あっという間に一年が過ぎていきました(笑)。
今年もきっとそうなんだろうな……
さて、ノーヴェルート第一話、始まります!
夜の海岸で、スバルは不意に鳴った携帯端末の画面を見る。
「非通知……?」
そこに映っていた電話番号は、彼の端末に登録されていないものだった。
その覚えのない番号にスバルは首を傾げながらも通話ボタンを押す。
「はい、もしもし?」
『あ、あたしだ。
この間、道を尋ねた。
スバル・ナカジマ……の番号であってるんだよな……?』
端末から聞こえてきた遠慮がちな声を聞き、スバルは以前街で出会った少女の顔を思い出していた。
「あぁ、確かに俺がスバルだ。
それで?
何かあったのか?」
『別にようはないけど……。
まだちゃんとした礼をしてなかったから』
「礼……?
この間お礼は言われた記憶があるけど……」
『あれは言葉だけだろ。
それじゃこっちの気が済まないんだ』
真面目な奴だな……とスバルはそう思いながら苦笑する。
スバルは近くの芝生に座りながら、そうだなと考え、そして一番大事なことを思い出した。
「そうだ、一番大事なことを忘れてた」
『ん?
なんだ?』
「名前、教えてくれよ」
『あー、そう言えば言ってなかったな……』
スバルの言葉を聞いた少女もまた思い出したかのように呟く。
すると、少女は一度ため息を吐いて言葉を続けた。
『名前か……。
ノルンって呼んでくれ』
「ノルン……、うん。
いい名前じゃないか」
少女……ノルンの言葉にスバルは彼女の名前を小さく繰り返してそう返す。
彼の返答にノルンは声を上ずらせた。
『……それで?
名前を教えてくれってだけじゃないだろうな?』
「え?
俺はそれだけで十分だったんだが……」
『それじゃあたしの気が済まないって言ってるだろうが。
ほかになんかないのかよ?』
スバルは顎に手を当てて考え込む。
そして、一つの答えに行きついた。
「どうしてもって言うなら……。
これからもちょくちょく話し相手になってくれないか?」
『話し相手?
別にいいけど……、なんでだ?
別にお前相棒とかいないわけじゃないだろ?』
ノルンはスバルにそう尋ねる。
彼女の問いにスバルは苦笑しながら答える。
「相棒だからこそ、話せないこともあるんだよ。
まぁ、管理局のことを話すのがダメなこともあるけど……」
『そこは仕方ないだろ。
まぁ、話し相手ってのは別にいいけど。
お前はそれでいいのかよ?』
「だからいいって。
時間は……そうだな。
今と同じくらいなら仕事も終わってるからいいか。
というわけで、よろしくなノルン」
『勝手に決めるなよ。
まぁこっちも別にその時間は空いてるからいいけど……』
そうして、彼らの奇妙な関係は始まりを告げた。
「話し相手……か」
ノルン―――ノーヴェは手に持った端末の画面に映る番号を見ながら小さくため息を吐く。
「何やってるんだろうな、あたしは……」
本来、あり得るはずのなかった関係。
それを自分から繋ぎ止めることになるとは思っていなかったノーヴェは、自分の中でそれも悪くないかと思っていることを不思議に思っていた。
「なんであんなこと言ったんだか……」
そう言いながらも、彼女の顔には微笑みが浮かんでいた。
それから、彼らはそれなりの回数の会話を続けていた。
曰く、訓練が大変.
曰く、姉の悪戯がシャレにならない。
曰く、相棒の訓練の密度が異常。
曰く、父親の作った発明品が暴走した。
曰く、同僚のヘリパイロットの妹自慢が長い。
曰く、父親が研究していたものが爆発した、等々。
色々なことを話し、彼らは互いのことをそれなりに理解し始めていた。
「あー、ノルン?
朝早くに悪いけど、今日は何か予定あるか?」
『ん?
急にどうしたんだ?
別に予定はないけど……』
二人が文通ならぬ電通の関係になって十数日後、スバルは恐る恐るノルンにそう尋ねた。
早朝訓練を終えた彼ら新人達に対して、ホテルアグスタ以降初めての全日休養が与えられたのだ。
そこで彼はノルンとあって話がしたいと考え、彼女に電話したということだった。
彼の言い方を疑問に思いながらもノルンは予定はないと答え、その答えに対してスバルはほっと安堵の息を吐いた。
「いや、しばらく休みがなかったってことでオールで休みが入ったんだよ。
だからさ……その……、久しぶりに会って話さないかって思ったんだが……」
『別にいいけど……』
「いいのか!?
よし、じゃあそうだな……、十一時頃に駅前で!」
『お、おう。
なんか嬉しそうだな、お前』
「そりゃ、いつも声だけの相手と顔合わせて話すんだ。
楽しみに決まってるだろ?
それじゃ、十一時にな」
『あぁ。
それじゃ』
ノルンとの約束をつけたスバルは、訓練後の疲れなど吹き飛んだかのような表情で隊舎へと戻っていった。
そんな彼の後ろ姿を見ていたエリオとフリードが首を傾げているとも知らずに。
「……どうする」
その時、ノーヴェもまた彼女なりに悩んでいた。
彼女たちナンバーズに対して、スカリエッティは特に生活に対しての制限を設けてはいなかった。
そのため、彼女たちの中には普通の人間としての生活というものに対しても理解のある者が多かった。
そして、ノーヴェもその一人だった。
彼女とて、戦闘機人とはいえ一人の少女だ。
普通の服を着たりするし、女性向けの雑誌を読んだりもする。
そのため、彼女は今非常に悩ましい問題に直面していた。
「どれを着ていけばいい……?」
ノーヴェは自室のクローゼットの中に並ぶ服を見ながらそう呟いた。
クローゼットの中には、彼女が自分で買った服や、彼女の姉妹が買ってくれた服が並んでいた。
そこで彼女は今回、どの服を着ていくかについて悩んでいたのだった。
「ふつうの服で行くべきか……。
いやでも、この間読んだ雑誌には『意中の男性を喜ばせるにはギャップも必要』って書いてあったし……。
いや、そもそもなんであいつが意中の男性に分類してるんだあたしは……。
いっそのことウェンディに頼む……いや、あいつのことだ。
きっと面白がってついてくるにちがいない……」
クローゼットの中からいくつもの服を取り出して、鏡の前で自分の前にかざしては別のものと取り換えたりと忙しなくやっている最中にも考え事を止めないというのは流石と言うべきかなんというべきか。
「何をそんなに悩んでいるのだ、ノーヴェ?」
「ウォわぁっ!?」
だが、そんな状態では、自室の中に姉であるチンクが入ってきていたことに気づくことはできなかった。
突然声をかけられたノーヴェは手に持っていた服を落としながら声を上げた。
「そ、そんなに驚くことか?」
「い、いや……。
でも、チンク姉、どうして?」
「いや、お前の部屋を通りかかったら変な声が聞こえたからな。
少し気になったんだ。
それよりも、ノーヴェ。
どこかに出かけるのか?」
服が散らばっている部屋を見てチンクはノーヴェにそう尋ねた。
尊敬する姉である彼女から尋ねられたノーヴェに答えないという選択肢はなかった。
「なるほど、以前お前が言っていた文通相手と会うことになったが、どの服を着ていけばいいのかわからない、ということだな」
「う、うん……」
「ならば姉に任せておけ」
「は?」
チンクの自信たっぷりな声と表情を見て、ノーヴェは間の抜けた声を上げる。
そんな彼女にチンクは笑みを浮かべながら答える。
「何、妹の服装選びを手伝ってやろうと思っただけだ。
心配するな、他の皆には黙っておいてやる」
「え、ちょ、チンク姉?」
「さーて、どの服からいこうか……。
これか?
あ、これもいいな……」
「……」
嬉々としてノーヴェの服を選び始めたチンクを見て、彼女は諦めの表情を浮かべるしかなかった。
ノーヴェルート第一話でした。
さて、文通というどこの絶滅危惧種!?という関係から始まった彼らの仲。
二人とも自覚はないですけど、相手のことを意識しているというところです。
ちょいと無理やりかもしれませんが、ご了承ください。
ノーヴェルートなんですが、ティアナルートよりも短いのは確実です。
もともとこの話はティアナルートのみのもので、ノーヴェルートは読者の皆さんの中から一番要望が多かったために創りだしたものです。
ですので、恐らく十話程度かそれ以下の話数で終わるかもしれません。
それでも、という方はお付き合いください。
それではまた次回!