理由はあとがきにて。
それではどうぞ。
ノーヴェを担ぎながら通路を駆け抜けるウェンディは、その姉の意識が戻り始めているのに気付いた。
「うぅ……!」
「―――ッ、ノーヴェ。
気づいたッすか?」
「ウェンディ……?」
ウェンディは彼女に向けてそう尋ねる。
ウェンディに担がれた状態で目覚めたノーヴェは周囲を見回し、そして、チンクがいないことに気づいた。
「ウェンディ、チンク姉は!?」
「スバルの足止めに残ったっすよ」
「そんな……!
チンク姉……ッ!?」
ウェンディの言葉を聞いたノーヴェは身体を動かしてウェンディから離れようとするが、右腕を中心に身体中から不具合を示す痛みが彼女を襲った。
「ちょ、無茶しちゃダメっすよ、ノーヴェ!!
右腕は完全に機能停止してるし、全力で壁に叩き付けられた衝撃で基礎フレームにも歪みが出てるんっすから!!」
「でも、チンク姉が!!」
「セイン姉に頼んで助けに行ってもらってるっす。
私たちは先に戻るッすよ!
今のノーヴェが行っても邪魔になるだけっす!」
「――――ッ!!」
ウェンディの言葉がノーヴェの胸に突き刺さる。
だが、ノーヴェの頭の中は最後に見たスバルの真っ赤に染まった瞳でいっぱいだった。
「悪い、ウェンディ」
「え、ちょ、ノーヴェッ!?」
ノーヴェはそう言って、進行方向とは逆向き……スバルとチンクが戦っているであろう場所に向けて駆け出した。
彼女の背中から彼女の名前を呼ぶ声が聞こえるが、ノーヴェはそれを無視した。
スバルとチンク。
ノーヴェにとって大切な二人が戦うのは、耐えられないことだった。
フリードに乗って地上本部から機動六課に戻ったエリオとキャロの目には、変わり果てた六課の隊舎が映っていた。
闇に染まった空を明るく照らし出す炎に、機動六課の隊舎は包まれていた。
そして、彼は視界に一つの影を捕らえる。
「あれは……ッ!!」
「……ッ、フリードッ!!」
夜空の中を駆け抜けていく一機のガジェットⅡ型。
その上に乗った長髪の少女に抱えられた少女、ヴィヴィオ。
その姿を見たエリオは即座にストラーダを構えて、
―――いいか、エリオ。戦闘ってのは頭を使うのがふつうだ―――
構えたストラーダからカートリッジが排出され、推進力としての焔が噴き出す。
彼の動きを察知した召喚虫―――ガリューがⅡ型の上から飛び出し、彼を海へと叩き落とそうとその刃を振り下ろした。
―――だけどな、そうじゃないときもある。時には考えるよりも先に身体を張ってやらないといけないときもある。それを見誤るなよ?―――
自然に身体が動いた。
エリオはその胸に怒りを感じながらも頭の中では、ひどく静かに兄貴分である青年から教えられたことを思い出していた。
そして、その視線は自分に迫る刃をしっかりと捉えていた。
「デェェイッ!!」
「――――ッ!?」
エリオはその刃の間合いを見きり、ストラーダの軌道を無理やり変え、そのエネルギーのすべてをガリューに叩き付けた。
少年一人を空に飛ばすほどの推進力を持ったもののエネルギーとさらにガリュー自身の速度も相まって、その衝撃は凄まじいものとなった。
ガリューを叩き落としたエリオはさらにガジェットⅡ型を追おうとしたが、背後に現れた気配を感じ取りストラーダで身体を庇うように構えた。
「いい反応です」
エリオの背後を取った彼女―――戦闘機人No.12、ディードは両手に持った固有装備『ツインブレイズ』を上段から振り下ろした。
振り下ろされた双剣は、ストラーダを真っ二つに叩き切り、彼の身体を海中に叩き落とそうとした。
「―――?」
だが、彼の身体は双剣に叩き落されることなく、その場から消え去った。
ディードはすぐに周囲を見渡し、彼の存在の有無を確かめようとしたが、その直後、彼女の周囲を桃色の魔法陣が取り囲み彼女に向けて火炎弾を放った。
「これは……!」
火炎弾を切り裂きながら回避するディードは、六課の隊舎の方に残っているであろうオットーに通信を飛ばした。
「オットー、そっちに召喚士がいる。
排除して」
『そうしたいのは山々なんだけど……、その召喚士が槍騎士を呼び戻して参ってる。
こっちで合図するから、同時に撤退する』
「了解……!」
「エリオ君……ッ!」
「わかってるよ、キャロ……ッ!
ここからは一人も逃がさないッ!!」
フリードの背中に降り立ったエリオは後ろにいるキャロにそう答え、ストラーダを構える。
そんな彼の背に向けて、キャロも支援魔法を発動する。
「ケリュケイオンッ!」
『Enchant Field Invade』
ケリュケイオンが発動した支援魔法は、フィールド貫通、つまりAMFを無視させるというものだった。
桃色の魔力がエリオの身体を包み込んだ。
自分の身体が、後ろにいる少女の力を借りて底上げされているのを感じるエリオは、今の自分でできる最大の魔法を発動させようとする。
「ストラーダッ!!」
『Explosion』
ストラーダに二発の魔力カートリッジが装填される。
キャロの魔法とカートリッジによる魔力補助を受けたエリオは言葉を紡ぐ。
「アルカス・クルタス・エイギアス。
疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。
バルエル・ザルエル・ブラウゼル」
その言葉は彼にとってキャロと同じくらいに大切な人から受け継いだ魔法。
紡ぐ言葉は、つながっている証。
それを詰まることなく送り出していく。
「何をするかわからないけど……」
エリオが詠唱を始めたのを見たオットーはその隙を逃さない。
片手をエリオに向ける。
「隙だらけ……ッ!?」
エリオに向けて彼女が砲撃を放とうとした直後、オットーの背後から火炎弾が放たれた。
戦闘機人としてのセンサーが、その攻撃を察知してその射線上から退避する。
「ち……ッ!」
「フォトンランサー・ファランクスシフト」
オットーが再び視線をエリオに向けると、その視線の先には、大量の魔力スフィアが生成されていた。
フォトンランサー・ファランクスシフト。
エリオにとって、最大の火力を誇る魔法。
「行くよ、キャロ」
「うん、エリオ君」
エリオの言葉に、キャロもまた頷く。
「撃ち砕け、ファイアーッ!!」
その言葉とともに、すべてのスフィアから何発もの魔力弾が一斉に撃ちだされる。
だが、その魔力弾の目標は、オットーたちではなかった。
「どこを狙って……ッ、何……ッ?」
その出鱈目な方向に撃たれた魔力弾に対して訝しんだオットーだが、直後に彼女の近くに滞空していたガジェットⅡ型が魔力弾に撃ち抜かれ、爆散した。
「まさか……ッ!」
オットーが周囲を見回すと、いくつもの桃色の魔力陣が浮かび上がっていた。
しかし、その存在は極限にまで使用する魔力を抑えることによって魔力光を抑え、周囲の暗闇に溶け込んでいた。
しかもその魔法陣から放たれる魔力弾は、最低三つはオットーに向けられていた。
そして、彼女が知る由もないが、少し離れた場所にいるディードに対しても同じように魔力弾が襲い掛かっていた。
フォトンランサー・オールレンジシフト。
これこそ、エリオとキャロが編み出した二人の魔法。
大切なものを守るために編み出した、二人の力。
それが今、彼らの大切なものを壊そうとした者に対して牙をむいた。
「ディード、今すぐ撤退を。
これ以上は不味い……ッ!」
『了解……ッ!』
オットーは周囲のガジェットを盾に使いながらその場から退避する。
圧倒的な物量、認知外からの攻撃。
そのどれもが、今の彼女たちに撤退を選ばせるためには十分だった。
爆発、轟音、震動。
そのどれもがその場所には存在した。
「くそ……ッ!」
悪態を吐きながら迫りくる拳を動く右手で捌き、ダガーを呼び出し爆破する。
至近距離からの爆発によって、彼女―――チンクの小柄な体も吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着地する。
すでに、彼女の身体はボロボロだった。
スバルの能力、『振動破砕』によって、彼の拳を捌き続けた左手は完全に機能を停止。
防御用の固有武装『シェルコート』もすでにスバルによって破壊されていた。
「そろそろ、頃合いか……。
どうにかして、離脱したいところだが……」
右手にダガーを呼び出し、未だに晴れない煙の中にいるであろうスバルを警戒する。
チンクが煙の方に注視していたその瞬間、彼女から見て右に向けて何かが飛び出した。
「……ッ!」
それが人の頭と同じぐらいのコンクリート片だとセンサーが認識したときには遅かった。
どんなに彼女たちの身体が機械と適合しても、人間としての部分が非常時には出てくる。
そのため、コンクリート片だと理解しても、身体はすぐには反応しない。
チンクが反対側から彼女に迫っているスバルを見たときには、彼の回し蹴りががら空きだった腹部に叩き込まれていた。
「――――ッ!!」
小柄なチンクの身体は、スバルの渾身の回し蹴りによって、何度も地面に叩き付けられながら壁まで吹き飛ばされた。
身体中が悲鳴を上げているのを感じながら、チンクは何とか立ち上がろうとする。
「グ……ッ!!」
だが、その前にスバルが彼女の首を左手で掴み、彼女の身体を壁に叩き付け、身体の自由を奪う。
ノイズの走る視界の中、チンクはスバルが右手で拳を作るのを見た。
(さすがに、あれをもらえば終わるな……)
彼の右手から発せられる高周波の振動を感知しながら、チンクは静かにそう思った。
妹たちの撤退の時間を稼げたことが第一だった彼女にとって、スバルを釘づけにした時点で彼女にとっては勝ちだった。
一つ心残りだったのは、その妹たちともう二度と会えないであろうということだった。
だが――――。
「チンク姉っ!!」
聞こえるはずのなかった
その声に反応したチンクはそちらに目を向ける。
そこには、戦闘によって動かなくなった左手を抑えて、泣きそうな顔で自分たちを見るノーヴェがいた。
馬鹿者が、と言おうとするがスバルの手によって首を掴まれているために言葉にすることができず、短く息を吐くだけとなった。
そして――――
拳は振り下ろされた。
ノーヴェルート第七話でした。
さて、今回の話はかなり難産でした。
しばらく書いていなかったためか、思い浮かんだ文章を書いても納得のいかない文章ばかりで、書いては消して、書いては消してと何度もやり直してきました。
特に中盤の六課でのエリキャロたちの場面。
最初に書いたときには、エリオとキャロの戦闘ではディードの視点のみでした。
ですが、ティアナルートでもエリオとキャロの六課での戦闘は省いたために、今回はちゃんと書いて活躍してもらおうと思い、このようになりました。
何度も書き直したため、今回はかなりいい出来だったと自分では思っているのですが、皆さんからはどうなのかはわかりません。
感想などドキドキしながら待ってます(笑)
次回ももしかすると少し遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。
それではまた次回!