた。
明けて翌日。
今度は昨日より少し遅い時間に公園にやってきた白。
白が公園について少しすると、狙い通り道子がやってきた。
木陰にいる白に気が付くと、笑顔で駆け寄ってくる。
「白ちゃん、今日も来てくれたんだね!」
「うん。今日は何をするの?」
「またお砂で何か作ってよ!」
白は道子に手を引かれ、砂場のほうへと歩き出す。
ちなみに包帯は既に外れていた。
昨日よりも日光に気を付けつつ、砂場で遊ぶ白と道子。
今日は和風の城(姫路城モデル)を作りながら、白が道子に話しかけた。
「道子のパパ、見つかりそうだって。」
「ほんと!?」
その言葉に手を止めて喜ぶ道子。
白は一つ頷くと、
「明日には会えるかもって。りょ……パパが言ってた。」
「やったやった!ありがとう白ちゃん!」
そういって感極まったのか抱きついてくる道子。
しっかりと受け止めた白は、落ち着くようにその背中をポンポンと叩いている。
「見つけたのはパパ。私はなにもしてない。お礼はパパに言ってあげて。」
「うん、おじさんにもちゃんと言う!でも、白ちゃんもありがとう!」
よっぽど嬉しいのだろう、ぎゅうぎゅうと抱き着いてくる道子を優しく抱き返しながら、白はぽつりと、
「どういたしまして。」
と返した。
ややあって、日も沈んだその日の帰り道。
道子と白はまた手を繋いで一緒に歩いていた。
その工程の半ばまで歩いた頃だろう。
道の先、立ちふさがるように男が立っていた。
小太りでサングラスにマスクをつけた男。
背中にはリュックサックを背負っている。
サングラス越しにもわかる視線は、白と道子の間を激しく往復しており、息遣いは荒い。
ここ数日間、白がマークしていた不審者に違いなかった。
白は繋いでいた手を離すと、道子の前に手をやり下がらせる。
「道子、さがって。」
「し、白ちゃん。あの人誰?」
男の尋常ではない様子には道子も気づいているのだろう。
その瞳には怯えの色があった。
男が一歩距離を詰めると、白と道子が一歩後ずさる。
その様子を見た男は足を止め、こちらに話しかけてきた。
「み、道子ちゃん。僕、お父さんがどこにいるか知ってるよ。連れて行ってあげるよ。」
その言葉に不安そうに道子が白を見る。
白はゆっくり頭を振ると、男を睨みつけた。
「嘘。道子のパパはもう見つかってる。
「な、なにを……。そうか、あの男だな。あの、道子ちゃんに馴れ馴れしかった男!」
白の言葉に
「ゆ、許せない!僕の道子ちゃんに馴れ馴れしく、ち、近づいてぇ……!」
「白ちゃん、あの人怖い……。」
白のコートの背中側をぎゅっと握ってくる道子。
「大丈夫だよ道子ちゃん。僕は君がよく一人でいることに気づいてから、ずっと見守ってきたんだから。こんなに可愛い子に寂しい思いをさせるお父さんなんて、許せないよねぇ。」
(こいつ、一人で居る道子に目をつけていたってとこか。そりゃ、決まって夕方から日が暮れた後に一人になる女の子なんて目立つよな。狙いやすく見えるってわけだ。)
ちらと肩越しに道子を見やると、よっぽど恐ろしいのだろう。
顔を青ざめさせて涙目になっている。
(こんな時、
白は道子を安心させるため、道子の前に仁王立ちして両手を広げた。
「道子に手は出させない。」
「お、お前ぇ……!道子ちゃん、道子ちゃん。僕と一緒に行こう?ね、道子ちゃんのお父さんは道子ちゃんが嫌いになっちゃったんだよ。だからいつまでも迎えに来ないんだ。僕なら道子ちゃんをずーっと好きでいるし、寂しい思いなんてさせやしないさ!」
「パパが、私を嫌いに……。」
その言葉は、道子の心に突き刺さったのだろう。
白の背中で道子の泣きそうな声が漏れた。
「そんなはずはない!」
「白ちゃん……?」
感情を表に出せない白の精一杯の叫びが響く。
「あれほど愛の深い人はそういない。信じて道子。明日必ず、大好きなパパが迎えに来る。」
「白ちゃん……。うん、私、信じる!白ちゃんがそういうなら信じるよ!」
笑顔でそういってくれた道子。
その表情を肩越しに振り返って確認した白は、今度は前方の男を厳しく睨みつける。
男は子供に怒鳴られてさらに頭に来たのか、トマトのように顔を真っ赤にしていた。
「お、お前ぇ!もういい、力ずくでも道子ちゃんは連れていくぞ!」
そういってリュックサックから男が取り出したのは出刃包丁だ。
刃先を白に向けると、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ほら、痛い目にあいたくないだろ!大人しくついてくるならお前も可愛がってやるぞ!見た目はいいからな、お前も!」
その様子に白はコートをバサリと脱ぎ、道子の肩にかける。
白シャツとホットパンツ姿になった白は一歩前に出る。
「少し下がってて、道子。」
(あのコートは、暗殺者、ホワイトデビルの装備。でも今は、ホワイトデビルとしてじゃなく、俺として。冴羽 白として!)
キッと鋭い眼差しで男を睨みつけ、半身を引いて軽くステップを踏む白。
白の中でバチッと戦闘用のスイッチが入った。
「子供相手に刃物が無いと強く出られないとは。程度が知れる。どこからでも、来い。」
「こ、のクソガキィ!」
男は一気に駆け寄って包丁を突き出す。
それを一歩ズレてかわす白。
男は見立て通り完全な素人のようで、型もなにもあったもんじゃない。
避けられたことで更に苛立ったのか、癇癪を起こしたように包丁を振り回す。
右左、右左、上下。
めちゃくちゃに振り回される包丁を全て最小限の動きでかわしていく白。
むしろ振り回す男のほうが息が上がってきていた。
全く当たらない包丁に焦れて、一歩踏み込んだ男が逆手に持ち替えた包丁を絶叫とともに白の頭目掛けて振り下ろす。
これを避けるには後退するしかないが、下がりすぎれば道子がいる。
白は避けるつもりはなかった。
「白ちゃんっ!」
道子の叫びと同時、鈍い音が響いた。
男が振り下ろした右腕を、白の左手が下から掴んでいる。
男はどうにか振り下ろそうと渾身の力を込めているが、腕はびくともしない。
どころか、白の手に万力のように締め上げられて、骨が悲鳴をあげていた。
ギリギリといやな音が響き、男が苦悶の表情を浮かべる。
そのまま力ずくで外側に腕を捻られていき、ついには包丁を取り落とした。
白が勢いつけて押し返しながら手を離してやると、大きくたたらを踏んだ後、腕を押さえて悶えている。
腕には白の手形がくっきり残っており、少し青ざめていることから内出血しているようだ。
「なんだ、このガキ!バケモンがぁ!」
男の叫びを無視した白は、足元に落ちている包丁に靴のつま先を引っかけて跳ね上げると、右手でつかみ取る。
順手にもって、一度二度と軽く振り、刃物を奪われて狼狽える男を睨みつけた。
「覚悟。」
「ひ、ひぇっ!ま、待って……!」
手を前に突き出し怯える男に構わず駆け出す白。
白はそのまま包丁を男に向かって振りおろす。
まるで露でも払うように包丁を横に振るう白。
男のサングラス、マスク、服からズボンに至るまでが正中線で二つに綺麗に裂かれ、男の素顔があらわになった。
涙目で切られた服の内側を手でこすり、体までは切られていないことを確認すると安心した表情を浮かべるも、目の前の白に再び目をやり悲鳴を上げた。
「ひ、ひええええ!」
ボロボロの服装のまま悲鳴を上げて逃げ出した男の背中に向けて、白が包丁を振りかぶる。
「忘れ物。」
逃げる後頭部に白が持ち手の側が当たるように投擲した包丁が直撃。
男はその場でひっくり返って昏倒した。
その様子をみて、フン、とひとつ鼻息を鳴らした白。
あとは警察に引き渡せばいいだろう。
道子に振り返る。
と、道子が飛び込むように抱き着いてきた。
「白ちゃんすごい!やっぱり白ちゃんはヒーローだよ!」
抱き着いたままぴょんぴょん跳ねる道子に、白は背中に手を回しながら答える。
「そんなことない。私がヒーローに成れたとしたら、それは道子のおかげだから。」
「……私の?」
白の言葉に不思議そうに首を傾げた道子だが、すぐに笑顔に戻った。
「じゃあ、ありがとうで、どういたしましてだね!お互いに!」
「……そうだね。ありがとう道子。それと、どういたしまして、道子。」
「うん!ありがとう白ちゃん!どういたしまして、白ちゃん!」
えへへ、と笑う道子。
残念ながら白は表情筋が死んでいるため笑みを返してはあげられないが。
(本当は笑ってやりたいんだけどな。)
せめてもの気持ちとして心の中で笑みを浮かべながら優しく頭を撫でてあげるのだった。
それから数日。
新幹線のホームに
例の不審者を撃退して警察に引き渡した日の晩。
無事萩尾の偽装殺人に成功した
まさか本気で萩尾の腹を銃弾で撃ち抜いていたとは思わなかったが。
言われてみればそんな展開だったような気もする。
何はともあれ無事に親子が再会できたようで一安心だ。
そんな事を考えていると、ちょうど
あれは松井が用意していた萩尾の殺しの代金のはずだ。
必要な分は取った、等と
(まあ、手つかずなんだろうな。)
つまり今回の仕事は収入無し。
香は文句を言わないだろうかと横目で様子を伺うが、満足そうな笑みを浮かべているので、まあいいのだろう。
萩尾は腹を撃ち抜かれたものの無償で娘と再会し、どころか大金も渡されたことになる。
何度も
そんな様子を見ていると、道子が白に近寄ってくる。
「白ちゃん、これあげる!」
そういって道子が突き出してきたのはクマのぬいぐるみだった。
少し年期が入っている感じはあるが、綺麗に保たれたぬいぐるみは、大事に扱われていたことがわかるものだった。
「これは?」
「これね、昔パパに貰った私のお友達なの。パパに会えなくて寂しい時に一緒に寝たりしたんだよ。」
「……そんなに大事なもの、貰えない。」
流石に小さな女の子からそんな物は受け取れないと、断る白。
しかし、道子は強引に白の胸にぬいぐるみを押し付けてきた。
「いいの、私にはもうパパがいるもん!だから、白ちゃんに持っててほしいの。」
「いや、でも……。」
なお渋る白に業を煮やしたのか、白の胸に押し付けたままのぬいぐるみから手を離してしまう道子。
落ちそうになったぬいぐるみを白は慌てて抱きかかえた。
「白ちゃん、助けてくれたでしょう?そのお礼!それにね、その子を見て道子のこと思い出してくれたら嬉しいもん!」
屈託ない笑顔で言う道子に、根負けして受け取ることにした白。
しっかりとぬいぐるみを持ち直す。
「うん、わかった。大切にする。」
「うん、絶対だよ!」
その時、新幹線の発車を知らせるベルがホームに響いた。
道子は父親に連れられながら、こちらに手を振って新幹線に乗り込む。
白も無表情のまま、左手でぬいぐるみを抱えて右手を振り返した。
扉が閉まる直前、思い出したように道子が叫ぶ。
「白ちゃん!もっと笑ったほうがいいよ!白ちゃんの笑顔、とっても可愛いんだから!」
「えっ?」
その言葉を最後に、新幹線の扉は閉まり、ゆっくりと走り出す。
白は自分の頬に手をやるが、特に表情が変わっている気はしなかった。
じゃあ、きっと。
道子を助けたあの時に、笑えていたのだ。
「そっか、笑えてたんだ……。」
頬に手をやったまま呆然と呟いた言葉は新幹線の駆動音にかき消され、風と共に消えていく。
そんな白の頭に優しく手が置かれ、そちらを白が見上げると
「震えたか?」
「……うん。きっと。」
実は原作のこの話、1、2を争うくらい好きな話です。
今回は割とアニメ軸での展開となっていますが、アニメのほうもいいのよねこの話……。
この話の終わり方はアニメのほうが好きかもしれない。
次回「危険な女? 刑事と走る白い影の巻!(前編)」
来週月曜18:00に投稿されます。
投稿頻度とどこで区切るか、というアンケートです。毎日投稿だと6000文字くらいが限度になります。文字数が増える方式にするにつれて、2日、3日と間隔が開く感じです。大体1話辺り2万~3万文字の間だと思うので、それをどれくらい分割するかご意見をください。毎日投稿だと4部構成、2部構成だと2日か3日に一度の構成となります。
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前編・後編の2部構成
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前編表・前編裏・後編表・後編裏の4部構成
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表・裏の2部構成
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前編表・後編表・前編裏・後編裏の4部構成
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統一せずにできてる分を毎日投稿しろッ!