スバルの病室から飛び出したティアナは、彼がどこにいるのかを考える前にその脚を病院の屋上へ向かう階段へと向けていた。
流石に病院の中で走るのは拙いので大股で小走り気味に階段を登って行く。
そして、病院の中だからか普通なら埃が舞っていてもおかしくない屋上の入口へと辿り着いたティアナはそのままドアを開いた。
「やっぱり……」
沈みかけている西日が彼女の目に入ってくるが、ティアナはその光の中で彼がいるのを感じていた。
眩しい日差しをを手を掲げて遮りながらティアナは屋上に設置してあるベンチに腰掛けているスバルの元へと向かう。
「そんな格好でいると風邪ひくわよ」
スバルの座っているベンチのすぐそばまで歩いてきた彼女だったが、彼がまったく反応しないことにため息を吐きながら彼の隣に腰掛けた。
「まったく、あんたが病室にいないからこっちは慌てて来たってのに……」
ティアナは隣に座っているスバルを横目に言葉を紡ぐ。
「……何でここがわかった?」
「あんたは自分が思っている以上に単純なのよ。
前からそう、訓練校時代も何か考えることがあれば一人で高い場所に行って、一人で悩みを解消しちゃってさ。
今回はまだ解決してないみたいね」
そこまで言ってティアナはスバルの方を向く。
「ほら、少しは話してみなさいよ。
一人で悩むより誰かに話を聞いてもらった方がまだ楽になるわよ」
「……」
彼女の言葉を聞いたスバルは一度目を瞑り、そして自分の中で渦巻いている気持ちを吐きだす。
「何のために戦おうとしてるのか、ちょっとわからなくなってきた」
「……は?」
「今まではさ、お袋みたいになって誰かを守りたいって思ってた。
誰かを守るためなら戦えるって。
だけど、この間の作戦の時、あいつが……ノーヴェが来たときから、うまくは言えないけど、なんか変なんだよ……。
本部にいる人たちを守るためには戦わないといけない。
だけど、あいつとは戦えないんだ……」
「それで?
アンタはどうしたいのよ」
スバルは右手を何度も握りしめるが、その拳には力が入っていなかった。
そんな彼に対してティアナは彼の本心を聞きだそうとする。
「……それがわからないんだよ。
誰かを守るためにはあいつを……、ノーヴェたちを止めたい。
だけど、俺は……」
「姉貴がやられてたのを見て、自分の中で何かが外れて、もう少しであいつらを
「”振動破砕”……」
彼の言葉を聞いて、ティアナはスバルの、戦闘機人としての彼の能力を思い出した。
それは彼と同じ戦闘機人に対しての絶対的なアドバンテージを誇る能力。
機械の身体を問答無用で壊しにいく、対戦闘機人用と言ってもいい力。
「人を守るために魔導師になった。
誰かを助けたいから局員になった。
俺が、誰かを殺そうとしたんだ……。
そんな俺が、これからも戦っていっていいのか、それがわからない……」
スバルの声がだんだんと小さくなっていくにつれて、顔を俯ける。
そんな彼を見ていたティアナは彼にどうしても聞いておきたいことを尋ねた。
「ねぇスバル、あんたにとってあのノーヴェって娘に対する気持ちはなんなの?
大切な友達?それとも自分と同じ存在ってことでの同情?」
「……最初は、なんとなく気が合うって程度だった」
彼女の問いに、スバルはノーヴェとの出会いから思い出しながらゆっくりと口を開いた。
「……何となく、あいつがふつうじゃないってのは感じてたってのもある。
けど、二人で会ってる時は、話してる時はそんなことは感じなかった……。
それで、あいつのことが、頭のどこかに、いつも考えてることが、多くなった……」
「……なるほど、つまりあれね。
あんたにとって、ノーヴェは好きな女の子ってところなのね」
スバルの本音を聞きだしたティアナはそう結論付けた。
恋愛というものをしたことが無い彼女にも、彼がノーヴェに恋心を抱いていることは理解できた。
「そう、なんだろうなぁ……。
俺は、ノーヴェのことが好き、なんだろうな……」
「それで、そのことを踏まえてもう一度聞くわ。
あんたはどうしたいのよ?」
自分の中にくすぶっていたものを、相棒
自分の中の恋心を理解したうえで、スバルがどうしたいのかを。
「俺は、あいつを止めたい。
けど、俺は……あいつの姉を
今更、どうやってあいつの前に行けばいいんだよ……」
それでも、未だに弱気なことを言う彼に対して、ティアナは大きなため息を吐き、一言だけ口にした。
「スバル、歯喰いしばりなさい」
「は……?」
ティアナの一言に疑問の声を上げたスバルだったが、次の瞬間、彼は頬に強い痛みを感じながら屋上の床に叩き付けられていた。
「痛ってぇ……」
スバルは右手で殴られた頬を抑えながら自分の前に立つティアナを見上げる。
彼の目に映ったティアナは、握りしめた拳が震えていた。
「ティアナ……?」
「今のあんたは見るに堪えない。
いつまでもウジウジと弱気なことを……!」
「私の知ってるスバル・ナカジマは、自分が正しいと思ったことは全部やり通す!
そんな奴だった。
でも、今のあんたは何よ?
いつまでも自分の殻にこもって一人で解決しようとして!!
なんでよ、あんたはなんで、いつも一人で解決しようとするのよ……。
今回だってそう、自分の気持ちを殺して、一人で納得しようとした。
少しは周りを頼ったらどうなのよ!?
アンタは、一人じゃないでしょう!?
アンタには
私だけじゃ頼りないなら、
なのはさんや、フェイトさん、ヴィータ副隊長にシグナム副隊長だっている!!
一人で解決しようとしないでよ……!」
ティアナの泣き出しそうな顔を見たスバルは、言葉を失った。
彼女に言われるまで、自分がどれだけ彼女たちのことを気にもしていなかったことを思い知らされたからだ。
「あんたにとって、あたしは何なの!?
頼りにならない相棒?」
「違う……ッ」
「だったら一つ言ってあげるわ。
アンタは、あの時のことを気にしてるけど、その力でギンガさんを助けられたってことは覚えておきなさい」
「……俺が、助けた……?
姉貴を……?」
ティアナの一言で、彼はハッと気づいたように彼女の顔を見つめる。
「えぇ、そうよ。
確かにあんたはノーヴェたちを
それでも、アンタがギンガさんを助けたことには変わりはないわ」
膝をつき、座り込んでいる彼と目線を同じにして、ティアナは続ける。
「アンタがあの力を嫌っているのは知ってる。
でも、その力で助けられる人がいるってことも覚えておきなさい」
ティアナのその言葉が、スバルの中にあったものを溶かしていく。
自分が忌み嫌っていた能力で、誰かを助けることができる。
自分の力は壊すだけじゃない、ということを初めてスバルは感じることができた。
「……サンキューな、ティアナ」
「どういたしまして。
それで、どうするの?」
そのことを自覚したスバルは立ち上がり、そんな彼をティアナは呆れた顔で見上げる。
「ノーヴェを止める。
あいつらはまだ、引き返せるはずだから」
「一人で、なんて言わないわよね?」
「……たぶん、お前にも、エリオやキャロにも迷惑をかけると思うけど。
頼む」
「わかってるわよ。
アンタの足りないところを補うのが私の役目なんだから。
ほら、さっさと
ティアナは立ち上がりながらスバルの左側を指さす。
そこには、風に揺られる袖があった。
「そうだな、ちょっと博士のところに行ってくる」
「ちゃんとやってもらいなさいよ」
スバルはティアナに背を向け、彼女もまたスバルにそう告げて去っていく彼の背を見つめる。
そして、スバルの姿が出口から見えなくなった後、ティアナは大きくため息を吐いた。
「まったく、手のかかる
肩を竦めながらヤレヤレといった感じでそう呟くティアナ。
だが、その声は小さく震えていた。
「……まったく、いったい誰よ、『失恋の味はレモンの味』なんて言ったのは……。
レモンなんか、目じゃない……ぐらい、つらい……じゃない……ッ」
その病院の屋上で、一人の少女の初恋は人知れず終わりを告げた。
一人の少年が一人の少女を止めると決意した。
一人の少女の初恋が終わりを告げた。
そして――――
一人の次元犯罪者による管理局に対する宣戦布告が、その日行われた。
遅くなりました。
大学も二年目になり、授業の数が半端ないです。
更新速度はかなり遅めになりますが、ご了承ください。
スバルの悩みですが、彼は自分の力でチンクとノーヴェを壊す寸前にまで暴走していたことに対して悩んでいたということです。
スバルが一人で悩んでいた、というのも無理はないと私は考えています。
下手したら人を殺してしまいかねない力を持っているわけですからね。
周りの誰にも悩みをぶちまけるわけにはいかないわけですよ(彼の周囲にいる人間はフォワードの三人を抜いて、ハッキリ言って彼が暴走しても抑え込める可能性大ですけど……)
ティアナがスバルを殴り飛ばした理由はそこにあります。
スバルが一人で悩みを抱え込んでいることに対して、ティアナは怒りを覚えたわけですから。
まぁ、スバルはティアナのコンプレックスを解決しておいて、自分のはだれにも話さなかったというのは、相棒であるティアナは頼りにされてないと考えてしまうかもしれませんからね。
ティアナの恋心ですが、以前ヴァイスに話したときはまだ胸の中にとどめておく程度だったわけですけど、このルートではノーヴェに対してスバルが恋心を抱いたということを知ったため、そのことを彼に告げることはなく、彼女の初恋はここで終わりということになりました。
ここは書いていてとてもつらかった……。
今回の話はかなり難しかったです。
先に疑問に思われそうな場所はあとがきに記しましたが、他にも気になることがあれば感想にてお伝えください。
次回の更新は一月ぐらいお待ちを。
(まったく、中間試験の二週間後に期末試験とかどうかしてるよ……)
それでは!!