月日が経つのは早いですね。
それではどうぞ!
薄暗い通路で、ノーヴェは壁際に立つスバルを見つめていた。
「なんでって顔をしてるな―――ッ!」
「―――ッ!」
「ノーヴェッ!」
その視線の意味を感じ取ったスバルは、一気に加速してノーヴェをウェンディから引き離す。
スバルに押し流されたノーヴェを援護しようと、ライディングボードを構えるウェンディだったが、それを橙色の魔力弾が妨げる。
「この―――ッ!」
ウェンディは魔力弾が飛んできた方を見ると、すでにフォーメーションを組んだティアナ達が彼女に向かってきていた。
「エリオ、キャロ、脱出のタイミングまであの赤毛を足止めするわよ!」
「「はいっ!」」
先陣を任されたエリオがウェンディに向かっていくのを見ながらスバルの方へ視線を向ける。
(後でどういうことなのか聞かせてもらうからね、バカスバル!)
「最初にお前とあったときは、気のせいだと思った。
俺の耳の聞き間違えだってな」
スバルはほかの四人が戦う場所からある程度離れた場所に辿り着くと、すぐ近くに顔があるノーヴェに語り掛ける。
「だけど、二度目。
下水道で俺たちに襲ってきたマント野郎。
その時にも、似たような駆動音が聞こえた。
これで疑問に思った」
「――――ッ!」
接近し拳打蹴撃の応酬をしながらも、ノーヴェの攻撃を捌き続けながらスバルは口を閉じなかった。
「そして、さっきの蹴りだ。
三度目、これで確信したよ。
あの時のメガネっ子、ありゃお前だな、ノーヴェ」
「……あぁ、そうだよ」
互いに再び距離をとる。
スバルの言葉を肯定したノーヴェの表情は言葉に言い表せないほどに酷いものだった。
「前のようには会えないってのは、俺とお前が敵同士になるからってことか」
「あぁそうだよ。
あたしとお前は敵同士だ、なれ合いなんてできっこないんだよ……!」
ノーヴェの悲鳴のような声とともに蹴りがスバルに向かって襲い掛かる。
彼女の足にはスバルのマッハキャリバーと酷似した武装、『ジェットエッジ』が装備され、ジェットエッジの推進器から得た推力によって彼女の蹴りは戦闘機人としての力以上の威力を持っていた。
スバルはそれを左腕に障壁を張り、受け止めるが、衝撃を完璧に逃がすことはできずに後ろに押し流される。
「もう、あたしは選んだんだ!
ドクターの夢を叶える手伝いをする!
だから、もうあたしとお前の道は交わらないんだよッ!!」
ノーヴェは叫びながらジェットエッジを駆り、加速の勢いを乗せた拳をスバルに向けて放つ。
「な―――ッ!?」
「道が交わらない……?」
その拳はスバルの障壁すらも張っていない左手に受け止められた。
だが、加速のついた戦闘機人の拳を魔法なしの素手で受け止めた左手の皮は破れ、スバルの左手からは血が流れていた。
それでも、スバルは痛みを堪えながら言葉を紡ぐ。
「どんな形であれ、道は交わってるだろうが……。
敵味方だろうと、それは変わらねぇんだよ……」
スバルは魔力を込めた右手を振りかぶる。
「この……馬鹿野郎がッ!!」
そして、その拳はノーヴェが咄嗟に張った障壁を打ち砕き、彼女の身体を通路の端まで吹き飛ばした。
「ノーヴェ!!」
ティアナ達三人を相手に奮戦していたウェンディはノーヴェが吹き飛ばされたところを目にして、そちらに気が向いてしまった。
「エリオ、今!」
「はいっ!!」
「しまッ―――!?」
その隙を逃すエリオではなかった。
魔力変換資質によって生み出された雷を刃に纏わせ、ストラーダを上段に構え、高く跳び上がる。
「サンダー……」
「クッ……!」
ウェンディは周囲にガジェットを集めAMFの濃度を高めながら、空中でストラーダを振りかぶるエリオにライディングボードを向ける。
「レイジッ!!」
「う、うわぁ!?」
エリオの放った電撃はウェンディの攻撃を弾き飛ばし、さらに高濃度のAMFすら貫通して彼女にダメージを与えた。
「今よ、スバル!!」
「了解ッ!」
エリオの電撃がウェンディとガジェットにダメージを与えたのを確認したティアナは離れていたスバルを呼び寄せ、複数の通路が交わったところまで移動する。
「待つッすよってぇ!?」
ダメージから抜け出したウェンディは彼らを逃さないと視線をそちらに向けるが、彼女の視界には四人の姿がいくつも映っていた。
「幻影……ッて、サーモセンサーにも魔力センサーにも反応有り!?
あのガンナー、戦闘機人のシステムを……!?」
ウェンディは構えていたライディングボードを立て掛ける。
「逃げられたっすね……。
ノーヴェ、大丈夫っすか?」
ウェンディは吹き飛ばされた後、動く気配のなかったノーヴェが立ち上がったのを見て彼女のもとに向かう。
少しふらつきながらも立ち上がったノーヴェの顔には迷いが見えた。
「おろ?
なんか、様子が変っすね。
何か言われたっすか?」
「まぁ……な。
敵味方だろうが、それも一つの道の交わり、か
なんで、あいつはこっちを迷わせるんだろうな」
「なんのことっすか?」
「お前には関係ねーよ。
それより、どうするかだな。
追えるか?」
ノーヴェは視線をスバルたちが消えていった方へ向ける。
「無理っすね。
ご丁寧にジャマーまでばら撒かれたっすよ」
「なら……?」
ノーヴェが口を開こうとした時、通信が繋げられた。
『ノーヴェ、ウェンディ。
少しこっちを手伝ってくれ』
「いいっすよー。
何すればいいっすか?」
通信から聞こえてきた声は、ノーヴェが一番信頼しているチンクからだった。
『今、ギンガ・ナカジマと戦闘中だ』
「IS発動、ライドインパルス……!」
「こいつ!?」
スバルたちがノーヴェ、ウェンディと戦闘中の一方で、ヴィータとリインはトーレとセッテのコンビネーションに苦戦していた。
(後ろです!)
「このぉ!!」
リインからの警告を聞いたヴィータは背後にまわり、手足に装備されたインパルスブレードで切りつけようとしていたトーレをグラーフアイゼンで迎撃する。
「ここ……ッ!」
「リインッ!」
(はいです!!)
トーレの攻撃をアイゼンで防いでいる彼女に、横から手にしたブーメランブレードで切りつけてくるセッテをユニゾン状態のリインが制御している魔力弾が牽制する。
セッテの攻撃がうまくいかなかったことを認めたトーレはすぐにその場から離れる。
「こいつら、コンビネーションのタイミングが息ぴったりだな、畜生め」
(それに、この膂力……。
これが戦闘機人の力、ですか……)
彼女たちの戦闘を身を持って体験しているヴィータは舌打ちをしながらも冷静に判断する。
「ユニゾン状態の融合騎との連携……。
適合率も練度もかなり高いのでしょう」
「さすがは、夜天の守護騎士といったところか」
「トーレ、一ついいでしょうか?」
トーレとセッテもまた、警戒を続けながらヴィータとリインの戦い方を振り返っていた。
そんな中、セッテがトーレに対して、一つの提案を上げた。
「あれを試してみたいと」
「まぁ、この膠着状態をどうにかするには仕方ないか……。
援護は任せろ」
二人は互いに頷くと、トーレがその加速性を生かした突進をヴィータに仕掛ける。
ただまっすぐ突っ込んでくる相手とは思えなかった彼女はすぐに魔力弾による迎撃を試みる。
「何っ!?」
だが、その魔力弾はトーレの背後から飛び出した二本のブーメランブレードによって切り裂かれる。
さらにその二本の獲物は互いにぶつかり合い、ヴィータの視界を惑わせるように機動を変える。
「ライドインパルス!!」
「アイゼンッ!!」
『Panzerhindernis』
そして、トーレはそのブーメランブレードの不規則な機動に紛れてヴィータに接近し、腕のインパルスブレードを彼女に叩き付ける。
間一髪、グラーフアイゼンが張った障壁が彼女をその斬撃から守る。
しかし、トーレの背後からさらに二本のブーメランブレードが彼女に迫る。
「リインッ!」
(はいですッ!!)
トーレの攻撃を受け止めているヴィータに代わって、彼女の中にいるリインが二つの障壁を張ってブーメランブレードをやり過ごす。
だが、その直後、彼女に影が落とされる。
「後ろ……ッ!?」
「これで終わり」
(ヴィータちゃんッ!!)
トーレとの鍔迫り合いの直後、彼女の後ろに現れたのはさらに二本のブーメランブレードを手に持ったセッテだった。
上段からの振り下ろしは、リインが張った障壁を叩き割りヴィータを直撃。
そのまま彼女の身体を遥か下にあるビルの屋上に叩き付けた。
「目標の撃墜を確認」
「見事なものだな。
相手はあの夜天の守護騎士、実戦経験なら我々以上のものだったはずだが。
まぁ、いい。
行くぞ、セッテ」
「了解」
二人は撃墜したヴィータのことを無視してその場を飛び去った。
ビルに叩き付けられたヴィータの身体が一度光り、彼女のバリアジャケットが白色から通常の赤色に戻る。
その時、彼女の身体からはじき出されたリインが急いでヴィータのもとへ駆け寄る。
「ヴィータちゃん!
しっかりしてください、ヴィータちゃん!!」
「ぅ……」
リインがヴィータの身体を思いっきり揺らすが、反応が小さく、さらに彼女の顔色も悪くなっていた。
「ヴィータちゃん、ヴィータちゃん!!」
夜の空に、リインの声が虚しく響いた。
スバル対ノーヴェの第一ラウンドはスバルの勝利ということに。
ノーヴェはスバルとの関係を断ち切ったと考えていたのですが、スバルの真正面からの言葉に再び迷いが出てしまいます。
これがどのような結果になるのか、お楽しみに!