Blue Silver Vampire   作:WaT=Vermillion

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 遠山銀次。かつて最強の攻魔師の一人として名を馳せた少年。これまでにパラドックス事変、フロンティア事変の全貌を解き明かし、魔法少女事変にも参加し、そして飛ばされた異世界事変では導師と世界の脅威に災禍と死神と共に対峙し、打倒した力がある。今の彼は攻魔師としての顔を残しながら、ある研究所の所長を命じられた。その異名は異世界帰り、とも、世界最強の吸血鬼の番犬、英雄殺しなどと呼ばれているが、上層部が呼んでいる異名は蒼銀(あお)の吸血鬼。


第七機関研究所

 暁の帝国。それはかつて絃神島、絃神市国などと呼ばれていた場所だ。そんな暁の帝国とは工業地帯とは遠く離れた沿岸部でありながら、学園の彩海学園とはモノレールで最寄りの駅で行ける場所の近くに、大きく広い研究所が建てられていた。それは厳重なセキュリティで国家レベルで取り扱われている。

 その研究所の廊下を歩くピンクの髪の猫の耳をした人間、半獣人が白い研究腹のポケットに手を突っ込んでいる。スタスタと歩いていると、遊戯室と呼ばれる場所からドア越しに何人かの叫び声が聞こえてくる。防音性だからうるさい、というほどではないが、なにかないか、と尻尾が動き出す。意を決することなく、何気なく入っていった。どうやらTVゲームをしていたようだ。

「うおぉぉぉぉぉッ! それは俺のもんだぁぁぁぁぁッ!」

 遠山銀次 種族:吸血鬼 役職:第七機関研究所の所長

「貰ったッ! これはわたしのものだよッ!」

 暁零菜 種族:吸血鬼 役職:彩海学園の中等部三年兼、第七機関の監視役

「抜かったわねッ! 零菜ッ! あなたの好きにはさせないッ!」

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ 種族:吸血鬼 役職:第七機関研究所の秘書

「くッ! サーベルで、マリアをッ!」

 月読調 種族:人間 役職:彩海学園の中等部三年

「そんな調に、ホームランデースッ!」

 暁切歌 種族:人間 役職:彩海学園の中等部三年

「に、逃げるので精一杯だよ……」

 シルバ 種族:聖隷 器:暁零菜

 その様子を溜め息吐きながら見ている研究者は銀次に向かって肩を叩こうと思ったが、それでは面白味がないので、ちょうど持っていたアイスキャンディーをシャツの背中に入れてみた。

「ひゃあッ!」

 男のくせに甲高い悲鳴を上げた銀次の操るキャラクターの動きが止まる。その隙を零菜と切歌の操るキャラクターが攻撃を仕掛ける。

「「今(デス)ッ!」」

 零菜のキャラが投げて、切歌のキャラが場外へ突き落す。

「しまったッ!」

 銀次が復帰しようと試みるが、マリアのキャラが復帰際の隙をスマッシュしてバーストさせた。

「俺のリドリーッ!」

 敗北した銀次はコントローラーを置き、背中のシャツに入ったアイスキャンティーを取り出しながら、研究者の顔を睨みつけた。

「なにすんだッ! ココノエッ!」

「いや、所長室に行ってもいなかったからだ。そうしたらここから声が聞こえたんで入ったらゲームに没頭していたんでな」

 ココノエ 種族:半獣人 役職:マッドサイエンティスト

 ココノエが悪びれもなく答えた。

 銀次はその様子にアイスキャンディーをビニール袋から取り出して、かじり始めた。

「何の用だよ、ココノエ」

「おまえのムラクモ・ユニット、銀翼のテストをしようと思ってな。どうせ、仕事は済ませたんだろ?」

「まあな」

 そう言いながら、銀翼の待機状態である、右腕に付いている蒼銀の籠手を一目しながらアイスの二口目をかじった。

「言っても、俺の銀翼もムラクモの模造品だろ? ISとか、シンフォギアのハイブリッドな部分を詰め込んだだけで」

「それでも、だ。アルカ・ノイズやオートスコアラーに対抗手段の一つがムラクモ・ユニットなんだ。それの量産をこの国でもやれ、と言われているのだから」

 銀次はココノエから聞かされるながら、アイスをかじり続けた。

「俺の銀翼をベースにするんだよな? 他にベースになるのがあると思うんだが……」

「いや、お前の銀翼の方が汎用性があるからな」

「いやいや、汎用性って、普通の武器なんて、後付け武装しかないし、基本、器用貧乏なことに変わりないぞ? それに防御力も低いし」

「安心しろ、量産機には普通の武装をつけるさ」

「その路線で行けばいいんだけどな――」

 そうアイスを食べ続けている間に、切歌のキャラクターが追い詰められていった。

「立つデスよッ! アタシのヨッシーッ!」

 非情にも、そこへ零菜のキャラがスマッシュしてバーストしていった。

「よし、残り4人ッ!」

「ぐぬぬ、負けたデス……」

 切歌もコントローラーを落として落胆する。

「ココノエ、アイスキャンティーってまだあったっけ?」

「所長室から持ってきたからな。持って来てはある」

「それ欲しいデスッ!」

 切歌はココノエからアイスキャンティーを受け取って、ビニールを開け始めた。

 その間にも、調のキャラクターのダメージが蓄積されていく。それをカバーするためアシストアイテムを拾う調だったが、

「隙だらけよッ!」

 マリアのキャラがアイテムもろとも調のキャラクターをバーストした。

「あーあ、負けちゃった……わたしのアイスクライマー」

 コントローラーを置いた調に、銀次がココノエから持ってきたアイスキャンディーを差し出した。

「ほら、ちょうど手が空いただろ?」

「うん、ありがとう、兄さん」

 調もアイスキャンティーのビニールの袋を開けて食し始めた。

 ゲーム内に残ったのは、零菜のクッパ、マリアのルキナ、シルバのカービィであった。

「なんか、僕、運で残っているような……」

 そんなシルバが操るカービィの元へ、クッパとルキナが近づく、

「あッ、まずい……」

一か八か、手に持っていたモンスターボールを投げつけた。出てきたのは、ミュウだった。

「あれ? このポケモン、どんな効果?」

「ただ出てくるだけだぞ」

 困惑しているシルバに完食した銀次が事実を告げた。

「えッ? それって――」

「こういうことだよッ!」

 クッパがカービィに向かって後ろ投げしてバーストさせる。

「あ、負けた」

「シルバ、アイスどうぞ」

「アイスどうも」

 負けてコントローラーを置いたシルバも銀次からアイスキャンティーを渡され、ビニールを開け始めた。

 その間、クッパとルキナがダメージを蓄積し合っていた。クッパを霊視による瞬間先の未来を見る力を駆使してコンボを繋げていく零菜と、着実にコンボを稼いでルキナの剣のリーチを活かして場外へ飛ばし中央を陣取るマリア。気づけば、両者のダメージはバースト圏内に入っていた。

「次の攻撃で決めるよッ!」

「次のコンボであなたを倒すわッ!」

 お互い倒すビジョンが見えていた。アイスを食べながら見守る敗者たち。

「これはお兄さんの正妻戦争デスッ!」

「なんてこと言うんだ、切歌」

 銀次はダメージ1%のチョップを切歌に与える。

 しかし、そんなキャラの間に、スマッシュボールが落ちていた。

 クッパがそれに向かって賭け、スマッシュをする。

 この時、勝負を決した瞬間だった。

「馬鹿ねッ! 今更アイテムに目が眩むなんてッ!」

「しまっ――ッ!」

 スマッシュボールの接するようにルキナがカウンターの構えを取っていた。そこにクッパの一撃が入り、カットイン、クッパが弾き飛ばされバーストした。

『GAME SET』

 結果的に、ルキナ操るマリアが勝利したのであった。ピンクの髪を揺らし喜ぶマリアに対し、コントローラーを落とし、落胆する零菜。

「わたしの勝ちねッ!」

「ぐ、ぐぬぬッ!」

 零菜はマリアに向かって体勢を整え、土下座をする零菜。

「お願いッ! もう一戦、もう一戦やらせてッ!」

「しょうがない子ね……いいわよ。受けて立ってあげる。その前に――」

 マリアが商社の貫禄を見せつつ快諾すると、マリアの手が銀次に向かって伸ばされる。

「……なんだ、その手は」

「アイスよ。みんなが食べてる最中、ちょっと気になったのよ」

「あ、わたしも欲しいな。みんながおいしそうに食べてたの気になったんだよ」

「集中力切らしても、あの戦闘か……」

 銀次が呆れて溜め息をこぼす。しかし、マリアと零菜に渡すそぶりは見せなかった。

「呆れ顔は見飽きたわよ。頂戴」

「なにしてんの? わたしたちに――」

「マリア、昨日の時点でアイス何本か覚えてる?」

 銀次が尋ねると、マリアが、あ、と言葉を漏らした。

「マリア、その顔なんなの? まさか……」

「零菜、シルバに渡したので最後の一本だったんだよ……」

 零菜が銀次を凝視する。今にも問い詰めそうな勢い、いや問い詰めてきた。

「どういうことッ!? なんで、わたしたちの分がないのッ!?」

「だって、ココノエが所長室の冷凍庫から取ってきたって言ってただろ。だから、ちょうど四本しか残ってないんだよッ!」

「だいたい、なんでシルバまでの分はあるのッ!?」

「だって、一昨日、コンビニで買ってきたアイスが八本入りで、マリアと一本ずつ食べたら、そりゃあ減るだろッ!」

「マリア、あなたもかッ!」

 マリアが軽く頭を下げた。

「ごめんなさい……」

 零菜から解放された銀次は少し息を整えた。実際胸倉を掴まれた程度だが、零菜の匂いを吸わないように息を止めたのだ。

「まったく、二人してッ! ここが国家機密の研究してること自覚してるッ!?」

「そこで遊んでいるお前たちはなんだ?」

 ココノエが溜め息を吐きながら言った。遊戯室があるとはいえ、零菜の言う通り、国家機密を取り扱っているのは事実だ。水面下では。

「それでも表面上は、あらゆる医療企業や、娯楽ゲーム企業。防衛兵器産業などの書類には目を通しているぞ、俺たちは」

「ええ。そのためには、頭を冷やす必要があるわ」

「アイスを食べて?」

 銀次とマリアが意見を述べるが、零菜の反論にぐうの音も出なかった。

「休憩は、いるだろ?」

「わたしたち、仕事はしているから……」

 銀次とマリアが叱られた子供のように落ち込んでいると、零菜はムキになっていた自分が恥ずかしくなってきた。

「わかったよ。わたしが言い過ぎたから……」

 これじゃわたしが駄々っ子だな、と頭を掻き毟りながら自身の言動を反省する。

「とりあえず、銀次。お前は来てもらうぞ」

「だいたい承知してる、訓練相手は?」

 銀次は右腕の籠手の調子を整え、零菜はゲーム機をスリープ状態にする。どうやら観戦していくようだ。

「テイガーだ。改造した性能を見たいからな」

「ココノエ、さっきのは建前だな」

 先ほどの説得が嘘だと言わんばかりにココノエは遊戯室から出ようとする。

「ちょっとまって、シンフォギアの戦闘データも欲しくない?」

 マリアの提言に、ココノエは少し沈黙して考えていると、うん、と頷き始めた。

「そうだな。アガートラームのデータがあれば、銀翼の強化にも充てられるしな」

「それに試してみたいコンビネーションもあるの。いいわよね」

「なら、かまわん。テイガーにはあらかじめ伝えておく」

 ココノエが遊戯室から出ると、銀次がマリアに問い詰めた。

「コンビネーション? 武神蒼天破のことじゃないよな?」

「大丈夫よ。あなたはしばらく上空からわたしの動きを見ていればいいから」

「テイガー相手に一人で? 無茶じゃないのか?」

「大丈夫よ。わたしたち一人一人のデータは見られても、二人のデータは少ないはずよ」

 自信満々に大きな胸を張るマリアに、銀次は苦言を放とうとしたが、

「わかったよ。くれぐれも電流にやられるなよ。電磁があいつの強みだからな」

「もちろんよ」

 銀次とマリアはグータッチで互いの士気を高め合った。不安要素を言ったって、互いにわかり合っている。ならば、こうして相棒の元気を確かめるだけでも充分だろう。

 

 シミュレータールーム。内部は立体建物などを顕現させる装置やデータを取るためのカメラ、外部には現代科学より優れた強化ガラスに観覧席が造られている。

 シミュレータールームには、蒼銀の右腕の籠手と光の翼が付いた鎧を纏う銀次と、白銀の左腕の籠手が印象的なマリアと、大きな身体と機械仕掛けの大きな腕が印象的な赤鬼がいた。

「いい経験だな。ムラクモ・ユニットとシンフォギアが相手とはな」

テイガー(TR―0009) 種族:サイボーグ 役職:第七機関(主にココノエ)の私兵

 テイガーは大きな指で小さな眼鏡を整えた。

「案外、余裕そうじゃねぇか、テイガー」

「それは、わたしたちに勝つつもりで言っているのかしらッ!?」

 テイガーの挑発的な態度に面と向かって、受けて立つ銀次とマリア。

「そうだと言ったら?」

『訓練を始めてくれ』

 テイガーが笑ったタイミング、ココノエのアナウンスの声が続けて流れ、マリアは先行して左腕の籠手からアームドギアである戦乙女の剣を取り出した。

「受けて立つッ!」

 マリアは剣でテイガーの身体を斬りつけていった。テイガーはそんなことで動じなかった。むしろ、攻撃を待っていたかの構えだった。

「マリア、下がれッ!」

「ええ――ッ!」

 マリアが応えたと同時に、後ろに跳んでいるのだが、前へと進んでいる。テイガーがニヤリと笑ったのを銀次は見逃さなかった。

「判断が甘いッ!」

 吸い寄せられていくマリアに向かってテイガーは大きな腕をブン、と振り回し叩きつけた。

「マリアッ!」

 銀次は壁に叩きつけられるマリアを寸前で受け止めるが勢いは殺せず、代わりに壁に叩きつけられる。ダメージは大きくはない。しかし、未だ致命傷を与えてもいないのに、カウンターが大きすぎる。

「この程度か? マリア、銀次?」

「「くッ!」」

 銀次は籠手のある右腕にクロスボウ、シルバー・ピアス、左腕に愛刀の太刀、銀雪を握っている。銀次がマリアに太刀を渡す。

「銀次、これは……」

「勝つためだ。それにお前ならちゃんと扱えるだろ?」

「ええ……ッ!」

 銀次としてはもはや模擬戦ではなく、実戦としてこの戦いに臨んでいるのだ。それはマリアも同じだった。いや、このダメージでようやっと気づかせたのだ。二人して血反吐を吐き捨てると、

「いくぞッ! マリアッ!」

「いくわよッ! 銀次ッ!」

 銀次は上空へ、マリアはテイガーに向けて長さの違う二刀流で斬りつけていく、

「お前の苦手な塩水だッ!」

 塩水を含んだ鏑矢がテイガーに向かって発射される。

 それを予期したテイガーは腕から放たれた電気の塊で鏑矢を消滅させる。

「これかッ! 魔改造の結果っていうのはッ!」

「その程度の対策ッ! 既に取っているッ!」

 今度は浮上している銀次に異変が生じる。身体がテイガーに吸い寄せられていく。じわじわと、テイガーに接近していくのが感じ取れる。

「これはッ!」

「先ほど、マリアを庇っただろう?」

 そういうことか、と内心舌打ちをする。マリアを薙ぎ払った時に受け止めたおかげで、磁力が付いてしまったのだ。

「くそッ! 磁力がッ!」

 テイガーが銀次を磁力で吸い寄せる。その隙を、マリアは逃さなかった。

「イグナイトモジュール、抜剣ッ!」

 マリアが漆黒に染まり、白銀の鎧から黒銀の鎧へと変貌する。

「なめるなッ!」

「こちらの台詞だッ!」

 二刀流で斬っていくマリアにテイガーは手で防いだ。大きな機械の腕には傷が入るものの、決定的なダメージを与えられていない。その間に、銀次はテイガーの磁力に吸い寄せられていく。銀次は覚悟を決めて、右腕の籠手を翳す。

「セカンドイグニッション、抜剣ッ!」

 右腕のモジュールから黒炎を発し、全身を纏い始める。

 蒼銀の鎧は蒼黒へと染め上げ、光の翼は竜の翼へと実体化していった。右腕は氷を纏いながら、右腕に握りしめたシルバー・ピアスに意識を集中した。

「轟天ッ! 泡追ッ! 凍牙ッ!」

 シルバー・ピアスの銃口から雷、泡、氷の弾丸が連射される。それを受けるテイガーは、電撃、水撃からの凍結を仕掛けた。テイガーの皮膚を凍らせることに成功するが、磁力は未だ銀次を引っ張り続けていた。

 それでも銀次は磁力に引っ張られながらも、辛うじて距離を保って移動することができた。

「マリアッ!」

「言われなくてもッ!」

 銀次の言葉でマリアがテイガーの前に飛び出した。その時、マリアの左目が蒼く光らせた。

「わたしをなめないでッ! テイガーッ!」

 背丈くらいある太刀と腕ほどの長さもない剣を巧みに操り、テイガーに連撃を行う。流石のテイガーも、懐に入られてなにもせずにはいられなかった。

「おのれッ!」

 また腕の薙ぎ払いが来る。マリアの左目には瞬間先の未来が見えていた。今度は寸前で躱す。磁力に吸い寄せられるのはあったが、銀次から受け取った太刀で斬って疑似空間断裂を起こし、磁力から一時的に逃れる。

「霊視かッ!」

 しかし、零菜はもちろん、銀次にも劣るこの能力連発はできない。

「マイターンッ!」

 それでも、銀次がなにかを為すなら時間稼ぎくらい引き受けよう。そう決めたマリアの気持ちは堅かった。

「はあッ!」

 持っている剣と太刀を蛇腹剣の形状に変え、刃を伸ばし、テイガーの身体に傷をつけていく。

 蛇腹剣の攻撃に耐えかねたテイガーは、突進をしてきた。磁力に引き寄せられる。剣も太刀も身体も。

 しかし、その間に祝詞を言い終えた銀次がシルバー・ピアスを構えて銃口をテイガーに向ける。

「終わりだッ! 業天・封磁ッ!」

 鏑矢の一撃を受けたテイガーが、両腕で防いだ。

「そう来ると思ったッ! もう一発ッ!」

「そうかッ! この技はッ!」

 テイガーが咄嗟に身体で受け止めた。

 テイガーの両腕からの磁力は弱くなっており、電流を流すだけになった。

「磁力が、弱まったッ!?」

「なるほどな、私対策か」

 磁力が弱まった隙に、銀次は好き放題に撃ちまくる。

「それそれそれそれッ!」

 テイガーはそれらを両腕で防ぎ、後ずさりしながら一撃一撃を受けていった。

 銀次が撃ち尽くした後に、テイガーから電気の塊が飛び出してくる。

 銀次は飛んできた電機の塊をヒラリと避けていくが、再び磁力によって身体を引っ張ってくる。

「ば、馬鹿なッ!? 磁力は――ッ!」

「電磁力を甘く見るなッ!」

 テイガーの周りに落雷が来たかのような衝撃に、マリアは目を閉ざした。

「まさか、電力自体を強化したというのッ!?」

 マリアがそう推測すると、テイガーが叫んだ。

「銀次ッ! お前からだッ!」

 テイガーは銀次を磁力で引っ張り上げる。強烈な磁力に銀次はテイガーの手中に入るのは時間の問題だ。

 銀次は竜の翼で自身を囲んで蒼黒の身体を黒炎に飲み込まれる。

「セカンドイグニッション、オールセーフティリリースッ!」

 化け物の鳴き声に似た声で轟かせた。銀次は暴走の渦中でテイガーの手を振りほどき、磁力から解放されたかのように機敏に動く。その際、シルバー・ピアスが捨てられた。

「粋がるなよッ! テイガーッ!」

 具現化された巨大な右腕の氷爪と、巨大な尻尾でテイガーを一方的にいたぶっていく。

「銀次、そこまでの力がッ!?」

 銀次は、未だ暴走の渦中にいながら、マリアに攻撃する素振りは見せなかった。力が暴走しながらも、完全に意識を保っていることを意味していた。

「喰らえッ! 投げ技はもうお前の特権じゃないッ!」

 銀次はテイガーを右腕で掴み上げると、黒炎に描かれた、悪魔のような顔でテイガーを見上げていた。

「なッ!?」

「いけッ! 銀次ッ!」

 テイガーを黒炎の中に包み込む。そしてそれが飛竜のような形をして上空へと飛び立ち、シミュレータールームの天井に着きそうなあたりで、黒炎が銀次の右腕と翼に収束していった。銀次がテイガーの上に飛んでおり、テイガーを叩き落そうとしている。

「ワイバーンダイブッ!」

 その声と共に急速に落下を始めた。テイガーを床に叩きつけていった。すると、床に大きなクレーターができていた。

「見たか、俺の、渾身、の……」

 銀次が空中でよろけながら、テイガーに勝ち台詞を言うと、装着状態が解け、地面に落下していった。

「銀次ッ!」

 マリアが銀次を受け止め、無事か確かめる。どうやら外傷はないようだ。しかし、瞬間磁力に引っ張られる。

 テイガーががっしりと床に手を当て、起き上がっていく。

「どうやら甘く見ていたようだな……威力を抑えて勝てると思っていたのか……」

「……わたしたちの負け、みたいね」

 マリアが片腕で銀次を抱きしめながら、片手を上げた。

「そうでもない……銀次は最後に手加減を加えていた。私が大事に至らなかったのは銀次が……」

 確かに、銀次があそこまでの暴走状態に陥りながらも、後遺症になるような怪我をしなかったのは彼がイグナイトモジュールを制したからだろう。

『データは取れた。連携は崩されたが、今の銀次の底力を知ることができた。上々だ』

 実際、マリアの言う連携は二人の高い機動力を活かした戦法だったが、テイガーには見破られた。

「どうしましょ、彼の意識が戻らないことには……」

 あれだけの破壊衝動を自分の精神で抑えたのだ。無事では済まないだろう。

『マリア、今日のところは銀次を連れて帰ってくれ。どうせ仕事はないんだろう?』

「ええ、そうさせてもらうわ……」

 マリアは銀次をお姫様抱っこしてシミュレーションルームから出た。

『どうだった? あの化け物と戦った感想は?』

「正直、死を覚悟していた。本当に手心を加わってなかったら危なかった」

 テイガーは二人がいなくなったのを確認したところで、ようやっと本音を吐き出せた。

 

 銀次は明るいライトに目が眩みながらも、意識を覚醒させていく。

「う……ん、ここは?」

 気が付けば、自宅のリビングのソファーの上で寝転がっていた。ソファーを動かす音に気付いた零菜は、銀次の顔を覗き見て、確認した。

「銀次君、目が覚めたッ! 目が覚めたよ、マリアッ!」

 零菜の呼び声にマリアもバタバタと走って銀次の顔を窺った。

「そう、意識はある?」

 マリアが心配そうに声をかける。

「零菜にマリア……俺、どうして家のリビングに?」

「見てみなよ、もう夜だよ」

 零菜に言われ、窓の外を確認する。言われるまで気づかなかったが、外は真っ暗だ。時計も八時を過ぎていた。

「俺、なにしてたんだっけ?」

 直前の意識がない。マリアが溜め息を吐く。

「そっか、テイガーと戦って……」

 右腕の籠手を見て大体思い出せた。テイガーと戦って、イグナイトモジュールの出力を限界まで引き上げ、暴走を抑えながら、テイガーを投げつけようとして、そこで体力よりも精神が限界が来た。要は銀次の無茶でしかないのだ。

「ホント、二人はすぐ頭に血が昇っちゃって」

「「う……」」

 零菜に言われて、すぐに胸が刺さる、銀次とマリア。二人とも戦闘中に頭に血が昇りやすい。

「ま、みんな無事ならそれでいいけどさ」

 零菜が溜め息交じりに言った。

「ごめん、零菜、マリア」

「いいわよ、最初に隙を作ったのはわたしだし」

「まったく、二人で戦っても心許ないんだから」

 零菜が銀次とマリアを酷評した。今日は容赦がない。

「言い返す言葉がないよ」

 零菜は上に尖った口を一息ついて、にんまりと口を下に弧を描いた。

「とにかく、風呂に入っておいで。その間に晩御飯の準備しておくから」

 銀次が周りを見渡して、ある人物を探した。

「母さんは?」

「ノエルさんなら、銀次君を心配してたけど、わたしたちがいるからって先に眠ったよ」

「そっか、明日母さんにも謝んないとな……」

 母さんには心配かけてしまった、と猛省する銀次。シルバが着替えとバスタオルを銀次に渡す。手慣れたものか、零菜も、マリアも、シルバもこの家の構造は知り尽くしている。

「銀次、これ」

 受け取った銀次は風呂場へ直行する。

「シルバ、ありがとう。じゃあ、風呂に入る」

 それを見届けた零菜はできていた晩御飯の仕上げをし始めた。

「うん、晩御飯、楽しみにしてよッ!」

 零菜が晩御飯の支度をしている時に、マリアが冷蔵庫から冷えたワインボトルを取り出した。

「さて、と」

 マリアが舌なめずりしてグラスにワインを注ぎ込む。それを見た零菜が呆れる。

「まったく、晩御飯まで我慢できないの?」

「いいじゃない。どうせ、泊まるつもりだったし」

 そう言いながら、ワインを一口、飲む。シルバがそれを見て疑問を抱いた。

「それって、高い銘柄のワインなの?」

「いえ、安物よ。だけど、価格の割にはいい味してるのよ、これ」

 零菜が溜め息吐きながら文句を言った。

「それ以上飲むと、晩御飯、入らなくなるよ?」

「いいじゃないの。少しくらい」

 マリアが大人の片鱗を見せることなく、

「もはや、ロクロウさんと変わりないじゃん」

 かつて、異世界で渡った剣豪の名前を出した。

 

 風呂上がり、パジャマに着替えた銀次は晩御飯を食べている。食べている最中なのだが――。

「銀次ぃ~」

 銀次の左腕に絡みついているのはマリアだった。食事を始めて早々からこの状態なので、食べられずにいた。

「あのー、零菜さん」

 助けて、と言わんばかりに零菜に尋ねた。

「なんでしょうか、銀次君」

 零菜はジト目で二人の様子を見ながら、晩御飯の鍋の具材のキノコを頬張っていた。どうやら助けてくれる気はないようだ。

「この酔っ払いはいつから飲み始めたのかな?」

「銀次君が風呂に入った時に、フライングして一口、現時点で三杯目になるね」

 マリアが器用に銀次の左腕を拘束しながら、グラスにワインを入れた。これで三杯目ということは、二杯も飲んで酔っ払っていることになる。ここまで酒に弱かったか、と銀次は疑問に抱くが、そうも言ってられない。

「銀次ぃ~」

 銀次の左腕がマリアの胸に当たっているのだ。触ったわけじゃない。

「なあ、零菜。このマリアを振りほどくのを助けてくれない?」

「やだよ。自分でなんとかしてよ」

 零菜はずっとキノコを食べ続けている。キノコ好きだったっけ、と銀次が疑問を抱いたが、すぐにその疑問は別の思惑に上書きされる。

「銀次ぃ~」

 相変わらず、左腕に胸が当たっている。誰か助けてくれないだろうか、とシルバに目をつける。

「シルバ、お前が助けてくれない?」

「いや、僕にそんな力は……」

「この際だ、水を浴びせて――」

 いやでも、目が覚めるだろうとシルバに頼み込もうとした時、箸を持つ右手が突如として拘束される。

「マリアばっかりずるい~。わたしもぉ~」

 零菜だ。零菜が銀次の右腕に絡ませてきた。

「おい、零菜までくっつくな――」

「大変ッ! これ、魔術材料のものだよッ!」

 シルバが銀次に残った一片を見せてきた。これはアルコールの効用に似たキノコだ。

「なんで、そんなものが家の冷蔵庫にしまってあんだよッ!」

 いや、そもそもそんなものでご飯を作るんじゃねぇッ! とツッコみたいが、零菜は聞き入れる様子はない。

「銀次ぃ~。今夜は付き合いなさいよぉ~」

「ダメェ~。わたしと朝まで――」

 マリアと零菜からお誘いを受ける銀次。双方から顔を近づけられ、困惑の様子を見せた。

「回復させる手段はッ!?」

「それなんだけど、ずっと回復術を浴びせているんだけど……」

「効いてないってことかッ!?」

 シルバが困った顔を見せながら頷いた。シルバの聖隷術が効かない、となると……。

「うん、自然に回復するまで待つしか……」

 シルバが例のキノコの一片を持ち込んで、あることが判明する。

「これ、結構強力なものじゃないのかッ!? 俺、朝まで耐えられる自信ねぇぞッ!」

「銀次ぃ~」

「銀次くぅん~」

 二人とも、猫撫で声で甘えてくる。二人とも、普段出さない甘美な声が出てきて銀次は少し興奮する。

 そんな銀次にシルバが助け舟に抑制剤を持って来てくれた。

「ナイスッ! シルバッ!」

 銀次がこれ以上ないほどに感謝を唱えながら、両腕が拘束されていく中、シルバが口まで持ってきて錠剤を飲み込んでいく。錠剤を飲み込んだおかげか、

「しょうがないよ……だって」

「ああ、二人とも俺の婚約者、だもんな……」

 だからといって、銀次にそれ以上の関係から進展する気は今のところはない。このままじゃ、二人とも進展しかねない。幸い、銀次からはシルバから持ってきた錠剤によってそれ以上の興奮は抑えられているが、この二人の興奮を抑えられる自信はない。

「銀次、これ」

「今度、高いアイス奢ってやるッ!」

 なんて素晴らしいことか、シルバが睡眠薬を持って来てくれた。シルバが睡眠剤を水に仕込んで二人に何気なく渡した。

「二人とも、これを」

「ありがとぉ、シルバ~」

「気が利くねぇ、ありがと」

 マリアと零菜が何の疑いもなく、水を飲み干した。

 銀次が確か即効性だよな、と疑っていると、マリアがウトウトし始めて、やがて銀次の肩に頭を垂らした。それに続いて零菜にも、効いたらしく眠るのを抑え始めた。

「ま、まだ、銀次君と……」

 零菜が銀次の肩に頭を垂らして眠り始めた。最後なにを言いかけたのかはあえて考えないようにした。二人が眠ったことを確認すると、両腕を動かすが、彼女たちの腕が離れない。

「あれ? こいつら、寝てても離れない……」

「しょうがないよ……二人とも、そういう吸血鬼(ひと)でしょ?」

「そうだったな……」

 力強さは吸血鬼由来か、と納得する銀次も吸血鬼なのだが。二人とも力強い。

「もうこのまま寝るしかないね……」

「え?」

 シルバからも匙を投げた。頼みの綱がここで切れた。シルバが毛布を持って来て、銀次たち三人にかける。

「ほら、毛布持ってきたよ」

「もう無理?」

「うん……」

 最後に聞いてみたが、やはりダメだった。シルバがテーブル上の鍋や食器を片付けている間、二人を起こさないように、ゆっくりと横になった。横へ向くと、どちらか美少女の寝顔を見ることになるので、上へ向いて寝ることにした。正直、照明の明かりが眩しいとは思ったが、薬で抑えているとはいえ、どちらかの寝顔を見て寝るのは流石に抑えきれない。いかがわしい想像をしてしまう。

 美少女二人に挟まれて寝ようとすると、すぐ近くの銀次の父親のキンジの仏壇があることに気づく。それを横目に銀次はこう思った。

 父さん、女に振り回されるのはアンタの遺伝らしいな。

 眠気が来るまで寝ようと考え、小言を呟いて目を閉じた。明日は夜明け前に起きよう。

「勘弁してくれ……」

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