魔法少年リボルバースバル   作:飛鳥

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ティアナルート 第二十九話

「スバルさん!

 ティアナさん!!」

 

スバルたちがノーヴェ、ウェンディの二人と戦闘に入ったのを、フリードに乗って上空から見ていたキャロは二人に呼びかける。

 

『エリオ、キャロ、お前らはあのチビッ子を止めてこい!!』

 

『あたしたちは大丈夫だから!』

 

「でも―――ッ、エリオ君!?」

 

二人の言葉にキャロは躊躇うが、彼女の前に座っていたエリオはフリードの手綱を引き、フリードをビルの屋上にいるルーテシアに向かわせる。

 

「今はルーテシアを止める。

 あの子を手早く止めて、すぐにスバルさん達の方に向かおう。

 大丈夫、スバルさん達は強いから、僕たちが行くまで絶対に負けない」

 

「でも……」

 

キャロの不安そうな声を聞いたエリオは後ろを振り返って、彼女の震える手を握りしめる。

 

「大丈夫だよ。

 なのはさんも言ってたでしょ?

 僕たちは『ストライカー』だって」

 

エリオの中で、出撃前に言われた言葉がしっかりと根を張っていた。

そして、その枝はキャロの心にも伝わる。

 

「だから、きっとできる」

 

「うん。

 そうだよね。

 あの子の事情を聞いて、止める」

 

「行こう、キャロ」

 

「うん、エリオ君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

迫る双刃をギンガは左手のナックルで受け流し、その勢いで回し蹴りを相対するディードに叩き込もうとするが、蹴りが彼女の身体に突き刺さる前にディードはその射程から逃れていた。

 

「ク……ッ!」

 

ギンガはディードへの注意をそらさずに、先ほど自分がこのビルの中に叩き込まれた場所に視線を移す。

そこには、大きな穴が開いていたが、その先にはビル全体を包み込むバリアが張ってあった。

 

「よそ見をしている暇はないですよ」

 

「―――ッ!!」

 

ギンガの耳に静かに聞こえてくる声。

彼女がその声に反応して視線を戻すと、そこには彼女の首に目掛けて振るわれた刃が迫っていた。

ギンガはその一撃を身体ごと後ろに倒れ込むようにして紙一重で躱し、地面につけた手でその身体を跳ね上げ、体制を整えると同時にディードに接近し双剣の間合いの中に飛び込んだ。

 

「ハァッ!!」

 

「………ん!」

 

超近接戦闘ではギンガの方に分があるが、ディードは彼女が放つ拳や蹴りの連撃を腕や足で受け流していた。

そのことに気づいたギンガは仕切り直しとばかりに、足元に魔力弾を放ち彼女との距離をとる。

 

「貴女、私の戦闘データを……」

 

「はい、私は完成してそれほど時間は経っていませんので」

 

ギンガの問いに、ディードは感情の乏しい声で答える。

彼女の言うことはつまり、ギンガとの直接的な戦闘は今回が初めてだが、以前の戦闘で彼女の戦闘データを蓄積したチンクたちからのデータを共有しており、そのフィードバックを受けているということだ。

ギンガにとってディードは初めての相手であるが、ディードにとってはギンガと戦うのは二度目ということになる。

 

その事実に、ギンガは舌打ちをすることを堪えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!!」

 

ヴィータによって振り下ろされる鉄槌にガジェットが叩き潰され、爆発する。

爆発によって撒き散らされた煙を一振りで薙ぎ払い、すぐそばで砲撃を放ってガジェットの編隊を消滅させたなのはのもとに向う。

 

「数だけは多いな。

 このままじゃジリ貧だぞ」

 

「ロングアーチの方でも突入口を探してるけど、まだ見つかってないって」

 

なのははゆりかごの方を見ながらそう告げる。

だが、次の瞬間二人は背中合わせに周囲を警戒する。

 

「これは……」

 

「あっちも本腰入れてきたな」

 

ヴィータの言葉と同時に彼女たちの周囲に今までとは比にならない数のガジェットが現れる。

彼女たちが知る由もないが、同時にゆりかごの周囲でガジェットを破壊して回っていたエース級の魔導師の周囲にも同様にガジェットが現れていた。

それはゆりかごのシステムが彼女たちのことを脅威と認識したことに他ならなかった。

 

「どうする?」

 

「どうするもなにも……ッ!?」

 

『こちら第三突入部隊、ゆりかご内部への突入口を確保!

 現在、先発隊が突入を開始しています!!』

 

なのはがレイジングハートを構えようとした直前、彼女たちの耳に進入路の確保の報が届いた。

 

「突入口が見つかったか!」

 

「でも、この数を突破するのは……ッ!」

 

ガジェットから放たれる砲火を回避しながら魔力弾を放つなのはは歯噛みする。

突入口を確保したとあれば、あとは内部に侵入しヴィヴィオの救出と動力炉の破壊を最優先にするべきである。

だが、今もなお数を増やしつつあるガジェットを突破し、それを果たすとなれば些か厳しいモノがあった。

すでになのはの魔力は全体の七割強といったところ。

周囲にいるガジェットを破壊するのに、出し惜しみしなければ時間はかからないが魔力の残量をできるだけ保っておきたい。

 

「なのは」

 

「ヴィータちゃん?」

 

「行け」

 

そんな彼女の顔を見た、ヴィータは自然にその一言を口にしていた。

 

「でも……!」

 

「ヴィヴィオを助けるんだろうが!!

 ここで止まっていられる状況か!?」

 

「……ッ!」

 

なのははヴィータの声に顔を歪ませる。

彼女は任務の適正云々を抜きにして、ヴィヴィオを救出するのは自分しかいないと思っている。

だが、彼女は自分の中には、此処でヴィータを置いて自分だけで行くという方法に対して激しく反対している自分がいることも感じていた。

 

「クッ―――!?」

 

「なんだ、この魔力反応?

 速い―――ッ!?」

 

ヴィータの言葉に従い、ガジェットの中を突っ切ろうとしたなのはだったが、彼女のリンカーコアが一つの魔力反応を捉えた。

ヴィータも同じように、その反応を捉えたようで、その反応の持ち主がこちらに近づいているのを感じていた。

だが、その反応の移動速度が異常だった。

ガジェットの間をすり抜けるように、しかし最短の距離を移動し、すれ違いざまにガジェットが爆発していた。

そして、その反応をなのははどこか懐かしく感じてもいた。

 

「あ、貴方は……!」

 

「よう、久しぶりだな。

 高町のお嬢ちゃん」

 

彼女にとっての、教導官としての、先輩。

キョウ・カーンは彼女たちの上空からニヤリと笑っていた。

 

「あ、あんたは確か!」

 

「キョウ・カーンだ。

 前にも会ってるはずだが、昔話はあとにしよう」

 

彼の顔を見て、目の前の人物が以前なのはを救った局員だと気づいたヴィータは声を上げるが、それを制したキョウは周りを見渡してそう告げた。

 

「さて、実はお前さんたちの隊長さんから指示をもらったんだよな。

 お前さんらを援護するようにって」

 

「はやてちゃんが?」

 

「あぁ、だからここは俺に任せろ。

 助けなきゃいけない子がいるんだろう?」

 

キョウはゆりかごをチラリと見た後、なのはを見る。

 

「キョウさん、此処は任せてもいいですか?」

 

「ふっ、そのために来たんだ。

 こっちのことは考えなくてもいいぞ」

 

「では、お願いします!」

 

彼女の顔からは迷いはなかった。

それは、娘も同然の子供を救うという使命からか、それとも目の前の男に対しての信頼の証か、それはだれにもわからない。

だが、今は、彼女の中から一つの思いだけが表に出ているということが重要だった。

 

「道は開ける。

 あとはお前らがどうにかしろよ?」

 

「はい!

 ヴィータちゃん、すぐに行くよ」

 

「応よ!」

 

キョウの構えた杖から数十発の魔力弾が連射される。

高密度の弾幕は、砲撃を放ったかのようにガジェットの群れを叩き落としていき、彼女たちの前に道が創られる。

 

「今だッ!」

 

「行きますッ!!」

 

キョウの合図とともに、なのはとヴィータはトップスピードで道を駆け抜けていく。

それを見届けたキョウは、彼女たちを追おうとするガジェットに砲撃を叩き込む。

 

「悪いな、嬢ちゃんに言った通り、お前らには俺の相手をしてもらわないといけないんだよ」

 

もしも、ガジェットに感情というものがあれば、その機体(からだ)を震え上がらせていただろう。

それほどの圧力(プレッシャー)が彼から放たれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「このッ!!」

 

ティアナは瓦礫の陰から身を乗り出して、目標(ターゲット)に向けて引き金を引く。

放たれた魔力弾はウェンディの乗ったライディングボードを捕らえることはできずに、彼女の後ろへと流れていく。

姿を現したティアナに向かってウェンディは手に持った(・・・・・)ライディングボードの砲口を彼女に向ける。

 

「もらいッス!!」

 

「クッ……!」

 

砲口を向けられていることを察したティアナはすぐにその場から飛び出す。

彼女が飛び出した直後、彼女が隠れていた場所はウェンディが放った砲撃によって瓦礫ごと撃ちぬかれていた。

 

「オプティックハイドッ!

 フェイクシルエットッ!!」

 

「おっ!」

 

瓦礫から飛び出したティアナは、煙が自分を隠しているうちに、自らの姿を消して、分身を多数放つ。

 

「残念、幻術(それ)については対策済みっすよ!!」

 

「嘘ッ!?」

 

だが、ウェンディは煙の中から飛び出してきた幻影には目もくれず、姿を消しているティアナに向かって迷わずに弾丸を放った。

ティアナとしては、自分の姿を見失ってくれれば御の字といった程度の思惑で使った幻影魔法であったが、迷わずに自分を狙い撃たれるとは思ってもいなかった彼女は身体を投げ出すようにその弾を回避した。

 

「かくれんぼは終わりにするっすよー!

 アンタの幻影魔法は役に立たないってのはわからないわけじゃないっすよね!!」

 

ウェンディのあたりに響く声ををティアナは横転したトラックの陰から聞いていた。

 

「ハァハァ……」

 

荒くなった息を静かに整えながら、頭の中で情報を整理する。

 

(あいつの攻撃はあのボードからの砲撃。

 移動も、あのボードに依存している……。

 でも、こっちの幻影は通じない上に、以前の戦闘データの時以上に砲撃の威力も増してる……。

 機動性でも火力でも負けてる、か……)

 

情報を整理する傍ら、彼女の耳はウェンディの足音を正確に捉えていた。

その持ち主が、徐々に自分のいる場所に近づいていることも。

 

(使いたくはなかったけど、そうも言ってられないか……ッ!)

 

彼女の手は、その胸にあるペンダントに伸びていた。

 

 

 

 

 

 

地下深くにある通路。

その両脇の壁には、ナンバーが刻まれたプレート付きの生体ポッドが所狭しと並べられていた。

フェイトとシャッハはその様子を見て、眉を顰める。

 

「これは……人体実験の、素体?」

 

「だと思います。

 人の命を弄び、ただの実験材料として扱う。

 あの男や、つながっている連中は、そう言ったことを平然と行うようなやつなんです……ッ!」

 

フェイトは、拳を握りしめながら答える。

自分や、エリオ、スバルやギンガといったような存在を生み出すために平然と、面白半分に人の命を弄ぶ。

それを行っていたであろうスカリエッティや、その研究を使っていた違法研究者たちへの怒りを彼女は感じていた。

 

「……1秒でも早く、止めねばなりませんね」

 

「ええ」

 

先へ足を進めようとする直前。

彼女たちのいるフロアを激しい揺れが襲う。

原因はすぐに判明した。

彼女たちのすぐ下の床が盛り上がり、そこからガジェットⅢ型が彼女たちに向けてアームを伸ばしていた。

すぐに飛び退いて回避しようとする二人だったが、シャッハが飛び退く直前、壁から飛び出してきた青髪の少女―――セインが彼女の身体に抱き付きその勢いのままさらに反対側の壁に飛び込んでいった。

 

「シスターッ!!」

 

(フェイト執務官、こちらは無事です、大丈夫。

 戦闘機人を一名、確認しました。

 この子を確保してからそちらに合流します)

 

フェイトはすぐさまⅢ型を二つに切り裂き、シャッハに通信を繋げる。

すると、返答はすぐに返ってきた。

安堵の息を吐くフェイトだったが、すぐに聞こえてきた手を叩く音に反応して振り返る。

 

「この区画に辿り着くまでの予想タイムよりも三分も早いとは。

 さすがだよ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」

 

そこいたのは、白衣を着た男。

このラボにいる人間で、傍らに二人の戦闘機人を連れているということと、彼女の頭なの中に記憶されている男の顔が一致した。

 

「ジェイル・スカリエッティ……ッ!」

 

「そうだ、私がジェイル・スカリエッティだ。

 以後、お見知りおきを」

 

恭しく一礼する男に対して、フェイトは警戒を強める。

 

「さて、こちらとしても君たちに話したいことが多くあるんだが……。

 お茶でもどうかな?」

 

「ふざけるな……ッ」

 

笑顔でそう誘うスカリエッティだったが、フェイトはその誘いを一蹴する。

 

「ふむ……。

 まぁ、私から出されたお茶など、普通なら飲むわけがないか。

 とりあえず、こちらも君たちに話しておきたいことがあるのだが?」

 

「ジェイル・スカリエッティ。

 貴方には逮捕状が出ている。

 話したいことなら、然るべき場所で話してもらう」

 

「こちらとしては、この場で直接話したいところだが……。

 致し方ないか……。 

 トーレ、セッテ」

 

「なんでしょうか」

 

スカリエッティが後ろの立っている二人に話しかけると、彼の左後方に立っていたトーレが彼に尋ねる。

 

「私はこの奥で最後の準備を進めておく。

 その間に、彼女の相手を。

 もちろん、全力でね」

 

「了解です」

 

トーレの返事に頷き、スカリエッティは通路の奥へ向かう。

そんな彼にフェイトは声を飛ばす。

 

「待て、スカリエッティッ!!」

 

「逃げる気はないよ。 

 私を捕まえたいのならば、そこの二人を倒してからにしたまえ」

 

スカリエッティは振り向きながらそうフェイトに投げかける。

 

「とはいえ、彼女たちの能力(ちから)は折り紙付きだ。

 君でも、本気を出さなければ負けるかもしれないねぇ」

 

「クッ……!」

 

彼の言葉にフェイトが苦虫を潰したような表情を浮かべるのを見て、スカリエッティは楽しそうに笑いながらドアの向こう側へ消えていった。

 

「そう言うことです、フェイトお嬢様」

 

「ドクターを捕まえるのならば、私たちを倒してから」

 

「……わかった。

 貴女たちを倒して、スカリエッティを捕らえる。

 バルディッシュ」

 

フェイトの声に続き、バルディッシュから薬莢が吐き出される。

高濃度のAMFの中で霧散していた魔力を補充するように、バルディッシュの刀身が一際輝く。

 

「それでこそですッ!!」

 

「ハァーッ!!」

 

飛び出すフェイトとトーレ。

トーレの援護のために、得物を構えるセッテ。

超高速の戦いの幕が、今切って落とされた。

 

 

 

阻止限界時間まであと―――二時間五分

 

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