「焼き鳥いかがですかー!」
「ママー、あれほしい!」
「焼きパスタ、おいしいですよー。
おひとついかがですかー!!」
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!
サマーフェスティバル限定の魔法ショーが始まるよ!!」
管理局地上本部主催のサマーフェスティバルは盛況を極めていた。
様々な世界を管理する管理局の地上本部があるため、様々な世界の食べ物や遊びの店が構えられていた。
そんな中を、スバルとティアナは並んで歩いていた。
「いやー、にぎわってるな」
「そうね、まぁ年に数回の祭りだしね。
けど、こうしてみると結構いっぱいあるわね~」
すでに祭りが始まって一時間以上過ぎた時間帯。
メインイベントである花火までまだまだ時間があるが、すでに会場は人でいっぱいだった。
「けど何かしら、なんか視線を感じるんだけど……」
「確かにそうだな。
誰か有名人でも近くにいるんじゃないのか?」
二人は周囲からの視線を感じながらも、それを無視しようとしたが、その視線の中から自分たちを見ているとはっきりとわかるものがあったため、周りを見渡した。
「今、誰か見てたよな?」
「えぇ、それも結構近くから」
「どうする?」
「あっちに行きましょう。
ここよりも人が多いから撒けるはず」
二人は行く先を変えて人の多い方へと足を向けた。
そして、その背後をこそこそと隠れてついていく影が二つ。
「いやぁ、ビビったわ~。
アレ、気づかれたとちゃうん?」
「ていうか、なんではやてちゃんはこんな尾行まがいのことをしてるですか?」
二つの陰―――はやてとリインはスバルたちから離されないように歩きながら小声で話していた。
先ほど、スバルたちが周囲から感じていた視線は、
「だって、シグナムたちは六課で待機。
なのはちゃんとフェイトちゃんはヴィヴィオと一緒に祭りを楽しんでる。
だからと言ってほかに誘う人おらんやん」
はやてはいつの間にか確保していた焼き鳥を一本手に持ちながら言葉を続ける。
「だったらほかにやることなんてほかの色恋沙汰を楽しむしかないやろ?
祭りを楽しみつつ二人がどんなところを回っていくのか、楽しみやしな」
「野次馬根性丸出しです」
はやての楽しそうな笑みを見たリインは呆れたように呟いた。
「さてと、何から食べるか」
「いきなり食べ物ってのがあんたらしいというか……」
「せっかくの祭りなんだ。
楽しまないと損だろ?」
「それもそうね……ってアレ?」
スバルの言葉に頷いたティアナの視線がとある出店の一つを捉えた。
「ねぇ、あれなに?」
「あれ?」
スバルはティアナが指さした方に目を向ける。
そこには『冷やしカレードリンク』と書かれていた。
「冷やしカレードリンク?」
「なんだろう、この名前からして外れな気がするけれど興味引かれるのって」
「行ってみるか?」
「そうね、ちょっと怖いもの見たさってのもあるけど」
二人はそう言ってその店に足を向けた。
店に近づくにつれて、その店の店員の顔が見えてきた。
「あれ、サカキ博士?」
「ん?
おぉ、スバル君じゃないか」
店にいたのは眼鏡をかけたキツネ目の男性、というかサカキだった。
「何やってんですか」
「何って、うちの研究所からの出店だよ。
一応、うちも管理局に所属する施設だからね」
「この冷やしカレードリンクってのは?」
「リツカ君が考えた飲み物だよ。
ほかにもおでんパンや小豆サイダーなんてものもあるけど、おひとつどうだい?」
スバルからの質問に答えたサカキは笑いながら尋ねてきた。
二人は互いに見あいながら頷いた。
「あたしは小豆サイダーを」
「冷やしカレードリンクとおでんパンを」
「毎度ありがとうございました」
二人から代金を受け取ったサカキは二人に「あとで感想を聞かせてくれるかな」と言って仕事に戻っていった。
そんな彼を見送った二人は買ったものを手に再び歩き出した。
サカキから勧められたものはいずれも普通に考えたらおいしくはないであろうものばかりだったが、二人は怖いもの見たさに買ってしまったというところだ。
「そっちはどうだ?」
「小豆味のサイダーね。
まずくはないわね。
そっちは?」
「正直なんでこんなのに金を出したんだって感じ。
冷えたカレースープ飲んでるみたいだ」
「おでんパンの方は?」
冷やしカレードリンクの入っていた缶を近くのゴミ箱に入れたスバルはティアナに促されてもう一つのブツを口に運んだ。
「おでんって確かなのはさん達の世界の料理だったわよね?」
「あぁ、俺も親父が作ってくれたのを一度食べたけど、白米とならあうけどパンとは……。
おぉ?」
「なに、どうしたの?」
おでんパンを口にいれたスバルが驚きの声を上げた。
「いや、これ串が入ってるって思ったらゆでてないパスタの麺だった。
なるほど、これなら丸ごとかじりつけるわけだ」
「串って、本場のおでんには串なんて刺さってるの?」
「家で食べる分にはわからないけど。串に具を刺して出すところもあるらしい」
二人はしばしの間、地球の料理のことを話題にしながら歩みを進めていった。
「邪道や!
おでんをパンに挟むなんて邪道や!!」
「食わず嫌いはいけないよ。
というわけでおひとつどうぞ」
「……うまいやん」
「おいしいです~」
「ねぇ、スバル、あれって……」
「あ」
サカキと別れてしばらくあてもなく歩いていた二人は驚きで目を見開いた。
「焼きそばいかかですかー!」
彼らの視線の先にはティアナと同じように浴衣を着て客の呼び込みをするギンガの姿があった。
「姉貴」
「あら、スバル。
それにティアナも」
「どうもです」
彼女のことを呼んだ二人に気づいたギンガは嬉しそうに微笑んだ。
「何してんの?」
「あぁ、これ?
これはね……」
スバルが彼女の浴衣姿に疑問を抱いていると思ったギンガは身体をクルリと回して浴衣を見せる。
「呼子ってのをやってるのよ。
いわゆる看板娘ね」
「その浴衣、お似合いですね」
ティアナは彼女の浴衣を見て素直に口に出していた。
ギンガの着ている浴衣は、薄い紫に朝顔の絵柄がかかれたもので、彼女の髪の色とあって非常に似合っていた。
「ありがとう、ティアナ。
これってお母さんが着ていたんだって」
「お袋が?」
「うん、だから似合ってるってのは褒め言葉だね。
お母さんみたいな女性になってるってことだから」
そう言ってギンガは店の方に顔を向ける。
「お父さん、スバルたち来たよ!」
「え、親父?」
ギンガの呼び声に店の中から一人の男性が出てきた。
くすんだ銀色の短髪の頭にタオルを巻いた男、スバルとギンガの育ての親であるゲンヤ・ナカジマである。
「おう、久しぶりだな、スバル」
「何してんの」
「何って、焼きそば作ってる。
何しろ今年の祭りで一番売り上げのよかった陸士部隊には臨時ボーナスが出るからな。
その点、うちはギンガという看板娘がいるからな」
「……」
「あ、あたしもほしいものあるし」
ギンガが浴衣を着て呼子をしている理由を察したスバルが彼女の方を見ると、ギンガは目を逸らしながら小さな声で呟いた。
「まぁいい。
とりあえずお前らもくってけ」
「え、親父のおごり?」
「バカヤロウ、管理局員、それも一部隊長が公私混同してたら部下に示しがつかねえだろうが!」
「さっきまで私欲にまみれた動機話してませんでしたかぁ!?」
親子、というよりも歳の離れた友人みたいなやり取りを見ていたティアナは、(やっぱり親子って似るものなのね)と思っていた。
「なぁギンガよ」
「何、お父さん?」
スバルとティアナが去った後、彼らの後ろ姿を見ていたゲンヤは娘に尋ねる。
「あの二人、あれで付き合ってないのか?」
ゲンヤは先ほどまでの二人の様子を見て思ったことを尋ねていたが、その問いに対してギンガは言葉を濁した。
「はたから見れば、相性抜群のカップルなのにね」
「俺たちはどうやっても部外者だからな、隊も違うから毎日様子を見ることもできねえ。
というわけで」
ゲンヤは店から出てくると、スバルたちの向かった方に行こうとしていた浴衣姿にサングラスというあからさまに怪しい女性―――もとい、はやてを捕まえる。
「き、奇遇ですね、師匠」
「人の子の後ろをつけてる子狸に手伝ってもらおうか」
通算38話目でようやくゲンヤ登場!
いや、主人公の父親だというのに未だに登場しなかった作品ってあったでしょうかね(笑)
しかも管理局の制服ではなく、祭りの服という異例。
まぁ、この作品のスバルとゲンヤならこんな感じかなと思いこうなりました