地上本部、および機動六課襲撃の翌日。
ティアナはサカキに呼び出され、彼の部屋を訪れていた。
「さて、ティアナ君に来てもらった理由は言わなくてもわかるよね?」
「スバルのことですか」
サカキの問いにティアナは即座に答える。
彼女の反応にサカキは笑みを浮かべながら首を縦に振る。
「現在、スバル君とギンガ君の身体は修復中だ。
言い方は悪いけど、彼らにとってあの程度の
ギンガ君の方はすでに意識も戻っているしね。
だけど、問題はスバル君の方なんだ」
「スバルが……?」
サカキの顔から笑みが消え、真剣な表情でティアナにスバルの現在の状態を伝える。
「さっきの話に戻るんだけど、スバル君の身体の修復は表面的なものだけなんだ。
具体的に言うと、機械の身体を隠す人工皮膚のみだね」
「それだけ、ですか?」
「そう、それだけなんだ。
僕たち人の場合なら、折れた骨はつながるまで固定するのがふつうだね。
スバル君たちは折れた部分は取り換えることですぐに直すことができる。
だけど、そのためには、新しく取り換えた部品を脳―――つまり戦闘機人としてのメインコンピューターに認識させる必要があるんだ」
サカキはメガネを指で押し上げながら言葉を続ける。
「しかし、彼の脳がそれを受け付けないんだよ」
「え……」
彼の言葉にティアナは目を見開いた。
脳が部品を認識しない。
それはつまり―――
「スバルは、スバルはどうなっているんですか……?」
「彼の脳は、今は最低限の機能、身体の現状維持に必要な分だけを残してすべて停止しているんだ。
こちらからのアクセスはできない状態で、彼は今も眠り続けている状態だね。
本当はしたくなかったことなんだけど……」
サカキはデスクの引き出しからいくつかの資料を取り出し、机の上に置いた。
「彼の脳の記録、というよりもメインコンピューターのログを見させてもらった。
その結果から言うと、彼は現実から目を逸らしているといった方がいいかな。
所謂心の自閉機能が働いている状態だ。
恐らく、スバル君にとって、認めたくないことが続けざまに起きたんだろうね」
「自閉……、認めたくないこと、か……」
破壊された六課の隊舎の代わりに与えられた臨時の隊舎のデスクでティアナは報告書を作りながら先日のサカキの話を思い返していた。
(スバルが認めたくないことって言うと……、やっぱりあれのことなんだろうけど……。
多分それだけじゃないはず……、確証はないけど……)
とりあえず明日病院に行って……と考えたところでティアナの頭に軽い衝撃が走った。
「ヴィ、ヴィータ副隊長……」
衝撃を受けた頭を摩りながらティアナが後ろを振り向くと、そこには書類がまとめられたファイルを片手に呆れた表情のヴィータが立っていた。
「考え事するのはいいけどな、そう言うのは仕事の時以外にしとけよな。
あのバカのことが気になるのはわかるがな」
ヴィータの指摘通り、ティアナのモニターは先ほどからほとんど進んでいなかった。
そのことに気づいたティアナは頭を下げる。
「すみませんでした……」
そんな彼女の様子に、ヴィータは大きくため息を吐く。
「仕方ねぇ、いったん休憩だ」
「え、でも……」
「そんな状態の奴に仕事やらせても碌なことにならねぇのは目に見えてるからな。
ほら、行くぞ」
そう言ってすぐにその場から歩き出したヴィータを追うためにティアナはすぐさまモニターの電源を落とした。
「スバルの奴がねぇ……」
休憩室で購入したコーヒーを片手にヴィータはティアナから聞いたことを自分の中で整理する。
事情を呑み込んだヴィータは対面に座り、紅茶の入ったカップを口に運んでいたティアナに向けて口を開く。
「あたしはそんなに心配ないと思うけどな」
「いや、そんな簡単にはいかないんじゃ……」
あっさりとそう答えたヴィータに対してティアナは頬を引き攣らせながらそう尋ねる。
「まぁ、人間だれしも認めたくないことの一つや二つはある。
お前もそうだっただろ?」
「は、はい……」
ヴィータの言葉に思い出されるのは、唯一の肉親だった兄の死と兄の夢を継ぐというプレッシャーに押しつぶされそうになっていたころの自分。
思い当たる節があったためにティアナはそう答えるしかなかった。
「あたしだってそうだ。
だけど、今はこうやって前を向いて生きてる」
「……」
「どんなに嫌なことであっても、トラウマになっているようなことでも人はそれを乗り越えられる。
あたしはそう考えてる。
お前はどうなんだ?
そうじゃないのか?」
ヴィータはティアナに語り掛けるように尋ねる。
その問いに対する答えは一つだった。
「……はい」
「だったら、やることは決まってるはずだ。
お前はどうするんだ?」
ヴィータはそう尋ね、コーヒーを飲み干す。
そんな彼女に対してティアナはカップの中をすべて飲み干し、立ち上がった。
「ヴィータ副隊長、すぐに仕事に戻ります。
さっさと終わらせて、様子を見に行かないと」
「今すぐ行ってきてもいいんだぞ?」
立ち上がったティアナに向けてヴィータはそう聞くが、ティアナは首を横に振った。
「ちゃんとやるべきことはやっていきます。
多分、今はまだ考えてる最中だと思うんで」
ティアナの言葉にヴィータは少し考えるように目を逸らし、そしてそのまま彼女に言葉を投げかけた。
「外出許可はあたしがやっておく。
仕事終わったら行ってこい」
「……ありがとうございます」
彼女の言葉に対してティアナは頭を下げるが、ヴィータは照れ隠しにカップを傾けながらコーヒーを飲み干した。
「ありがとうございました」
その後、ノルマを終えたティアナはすぐさまスバルが入院している病院へと向かった。
ナースステーションで彼の部屋の番号を聞き、その脚を向けた。
「あ、ティアナさん!」
その途上、彼女を呼び止める声を聞き、ティアナは声の聞こえてきた方を見た。
「キャロ、あんたなんでここに?」
「一応の身体検査です。
この間の戦闘データを見たフェイトさんが受けなさいって言われて……」
ティアナは自分の方に向かって小走りで寄ってきたキャロにそう尋ねる。
キャロはティアナの問いに対して、苦笑しながらそう答えた。
「それで、身体の方は大丈夫だったの?」
「はい、明日まで魔法の使用は控えるようにとは言われましたけど、身体の方は大丈夫です」
「キャロがここにいるってことは、エリオもいるのよね?
エリオの方は大丈夫なの?」
ティアナはいつもはキャロと一緒にいるエリオがこの場にいないことに気づき、彼女に尋ねる。
「エリオ君は一日検査入院だそうです。
右手の骨にひびが入ってたそうで」
「そっか。
エリオにはしっかりと休むように言っておきなさいよ?
スバルと似て、エリオも結構無茶しそうだから」
「はい!
あ、ティアナさんはスバルさんのところに行くんですか?」
「えぇ、そうだけど……。
何かあったの?」
「いえ、特に何かあったわけじゃないんです……。
でも、さっき私たちがいったとき、まだ目覚めてなくて……」
キャロが俯きながらそう答える。
そんな彼女の頭にティアナは手を乗せながら口を開く。
「大丈夫よ、あいつはいつだって最後にはちゃんと戻ってくるんだから。
スバルのことは私に任せて、あんたはエリオと一緒にいなさい」
「はい……!」
ティアナの言葉にキャロは少し元気を取り戻し、頷いた。
「えっと……ここね」
キャロと別れたティアナはスバルのいる病室の前に辿り着いていた。
ティアナは一応の礼儀として病室のドアを静かに開き、中に入った。
「スバル……?」
病室に入った瞬間、ティアナは違和感を感じた。
人の気配が全くしないのだ。
スバルが自閉モードに入っているとは言え、そこに人一人がベッドに横たわっていればなんとなくは感じることができる。
だが、それが感じられない。
つまり、その部屋にはスバルがいないということに他ならなかった。
「あのバカ……ッ」
胸騒ぎがしたティアナは病室を飛び出した。
彼のいるであろう場所へ。
お待たせしました、ノーヴェルート第九話でした。
二月の終わりから三月まで、リアルでヤバイことになってたので書く時間が取れませんでした。
これからも少し更新が遅くなることがありますが、これだけは言っておきます。
絶対に完結させます。
エタることはありません。
なので、遅くなっても見捨てないでください。
それではまた次回!