JS事件、管理局始まって以来の大事件が終結して早3年。
すでに事件の傷も癒えていた。
そんな中、第一管理世界『ミッドチルダ』の衛星軌道上に存在する収容施設の一つのある部屋に足を運んでいた。
「やぁ、通信機越しでは何度も話しているがこうして直に会って話すのは久しぶりだね、《スターゲイザー》?」
「想像以上にいい生活してるね、アンリミテッドデザイア」
彼―――サカキは係の人物に案内されて入った部屋にいた男性、先のJS事件の首謀者であるジェイル・スカリエッティに向けて呆れた表情を浮かべながらそう答えた。
「なに、これもこの三年の司法取引の結果だよ」
スカリエッティはそう言うと、コポコポと音を立てるポットからお湯を二つのマグカップに注ぐ。
熱湯を注がれたマグカップからコーヒーの香りが部屋中に広がっていく。
「君は、この三年間で様々なモノを作ってきたからねぇ……。
難病の治療薬、新技術の開発、エトセトラ。
上も、君の扱いには困っていると聞いているよ」
「私はここでの生活に困っていないのだけどね」
そう言いながらスカリエッティはサカキに片方のマグカップを渡す。
「それはそうと、あの二人はどうなっているのかを聞きたいところだね」
「あぁ、それなら先日ノーヴェ君から聞かされたよ」
手渡されたコーヒーを口にしながらサカキは彼の質問に答える。
「正式にプロポーズされたと」
「それはそれは」
サカキの答えを聞いたスカリエッティの脳裏に、自分の愛娘であるノーヴェが顔を真っ赤にしながら報告している姿が目に浮かび、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あの騒動の後、彼女を引き取ってから三年たってのことだからねぇ……。
あの二人の周りでは、いつやるのかといつも話のネタにされていたよ」
「まぁ、ちゃんと先に進んだのなら言うことなしだね」
そう言った彼の口元には微笑みが浮かんでいた。
「さて、話は変わるが、次の仕事の話をしてもいいかな?」
「大歓迎だよ、次はなんだい?
そろそろナノメタルを使った技術を発展させていきたいと考えていたんだが……」
「死に瀕している星を救う仕事だよ」
「詳しく聞こうじゃないかッ!!」
「今回の教導のレポートです」
「あぁ、確かに受け取った」
管理局、そのとある部隊の部隊長室で彼女―――高町なのは―――は、手にした書類をデスクに座る男性へと手渡した。
「さて、教導期間を終えてすぐだが、どうだったこの部隊は?
率直な意見を聞かせてくれ」
受け取った書類を振り分けボックスの一番上に置き、男性はなのはと、彼女の横に立つヴィータに尋ねる。
二人は互いに視線を交わし、なのはが答える。
「想定していた以上の練度でした。
他の特別救助隊の教導にも参加させてもらいましたが、その中でも一番の練度だと思いました」
「それは良かった」
男は彼女の答えに満足し、笑みを浮かべる。
「さて、これで君たちの仕事は終了だ。
何か君たちからあるかな?」
「お一つだけよろしいでしょうか?」
「何かね?」
「スバル……ナカジマ防災士はどんな様子なのかをお尋ねしたく……」
なのはの問いかけにヴィータは「おい……!」と小声で言いながら彼女に視線を向ける。
そんなヴィータに向けて男は構わないと手を上げる。
「そう言えば、彼は君たちの教え子だったな。
気になるのも当然か」
「はい……。
時々連絡を取ったりはしているのですが、
それに、この三日間、彼の姿を見なかったので」
「あぁ、彼なら問題ないよ。
この三日、彼の所属しているシリウス第一分隊は、外回りを行っているのさ」
「外回り……ですか?」
男の答えに首を傾げるヴィータ。
「あぁ、我々の仕事を子供たちに……ッ」
教えると、言葉を続けようとした男だったが、突如鳴り響くアラームを聞いた途端にその身に纏う雰囲気が切り替わった。
『湾岸部、第三グランドタワーマンションにて火災発生!
現場より特救への出動要請!!』
鳴り響くアラームとともに聞こえてくる状況説明の声を聞いた男はすぐに耳に取りつけた通信機を使い、管制室へ声を飛ばす。
「現場に一番近い分隊はどこだ!!」
『現在一番近い分隊は……ワタセ分隊長のシリウス第一分隊です!!』
「よし、すぐにワタセに知らせろ!
それから、待機中の第二分隊も出動させろ!!」
『了解!!』
管制室からの応答を聞いた男はすぐさま立ち上がり、出口に向かう。
「そうだ、彼の仕事を見ていくかね?」
「よろしいのですか?」
男の提案に、なのはは驚きの声を上げる。
「我々の仕事を見てもらった方が、これ以降の教導にも反映させやすいだろうからな」
「ありがとうございます!」
男の後を着いていくなのはを見て、ヴィータは苦笑しながら一言呟いた。
「授業参観かよ……」
「よし、今日はここまでにするか。
しっかりとストレッチしておけよー」
「はーい!」
「ありがとうございました」
ミッドチルダ郊外のスポーツジムで、ヴィヴィオと、碧銀の髪の少女―――アインハルトはノーヴェの言葉に返事をしながら互いの身体をしっかりと伸ばすためにストレッチを始めた。
「ーーー♪」
ストレッチを始めた二人を他所に、ノーヴェは今日行った練習の様子を録画した動画を見なおしていた。
だが、彼女の雰囲気がいつもと違うことを疑問に思ったアインハルトは自分の背中を押しているヴィヴィオに尋ねる。
「あの、ヴィヴィオさん?」
「なんですかー?」
「ノーヴェさん、なんか嬉しそうにしてますけど何かあったのですか……?」
アインハルトの言葉を聞いたヴィヴィオは心当たりがあるのか、笑いながら答える。
「ノーヴェさん、昨日プロポーズされたんですよ」
「プロポーズ、ですか……?」
「はい、スバルさんがノーヴェさんに、です」
「あぁ……あの人とですか」
アインハルトは、合同訓練の際に自分と拳を交わした青年とノーヴェがいい雰囲気になっていることを思いだし、納得の声を上げた。
だが、彼女の目に映るノーヴェの姿は自分のことではないが、アインハルトの顔にも笑みが浮かんでいた。
「なら、お祝いとかはする予定はあるのでしょうか?」
「はい、明日リオとコロナと一緒に考えようって話をしてたんです。
アインハルトさんもどうですか?」
ヴィヴィオはここにいない二人の少女の名前を出したうえで、アインハルトのことも誘う。
この誘いに対する答えは彼女の中ですぐに出されていた。
「えぇ、ぜひ」
「はい!」
「―――おい、この火事ここから離れてないぞ!」
「本当だ、結構ひどいな……」
ジムに備え付けられているテレビを見ていた数人の声が響く。
動画を見なおしていたノーヴェもまたその視線をテレビに向けた。
『ここ第三グランドタワーマンションにて火災が発生しました。
すでに消火活動は開始されていますが、その火の手は収まる様子はありません!
なお、未確認の情報ですが、火元と考えられている階層に子供が取り残されているとのことです』
テレビの向こう側では、その場に居合わせたキャスターが興奮した様子で状況を説明する。
しかし、ノーヴェはそのキャスターのさらに奥に映る制服を見て言葉を一つ、飛ばすだけだった。
「しっかりやれよ、スバル」
「お願いします!!
子供たちがまだ中に!!」
「奥さん、落ち着いてください!
すぐに特別救助隊の隊員が到着しますから」
火災現場のすぐ傍に設営された指揮所、その中には数人の消防隊員と、その一人に縋りつくように大声を出す女性がいた。
「特別救助隊シリウス分隊の隊長のカワセです。
状況の説明を!」
そんな時、指揮所に銀色の防火服を纏った男性が入ってくる。
「指揮を任されているモーリスだ。
現在確認されているのは火元である35階に子供が2人取り残されている。
火の勢いが強く、突入が難しい」
「35階……その階よりも上の階層はどうなっていますか?」
「火元よりも上の階層はすでにヘリで救助済みだ」
「了解しました。
子供たちのことは任せてください」
カワセと名乗った男性は指揮所にいる女性に安心させるためにそう呼びかけた。
「隊長、シリウス6の準備はすでに整ってます」
「よし、ナカジマ、聞いていたな?」
『はい!
35階に子供が二人、その救助ですね!』
「あぁ、35階はお前に任せるぞ。
俺たちは36階から上を再度見回る」
「さてと、それじゃ人助けだ。
35階に道を作るぞ、マッハキャリバー」
『了解です。
ウィングロード展開』
指揮所から離れた広場で待機していたスバルの足下から
「隊長、準備完了です!」
『よし、行け!』
「了解、スバル・ナカジマ、シリウス6、行きます!!」
「よく頑張ったな!
さぁ、ここから出ようか!」
これにてノーヴェルート完結です。
投稿開始から時間がかかりましたが、少年スバルの物語を完結させることができました。
読者のみなさん、今まで応援ありがとうございました!!
番外編等の投稿はぼちぼちやっていきたいと考えています。
それではまたいつか!!