魔法少年リボルバースバル   作:飛鳥

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第一話 

新暦75年、4月。

ミッドチルダ臨海第8空港近隣。

そこには破棄された市街地が今なお存在し、その一つのビルの屋上に二人の若者がいた。

 

一人はイヤホンを耳に着けたまま目の前の空間に向け拳を繰り出している。

そしてもう一人は、その後ろで拳銃型のデバイスを弄り時間をつぶしている。

二人ともやり方は違うが、これから行われることに向けモチベーションを着実に高めていた。

 

「スバル、あんまり激しくやってると本番でそのオンボロローラー逝っちゃうわよ」

 

「…………ッ!」

 

「スーバールー」

 

「ふっ……!」

 

「スバル・ナカジマくーん」

 

「ハッ!!」

 

「……ッ!!」

 

スバルと呼ばれた青髪の少年は呼びかけてきたオレンジ髪の少女の言葉に反応せず、ただ拳を前に打つ。

まさに『打つべし!打つべし!』といった感じだ。

そんなスバルの様子を見たオレンジ髪の少女は手に持ったデバイスを彼の足もとに向け引き金を引いた。

引き金と連動するように放たれた橙色の魔力弾がスバルの足もとにあったコンクリートの塊を打ち砕いた。

スバルは足元に撃ち込まれた魔力弾に驚いたように飛び退いた。

 

「何すんだよ、ティアナ!?

 あぶねぇだろうが!!」

 

「こっちのセリフよ!!

 いつまでシャドーやってんのよ!!

 もうすぐ時間だから声かけてやったってのに無視してシャドーやってた馬鹿にはいい薬よ」

 

「何するにしてもこれしないと気分が乗らないんだよ……」

 

「あら、なら私が相手してあげようか?」

 

「いえ、結構です……」

 

オレンジ髪の少女―――ティアナ・ランスター―――の言葉に反論したスバルだったが、彼の一言はティアナの構えた握りこぶし(青筋の見えるほどに握りしめられている)を見てすごすごと引き下がった。

余談だが、彼女の怒りの一撃はスバルが世界で二番目に嫌いなものだった。

 

 

大人しくイヤホンをデバイスの格納領域に収納したスバルを横目にティアナは右手にはめた時計型の情報端末を弄る。

すると、その端末から空中に小さなモニタが表示され、そこに現在の時間と、試験が開始されるまでのカウントダウンが表示された。

 

試験開始までの時間を知らせるカウントはあと数秒。

 

「時間ね」

 

ティアナの言葉とともにカウントダウンはゼロになり、同時にスバルのすぐそばの空間に銀髪の少女の映ったモニターが展開された。

 

それを確認した二人はすぐに横に並び姿勢を正す。

 

『おはようございます! さて、魔導師試験の受験者さん2名。揃ってますか?』

 

「「はい!」」

 

モニターに映った少女は二人の返事に満足そうにうなずくと手に持ったバインダーに目を移して言葉をつづけた。

 

『確認しますね。時空管理局陸士386部隊所属の、スバル=ナカジマ二等陸士と』

 

「はい!」

 

『ティアナ=ランスター二等陸士』

 

「はい!」

 

『所有している魔導師ランクは陸戦Cランク。

 本日受験するのは、陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で、間違いないですね?』

 

「はい!」

 

「間違いありません」

 

少女の言葉に反応するように二人は互いを見て頷きそう答えた。

 

『はい!本日の試験官を努めますのは、私、リインフォース(ツヴァイ)空曹長です。よろしくですよー』

 

「「よろしくお願いします!」」

 

確認を終えた二人は、リインフォースⅡから試験の説明を受けるためにモニターの隣に映し出された地図に視線を移す。

地図には彼らのいる廃棄都市区画が映し出されており、そこには『START』と『GOAL』の二つの目印とその途中にある幾多ものマーカー、今回の試験において破壊するべきターゲットが光を放っていた。

 

『2人はここからスタートして、各所に設置されたポイントターゲットを破壊。

あ!勿論破壊しちゃ駄目なダミーターゲットもありますからね?』

 

「ダミー……」

 

「スバル、今面倒だなって思ったでしょ」

 

スバルの小声を聞き取ったティアナの言葉に当のスバルは肩をビクッと動かし下手な口笛を吹きながら視線を逸らした。

いちいちやり方が地味に古い少年であった。

 

 

『えっと……2人は妨害攻撃に気をつけて試験会場を移動しつつ、すべてのターゲットを破壊。

 制限時間内にゴールを目指してくださいです。

 時間は制限時間内ならば、例え残りがどのくらいであろうと合格判定には含まれません。ただし、ターゲットの排除が完全ではなかったり、ダミーターゲットの破壊などが認められた場合は減点になってしまいます。

もちろん、試験内で皆さんが危険行為を行った場合も減点対象になるですよ』

 

「はい。わかりました」

 

『それでは、以上で説明は終わりです。何か質問はありますか~?』

 

首を傾げるリインフォースがそう尋ねると、ティアナは隣に立つ少年を横目に見る。

相方の視線に気づいたスバルはその視線に答えるように頷いた。

 

「ありません」

 

「右に同じく」

 

『それじゃあ、スタートまであと少し。ゴール地点で会いましょう、ですよ』

 

二人の返事を聞き届けたリインがそう告げるとモニターは閉じられ、代わりにカウントダウン代わりのライトが現れる。

 

「作戦は?」

 

「事前に打ち合わせたとおりに、あんたが先行して中のターゲットを破壊。

 手早くね」

 

スタート前のストレッチ代わりに屈伸をしながらスバルは隣で腕を伸ばしていたティアナに尋ねる。

ティアナの返答に軽く笑みを浮かべ、すぐに顔を真剣なものにした。

ライトの数が3つから2つ、1つと減っていく。

 

「それじゃ、いっちょやりますか」

 

「レディ……」

 

タイミングを計りやすいようにティアナが声を出す。

その直後、ライトの光が消え、試験開始のブザーが鳴り響いた。

 

「「ゴーッ!」」

 

息の合った掛け声とともに二人は走り出した。

その目に闘志を燃やしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、やるもんやなぁ」

 

「うん、ナカジマ陸士のほうは中近距離特化型魔導師として完成に近づいてる。

 相方のランスター陸士の方もナカジマ陸士の欠点を補う能力の方で高い資質を持ってる」

 

試験会場の上空、管理局所属のヘリの中で二人の女性が手元に持った資料と、試験の様子を映し出したモニターを見ながら意見の交わしていた。

二人の女性―――八神はやて三佐とフェイト・T・ハラオウン執務官。

 

「いいコンビだね。

 武装隊としての経験はないみたいだけど、そこは実戦を経験していけば解決する問題だし」

 

「その前に、この試験をどう突破するのかを見せてもらおうか。

 この先にあるのは……」

 

フェイトの言葉を楽しそうに聞きながらはやてはモニターの端にあるアイコンを操作しもう一つモニターを映し出した。

 

「この受験者の半数がリタイアする難関。

 大型の狙撃型オートスフィア。

 これは今の二人にはちょっと厳しいやろうなぁ」

 

「どうやって抜けるのか、知恵と勇気の見せ所だね」

 

 

 

 

 

 

「スバル!右にスフィア、3つ!!」

 

「おうさ!!」

 

高架に入ったスバルとティアナは周囲に浮かぶオートスフィアの集団に対してスバルの機動力で攪乱、その隙にティアナがスフィアを撃墜、さらにそのカバーでスバルが彼女に狙いをつけたスフィアを叩き落とすといったコンビネーションで切り抜けていった。

 

「よし、全部撃墜」

 

「次は?」

 

「この上、上がったらすぐに集中砲火を喰らうから、オプティックハイド使ってあんたが瞬殺。

 いいわね?」

 

「了解!」

 

ティアナの確認に対してスバルは腕に装着したデバイス『リボルバーナックル』から空薬莢を排出し代わりのカートリッジを挿入しながら答えた。

二人はこれまでにないほどに絶好調だった。

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 順調に試験を進めていた二人だったが、たった一つ、されど致命的なアクシデントが彼らを襲った。

撃ち漏らしたスフィアからの攻撃を避けながら迎撃したティアナが足を挫き、これ以上の試験続行が難しくなったのだ。

だが、ティアナの放った魔力弾の一つが監視用サーチャーを破壊したおかげで即刻中止という措置は取られていないことは彼らにとっては幸運だったのだろうか。

 

「おいティアナ、大丈夫か!?」

 

「うっさいわね、これぐらい何とも……ッ!!」

 

挫いた左足を抱え込むティアナにスバルが駆けつけるとティアナは痛みを堪えて立ち上がろうとする。

しかし、左足から尋常じゃない痛みが彼女を襲い再び蹲ってしまった。

 

「……走るのは、無理そうね」

 

「ティアナ?」

 

「あたしが離れた位置から援護するわ。

 あんた一人ならゴールできるでしょう」

 

「ティアナ、それって」

 

「足手まといがいるとあんたまで不合格になるでしょ!

 あんたはこんなところで足踏みするつもりなの!?」

 

痛みを堪えながらティアナは立ち上がりスバルに背を向けてどなるように訴える。

そんなティアナの言葉に対しての返答は、デバイスを握りしめて振り下ろした拳だった。

要は、めちゃくちゃ痛い拳骨だった。

 

「ッ、何すんのよ!?」

 

「何すんのもくそもねぇ、とりあえず足診せろ」

 

頭を押さえながら涙目でスバルを睨むティアナ。

そんな彼女を無視しながらスバルはデバイスの格納領域からテーピングテープを取り出す。

 

「どうするにも、まずはお前の足の応急処置だ。

 生憎、俺はケガ人が目の前にいてそれを置いていけるほど薄情でもないからな」

 

「でも、時間ももうだいぶ押してるし……」

 

「いいから、ほら」

 

スバルの全く動きもしない様子に諦めたティアナは素直に彼の指示に従い、靴を脱ぐ。

スバルはすぐに左足の患部を見極め、手早くテーピングを施し彼女の左足首を固定した。

 

「なんか、手慣れてるわね」

 

「自分でさんざん練習したからな、前衛(フロント)は傷だらけになることがしょっちゅうだからな」

 

「そんなことよりも、時間!

 あんたまで不合格に……ふぎゃ!」

 

再び彼に自分を置いて行けというティアナに対してスバルはまた拳骨を落とした。

 

「お前を置いていけ?

 冗談じゃない」

 

「だけど……!!」

 

「お前は俺にとって必要なんだよ!!

 お前も知ってるだろ?

 俺は射撃魔法がほとんど使えない。使えても、直射のリボルバーシュートと砲撃のディバインバスターだけ。

 そんな俺がこれから一人で何ができる?

 何もできないんだよ。

 だから、俺にはお前が必要なんだ。

 お前は俺と違って射撃ができるし、幻影魔法だって使える。

 俺にはお前を置いていく理由がないんだ。

 俺たちは二人で一つのコンビなんだから」

 

「……スバル、あんた」

 

スバルの一見したら告白にも聞こえるセリフを聞いたティアナは顔を少し紅く染めていた。

 

「お前と一緒にいたら楽しいしな。

 お前からかうと面白いし」

 

「……ッ!!」

 

だが、次の発言で彼女の顔は別の意味で真っ赤に染まった。

 

「おい、待てファントムブレイザーはさすがに……ギャー!!」

 

乙女の純情を弄んだ罰としては妥当なところだとティアナは小さな声で呟いた。




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