それではどうぞ
「貴方の妹たちは全員無事よ。
特に怪我の酷い二人は、スバルの専属研究機関に送られることになったわ」
「そうか、感謝する」
スバルとジエンドの戦闘しているエリアから離れた場所で、チンクはシャマルからの報告を受けて安堵の息を吐いていた。
そんな彼女を遠くから眺めていたティアナの耳に聞きなれた少年の声が届く
「ティアナさん!」
「エリオ、キャロ!」
ティアナのすぐ傍にフリードに乗ったエリオとキャロが降りてくる。
エリオの後ろに乗っていたキャロの腕の中ではルーテシアが抱かれていた。
「そっちもうまくいったようね」
「はい、今は眠ってますけど、ルーちゃんも、ガリューも無事です!」
「スバルさんは?」
ルーテシアをゆっくりと地面に寝かせるキャロの隣で、エリオはそう尋ねるが、そんな彼に対してティアナは首を横に降る。
「まだよ、でもあいつなら……ッ!」
「ティアナさん?」
ティアナは、二人の背後の空を見て声を失った。
そんな彼女の視線を追うようにエリオとキャロが自分たちの背後を見ると、青空を切り裂くように、星が駆けるのを見つけた。
「あれって、スバルさん!?」
「二人とも、行くわよ」
ティアナの指示にエリオとキャロは頷きすぐにフリードに乗る。
「ギンガさん、シャマル先生!
ここはお願いします!!」
「えぇ、ここは任せて、スバルのことお願い」
「守るだけなら私とザフィーラだけでも大丈夫。
だから、安心してちょうだい」
ギンガとシャマルは彼女の方に向けて手を上げながら答えた。
それを確認したティアナはすぐにフリードの上に乗り込む。
「少し、重いかもしれないけど」
「大丈夫、フリード行けるよね?」
キャロの言葉に応えるようにフリードは一度大きく吠え、その翼を羽ばたかせる。
三人を乗せているにも関わらず、その巨体はなんの問題もなくその身を大空へと飛んでいく。
「まったく、無茶ばかりするんだから!」
ティアナは視線の先を行く蒼い流星を見ながらそう呟いた。
「ハハハッ!
スゲェ、このスピード、病みつきなりそうだ!!」
『フレアガントレットを中心に、各部の温度が上昇しています!
活動限界まであと180秒!!』
今までとは違う、文字通り空を飛ぶ感覚にスバルは声を上げるが、そんな彼に対してマッハキャリバーは警告の声を発する。
現に、彼の左腕から炎が耐えず噴き出し、それが彼の身体をも熱し続けていた。
「見えたッ!!」
『目標からエネルギー弾の射出を確認!!』
「一直線に突っ切る!」
遥か前方を飛んでいたジエンドだったが、スバルの驚異的なスピードからは逃れられないと察したのか、残った左腕から多数のエネルギー弾が発射していた。
エネルギー弾といっても、それは一発でも並みの魔導師を撃墜するほどの威力を秘めていた。
それがスバルの眼前に迫っていた。
『フォートレス、1番、4番損傷が拡大しています!』
「耐えろ!
これを抜ければ!!」
スバルの前方に四枚の
だが、弾幕は確実にスバルの守りを削り取っていく。
シールドをすり抜けたエネルギー弾はスバルの肩や胸部の装甲を撃ち抜く。
その衝撃や痛みを歯を喰いしばり耐える。
そして―――
「抜けたッ!!」
『相棒ッ!!』
弾幕を抜けたスバルの前に現れたのは左手に収束したエネルギーを放とうとするジエンドの姿だった。
慣れない空中飛行、そしてここまでの損耗からスバルは自分に打つことのできる手段をすぐさま弾きだす。
「しゃらくせぇ!!」
『フォートレス射出!!』
マッハキャリバーの声と共に、フォートレス四枚すべてが砲撃に向けて射出される。
放たれた砲撃によってフォートレスシールド四枚すべてを破壊する。
爆炎を抜けたスバル。
そこに彼の
撤退を諦めたわけでも、負けを認めたわけでもなく、その
「肉ならくれてやる!!」
『肩部アーマー射出!!』
スバルの右肩から分離したアーマーはジエンドの拳に覆いかぶさる。
ジエンドの振動破砕によって、そのアーマーが破壊されるまでのわずかな間に、アーマーに残ったナノマシンがスリットから余剰のエネルギーを吹きだした。
「―――ッ!!」
「ここぉッ!!」
ジエンドの左腕が逸らされたことによって生じる空間にスバルは躊躇いなく飛び込む。
スバルは燃え盛る左腕を引き絞る。
「貫けェッ!!」
アクセラレイターによるスピードを乗せた一撃。
それはジエンドの心臓―――コアのある胸部を撃ち貫いた。
「オオォォ―――ッ!!」
ジエンドの胸を貫くまま、スバルはその身体を地面に向けて叩き付ける。
スピードの乗った一撃と、上空からの落下による衝撃。
地上にジエンドが叩き付けられるとともに、その周囲を巻き込むようにクレーターが生じる。
「これでぇッ!!」
『最後です!!』
叩き付けたジエンドの胸を貫いたままの左腕一本で持ち上げる。
その掌には、ジエンドの―――戦闘機人の心臓とも言えるコアが握られていた。
そして、スバルはそのコアを―――
砕いた。
「―――――」
コアを破壊されたことによって、ジエンドの瞳から光が消える。
そして、それを確認したスバルはすぐに、その身体を空中に投げ上げた。
「その身体は、悪用されるとやばいからな。
悪いけど、塵一つ残すわけにはいかないんだよ」
『カートリッジロード』
リボルバーナックルからカートリッジを通して、魔力が溢れる。
右腕に魔力が収束する。
「もう眠れ、ブリキ野郎」
『Divine Buster』
非殺傷設定の切られた砲撃は、その身体を文字通り消し飛ばした。
「ハァ……ハァ……っ」
『体内温度急上昇、
ジエンドを破壊した直後、スバルの呼吸はかなり乱れていた。
マッハキャリバーはすぐさま左腕の発熱モジュールを排除する。
『続けてエクステンドブーストアーマー
スバルの全身に装着された装甲が続けざまに弾かれる。
そして、マッハキャリバーはスバルの発汗機能を操作し熱の冷却を始め、スバルの全身から蒸気が上り、体温を冷やすことに成功する。
異常発熱を抑えたことでスバルはホッと一息吐き、その場に座り込もうとしたが、体力を損なった状態の彼の足はその負荷に耐えられなかった。
「……やべ」
『相棒ッ』
右脚の力が一気に抜け、マッハキャリバーのローラーがブレーキをかけるが彼の身体は後ろ向きに、倒れ込んだ。
受け身もとれない状態のスバルは目を閉じ、痛みに耐えるべく歯を喰いしばった。
だが、彼の頭が地面に突っ込む前に、彼の背中を支える者が現れた。
「スバルさん、大丈夫ですか!?」
「……エリオ?」
背中側から聞こえてくる声にスバルは疲れ切った意識の中応える。
エリオは彼の身体を支えてゆっくりと座らせる。
すると、そのすぐ後にフリードに乗ったティアナとキャロも彼らの傍に駆け寄ってきた。
「スバルさん!」
「酷いやられようね」
「おー、お前ら。
全員ここにいるってことは」
汗で張り付いた前髪を掻き上げながらスバルは笑みを浮かべる。
「全員、やることはやったわよ」
「はい、ルーちゃんも止めることもできました!」
ティアナとキャロが笑顔で答える。
「じゃぁ、後やることは……」
「さて、これで私の憂いも断てたことだ。
あとは、任せてもいいかい?」
スバルがジエンドの身体を吹き飛ばしたのを確認したスカリエッティはすぐ傍に立つフェイトに向かってそう尋ねる。
「わかりました、ジェイル・スカリエッティ。
大規模テロリズムの容疑で逮捕します」
「……あぁ、その前に一つ忘れていた」
だが、フェイトが彼に
「……スカリエッティ、今何をした?」
「何、この周辺のガジェットの自壊信号を発しただけだよ。
なに、少し派手な花火が上がるだけさ」
「……あまり疑われるようなことはしないように」
スカリエッティの悪戯が成功したような笑みを見て、フェイトは大きく息を吐いた。
「……ハァー」
差し出されたペットボトルの中の水をすべて飲み干したスバルは首にかけたタオルで汗を拭いながら空になったボトルを目の前で彼の診察をしていたシャマルに手渡す。
「私は専門じゃないけど、博士からもらったデータから見ても問題はないと思うわ」
「それじゃ、最後の仕事に行ってきますよ」
シャマルからのお墨付きをもらったスバルは、タオルを取ると同時に立ち上がる。
彼の視線の先には、右腕を包帯でぐるぐる巻きにされ、困り果てた表情を浮かべるギンガがいた。
「止めても行くんでしょう?」
「もちろん。
スバルの返答にギンガは大きく息を吐く。
そして、自分の左腕に装着されていたリボルバーナックルを収納し、それを彼に差し出した。
「行ってきなさい。
でも、ちゃんと帰ってくるのよ」
「わかってる。
ちゃんと帰ってくるよ、みんなで」
水晶の状態に収納されたリボルバーナックルを受け取ったスバルはそのまま、ノーヴェたちの乗り込んでいるヘリに向かった歩き出す。
そんな彼の背中に向けてギンガが一言
「あの
お父さんと一緒に」
突如投げかけられた姉の言葉にスバルは背中越しに手を振るだけだった。
最も、その顔には若干恥ずかしさから、少し紅くなっていたが。
「調子はどうだ?」
「一番怪我の重いウェンディも、今は落ち着いている。
お前には借りが出来てしまったな」
ギンガと別れたスバルは、ヘリの後部ハッチの入口で座り込んでいたチンクに話しかける。
「気にするな、こっちも助けられたんだ。
お互い、貸し借りは無しにしておこうぜ」
「そうだな……。
ノーヴェは中にいる、私は少し席を外しておくとするよ」
スバルの差し出した手を頼りに、チンクは立ち上がり、そう言ってその場から立ち去り、ヘリの操縦席の方へ歩いて行った。
「よう、ノーヴェ」
「スバル」
ヘリの中にスバルが乗り込むと、ヘリの椅子を幾つか使って簡易式のベッドにして固定されているウェンディの向かい側にノーヴェが座っていた。
そんな彼女に向けてスバルが手を上げながら話しかけると、ノーヴェもまた彼に向けて笑みを浮かべながら応えた。
「あー、なんだ。
色々話したいこともあったはずなんだが……」
「あたしもだ。
せっかく話せるってのに、いざってときに何を話そうかわからなくなっちまった」
あれだけ互いのことを思って話しかけられなかった二人。
そして、互いの立場を考える必要が無くなった今、思う存分話せばいいのに話すことが多すぎるために話せないという状態に、二人は傷に響かない程度に声を上げて笑っていた。
特に話さなくても笑いあえる、それが何よりも二人にとっては嬉しかった。
「ゆりかごに行くんだよな?」
「あぁ。
まだあそこに仕事が残ってる。
だから……」
そう言って、スバルはノーヴェの前に屈みこみ、彼女の身体を怪我が重くならない程度に抱きしめる。。
そして、彼女の顔の横で口にした。
「全部終わったら、思いっきり話そう。
今まで話せなかったことや、これからのことも」
「あぁ、そうだな……。
だから、ちゃんと帰ってこいよ?」
ノーヴェもまた、スバルの背中に、左腕を回して彼の身体の暖かさを感じながらそう答えた。
「悲劇のヒロインみたいに待ち続けるつもりはないからな」
「心配するなよ。
むしろ、
互いに言葉を交わした後、二人はどちらからともなく身体を離す。
「約束だ、絶対に破るなよ。
破ったらあたし怒るからな」
「あぁ、約束だ」
ノーヴェが突き出した拳に、スバルも軽く当て、そして彼はヘリを後にした。
「話は終わった?」
「あとで話すって話してきた」
ゆりかごへ向かうヘリの外で、スバルを待っていたティアナは彼の答えに「なにそれ」と苦笑しながらそう口にする。
「さて、それじゃスバルも来たから、最後の確認」
「ゆりかごは俺とティアナが向かう。
チンクの話だと中はAMFで碌に術式が起動しないらしいからな」
「そして僕とキャロ、フリードでフェイトさんの迎えですね」
「向こうは危険はないそうだけど、気を付けなさい」
「はい!」
四人は、確認を終えると、誰からともなく手を差し出した。
一番下にスバル、エリオ、キャロ、ティアナと重ねる。
「これが、フォワードチームとして、今回の騒動の最後の仕事よ」
「全員、もう傷だらけだけど、無事に戻ってくるぞ」
「フェイトさんや、なのはさん、部隊長たちも」
「全員で、僕たちの家にですね」
「それじゃ、フォワードチーム行くわよ!」
「「応っ」」
「はい!」
数時間後、後にゆりかご事件、又はJS事件と呼ばれることになる管理局始まって最大の騒動は終息した。
そこに、奇跡の部隊と呼ばれる試験部隊があったことは誰もが知ることになった。
ノーヴェルートは次回のエピローグで完結です。
一先ずスバルの物語を書き終えることが出来てよかった(連載開始から5年たってますが(・・;)
後日エピローグを投稿します。
その後、GOD編として番外編を投稿していこうかなと考えています。
それではまた次回!