それではどうぞ!!
新暦77年
ミッドチルダを震撼させたJS事件から三年。
とある民家の一室で彼女は目覚めた。
「あぁっ!!
寝坊したッ!!
おい、ウェンディッ、起きろッ!!」
「ん~?
なんすか、朝から大声出して……」
「バカ、お前時計見てみろッ!!」
「……あわわッ!
寝坊っすッ!!
なんで起こしてくれなかったんすか!?」
「昨日目覚ましセットしたのはお前だろうがッ!!」
「そこはノーヴェも確認しておいてほしかったっすッ!!」
「朝から騒がしいな……」
一家の大黒柱であるゲンヤは二階でドタバタしている娘たちに呆れてため息を吐いていた。
「あら、いいじゃないの、にぎやかで。
私は楽しいからいいけど?
ギンガは寝坊なんてしないし、スバルはしばらく帰ってこないからちょっとぐらい騒がしいぐらいがちょうどいいと思うわよ?」
そう言いながらキッチンから出てきたのは、二年前に意識を取り戻したゲンヤの妻で、ギンガとスバルの母親のクイントだった。
意識を取り戻し、リハビリを終えた後彼女は管理局には復帰しなかった。
流石に十年近く寝たきりと言っていい状態だったため、彼女自身が戻るのを望まなかったのである。
今では家を守る専業主婦として、近所のママさんたちとの交流を深めているところだ。
「まぁな。
そうだ、チンク、ディエチ、学校の方はどうだ?」
嬉しそうに語るクイントに苦笑しながらゲンヤは自分の前で朝食を口にしていたチンクとディエチに尋ねる。
「はい、特に問題は……」
「そうじゃなくて、友達とかはできたのか?」
「えぇ、まぁ……。
少々うっかり癖のあるやつが一人……」
「ほう、また面白そうな奴と絡んでるんだな。
大事にしろよ?」
「はい」
ゲンヤはチンクの返事にウンウンと頷きながら、彼女の隣に座るディエチに視線を向けた。
「ディエチの方はどうだ?」
「一人で機動兵器作り上げようとしてるのが一人。
私と話が合うのがいるなんて思いもしなかったから、よかった」
「そ、そうか……」
ディエチの言ったことに頬を引き攣らせるゲンヤ。
彼は管理局では質量兵器の開発や使用を禁じられている中で機動兵器を製作する学生がいることに驚愕していた。
ちなみに、JS事件の後、保護プログラムを終えたチンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディはナカジマ家に引き取られていた。
スバルは姉が二人に妹が二人増えたことに言葉を失っていたが、最近では姉弟仲は良好なようだった。
そして、チンクとディエチにはスカリエッティがリミッターを最大まで引き上げ、彼女たちが戦闘機人としての力を容易には引き出せないようにした。
今では彼女たちは普通の学生として生活している。
チンクは魔法関係の学校に、ディエチは技術関係の学校。
そして、ノーヴェとウェンディはその力で他人を助ける仕事をしたいという思いから、救助隊の訓練校に通っていた。
「みんなおはよう!
行ってきますッ!!」
「あぁッ!
ノーヴェ待つッすよッ!!
行ってきまーすッ!!」
準備を終えたノーヴェとウェンディは、二階から駆け降りてきてすぐに朝食である食パンを口に咥えて外に飛び出していった。
「まったく、少しは落ち着きというものをだな……」
「まぁまぁ、いいじゃないの。
それよりも、確か今日だったわよね?」
「えぇ、きっと驚くでしょうね」
「絶対に驚く」
「八神部隊長補佐」
「ん?」
特務一課が再結成されて一年半。
その隊舎で彼女―――八神はやて一等陸佐は、自分の名前を呼ぶ声に振り向き、そしてその顔に笑みを浮かべた。
「あぁ、トーレ。
どないしたん?」
「いえ、報告書の提出をと思いまして。
今は大丈夫でしょうか?」
彼女の後ろに立っていたのは、かつて戦闘機人のNo.3としてはやての率いていた機動六課と戦っていたトーレだった。
今では、彼女も管理局の制服を身に纏って、地上の治安を守る一員として働いていた。
「今回の研究所はどんな場所だったんや?」
「詳細は不明ですが、人体実験を行っていた研究所だったようです。
すでにデータなどは消去されており、手がかりもほとんどありませんでした。
今は第三小隊と調査チームが施設の調査を行っています」
「そうか、わかった。
あとは私が部隊長に渡しとくから、トーレはもう休んでええよ?
確かこの後は休暇やったよね?」
「えぇ、セッテと一緒に別の世界で少し腕試ししてきますよ」
トーレの嬉しそうな笑顔にはやては苦笑しながら答える。
「もう、しっかりと休まなあかんのに。
トーレも立派な
「もともと、戦うのが主任務だったので、そう言う性格にもなります。
本来なら、シグナム殿と一戦やりたかったのですが、生憎休みが合わずに……」
「あぁ、だからこの間シグナム、元気なかったんやな……。
まぁええわ。
あまり意味ないかもしれんけど、気をつけてな」
「はい。
では、失礼します」
トーレは見本ともいえる見事な敬礼を彼女に向けて、去っていった。
そんな彼女の背中を見ながらはやては一言。
「どんな場所にも、あんな人はいるもんやなぁ……」
「はやてちゃーん!」
「お、リインやないか。
なにかあったんか?」
「部隊長がお呼びですよ?
早く行かないとまたお説教ですぅ」
「そらまずいな。
ほな、はよう行こうか」
「ねぇ、ヴィヴィオ、私へんじゃないかな?」
「ちょっとは落ち着こうよ、なのはママ……」
とある場所で、なのはとヴィヴィオはある人物を待ち合わせていた。
だが、その待ち人が来るまでなのはは何度も自分の服装を確認しては隣にいるヴィヴィオに尋ねるという行為を繰り返していた。
普段とは違い、まったく落ち着きがない母親にヴィヴィオは呆れながら答えていた。
「なのはー!」
「あ……ッ!」
その時、なのはたちの待ち人がやってきた。
メガネをかけた好青年―――なのはの魔法の師匠であり、彼女が好意を抱いている人物、ユーノ・スクライア。
ユーノは駆け足で彼女たちの元まで来ると、なのはに話しかける。
「ゴメン、少し遅れちゃった」
「ううん、こっちもさっき来たところだから」
「ホントは三十分くらい前からだけど(ボソ……」
デートの定番のセリフを言ったユーノとなのはだったが、彼女の隣にいるヴィヴィオは小声でそう呟いた。
「ヴィヴィオも久しぶり」
「久しぶりです、ユーノさん!
あ、それとも、ユーノパパって言った方がいいですか?」
「ちょ、ヴィヴィオッ!?」
「アハハ、パパはまだ早いかな~」
「
テンパるなのはと、冷静に答えるユーノ。
そして、ユーノの言葉に脈ありだと勘づくヴィヴィオ。
どこか変わった三人組は、そのまま目の前にある門を潜った。
「ここって、最近有名になった遊園地だよね?」
「うん、なんでもちょっと前までは閉園の危機にあったらしいけど、いろいろやって持ち直したんだって。
この前エリオ君とルーテシアと一緒に来たキャロが『面白かったですよ』って言ってたから」
「へぇ……。
あ、そう言えばスバル、合格したんだってね?
おめでとうって言っておいてくれないかな?
よく無限書庫に来てて、話したんだけど連絡先聞くの忘れちゃってさ」
「あぁ、そう言えば今日からだったね、スバルお兄ちゃんの新しい仕事」
「そうか、ティアナ、ビックリするだろうなぁ」
時空管理局、本局。
その通路で、その二人は並んで歩いていた。
「さてと、今日からはもうティアナも執務官。
いろいろ大変だろうけど、頑張ってね」
「はい、今までありがとうございました!
これからも、お世話になるかもしれないけれど、よろしくお願いします」
二人―――フェイト・T・ハラオウンと、ティアナ・ランスター。
並んで歩いている二人の着ている服装は、黒の制服。
執務官を表す唯一のもの。
だが、フェイトは着慣れた雰囲気だが、ティアナに関してはまだ制服に着られているという感じだった。
「うん、何か大きな事件の時は一緒になるかもしれないから、その時はよろしくね」
「そんなことはない方がいいんですけどね」
フェイトの言葉に、ティアナは苦笑しながらそう答える。
機動六課が解散して二年。
ティアナは、執務官補佐として、フェイトとともに様々な世界での仕事をこなしていた。
そして、難関と言われる執務官の試験を突破したティアナは、今日、晴れて新米の執務官として任官することになったのだった。
「それもそうだね。
あ、それと、もう一つ」
「……?
なんですか?」
思い出したかのように手を合わせるフェイトにティアナは首を傾げた。
「ティアナも、執務官補佐やっててわかったかもしれないけど、執務官には最低一人は補佐がいるの。
だけど、ティアナにはまだいないから、私の知り合いに頼んでおいたから」
「え……?」
「大丈夫、ティアナも知ってる人だし、補佐官の試験も満点で合格した優秀な人だから。
それじゃ、執務官としての仕事、頑張ってね!!」
「え、ちょ、フェイトさん……!?
行っちゃった……」
足早にその場を去っていったフェイトの背中にティアナは、手を伸ばしかけるがすでにその時にはフェイトの身体は離れていた。
仕方ない、と肩を落としながら彼女は自分に与えられた部屋に入った。
それからしばらくして、彼女の部屋の呼び鈴が鳴った。
「あら、もう来たのかしらね」
『そのようです』
ティアナの言葉に、デスクの上におかれたクロスミラージュが言葉短く返答する。
「どうぞ」
「失礼します」
聞こえてきたのは、青年の声。
初対面の人物、それも優秀な成績で補佐官になったとフェイトから聞かされていたティアナは軽く姿勢を正して中へ入るように促した。
そして、その人物が入ってきたと同時に、彼女の頭の中は真っ白になった。
「本日付けで、ティアナ・ランスター執務官の補佐官となりました、スバル・ナカジマです。
これからよろしくお願いします」
「な、な、な……ッ!!」
青年―――スバルは部屋に入ると、見事な敬語でティアナにそう告げた。
対するティアナは、しばらくぶりに見た愛する人がここにいるという事実を未だに信じられていなかった。
「あ、あんた、スバルッ!!
な、なんで!?」
「なんでって、俺がお前の補佐官だからだよ。
ほら、補佐官のバッチもあるぞ?」
デスクから立ち上がり、スバルのもとに詰め寄るティアナ。
この一年近く、ティアナは補佐官として、また執務官を目指すための勉強で忙しく、スバルもまた彼女とはあまり連絡を取らないようにしていた。
そして、一年という歳月は、スバルの身体を一回り大きく成長させた。
自分よりも高い場所にある彼の顔を見ながらティアナは、彼に詰め寄るが、スバルは制服の襟につけられた補佐官を示すバッチを見せる。
「それに、言っただろ?
俺の夢が決まったって」
「え……、あぁ、あの時ね」
「そうだよ、あの時のことだ。
俺の夢は、お前を隣で支えること。
俺の夢も、お前の夢も一緒に叶えた。
これからは、ずっと一緒だ」
スバルの言葉に、ティアナは目に涙を浮かべながらも笑顔で答えた。
「バカッ!」
「バカで結構。
お前と一緒にいられるなら、バカになってやるさ」
二人は、仕事場だというのを忘れ、互いの背に腕を回した。
二人の影が一つになるのを、二人の愛機は、静かに見守っていた。
これが、後の時代に、管理局の英雄と呼ばれるほどのコンビとなるティアナ・ランスター執務官とスバル・ナカジマ執務官補佐の始まり。
二人は公私に渡り、互いのことを支え、時には言い争いながらも、後の世を駆け抜けていった。
これにて、本編の直系の話は終わりです。
あとは番外編を数話やった後にノーヴェルートに移行します。
それではまた次回!!