ようやく試験のラッシュから解放されました。
それではどうぞ。
時間は少し遡る。
すべてを話し終えたスカリエッティは彼と、彼が潰してきた違法研究所の研究データをフェイトに渡した。
フェイトがデータの入ったメモリーをバルディッシュに収納するのを確認したスカリエッティは大きく息を吐いて口を開いた。
「これでもうやり残したことはない。
さぁ、私を連れて行ってもらおうかな」
スカリエッティはそう言いながら両手を前に出す。
「こういうものは形式とは言えちゃんとやっておくべきだろう?」
「……ジェイル・スカリエッティ。
貴方を大規模騒乱罪および諸々の罪で逮捕します」
フェイトは頷きながら彼の手に、バインドを仕掛ける。
金色の魔力の輪が彼の両手を拘束したのを確認したフェイトは外にいる別働隊へと連絡を入れる。
「こちらフェイト・T・ハラオウン執務官。
主犯のジェイル・スカリエッティの確保しました」
『了解です。
ですが、まだラボの外ではガジェットの多くがまだ稼動中でして戦闘が続いています。
必要はないかもしれませんが、ラボの内部にも稼働しているガジェットがいるかもしれません。
気を付けてください』
「了解、情報の提供ありがとうございます。
これからジェイル・スカリエッティを……」
移送します―――と続けようとしたフェイトだったが、彼女の声をラボの内部に響き渡る警報がかき消した。
「なんだッ!?」
「これは……ッ!!」
突然の警報に警戒を示すフェイトだったが、彼女のすぐそばに立っていたスカリエッティは驚愕に目を見開いていた。
「スカリエッティ、この警報はいったい!?」
「……すまない、ハラオウン執務官。
どうやら、私にはまだやらなければならないことがあったようだッ」
「なにを……!?」
彼の言葉に眉を顰めるフェイトだったが、次の瞬間、彼女の仕掛けたバインドを解除したスカリエッティはすぐさま壁際に設置されているモニターとパネルを起動させた。
「どういうことだ、いったい誰のが……ッ!!」
鍵盤型のパネルを、凄まじい速さで叩きながらモニターを凝視するスカリエッティ。
「何があった?」
「詳しく説明する暇はないが、簡単に言うと私の娘の誰かのリミッターが強制解除された」
「リミッター……?」
スカリエッティの言葉に首を傾げるフェイト。
そんな彼女に向けてスカリエッティはパネルを操作することをやめずに答える。
「機械の身体を手に入れた戦闘機人。
その身体は普通の人間より何倍も頑丈で強力だ。
だけど、いくら頑丈でもベースは人間。
生身の身体を持っているんだ。
機械としての100%の能力を発揮すれば、身体が持たない。
だから私は彼女たちにリミッターを掛けたんだ。
人としての身体を失わせることがないように」
ならば、なぜ彼女たちを戦闘機人として生み出したのか。
そんな言葉がフェイトの喉元まで出かかったが、一つの答えに辿り着いた彼女はその言葉を呑み込んだ。
「そうか、だからリミッターを……」
「君の思っている通りだよ。
彼女たちには、この騒動を終えた後は自由に生きてもらいたかった。
戦闘機人としてではなく、ただの人間として。
一人の弱い人としてね」
スカリエッティは、そう答えると、それ以降、フェイトのことなど気に掛けることなく目と手を動かした。
そして、ついに見つけた。
「ノーヴェ、君だったのか……ッ!
だが、なぜだ。
彼女のリミッターは最高のものをつけていたはずだ……ッ!!」
ラボの内部で彼と行動を共にしていた四人、ウーノ、トーレ、セイン、セッテ、それから身体の修復途中であるチンクを除いた戦闘機人のバイタルデータを一からチェックしていたスカリエッティは、四人目でリミッターが外れているのが、ノーヴェだと断定した。
戦闘機人としての能力がトップクラスの彼女には最高級のリミッターを仕込んでいた。
それが外れている。
リミッターの解除にはスカリエッティのみが把握しているコードを入力するしか方法はなかった。
「まさか……ッ」
原因を探る時間はなかったが、彼は一つの仮説に思い至った。
それは、ここ最近の彼女の様子がおかしいと気づいていたからこその結果だった。
「心の揺らぎが、リミッターを解除したとでも言うのか……ッ!?」
戦闘機人としての
その間を揺れ動いていた彼女の心は一つの鎖を引き千切った。
「スバルッ!!」
「あ、ちょ!!」
一方、スバルとノーヴェの戦いの近くにいたティアナは、膨大なエネルギー反応を感知すると、すぐさま駆け出した。
彼女によって拘束されていたウェンディはティアナが自分を放って走り去ったことに対して信じられないといった表情を浮かべていた。
「いや、スバルっちが心配なのはわかるけどさぁ……ん?」
『……ィ、聞こえるかい……。
ウェンディ……ッ!』
「はいはーい、こちらウェンディっすよ……ってドクターッ!?」
ティアナが走っていった方向をじっと見ていたウェンディは、スカリエッティからの突然の通信に驚く。
「突然どうしたんすか?
なんか今やばいことが起きてるみたいっすけど……」
『今すぐノーヴェの元に向かってほしい。
詳細は省くけど、ノーヴェが危ない!!』
困った顔でそう答えるウェンディだったが、スカリエッティの言葉に彼女の顔から笑みが消える。
ウェンディは一度大きく息を吸うと、両手を拘束していたティアナのバインドを力技で砕き、両手の自由を取り戻した。
「それで、どうすればいいっすか?」
『まずはスバル君たちと合流してくれ。
あとはその時に話す』
「了解っす」
ウェンディはスカリエッティからの通信を切ると、近くに立てかけていたライディングボードに乗ると、一気にトップスピードまで加速する。
「まったく、手のかかる姉っすね……ッ!」
「……ッ、ハッ……ッ!!」
「ウゥ……ッ、ス、バ……ル……ッ!」
ノーヴェに馬乗りにされ、首を締め上げられているスバルは、何度も意識を失いそうになるが、それを何とか防ぐ。
だが、彼の戦闘機人としての力をもってしても、今の彼女の両手を引きはがすことはできなかった。
「……ッ!!」
「ガァ……ッ!?」
だが、次の瞬間、ノーヴェの肩に何かが衝突する。
スバルには薄れている意識の中でそれが何かを確かめるほどの余裕がなかった。
それでも、これが彼女の拘束を解く最初で最後のチャンスだということは理解できた。
「……アァッ!!」
翠の瞳が、金色に輝く。
ノーヴェの力が一瞬弱まった瞬間、スバルの両手がノーヴェの手と首の間に隙間を作る。
開いた気道から新鮮な空気がスバルの身体に入る。
そして、さらにノーヴェの肩、腕、腰と、先ほどと同様に何かが衝突する。
その衝撃によってノーヴェの身体が揺らぎ、スバルはその隙に、彼女の身体を思いっきり蹴り飛ばした。
スバルはノーヴェの身体が地面と何度もぶつかり、反対側の壁に激突するのを見ながら、盛大に咳き込む。
「スバルッ!!」
「ガハ……ッ!
てぃ、ティアナ……?」
スバルは、スターキャリバーを駆って自分のもとに向かってくる彼女の姿を、涙でにじむ視界に捉えた。
ティアナはノーヴェと彼の間に塞がるように立つ。
「大丈夫なの!?」
「……まぁな。
戦闘機人の身体は伊達じゃない。
……来るぞッ!!」
スバルとティアナはノーヴェが自分たちの方へと向かっているのを見て、戦闘態勢に入る。
距離があるとはいえ、今の彼女のスピードなら彼らのもとに来るのは数秒だ。
その間に、スバルとティアナはアイコンタクトで作戦を伝え合っていた。
「落ち着くッすよ、ノーヴェッ!!」
だが、彼らのもとにノーヴェがたどり着くよりも先に、彼女の身体を遅れてきたウェンディがライディングボードで撥ね飛ばした。
「ちょ、あんた何やってんのよ!?」
「こっちにも事情があるッす。
とりあえず、あんたたちに話がしたいって。
その間、ノーヴェはこっちが抑えるから、早めにお願いするっすよ!!」
ウェンディはそう口早に告げると、一つのモニターを彼らの前に展開させ、すぐに立ち上がったノーヴェの元へと駆けていった。
そんな彼女の後姿を見ながら、スバルはモニターの中に映る男に話しかける。
「それで、あんたは俺たちに何をさせたいんだ?
ジェイル・スカリエッティ」
『単刀直入に言うとするよ。
ノーヴェを、私の娘を助けてほしい……』
「わかった。
それで、俺たちは何をすればいい?」
スカリエッティの懇願するような声で発せられたその言葉を聞いたスバルは、ティアナの方をチラリと見て、すぐに答えた。
画面の中のスカリエッティは、彼らの返答の速さに言葉を失っていた。
『そ、即答だね……。
先ほどまで、いや今でも私は君たちの敵対人物であることには変わりはないはずだ……。
それなのに……』
「あんた、馬鹿だろ。
誰かを助けるのに理由がいるのか?
そこに助けを求める人がいるなら、手を差し伸べる。
それが管理局だ」
スバルの言葉に、スカリエッティは目を見開き、そして静かに笑った。
『そうだね。
誰かを助けるのに、理由なんかいらない、か。
君の言う通りなのかもしれないな』
スカリエッティは一度頷くと、再び彼らに向けて言葉を投げかける。
『君たちには、彼女を止めてもらいたい。
スバル君なら、わかるかもしれないが、今のノーヴェは不安定な状態だ。
いや、暴走と言いかえた方がいいね』
「なんで私たちに頼むの?
あなたの自慢の娘たちでは止められないということはないはずよ?」
そう、いくらノーヴェが暴走状態であっても、スカリエッティの生み出した戦闘機人が数人でかかれば彼女を止めることは容易いとは言えないが、可能だ。
しかし……。
『今、君たちの周囲で戦闘可能な娘はウェンディだけなんだよ。
そのウェンディも、ノーヴェに比べれば戦闘機人としての力は一段も二段も劣る。
今この時間を稼ぐだけで精一杯のはずだ』
彼らの周囲で戦闘を行っていたのは、ノーヴェ、ウェンディ、オットー、ディードの四人。
そのうち、ノーヴェと
だが、オットーとディードはすでにギンガによって意識を刈り取られており、ウェンディだけが戦闘可能という状態だった。
「だから、俺たちに頼んだってことか。
それで、具体的な案は?」
『幸か不幸か、ノーヴェの暴走はまだ始まったばかりだ。
本来なら、意識がシステムに乗っ取られて、あんなふうに咆哮を上げることすらないはずだからね』
「つまり、彼女がシステムに抗っているってこと?」
『その通りだよ。
そこでだ、彼女の肉体を魔力ダメージでノックダウンしてほしい。
彼女の暴走の原因は肉体のリミッターが外れていることだ。
だから、肉体の許容を超えるダメージを受ければ強制的に肉体の能力をシャットダウンすることが可能なはずだ』
スカリエッティの言葉に、スバルとティアナは頷き、了承の意を示す。
「そうだ、あんたの近くにフェイトさんはいるか?」
『スバル?
どうしたの?』
スカリエッティはすぐに、そばに立っていたフェイトと場所を交代し、モニターにフェイトの顔が映る。
「いや、これからちょっと無茶するんで、なのはさんに謝るときに証人になってほしいかなと」
『無茶って……。
今度は何をする気なの……?』
「ぶっつけ本番で新しいクロスシフトの実践です」
「クゥ……ッ!!」
ノーヴェから繰り出される攻撃をライディングボードを使って何とか受け流すウェンディ。
彼女が、時間を稼ぐためにノーヴェとの戦闘に入ってすでに三分が経過していた。
もともと、後方支援を主な仕事とするウェンディが、暴走状態のノーヴェとこれだけの時間、やりあえていたことは軌跡に近い。
「やっぱ強いっすね……ッ!!
でも……ッ!!」
「うぇん……ディ……ッ!!」
「……ッ!?」
ウェンディがライディングボードの銃口を向けようとした直後、ノーヴェの蹴りがライディングボードを直撃する。
得物ごと吹き飛ばされるウェンディだったが、吹き飛ばされた直後に、彼女は体勢を整えるよりも先にライディングボードの銃口をノーヴェに向けた。
「もらいッス」
「……ッ!!」
ノーヴェがその場から飛び退くよりも先に、銃口から光が放たれた。
ノーヴェに向けて一直線に向かったそれはノーヴェの姿を呑み込み、周囲に煙を撒き散らす。
背中から地面にぶつかったウェンディは咳こみながら煙の方を見て、一言。
「やったっすか……!?」
だが、彼女の言葉とは裏腹に、煙の中からノーヴェが、身体中から蒸気を出しながら飛び出してきた。
背中から落ちた衝撃による痛みが抜けていないウェンディは咄嗟にライディングボードを盾にするが、ノーヴェが放った拳が、彼女の盾を砕き、彼女の身体を空中に打ち上げた。
「ガッ……!?」
「うぇん…ディッ!!」
身動きの取れない状態で、空中に打ち上げられたウェンディは、ノーヴェの追撃をすべてその身に受けた。
蹴り、拳、踵落としと続けざまに三連撃を受け、地面に叩き付けられる。
(あー、此処までっすかね……?)
叩き付けられた衝撃と、身体に蓄積したダメージによって薄れゆく意識の中、ウェンディはぼんやりと視界に映るノーヴェを見ながら来るであろう衝撃を覚悟していた。
だが、その衝撃は来ることはなかった。
「ゴメン、遅くなったわね」
「あとは俺たちに任せてくれ」
その代り、彼女の眼には、蒼と橙色の髪が映っていた。
「まったく、おそいっすよ……」
ウェンディは痛みを堪えながら、弱々しい声でそう答える。
「ティアナ、ウェンディを少し離れたところに移してくれ。
時間は稼ぐ」
「はぁ、わかったわよ。
目的は忘れないようにね」
スバルの言葉に従い、ティアナは倒れているウェンディを背負って彼女を運んでいった。
「……ノーヴェ」
「……ッ!!」
スバルが彼女の名前を呼ぶ。
その声に反応したノーヴェは、スバルに肉薄し、右の拳を突きだした。
だが、その拳をスバルは静かに受け止める。
「ゴメン、お前がそんなに悩んでるなんて俺にはわからなかった。
でもな……」
「……す、バル……ッ!」
「
お前が今苦しんでいる理由を」
動きを止められた右手を引きはがそうとするノーヴェだったが、スバルの手はそれを許さなかった。
彼女を離さないように、自分の言葉を届けるために。
「お前が自分のことに悩んでいることも……ッ!」
「……がッ……ッ!!」
ノーヴェの蹴りがスバルの横腹を貫く。
だが、それでもスバルは離さない。
「悪いが、俺はお前じゃないから、お前の悩みに答えを教えられるわけじゃない。
だけどよ……」
自分に迫る拳を、スバルはがっちりと掴む。
「一緒に悩むことはできるだろう?
だから、俺はお前と一緒に話をするために、俺はお前を助けるッ!!」
「スバ……ルッ……!!」
「お前はどうなんだ、ノーヴェ!
助けてほしいのか、ほしくないのか!?
お前の親父さんはお前を助けてくれって頭を下げてまで俺たちに頼んできたぞ!!
お前は、どうなんだ、ノーヴェ!!」
スバルはそう言いながら目の前のノーヴェの顔に自分の顔を突きつけ、彼女の眼を見つめる。
「……わ、たし……ハ……ッ!
まだ……し…にたく……ない……ッ!
助け……て、……ッ!!」
彼の瞳には、真っ赤に染まった瞳から涙を流しながら助けを求める一人の少女が映っていた。
「わかった、助けるさ。
これからも俺たちが、いつでも助けてやる。
だから、少し我慢しろよ……ッ!!」
スバルは、両手に力を込める。
先ほどの蹴りの痛みがまだ身体に残っているが、それを堪えながらノーヴェを投げ飛ばした。
それほどの勢いをつけて投げたわけではないため、ノーヴェは空中で体勢を整えて着地する。
「話は終わった?」
「あぁ、しっかりと聞いた。
助けてってよ」
ノーヴェが着地した直後、ウェンディを安全な場所まで運んでいったティアナが戻ってくる。
スバルの返答に「そう」と短く相槌を打つティアナ。
「クロスシフトRS、行けるか?」
「ぶっつけだけど、やるしかないでしょう?
それに、私を誰だと思ってるのよ。
スバル・ナカジマのバディ、ティアナ・ランスターよ。
この程度、やってのけないとね」
「そうだったな。
それじゃ、行くか」
「えぇ」
スバルとティアナは互いに頷きそれぞれの愛機に命令を飛ばす。
「「フルドライブッ!!」」
『『Standby ready』』
二人の身体から、蓄えられていた魔力が溢れ出す。
マッハキャリバーから蒸気が噴き出し、スターキャリバーに装備された
「ギア……」
「モード……」
「「エクセリオンッ!!」」
二人の声が、響き渡った。
スカリエッティは、人としての死、つまりただの殺戮マシーンになるのを防ぐために彼女たちにリミッターを取り付けていました。
ノーヴェの暴走はシステム的なものとも言えるし、感情の暴走ともいえるものです。
とりあえず年末までにティアナルート完結させたいと思っていますけど、いろいろと予定入ってくるからなぁ……。
あと少しで終わりますけどね。
それではまた次回!