申し訳ありません。
それではどうぞ!
吹き荒れるエネルギーの流れを感じたチンクは、その異様な光景に目を奪われていた。
彼女の中で、目の前の、紅く光る瞳の少年は彼女がデータで知っていた彼とは違う。
彼と同じだが、まったく違うものをスバルから感じていた。
「まずいな……」
この時、彼女の頭には撤退という選択肢が浮かび上がっていた。
だが、彼女がその決断を下すよりも早く目の前の
「チィ……ッ、ノーヴェ!?」
向かってくるスバルに向けて取り出したナイフを投げつけようとしたチンクだったが、彼女の傍を駆け抜けるようにしてノーヴェが前に出たために投擲の瞬間が遅れる。
「――ッ!!」
『――――――ッ!!!』
ノーヴェは右手でスバルの顔に目掛けて拳を振るった。
だが、それをスバルは容易く受け止める。
「ちぃッ!!」
ノーヴェは受け止められた拳を引こうとするが、スバルの手はそれを許さなかった。
引きはがそうとしても微動だにしないことに驚きながらもノーヴェは彼の顔に目掛けて蹴りを放つ。
「どうだ―――ッ!?」
蹴りに対して、スバルは何のアクションも起こさなかった。
防ぐものもない蹴りはスバルの側頭部を直撃する。
しっかりとした手ごたえを感じたノーヴェだったが、何ともなかったように立つスバルを見てその顔が驚きに染まった。
『―――――――――ッ!!!』
「―――――ァッ!?」
そして、彼の瞳がノーヴェの目に映ると、彼女は理解した。
彼の目に浮かぶ感情のすべてが。
怒りや悲しみといった負の感情、虚無。
それが、自分のやってきたことだと、お前がこうしたんだ、と彼女に突きつけてきた。
ノーヴェは、瞳から目を逸らそうとした瞬間、スバルは彼女の腕を掴みとり彼女の身体を二度、三度と地面に叩き付けた。
叩き付けられるたびに、彼女の身体を走る痛みを感じたノーヴェは、彼が受けた痛みはこれ以上なのだとわかってしまった。
薄れる意識の中、スバルに掴まれた反対側の手は、握りしめられることはなかった。
「ノーヴェッ!!」
「ノーヴェを巻き込むかもしれんが、四の五の言ってられんかッ!!
IS発動、ランブルデトネイターッ!!」
ノーヴェ前に出たことでスティンガーを投擲することが出来ないでいたちんくだったが、そのノーヴェがスバルによって破壊されるかもしれないという最悪の状況を防ぐために手に持ったスティンガーを放った。
投げられたナイフは、ノーヴェを叩き付けようとしていたスバルの背後で爆発を起こす。
スティンガーを察知していたスバルはノーヴェを素早く投げ飛ばし、その場から離れたため、爆発には巻き込まれなかったが、ノーヴェの回収という目的は果たした。
「ウェンディ、お前はノーヴェを連れて撤退しろ」
「了解っす。
チンク姉は、どうするっすか?」
回収したノーヴェを肩に担ぎながらウェンディは姉に尋ねる。
彼女の問いにチンクは背中を向けながら答える。
「私は、あれの足止めをする。
何、以前にも同じものとやったことはある。
心配するな」
「わかったっす。
気を付けてくださいっすよ。
IS発動、エリアルレイヴッ!!」
ウェンディがライディングボードに乗って浮かび上がった瞬間、スバルが彼女に向けて駆けだした。
だが、彼の攻撃範囲にウェンディが入る前に、スバルの目の前にナイフが現れ即座に爆発する。
先ほどと違い、不意を突かれたスバルは爆発によって吹き飛ばされるが、即座に体勢を整える。
その動きは野生のケモノを彷彿とさせる動きだった。
スバルは邪魔をされた獣のようにチンクにその視線を向ける。
そんな彼を見てチンクは自分の中にある、一つのプログラムを起動させた。
「すまないが、お前を行かせるわけにはいかない。
ここで足止めをさせてもらう」
『――――ッ!!』
チンクが両手の指に三本ずつスティンガーを呼び出しスバルに向けて放つ。
六本のスティンガーはスバルの周囲に突き刺さり、彼を六方からの爆発で覆い尽くした。
だが、スバルは爆発の中を突っ切ってチンクに向けて飛び出してくる。
『―――――ッ!!』
「ハァッ……!」
スバルが振りかぶった拳が彼女に触れる直前に高周波振動を発生させたことをチンクの左目に埋め込まれているセンサーが捉える。
そして、その拳が彼女に触れる瞬間、チンクはその拳を一瞬だけ触れて、その力の流れに逆らわずに彼の身体を彼女の背後の壁に叩き付けた。
「ッ!?」
スバルを壁に叩き付けたチンクだったが、彼女の脳内では身体に起きた不具合を痛みとして彼女に伝えていた。
「やはり、オリジナルは違うということか……ッ!」
一瞬の接触で、彼女の身体の骨ともいえるフレームに僅かな歪みが生じたことにチンクは舌打ちをしながらそう呟いた。
叩き付けられた衝撃から立ち直ったスバルはすでにチンクのことを
「まったく、厄介な……」
そんな彼を見ながらチンクは左手から伝わる違和感を無視して、その手にスティンガーを握らせた。
まずは目の前の脅威を自力で何とかする。
そうしなければ、妹たちとの再会など無理だと彼女は感じていた。
「ハァ……ハァ……」
ドゥーエは非常灯がぼんやりと照らし出す通路の壁にその背中を預けて、乱れた息を整えていた。
「まったく、あんなのが出てくるなんて、思ってもいなかった。
やってくれたわね、あの脳味噌だけの老人たちも……!」
ドゥーエは先ほど始末した最後の最高評議会の脳味噌のことを思い出しながら不機嫌そうに呟いた。
彼女の固有武装『ピアッシングネイル』を嵌めたままの右手は、不自然に垂れ下がった左手を押さえていた。
「まさか、タイプ・ジエンドがここで出てくるなんて……ッ」
彼女もまた、スカリエッティからその存在は知らされていた。
それでも、諜報活動がメインの自分が相対するなどとは思ってもいなかった。
「……ッ!!」
一息つこうとしたドゥーエだったが、彼女の中にある人としての脳が彼女の身体をその場から飛び退かせた。
その直後、彼女が今までいた場所の丁度真上から、天井を撃ちぬいてそれは降りてきた。
「タイプ・ジエンド……ッ!」
ドゥーエはすぐにでも動けるように構えながら、目の前の存在を睨みつける。
深い海のような蒼色の髪、光を宿さない漆黒の眼。
その瞳を見た瞬間、彼女は目の前の存在が自分にとっての天敵だということを直感で感じ取る。
資料などは関係なく、彼女の中の生物としての部分がそう叫んでいた。
『戦闘機人No.2、ドゥーエ、確認。
破壊する』
「…………ッ!!」
機械的な感情などまったくこもっていない声が聞こえた直後、ジエンドの拳がドゥーエに向けて放たれていた。
ドゥーエはその拳を大きく背を反ることで躱した。
元々、諜報活動をメインとする彼女がその一撃を避けることができたのは奇跡に等しかった。
だが、それでも彼女はスカリエッティが生み出した戦闘機人の一人だ。
逸らした身体をそのまま後ろに倒し、動く右手を床に当ててその身体をさらに後方に飛ばした。
「ガハ……ッ!?」
だが、その動きすらもジエンドはついてきた。
後方に大きく飛び去ったドゥーエの身体を蹴り飛ばしたのだった。
その速度は彼女の想定をはるかに超えていたということに他ならなかった。
蹴り飛ばされたドゥーエは壁に叩き付けられ、その場に崩れ落ちる。
闇に堕ちそうになる意識をどうにか保ち、立ち上がろうとするが身体中に走った激痛が未だに残っていた。
そんな彼女に向けてジエンドは駆け出し、そして……
『炎熱加速ッ』
「デヤァッ!!」
反対側の壁まで吹き飛ばされた。
自分に迫っていた死の気配が途切れたことを不思議に思ったドゥーエは視線を上げ、そして目の前にいるはずのない人物に驚きの表情を浮かべた。
「騎士、ゼスト……!?」
ドゥーエは目の前に立つ男の名を口にした。
彼女が驚くのも無理はなかった。
目の前の男は、スカリエッティによって甦らされたが、彼のことを心底嫌悪していたはず。
そんな彼が、彼が創りだした自分を助けるなど夢にも思っていなかった。
「どう、して……?」
「スカリエッティに頼み込まれたからな」
『娘を助けてくれって言われたら、断れねえよ。
断れば騎士の名が廃るってな』
ドゥーエの問いにゼストと彼とユニゾンしているアギトはそう答えた。
ドゥーエの危機を知ったスカリエッティは、彼らに助けを求めたのだった。
犯罪者としての協力ではなく、一人の娘を助けてほしいという父親として。
「掴まれ。
奴もまたすぐに立ち直る。
この場から立ち去るぞ」
「は、はい……!」
ドゥーエは差し出されたその手を右手でしっかりと掴み、何とか立ち上がった。
その後、彼女を先に行かせたゼストは奥の壁に叩き付けたジエンドが立ち上がるのを見て、その槍を振るった。
その日、ミッドチルダ郊外の廃棄都市区画から一つのビルが消えた。
ノーヴェルート第六話でした。
お久しぶりです。
一月最後の更新から約一か月、何の音沙汰も無しにすみませんでした。
一応、言い訳としては、作者は大学生なので、暇なときは暇なんですけど、今回冬休み明け二週間で期末試験というおかしなスケジュールになってまして、とてもじゃないけど執筆してる余裕がなかったのです。
ですが、その期末試験も先日終了しましたので、一か月も待たせることはありません、多分(オイ
さて、今回は暴走スバルとノーヴェ、チンクの戦闘、ジエンドとドゥーエのシーンというわけでしたが……。
長い間書いてなかったため、少し短いです、はい。
後日加筆するかもしれません。
補足として、チンクがスバルを投げ飛ばしたのは合気道モドキです。
相手の力を利用して相手を倒すということです。
チンクは以前にもジエンドのプロトタイプと戦ってますから、スバルにもそれを応用したというわけです。
まぁ、それでもオリジナルであるスバルの能力が彼女の想定を超えていたために彼女の身体にも不具合が出ましたけどね。