「ノーヴェ……?」
「クロスミラージュ、今のは!?」
ビルの中で互いに相手の出方を伺っていたウェンディとティアナだったが、
「ここは一旦預けるッす!」
「あ、ちょっと待ちなさい!!」
ウェンディはそう言うと、ライディングボードを稼働させ、天井の穴へと向かう。
突然の行動にティアナは出遅れるが、すぐさまビルの窓から外に飛び出す。
「クロスミラージュ、お願い!」
《スターキャリバー、セットアップ》
飛び出したティアナは両足にスターキャリバーを装備し、すぐさまウィングロードを展開する。
「一気に行くわよ」
《マギリングコンバーター出力全開》
両足から変換炉から魔力が放出され彼女の身体は一気に加速した。
目指すは彼女の相棒と、その思い人のいるであろう場所に向けて。
「JS型戦闘機人No.9、脅威度判定『中』」
スバルが自分を庇った。
その事実に動揺したノーヴェだったが、目の前の存在が自分の方に意識を向けると、そんな
目の前の存在―――ジエンド、その存在自体は彼女もまたチンクやドゥーエからのアップデートをによって情報を得ていたが、実際に目の当たりにすることでその異常さを肌で感じ取っていた。
「なんなんだよ、おまえ……ッ」
「―――」
ノーヴェはジエンドの向ける、感情の籠っていない、仮面のような顔を見て即座に行動に移る。
こいつは危険だ―――自分だけでなく、意識を失っているスバルのことを守るために、彼女はガンナックルから直射弾を連射する。
「エネルギー攻撃を確認。驚異度判定低。
「チィッ!!」
だが、放たれたエネルギー弾はすべてジエンドの周囲に展開されたフィールドによって分解させられてしまう。
「攻撃を開始する」
その言葉と同時に、ジエンドからの圧が増したのをノーヴェは感じ取る。
次の瞬間、彼女の戦闘機人としての
「このエネルギーは……ッ!?」
「――――」
ノーヴェがその正体に驚愕の表情を浮かべるのと同時に、ジエンドが動き出す。
10mはあった二人の距離が、一気に縮まる。
「ク―――ッ!!」
一気に距離を詰めてくるジエンドに対して距離を取ろうとするノーヴェだったが、彼女が離れるよりも早くジエンドが彼女を間合いに捉えた。
ジエンドの正確かつ尋常でない速さで振るわれる右手を上体を逸らすことで避けようとするが、その拳が纏ったエネルギーの余波によって彼女の身体に衝撃が走る。
「くそッ!!」
ノーヴェはその一撃だけで、ジエンドの能力の強さに戦慄していた。
舌打ちをする彼女に向けて放たれる拳と蹴りの直撃は絶対に避けるために右手のガンナックルで捌いていく。
しかし、度重なる連撃の前に、彼女の身体には傷が増えていく。
「―――ッ!!」
そして、積み重なった傷が彼女の身体に激痛を走らせる。
その瞬間を見逃さず、ジエンドの拳がノーヴェの喉笛を噛み千切らんと迫る。
「ガッ……このぉッ!!」
ノーヴェはその拳を頭を傾けることで頭蓋を砕かれることは避けることができたが、逸れたその一撃は彼女の左肩を打ち砕く。
左肩から聞こえてくる破壊音と痛みに顔を歪め、悲鳴を上げそうになるノーヴェだったが、歯を喰いしばり、ジエンドの顔面目掛けて右手を振り抜く。
「―――――ッ」
顔面に向けて迫る彼女の拳をジエンドは両腕をクロスすることで防ぐが、ノーヴェの膂力のみで放たれた勢いによってその身体は地面を削り、土煙を撒き散らしながら吹き飛ばされていく。
「ハァ……ハァ……ッ!!」
ひび割れたガンナックルを纏った拳を突きだしたノーヴェだったが彼女の左腕は力が入らず、痛みを堪え苦悶の表情を浮かべていた。
そして、彼女の視線の先には腕を交差させ、防御の体勢のまま大地に立つジエンドの姿があった。
「損傷軽微……?」
両腕をほどき、その視線をノーヴェに向けたままそう呟くジエンドだったが、その視線が不意に彼女から外れる。
その様子にノーヴェは不審に思ったが、すぐに彼女たちに近づいてくる存在を察知した。
「ノーヴェ!!」
彼女がジエンドと同じ方向に目を向けるのと同時に、崩れたビルを突き破ってライディングボードに乗ったウェンディがその場に現れる。
ウェンディはすぐにノーヴェの元に駆け付けようとするが、彼女の間にいる存在に気づき、警戒を高める。
「こいつは……チンク姉の言ってた……ッ」
「JS型戦闘機人No.11を確認。驚異度判定『中』。優先破壊目標と断定」
ウェンディはライディングボードの砲口をジエンドに向ける。
そんな彼女の武装や状態を確認したジエンドは矛先をウェンディへと向ける。
「よせ、ウェンディ!!逃げろ!!」
「そいつは聞けない相談っすね、エリアルキャノン!!」
ライディングボードの砲口から砲撃が放たれ、ジエンドに向かう。
だが、その砲撃はジエンドが発生させたフィールドに衝突し、数秒その身体を後ろに押し戻すが、すぐに拡散し消滅してしまう。
「
「ちょ、マジっすか!?」
ジエンドの周囲に展開されたフィールドの出力が直前に倍以上に膨れ上がったのをウェンディのセンサーは捉え、その事実にウェンディは頬を引き攣らせる。
そんな彼女に向けてジエンドが駆ける。
「だったら、これでッ」
ライディングボードからエネルギーの刃を発生させ、接近してくるジエンドに向けて切り上げる。
だが、ジエンドはライディングボードの大きさ故に大振りとなるそのモーションの間隙を逃さなかった。
切り上げのタイミングを見きったジエンドが刃の間合いの内側へと飛び込み、その貫手の型を構える。
「疑似IS発動『振動粉砕』」
「な―――ッ!?」
ジエンドの口から発せられた言葉に驚愕の表情を浮かべるウェンディは、咄嗟にライディングボードを引き戻し、その身体を守るための盾とする。
だが―――
「ガ―――――ぁァッぁああああっ!!!」
突き出されたジエンドの右手はライディングボードを容易く突き破り、そのままウェンディの左脇腹を貫く。
ウェンディは貫かれた脇腹から自分の身体を破壊する音と、神経から伝わる激痛に悲鳴を上げる。
「ウェンディッ!!」
悲鳴を上げ、貫かれた脇腹から流れ出る血と機械の身体の一部をノーヴェは見た。
そして、左肩の痛みを無視して彼女はジェットエッジに火を灯した。
「IS……発動……ッ、エアライナーッ!!」
痛みを堪えながら詠唱を口にするノーヴェ。
彼女の足下からジエンドまでの直線状にある障害物よりも高い位置に彼女のための道が発生する。
「
ジェットエッジのジェットノズルから炎が噴射され、彼女の身体を一気に加速させる。
エアライナーがフィールドの影響から、途中で途切れてしまうが、十分な加速を得たノーヴェにとってはもはや関係なかった。
「離せッ!!」
『Revolver Spike』
エアライナーから飛び出し、ジエンドの頭部、その右側面に向けて空中から回し蹴りを放つ。
ジェットエッジの噴射が一層激しくなり、彼女の蹴りを後押しし、その威力を増大させる。
ジエンドの右腕は今現在もウェンディの脇腹に突き入れられている。
右側からの攻撃をガードするには遅すぎるタイミング、それを狙っての蹴撃だった。
「―――――ッ!?」
だが、ジエンドに向けて放たれた蹴りが直撃する直前、目の前の敵の動きにノーヴェは目を見開いた。
ウェンディの脇腹に突き入れた右腕をそのままに、
そして、襲い掛かる蹴りを、左腕を後ろに突き出すことで、それを受け止めた。
「ジェットエッジッ!!」
『Boost up』
捕まれた右足からジェットノズルが焼き切れんばかりに炎がさらに噴き出す。
ジエンドをウェンディから離れさせる。
それだけを考えての行動だった。
だが、その目論見は露と消えた。
「振動粉砕発動」
「……っぁっぁあぁあっ!!」
ジエンドの無慈悲な言葉とともに、掴まれた右脚の内部フレームが破壊音を撒き散らしながら使い物にならなくなる。
二度目のその痛みから、彼女の喉から悲鳴が上がる。
だが、彼女はひび割れたガンナックルをジエンドに向ける。
「ぁァアァあッ!!」
悲鳴とも咆哮ともとれる声とともに彼女の瞳の金色の光が輝き、ガンナックルに膨大なエネルギーが集中する。
フィールドの影響から拡散するが、それ以上に彼女の身体からかき集められたそれは、ジエンドでさえも脅威に感じられるほどのものだった。
集められたエネルギーは、今の彼女にとっては制御しきれないもの。
何かの拍子にそのエネルギーは破裂するであろう代物だった。
だが、彼女にはそれで十分だった。
「――――ぶっぱなせっ、ジェットエッジっ!!」
『burst』
ノーヴェとジエンドの間で膨大なエネルギーが膨れ上がる。
そのエネルギーの奔流から逃れるため、ジェットエッジは右手を突き入れたウェンディの身体をノーヴェに叩き付ける。
だが、その次の瞬間、制御されない、エネルギーの奔流がノーヴェとウェンディ、ジエンドの間で炸裂した。
「ガッ―――!」
「うぐぅ……ッ」
ウェンディの身体が激突すると同時に破裂したエネルギーの威力によって二人の身体は吹き飛ばされ、乱立する瓦礫の一つに打ちつけられる。
「――――ぅぁ……」
全身から感じる痛みに声を上げながらノーヴェは朦朧とする意識の中、視覚の回復を最優先に行い、ノイズの走る視界を動かす。
頭から流れる血が入ったのか、視界の半分は赤く染められていたが彼女は隣で気を失っているウェンディを見つけると、安堵の息を吐く。
次に自分の身体が視界に入り、その右腕と右脚にピントを合わせる。
爆発にさらされたガンナックルはき裂が走り、右腕は人工皮膚の間から内部フレームと神経ケーブルが覗き見えていた。
さらに、ジエンドに掴まれた右脚は、内部フレームが砕け散っており、感覚がないことにノーヴェは小さく舌打ちをする。
「―――――」
「……ッ!?」
そんな彼女のセンサーが動体反応を示す。
センサーが反応した方向を見ると、爆発の中心地から少し離れたところに立つジエンドの姿があった。
あれだけの爆発を受けたはずのジエンドの身体には目立った損傷がないことが今のノーヴェでも見ることができた。
せいぜい一番爆風を受けたであろう右腕の皮膚が吹き飛んだ程度で、その機能は失われてはいない。
「――――」
ジエンドが何かを口にしている。
だが、未だに聴力が回復していないノーヴェにはもう何を言っているのか関係のないことだった。
「――――」
ジエンドが彼女に向けて駆ける。
向かってくるジエンドに向けてガンナックルを向けようとするが、彼女の右腕は言うことを効かなかった。
「……あぁ」
ジエンドが左腕を引き絞る。
ノーヴェにはその左腕が自分に向けて放たれる時間が嫌にゆっくりと感じられた。
「……悪い、もう無理だ」
万事休す。
もはや身体を動かすことすらできない彼女は自分の心臓に向けて放たれる貫手を見つめることしかできない。
そんな言葉を吐く彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
「ごめん……、お前の手、握ってやれなくて……っ」
自分の命の危機に、最後に彼女の頭に浮かんだのは、自分に向けて手を差し伸べるスバルの姿だった。
せめて、
ジエンドの左手が彼女に突き刺さらんとしたとき
「ギア、エクセリオン」
静かに、しかし力強い、その言葉がノーヴェの心に聞こえてきた。
すみません、ウェンディとティアナの戦闘を期待していた人に謝らせていただきますorz
今回のノーヴェルート、作者は最初からノーヴェとスバルにのみ焦点を当てて作ると決めていたため、彼女たちの戦いはカットさせていただきました。
オリジナル解説
『
魔力と戦闘機人由来のエネルギーの結合を分断するフィールド。
どのような原理で働いているのかは不明。
『疑似IS《振動粉砕》』
ジエンドの使用する特殊能力。
名称からスバルの持つ振動破砕と同様の効果が得られると考えられるが、詳細は不明。