魔法少年リボルバースバル   作:飛鳥

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久しぶりのキョウがメインの番外編です。



番外編 その二

その日、彼は少し早目に仕事を終えられるようにいつも以上のペースで仕事をこなしていた。

現場での活動を主にしている彼にとって、デスクワークとは決して得意分野ではなかったが、彼には終わらせなければならない理由があった。

 

「よし、終了っと」

 

そして、今最後の書類を片付けたところだった。

 

「それじゃ、部隊長。

 お先に失礼します」

 

「ん?

 あぁ、もうそんな時間か」

 

男は部屋の奥にいる上司のもとへ挨拶に行き、仕事を終えたことを報告する。

報告を受けた彼女は彼の終わらせた書類を預かり、自分の机の引き出しにしまい込んだ。

 

「それで、例の少女の怪我はどんな具合なのだ?

 柄にもなく説教をかましたと聞いたが?」

 

「もともと疲労蓄積が原因のものが多かったために、ほとんどの怪我は完治しているそうです。

 それでも任務に支障が出るほど無理をしたのはいただけませんでしたが」

 

男は肩を竦めながら言葉を続けた。

 

「まぁ、リンカーコアに損傷はないので魔法の使用は可能なそうです。

 怪我が治るまでは使用禁止ということらしいですけど」

 

「そうか……。

 将来有望な若い魔導師が潰れるのは避けなければならないからな。

 お前のおかげで本局の方に借りを作ることができたな。

 その点は、お前に感謝してもいいな」

 

「感謝するぐらいなら給料増やしてください」

 

「却下だ」

 

彼女の即答に彼は苦笑する。

 

「それでは」

 

「あぁ、気を付けていけよ、カーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我はだいぶ良くなったということでいいんだな?」

 

「はい、まだしばらく魔法は使っちゃいけないらしいですけど……」

 

隊舎を後にしたキョウは管理局本局の医療施設にいた。

彼の目の前のベッドには腕や足に包帯を巻いた少女―――高町なのはが座っていた。

以前、彼が参加した作戦に彼女も参加しており、その最後に彼女の撃墜の危機をカーンが身を挺して防いだというのがことのあらましだった。

 

「本当は早く魔法の練習もしたいんですけど……」

 

「医者のいうことは聞いておけ。

 さもないと痛い目にあうぞ」

 

なのはが俯きながら呟くと、キョウは神妙な表情をしながらそう告げる。

 

「キョウさんも、そう言うことがあったんですか?」

 

「まぁ、な……。

 取り合ず、医者のいうことは絶対に守ることだ」

 

「なら、その医者の検査に遅れないでほしいですね」

 

キョウは突然後ろからかけられた声にビクついた。

彼は目の前の少女が青くなっているのを見た後に、恐る恐る振り返った。

そこには、額に青筋を浮かべているキョウの担当医であり、なのはの担当医である女医が立っていた。

 

「いや、あの、それは……」

 

「言い訳は無用。

 早く来てください。

 彼女の方が重傷だったとはいえ、あなたも決して軽い怪我ではなかったのですよ」

 

キョウはその時、彼女の身体から一種のオーラのようなものを感じていた。

彼女は魔力を持たない。

だが、キョウは確実に彼女から重圧(プレッシャー)を受けていた。

 

「はい……」

 

「じゃぁ、なのはちゃん。

 またあとでね」

 

「あ、はい!」

 

女医はキョウの襟首を掴み、引きずりながら病室を出ていった。

その光景になのはは呆然としながらもキョウを片手で引きずっていった女医はいったい何者なんだろうと、入院してから何度も考えたことを、また考え始めたのだった。

 

 

なのはのいる病室から引きずられたキョウは、廊下でなのはを庇ったときに受けた腕の傷の検査の結果を聞かされていた。

 

「検査の結果ですが、ちゃんと言いつけ守ってるみたいでよかったです」

 

「まぁ、あんなことは二度とごめんなので……」

 

キョウは女医の視線から目をそらした。

そんな彼に対して女医は大きくため息をつく。

 

「それはそうよ、まったく。

 あの時、あなたが血だらけで運ばれたときはもうだめかと思ったんだから」

 

彼女は先程までの言葉遣いとは違い、フレンドリーな話し方でキョウにそう言う。

 

「血だらけって言うがな、あれほとんど高町の嬢ちゃんの返り血なんだが」

 

「だけど、心配したのよ。

 まったく、こっちの気苦労も知らないで……」

 

「すまない。

 だけど……」

 

女医はキョウの口に指を当てる。

 

「わかってる。

 あなたがそういう人間だってのは。

 それに、そういうあなただから私はあなたのことを……ね」

 

「イリョウ……」

 

キョウは女医―――イリョウの顔を見つめる。

二人はそのまま顔を近づけようとしたが、たまたまそこを通りかかった看護師がいたために一瞬で顔を離した。

まぁ、二人の顔がほんのりと赤く染まっていたために隠しきれてはいなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、三人とも。

 準備はいいかい?』

 

月日は流れ、なのはの怪我も完治し、晴れて退院できた次の休日。

キョウは本局の所有する模擬戦スペースに立っていた。

 

「オッケーだよ、クロノ君」

 

「こっちも大丈夫」

 

キョウの目の前にいる二人の少女が通信で聞いてきた男―――クロノ・ハラオウン執務官に返事をする。

 

『カーン二尉?』

 

「こちらもいつでも行けます」

 

クロノの言葉に静かに答えるキョウ。

すでに三人はバリアジャケットを見に纏っていた。

キョウのバリアジャケットは一般局員に支給されるものに彼が独自で組み込んだロングコートというものだった。

 

『なのはちゃん、キョウ。

 二人の怪我は一応完治はしたけど、無理は禁物です。

 こちらが無理だと判断した場合には模擬戦は中止させてもらいますが、よろしいですね?』

 

「はい!」

 

「よろしく頼む」

 

クロノから通信機を受け取ったイリョウが二人に釘をさす。

その言葉に肯定する以外の言葉は受け取らないという雰囲気を感じ取った二人は即答する。

 

『それでは、模擬戦開始!』

 

 

 

「さて、どう来るか」

 

クロノの合図とともにキョウはその手にデバイスを起動させる。

こちらもバリアジャケットと同様に一般支給されるものであった。

静かにデバイスを構える彼をなのはとフェイトは警戒しながら観察していた。

 

「なのは」

 

「気を付けて、フェイトちゃん。

 あの時、意識朦朧だったけど、あの人はとても強かった」

 

「……勝てる見込みは?」

 

「正直勝てる気がしないの」

 

なのはの言葉に眉をしかめるフェイト。

フェイトは彼女がそう言った弱気な発言は聞いたことがなかった。

そんな彼女がそこまで言う相手。

無意識に彼女のデバイスを握る手に力が入った。

 

 

 

 

 

 

「クロノ執務官、質問いいですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

観戦ルームでイリョウは隣に立つクロノに気になっていたことを尋ねた。

 

「彼女たちとキョウの模擬戦を許可したことです。

 なのはちゃんたちとキョウの実力の差はわかりきっているはずですが……?」

 

「彼女たちに知ってもらいたいからです。

 世界にはまだまだ自分たちよりも(つよ)い存在がいるということを」

 

クロノの言葉にイリョウは首を傾げる。

それに対してクロノは目の前で行われている模擬戦から目をそらさずに言葉を続ける。

 

「すべては話せませんが、彼女たちはすでに何度か、とある世界の危機を救っています。

 ですが、今の彼女たちの戦い方は言い方は悪いですが力のごり押しで何とかというところです。

 まぁ、あの年齢であれだけの魔法を扱えるのは流石、としか言えませんが。

 それでもそれ以外の戦い方があるということを知ってほしい。

 そう思ったんです」

 

それに、とクロノは続ける。

 

「自分と似た戦い方をする地上のエースの戦いをこの目で見たかったというのもあります」

 

「それは執務官としてですか?」

 

「さぁ、それはどうでしょうね」

 

クロノのその言葉でイリョウは彼の思いを知り、その視線を模擬戦の方へと戻した。

 

 

 

 

 

 

 

放たれる直射魔法をデバイスから発生させた魔力刃で捌く。

キョウはその手応えから相手の力量を測りとる。

 

「なるほど、いいな」

 

そう呟くと、彼の顔には薄く笑みが浮かび上がっていた。

金色の直射魔法の合間に彼に殺到する桃色の誘導弾。

それを切り払いその場から離脱する。

それを追うように一筋の光が駆けた。

 

「速い、だが……!」

 

その光が彼の後ろを取ると同時にその手に握った鎌を振り上げる。

しかし、その鎌が振り下ろされることはなかった。

 

「なっ!?」

 

「確かに速い。

 俺が今まで見てきた中でもかなりの速さだ。

 だが、それだけなんだよ、君のは」

 

光―――フェイトは己のデバイス『バルディッシュ』にキョウのデバイスが当てられていることに気づいた。

 

「正確にいえば、素直すぎるんだよ君は。 

 攻撃も、機動も何もかも」

 

キョウはフェイトに語りながらデバイスに魔力を込める。

フェイトが離れられないように、そしてなのはが彼を狙い撃てないようにバインドを仕掛け、位置を調整しながら教師のように。

 

「まずは一人」

 

威力を弱めた速射魔法がフェイトに向かって至近距離から放たれた。

速射とは言え砲撃魔法を直に食らったフェイトは地面に叩き付けられた。

 

『フェイト、撃墜判定だ』

 

クロノの言葉が部屋の中に響く。

その報告を聞きながらキョウは右肩をちらりと見る。

そこには小さくない焦げ跡がついていた。

 

「あの一瞬で当ててきた、か」

 

キョウはそう呟くと楽しそうな表情を浮かべる。

そんな彼に向かって六発の誘導弾が迫る。

 

「コントロールは合格」

 

その誘導弾を回避する機動で飛翔するキョウだったが、誘導弾は彼の後を離れなかった。

 

「狙いも正確か」

 

回避することができないと判断したキョウはデバイスで六つの弾丸を切り裂いた。

爆発による煙の中から飛び出したキョウだったが、次の瞬間、彼の手足に強固なバインドが仕掛けられた。

 

「このタイミングでバインドか」

 

キョウは手を軽く引いてみるが、仕掛けられたバインドはビクともしなかった。

彼はバインドを仕掛けたなのはが次に何をするのかを目で追う。

彼の視線の先には、レイジングハートに魔力を集中させるなのはの姿があった。

 

「まぁ、定石(セオリー)通りにいくなら砲撃をズドンだろうな。

 その判断は正しいぞ、嬢ちゃん」

 

キョウは彼女の顔を一目見て、自分の周りに数発の魔力弾を生成する。

 

「え……!?」

 

直後、キョウの周囲に浮かべられた魔力弾が一斉に爆発。

広範囲に広がる煙が彼の姿を覆い隠した。

 

「…………」

 

なのはは彼の行方を見失わないように煙の方から目を逸らさなかった。

そして、煙の中から彼の羽織っていたロングコートの裾が飛び出した。

 

「シュートッ!!」

 

すでに臨界まで魔力を溜めていたなのははその方向に砲撃を放った。

だが、その砲撃はキョウの身体を捉えることはなかった。

 

「そんな、どこに……!?」

 

なのははすぐにキョウの姿を捉えようと周囲に気を配るが、彼の姿を捉える前に彼女の首筋に魔力刃が添えられた。

魔力刃を首筋に構えられたことにより、なのはは身動きすることすらもできなくなった。

直後、クロノによる撃墜の認定が下った。

 

「あ、あの。

 どうやって……?」

 

「狙いは悪くなかった。

 だけどな」

 

なのはは黙って彼の声を聴いていた。

 

「あの戦法がたぶん今のお前さんの切り札なんだろう?」

 

「……はい」

 

「だったら理由は一つだ。

 俺の方が引き出しの数が多かったってわけだ」

 

キョウの引き出しという言葉に首を傾げるなのは。

そんな彼女の様子を見たキョウは笑いながらその場を去っていった。

彼の言葉の真意を理解しかねている彼女のもとに、フェイトが飛んでくる。

 

「なのは、大丈夫?」

 

「フェイトちゃん……。

 最後、あの人どうやって?」

 

なのはは隣まで飛んできたフェイトに模擬戦の最後の攻防のことを尋ねる。

 

「なのはが撃ったのは、あの人が投げ出したコートだけ。

 なのはの注意がそっちに向いている極短時間の間に、ソニックムーブでなのはの後ろに回り込んでた。

 速度は私よりも遅いかもしれないけど、使うタイミングや最短距離を選べるのは経験からくるものだと思う」

 

「そっか……。

 やっぱり、私たちってまだまだだね」

 

「うん」

 

二人はキョウが去っていった方を見ながらそう言って決意を新たに固めていた。

 

今よりももっと強くなる、という決して折れない決意を。

 

 

 

 

 

 

 

「どうでしたか?

 あの二人は」

 

模擬戦を終えたキョウはクロノと二人きりで言葉を交わしていた。

 

「二人ともあの年齢であそこまでやれるとは、さすがとしか言えませんよ。

 もっとも、高町のお嬢ちゃんの方はまだまだ粗削りなところが目立ちますね」

 

キョウは先ほどの模擬戦のデータを呼び出しながら自分の考えをクロノに伝えていく。

 

「それに比べて、あなたの義妹さんは基礎がしっかりできてる。 

 かなり優秀な指導者がいたんでしょうね。 

 戦い方がすでにかなりの域に達してる」

 

キョウはそこまで言うと一度口を閉じる。

 

「ですが、二人ともまだまだ足りないものが多すぎる。

 あなたもそう思っていたのでは?」

 

「そうですね……。

 今回の模擬戦を見て改めて思いましたよ。

 あの二人にはもっといろいろなことを教えなければならないということを」

 

「なら、その指導者に丁度いい人を一人知ってます。 

 紹介状を書いておきますよ」

 

「それはありがたい。

 その人は誰なんですか?」

 

「ファーン・コラード三佐。

 私の恩師ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ま、お―――さま」

 

「ん?」

 

キョウは身体をゆすられる感覚を覚え、目を開いた。

彼の視界に映ったのは一人の制服を着こんだ女性―――いわゆるCAと呼ばれる職種の女性だった。

 

「おはようございます。

 本機はミッド臨海空港に到着しましたので、お客様もお降りになってください」

 

「あ、あぁすみません。

 すぐにおりますんで」

 

背筋を伸ばしながら立ち上がったキョウは荷物を手に持ち急いでその場を後にした。

 

 

 

荷物を片手に発着ゲートをくぐったキョウは先ほどまで見ていた夢のことを思い出していた。

 

「また、懐かしい夢を見たものだな」

 

一月に及ぶ出張任務を終えたキョウは現在家で彼の帰りを待っているであろう婚約者であるイリョウのことを思い浮かべる。

 

「とりあえず二週間は休暇がもらえるから、イリョウと二人でゆっくり過ごすとするかな……」

 

最愛の人とのひと時を思い浮かべながら歩みを進める彼の耳にとある声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃーん!!」

 

「あぁ、もう泣くなよ。

 ほら、飴玉やるから、な!」

 

キョウがその声のした方に視線を向けると、そこには深い蒼色の髪をした少年と迷子であろう茶髪の少女がいた。

少年が少女にポケットから取り出した飴玉を渡し、一言呟いた。

 

「はぁ、俺も姉貴とはぐれたってのに……。

 でも、放っておけないからな~」

 

「ラグナ!」

 

キョウはそんな彼のもとに足を向けようとしたが、彼らの方に走っていく青年が視界に入ったのを認めるとそちらへ行こうとはせず、あとはその青年に任せることにしたのだった。

 

 

 

 

 

その後、彼がその蒼髪の少年が教師と教え子の関係になるとは知る由もなかった。




番外編でした。
どうでしたでしょうか?
今回の時点ではすでになのはに対してキョウが説教かました後のお話でした。
ちなみに、なのはの撃墜前にキョウとイリョウは出会っており、それなりの仲までいってます。

基本を極めたキョウはクロノと戦い方が似ているようで微妙に違っています。
クロノが基本を極めた戦いかたなら、キョウは基本の魔法を奇抜に使用するというやり方ですね。
違いが出せていればいいのですが……。

最後の少年が誰なのか、みなさんにはわかりますよね(笑)
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