9月11日
機動六課の隊舎ロビーにフォワードメンバーをはじめとした前線メンバー全員が集められた。
「というわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や」
整列した彼らの前に立つはやてがそう切り出す。
「明日14時からの開会に備えて、現場の警備はもう始まってる。
なのは隊長とヴィータ副隊長、リイン曹長とフォワード4名はこれから出発、ナイトシフトで警備開始」
「みんな、ちゃんと仮眠とった?」
「「「「はい!」」」」
「私とフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝に集合入りする。
それまでの間、よろしくな」
「「「「はい!」」」」
はやての言葉に返事をするスバルたちだったが、その中にギンガがいないことに気づいたスバルは首を傾げる。
「あの、姉貴は?」
「ギンガは一足先に現場に行ってもらってるよ。
向こうで合流やな」
「そうですか」
何も知らされていなかったことに少し不満気に答えるスバル。
そんな彼を見ながらはやては一度ため息を吐き、その場にいる全員を見る。
「ほな、皆よろしく頼むな」
「「「「はいっ!」」」」
「おろ?」
スバルたちが屋上のヘリポートに到着すると、ヘリの近くには寮母のアイナとヴィヴィオがが立っており、ヴィヴィオのそばになのはが腰を下ろしていた。
「アイナさん、どうしたんですか?」
「あぁ、みんな。
ヴィヴィオがね、ママの見送りするんだって聞かなくて」
ティアナが代表で尋ねるとアイナが困ったように笑顔で答える。
「あぁ、なるほど」
「確かにヴィヴィオが来てから夜間出動は初めてだったわね」
「アイナさん、ヴィヴィオのこと、お願いしますね」
「任せて、スバル君。
みんなも、お仕事頑張ってね」
アイナからの言葉に頷いた四人はその視線をなのはとヴィヴィオに向ける。
「なのはママ、今日は外でお泊りだけど、明日の夜にはちゃんと帰ってくるから」
「……ぜったい?」
「うん、絶対に絶対。いい子にしてたら、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるからね」
「……うん」
「ママと約束、ね?」
「うんっ」
小指を絡めながらそう言葉を交わすなのはとヴィヴィオ。
二人は意図してはいなかったかもしれないが、そのやり取りはこれから任務に向かうフォワードメンバーの緊張を程よくほぐしたのだった。
「それにしても、ヴィヴィオ、本当に懐いちゃってますね」
「全く」
地上本部へ向かうヘリの中で、スバルとティアナが口を開いた。
なのはは二人の言葉に少し戸惑った表情をする。
「そうだね。
結構、厳しく接してるつもりなんだけどなぁ……」
「きっとわかるんじゃないですか?
なのはさんが優しい、って」
「そうかなぁ……。
それを言うと、スバルだって結構懐かれてると思うけど……?」
「スバルに対しては年の離れたお兄ちゃんみたいな感覚じゃないですかね?」
「そうだよなぁ。
なのはさんに向ける感情とはまた違うものだよな」
フォワードメンバーの言葉になのはは照れ笑いを浮かべた。
そんな中、その場にいる全員の思いをリインが代表して口にした。
「もういっそ、本当になのはさんの子供にしちゃうとか!」
リインの言葉になのはは首を横に振る。
「受け入れて貰える家庭探しは、まだまだ続けるよ」
「いい受け入れ先が見つかって、ヴィヴィオが納得してくれれば……」
「納得……しない気が」
「私もそう思います……」
「「うん、うん」」
「えぇ~」
なのはの言葉にエリオとキャロが答え、スバルとティアナも頷く。
「あれだけ懐かれてたら納得しませんよ。
たぶん以前以上に泣きつかれるんじゃないでしょうかね?」
スバルの言葉になのはは苦笑しながら口を開く。
「そりゃあ、ずっと一緒にいられたら嬉しいけど……。
本当にいいところが見つかったらちゃんと説得するよ?
……いい子だもん。幸せになって欲しい」
「今も十分幸せだと思ってると思いますけどね」
「そ、そうかな?」
「俺はそう思います。
まぁ、ヴィヴィオがそう思ってなければそれまでですけど、あの懐きようからすると……」
「ま、まぁ……そんな家庭が見つかるまでは、私が責任持って育てていくよ。
それは、絶対に絶対」
「そのまま高町家の娘になりそうだな」
『うんうん』
「そ、そんな~」
ヴィータの言葉になのは以外の全員は頷いた。
皆のその行動になのはの悲鳴とともにヘリの中は笑いに包まれた。
管理局ミッドチルダ地上本部、その廊下をレジアスはオーリスを伴って歩いていた。
レジアスは少し後ろを歩くオーリスに尋ねる。
「警備の状況はどうだ?」
「現在は陸士36、91、106部隊をはじめとした局員が配置についております。
シフトの交代は3時間後。
すでに交代要員は待機しています」
「会の主な議題は確か、アインヘリアルと地上の防衛についてだったな?」
「はい」
「まったく……、
私なら、あんなもの作る金があるなら局員の給与に回してやるというのに……」
「仮にアインヘリアルの建設費をすべて給与の増額に回すと、一人当たり30%のアップが見込まれますね」
手に持ったタブレットを操作しながらオーリスはスラスラと答え、その事実にレジアスは大きくため息を吐いた。
オーリスはため息を吐くレジアスに対して、一つ疑問に思ったことがあった。
「ですが、なぜここまでの警備を?
中将はそれ以上の何かが来るとお思いで?」
「ふむ……」
オーリスの問いにレジアスは少し考えるそぶりを見せ、そして答えた。
「確かにここの防御は鉄壁だろうな、魔法に対しては。
だが、此処を狙う者がそれ以外のものを使ってきた場合はどうなる?」
「まさか……」
「鉄壁ということを誇るのはいい。
だが、物事は常に最悪を考えて行動しなければならんからな」
レジアスの答えに納得したのか、オーリスはそれ以上は何も言わなかった。
(すまんな、オーリス。
本当はお前にも話しておきたいところだが、真実を知る者は少ないことに越したことはないからな……)
レジアスの胸中の思いはだれにも知られることはなかった。
9月12日 AM3:15
「うぅ、寒い寒い……」
地上本部の外周を警備していたティアナの元に、スバルがそう呟きながらやってきた。
季節は夏を過ぎ、秋に入りかけたというところであるが、この時間は存外冷える時期でもあった。
「ちょっと、どこに行ってたのよ……?」
「いや、差し入れだって言われてな」
スバルは手に持っていた紙コップをティアナに渡し、それに水筒の中身を注ぐ。
水筒からは温かいお茶が注がれ、湯気が立ち上った。
「温まるわね~」
「本当、感謝感激だな~」
冷える外で飲む温かいお茶は格別だった。
温かいお茶は冷え切った彼らの身体をゆっくりと温めていった。
「そう言えば、さっきの人……」
「何?」
「いや、これ渡してくれた人なんだけどな~」
ティアナは隣でお茶を飲むスバルの顔を見る。
スバルはそんな彼女の視線に気づくことなく話を続けた。
「かなり強そうな人だったな~」
「強そうね~。
私たちが知ってる人と比べるとどのぐらい?」
「そうだな……。
多分、教官ぐらい、かな~?」
「ふ~ん、それはすごいわね~」
寒空の下で警備任務という気の張る任務を行っていた二人は、差し入れのお茶を飲むことでその気が緩んでいた。
そして、その緩み故に気づけなかった。
なぜ、それほどの実力を持った人物が重役の護衛についていないのかという違和感に……。
前々話のスバルとノーヴェの電話での会話の部分を修正しました。
一応報告を