とある研究施設にて、その少女は首を傾げていた。
「う~ん……」
少女こと、戦闘機人No.9『ノーヴェ』は先日であった彼女のオリジナルといってもいい少年、スバルのことで頭を悩ませていた。
「このなんか喉の奥に魚の小骨がつっかえたような感じ……。
何とかなんねぇのか……」
そんな彼女の背後から近づく影が一つ。
ノーヴェの真紅とはまた違った赤色の髪をした少女、戦闘機人No.11『ウェンディ』だ。
「ノーヴェ、な~に悩んでるんッスか?」
「なんだ、お前か」
ノーヴェのその態度にウェンディは唇を尖らして抗議の声をあげた。
「なんだはないっすよ……。
せっかく相棒が心配してやってるっていうのに……」
「え?」
「え……」
ノーヴェはウェンディの相棒という言葉に疑問の声を上げ、ウェンディは彼女のその態度に落胆の声をあげた。
「なんすか、今の『お前が心配、明日は雨でも降ってくるんじゃないか』みたいな声は!?」
「いや、明日はチンク姉のナイフが降ってくるんじゃないかとは思ったが」
「なお酷いっすよ~!!」
ノーヴェのあんまりな言葉にウェンディは涙目になりながらノーヴェに抱きついた。
そんな彼女の顔を手で押しのけようとするノーヴェだったが、どちらも戦闘機人として強化された肉体を持ち、結局はどちらからともなく離れることになった。
「それで、本当にどうしたッすか。
いつのもノーヴェなら、『なんでもねぇ!』で済ませるのに」
「……お前にはぜってー言わねぇ」
「え~!?
なんでっすか!?」
「だってお前口軽いだろ」
「軽くないっすよ!!
面白そうなことならペラペラしゃべるッすけど」
「それでよく口が軽くねぇって言えるな!!」
「つまり、ノーヴェの悩んでることはあたしにとって面白いことってことっすね!!」
「あ、しまった……」
ウェンディの返事に、ノーヴェは自分の失言を悟った。
その様子を見たウェンディは自分の中でノーヴェの悩むことについて絞り出していった。
「わかったっす!
今日の晩御飯の当番がメガ姉ってことが悩みッすね!!」
「ちげぇよ、なんであたしが晩御飯のことで悩まないといけねぇんだ。
お前じゃあるまいし」
「酷い!?
じゃぁ、チンク姉と喧嘩したとかっすか?」
「なんであたしがチンク姉と喧嘩するんだ。
ありえねえだろうが」
「考えてみたらそうっすね。
チンク姉大好きっ子なノーヴェがチンク姉と喧嘩するなんてありえないっすよね」
「非常に突っ込みたい発言があったが無視するぞ」
「あとは……。
あんまり思いつかないっすね。
せいぜいこの間あったタイプゼロの弟の方のことぐらいっすかね……」
「ッ!」
この時、ノーヴェは自分の犯した痛恨のミスを悔やんだ。
この喧しい相棒のような少女にその反応を見られたことだ。
「お、なんか脈ありッすか~?」
「な、何の事だか……!」
「知ってるッすか、ノーヴェって嘘つくとき右上の方を向くッすよね……」
「え、マジか……あ」
「むふふ~」
二度あることは三度ある。
ノーヴェは今日だけでウェンディに引っ掻き回されてばっかりだった。
「な、なんだよ……」
「諦めるっすよ、ノーヴェ。
もうネタは割れてるッすよ。
とっととゲロっちまった方が楽になるッすよ?」
ウェンディからの追及に耐え切れなくなったノーヴェはついに自分の胸に収めていた思いを吐露した。
彼女の思いを聞いたウェンディは神妙に頷き、口を開いた。
「なるほど、そう言うことだったっすか。
ここはあたしも一肌脱ぐッすよ!」
「いや、お前は別に何もしなくてもいいから」
「そう言わずに!
まずはほかに意見を聞いてみるッす!!」
「はぁ!?
ちょ、まてぇえー!?」
ノーヴェの制止を無視してウェンディは彼女の襟元をつかみ取ると、その場から走っていってしまった。
「ん?
ノーヴェとウェンディが?」
『はい、何やらノーヴェがウェンディに悩みを打ち明けたところウェンディが暴走して……』
「ハハハ、彼女はどちらかというとセイン似になったのだろうね。
いいじゃないか、あの二人はもともとコンビでの戦闘を行うのをメインにしている。
仲がいいのはいいことだよ、姉妹としても、コンビとしてもね」
とある部屋でスカリエッティは長女ウーノから二人についての報告を受けていた。
ウーノの少し不満気な表情に対するスカリエッティの顔からは嬉しさが滲み出していた。
「ノーヴェがタイプゼロ・セカンド……いや、あえてスバル君と呼ばせてもらおう。
彼と出会ったことは完全な偶然だったが、それはいい結果だったのかもしれないね」
『しかし、今のノーヴェには揺らぎが多すぎます。
このままだと作戦に支障が……』
「それも含めていいんだよ。
彼女のそれは人間としての心が育っているということだ。
君たちは戦闘メカじゃあないんだからね。
人としての揺らぎ、大いに結構。
彼女たちがどのように育っていくのか、私はものすごく楽しみだよ」
スカリエッティのとても楽しそうな表情を見たウーノはそれ以上何も言わず、一つため息を吐くのだった。
「まずはディエチからッす!」
「いや、いきなり何の用?」
ノーヴェを引きずり回したウェンディは研究所の中にあるメカニックルームに来ていた。
そこには戦闘機人No.10『ディエチ』が自分の固有武装である『イノーメスカノン』をばらしていた。
「実は、かくかくしかじかで」
「それじゃ伝わらねえだろうが」
「まるまるうまうまということか。
ゴメン、私もそれはわからないかな」
「いやなんで伝わってんだよ……!」
「そうっすか、まぁあまり期待はしていなかったっすけどね。
それよりも、ディエチは何をしてるっすか?」
ウェンディはディエチに尋ねる。
そんな妹をちらりと見ながらディエチはイノーメスカノンの整備を再開した。
「前にドクターの手伝いをしてね、その時に言われたんだよ。
『自分の使うモノは出来るだけ自分で整備した方がいいよ。
その方がどんな調子なのかつかみやすいからね』って
それでちょっと自分でやってみたら、いつも以上にやりやすくなったから、それ以来自分でやるようにしてる」
「なるほど……。
確かにそうかもしれないっすね。
それで、こっちのは何なんっすか?」
「これってガジェットⅠ型……?
それにこっちはⅢ型改のデータも……」
ディエチの言葉を聞いて頷くウェンディと興味なさそうにしながらもしっかりと話を聞いていたノーヴェは彼女の机の端の方に置いてあった端末に目を向けた。
「あぁ、それは
ガジェットは数をそろえるためのものだってのはわかってるんだけど、さすがにあれだけの数があって全部同じ装備ってのは見栄えがしないからね」
ディエチはウェンディから端末を受け取ると、あるページを開き、二人にも見せた。
「これはガジェットⅠ型改ってところかな」
「なんかゴテゴテつけてるっすね」
「重そうな機体だな……」
二人の感想にディエチは頷きながら言葉をつづける。
「これは言ってみればフルアーマーガジェットってところかな。
確かに機動性は極端に落ちるけど、その代わりにこの
一回で全部打ち切ればいいだけの話だから、撃ちきったらそれで終わりの機体」
「なんでそんなん考えたんだ?」
ノーヴェのもっともな質問にディエチは静かに答える。
「だってそっちがかっこいいじゃないか」
「「え……?」」
「フルアーマーは浪漫だって、これに書いてあったからね。
それに、こっちのⅢ型改カスタムには私のイノーメスカノンの改良型を乗せて……」
「ちょ、ディエチ?
どうしたッすか!?」
「なんかスイッチ入っちまったみたいだな……」
急に饒舌になったディエチに驚くノーヴェとウェンディだったが、彼女の話を聞き終えるまでの約一時間、ひたすら浪漫武器(いわゆる現実味のない巨大ロボの武装)について聞かされたのだった。
「うぅ~疲れたッす~」
「ディエチにあんな面があったなんて……」
その後、メカニックルームから退散した二人が次に来たのはトレーニングルームだった。
今、その部屋の中では四人の少女たちがいた。
トーレ、チンクの上位ナンバーの二人と、つい最近目覚めたばかりであるNo.8『オットー』とNo.12『ディード』の二人。
今は、トーレとチンクの二人が一対一で模擬戦を繰り広げている最中だった。
「ちょうどいいっす、あの二人に聞いてみるッすよ!」
「あの二人って……」
ウェンディの向かった先にいる二人を見てノーヴェはため息を吐いた。
「オットー、ディード、ちょっといいっすか?」
「はい」
「なんでしょうか、ウェンディ」
「実はノーヴェがかくかくしかじか~というわけなんすよ~」
ウェンディの言葉にオットーとディードはお互いの顔を見て一言。
「ウェンディ、そのような言葉では何を言っているのかわかりません。
もし言語機能に障害が出たのなら検査することをお勧めしますが」
「う~ん、まだ二人には早かったっすかねぇ?」
「いや、この二人はまだ起きてから一月も経ってねえから」
ノーヴェの突っ込みにウェンディは「そうだったっすね、ならまだできなくて当然っす!」と呟いた。
そして、その言葉を聞いたディードがウェンディに尋ねた。
「ウェンディ、その技能は習得した方がよろしいのですか?」
「必要なら、僕たちも習得するように努力しますが……」
「そうっすね、まぁ二人はまだ生まれたばかりっすから、少しずついろんなことを覚えていく方がいいっすよ!
そのうち教えてあげるッすから!」
ウェンディの言葉に二人は頷いた。
そうしているうちに、トーレとチンクがノーヴェたちのいる方に向かって歩いてきていた。
「なんだ、二人とも。
来ているのなら声をかければいいものを」
「いやー、お二人があまりにも真剣な表情で模擬戦をしていたッすからね。
声をかけるのをためらってたッすよ。
二人は何であんなに真剣にやってたッすか?
いつもなら軽く流す程度なのに」
「今日の夕飯、どちらが先に口をつけるかということでな。
模擬戦で負けた方が晩御飯を誰よりも早く口をつけるということにしていたのだ」
トーレの答えにノーヴェたちは首を傾げた。
オットーとディードは無表情で、だったが。
そんな妹たちの様子を見て、チンクは苦笑しながら説明した。
「今日の晩御飯の担当はクアットロだっただろう?
だから、何か仕掛けてくるだろうからな」
「あいつが担当の時の夕飯がどのようなものか、忘れたわけではないだろう?」
「ま、まさか!
メガ姉が当番の時いっつも一番にトーレ姉とチンク姉が箸をつけていたのは……!」
「妹たちをクアットロの魔の手から守るためだ。
どんなことものでも飲み込んで見せるさ」
「話が逸れたな。
それで、ノーヴェはどうなんだ」
「……あたしたちはさ、ドクターの目的のために生み出されたんだよな。
ドクターの夢、叶えてやりたいって思ってる。
だけどさ、それと同じくらいにやりたいことができて……」
ノーヴェはそう答え、そして。
(それも、自分のオリジナル……あいつのことが頭から離れないないなんてな……)
他の皆には言わずに、心の中でそう呟いた。
「あたしはどうすればいいんだろうな」
妹の疑問に姉であるトーレとチンクは微笑みながら答えた。
「なら、とにかくやってみるだけだろう。
自分のやりたいこと、なすべきと思ったこと。
どうすればいいじゃない。
やるかやらないか、だ」
「ちょうど、例のマテリアルの反応が出たらしい。
ドクターに頼んでみたらどうだ?
悩んでいるときには身体を動かすのが一番だ」
「いい、のかな……
自分のやりたいことやって」
ノーヴェは姉の言葉を聞き、一人呟く。
そして、部屋の外へと向かって走り出していた。
「トーレ姉、チンク姉!
サンキュー!
ちょっと、ドクターに頼んでくる!!」
「あ、ちょっと待つッすよ、ノーヴェ!!」
「「やれやれ」」
二人が走って去っていったのを見届けた二人は苦笑しながら言葉を交わした。
「トーレ、さっきノーヴェに言ったこと、誰からの受け売りだ?」
「誰からでもない、これだ」
チンクの問いにトーレは懐から取り出した『友情、努力、勝利』を題目とする週刊誌をチンクに渡した。
「これは?」
「ある管理外世界の雑誌だ。
中々に面白いものが多くてな。
以前あの世界の近くに寄ったときに寄り道して買ってきた。
それ以降続きが気になってな」
中々やめられんよ、とトーレは笑いながらそう呟いた。
チンクはため息を吐きながら隣に立つ姉に向かって口を開いた。
「私は近く、仕事が入ってくるはずだ。
ノーヴェたちのことは頼むぞ、トーレ」
「あぁ、当たり前だ。
特にノーヴェはドクターが許可するなら初の実戦だ。
注意しておくさ」
「ドクター!」
「おや、ノーヴェ。
答えは出たのかい?」
「なんでドクターが……ってそれはもういいんだ。
マテリアルとレリックの回収、それにあたしも行っていいか?」
研究所に入ってきたノーヴェを認めたスカリエッティは手に持っていたコーヒーの入ったカップをテーブルの上に置きながら尋ねる。
ノーヴェはスカリエッティが自分が悩んでいたことを知っていたことに対して驚きを示していたが、すぐに気持ちを切り替えて、生まれて初めてのお願いをしていた。
「ノーヴェ、あなたの武装はまだ調整中よ。
そんな状態であなたを出すことはできないわ」
「え……」
スカリエッティの隣に立つウーノからそう告げられて、ノーヴェはとても残念そうにうなだれていた。
そんな彼女を見ながらスカリエッティは笑う。
「ハハハ、ノーヴェも人間らしくなってきたね。
そんなに行きたいのかい?」
「あ、アァ!」
「ふむ、決意は固い、か」
なら、と呟きながらスカリエッティは端末を操作しあるものを呼び出した。
部屋の壁の中からロボットアームを使い、あるものがスカリエッティの机の上に置かれた。
スカリエッティはノーヴェは近くまで寄らせると、それを彼女に渡した。
「ドクター、それは!」
「これって……」
「『プロトナックル』と『プロトエッジ』だ。
君の『ガンナックル』と『ジェットエッジ』の試作型だけど、性能は保証するよ」
スカリエッティはそう言いながら散らばった資料の中から一枚を取り出し、ノーヴェに手渡した。
「その二つのマニュアルだ。
一つ約束できるなら、その装備で出ることを許そう」
「ホントに!?」
「あぁ、だけど君はまだ実戦経験はないんだ。
いざというときのバックアップに徹すること。
それだけ約束してくれ」
スカリエッティは笑みを浮かべながらノーヴェの頭に手を置き、髪を撫でた。
その笑みは、普段の彼が浮かべるような悪人顔ではなく、ただ一人の父親としての笑みだった。
「わかった」
「よろしい。
さて、では協力者にも連絡を入れておくとしよう。
ルーテシアはともかく、アギトは私のことを信用はしていないだろうからね」
スカリエッティは肩を竦めながら部屋に置かれている通信機で通信を始めた。
「ノーヴェ、その二つの装備はドクターが作ったとはいえ試作品です。
決して無茶をしないように」
「わかったよ、ウーノ姉」
ノーヴェはそう言ってその部屋を後にした。
その背中をウーノはどこか心配そうに見つめていた。
「ウーノ、チンクを呼んでくれないかな」
「チンクをですか?
わかりました」
ノーヴェが部屋を出ていってからしばらくして、スカリエッティは眉間に皺を寄せて画面を睨んでいた。
「まさか、この私が出し抜かれるとはね……」
スカリエッティはそう呟くと、笑みを浮かべながらキーボードをたたき始める。
「いいだろう、ならば徹底的に潰させてもらうとしようか!」
彼の見つめる画面には『 type the end 』、『 type 5 』と映し出されていた。
どうもお久しぶりです。
ようやく試験が終わったのでとりあえず投稿です。
今回は完全にスカさんサイドのお話でした。
自分のやりたいことに悩むノーヴェ、相棒の悩みをどうにかしようとして引っ掻き回すウェンディ。
ナンバーズの別の顔を主に書いていったのですが、ちゃんと皆さんに伝わるか不安です(笑)。
さて、この作品のスカさんはほかのスカさんとは一味違うというところを次第に明かしていきたいと思っていますので、お楽しみに!