Blue Silver Vampire   作:WaT=Vermillion

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元:pixiv


飛び立った天使は縛られる 結

 銀次とマリアが戦場から離れていく一方で、的場は一人魔物と戦っていた。

「くそッ! ホラーゲームの生体兵器かよ、こいつはッ!」

 銀次と似たような感想を叫んだ。

 殴る度に肉体がグロテスクに潰れる音と紅に近い黒の液体が的場にかかっていく。

 返り血の代わりと思いたいが、血液というにはあまりに臭く、粘り強い。

 しかし、状況は的場のワンサイドゲームだった。

 魔物の武器が大ぶりなものだからか、それ以外の武器がないからか、攻撃してこない。

 どちらにしろチャンスであることに変わりない。

 魔物を倒すにはこれ以上ない好機だ。

『左に避けて』

 それはラムダも感じ取っていた。

 的場は言われるまま左に移動し、ラムダはピグレット二挺で砲撃した。

 二挺のピグレットが魔物の肉体を弾けさせた。

「グロいッ!」

「どういう風の吹き回しだッ!」

 援護してくれるラムダに的場は問いかけながら殴りに入った。

「その台詞はこっちの台詞。でも、あなたは恩人だから手伝ってあげるだけ」

「可愛くないことを言うねえ。ま、ありがたいがなッ!」

 要は借りを作りたくない、と言いたいのだ。

 それは的場に伝わった。

 だが、的場自身、それを貸し付けに来たわけじゃない。

「俺は俺自身で来ているだけだッ! 勘違いすんなッ!」

 そう言いながら再び魔物への殴打を始めた。

 ラムダは止めるべきだと理解していた。

 だが、ここで的場が逃げに入って、重症の銀次を狙うリスクもあった。

 なので、ラムダは敢えて忠告をしなかった。

 それに、銀次が黙って離脱するとも考えないだろうから敢えて言わなかった。

 しかし、この二人の判断があることを決定づけたことを誰も知らなかった。

 

 銀次がいるのは、戦闘エリアから1キロ離れた高台だった。

 銀次は銀雪を弓に形態移行し、左手に握る。

 痛みは引いてきた。

 だからと言って、マリアたちは銀次が戦線復帰することを望まないだろう。

 銀色の翼も出せるようになった。エラーは解消されている。

 それでも、マリアが銀次を注視するのをやめないだろう。

 痛くない? と訊かれるのがオチだろう。

 痛みは残っている。だが、我慢できる領域まで回復している。

 痛みが残ったまま、銀次は右手にエネルギーで出来た鏑矢を握り締めた。

「やるのね、銀次」

「ああ、あいつらばかりにいいカッコはさせられんからな」

「今のあなたは不様だけどね」

「本当に手厳しいな……」

 銀次が弓の弦に鏑矢を引っかけ、右手の指で鏑矢ごと弦を引っ張る。

 左手で柄を掴み、矢先を上にずらし、調整をする。

 狙いは一点、魔物の頭部だ。

 高密度の呪詛が込められた鏑矢を弦ごと引っ張り上げる。

 狙うは一撃必殺。

 この距離は自分の得意距離だ。

 伊達にあんな師匠に仕えてきたわけじゃない。

 そう思っている銀次だが、狙いが定まらない。

 簡単なことだ。

 強く弦を引っ張ることで治りかけた銀次の身体に痛みが生じたのだ。

(弦を引っ張るだけでこんなに痛いなんて……ッ!)

 そんな銀次の顔を見かねて、マリアが背中から覆い被るように銀次の背中に回り、銀次の両腕を掴んだ。

 マリアの引っ張る力は闇雲に力を支えてくれたわけじゃなかった。

 ただ身体とは垂直に銀次の両腕に力を加えたのだ。

 銀次は魔物へ狙いを定めることに集中できた。

 マリアはただ弦を引っ張る力を与え、銀次は狙いを定め。鏑矢を握り締めている。

 マリアとは阿吽の呼吸で繋がっている気がした。

 あとは――。

「的場、狙撃するから離れろッ!」

 的場に向けて忠告した。

 的場が魔物から離れた一瞬、鏑矢を右手から離した。

 手元から離れた鏑矢は目標に向けて飛んでいった。

 エネルギーでできた鏑矢は氷刃となり、あらゆる水分を吸収しながらも、氷の槍のような形になっていく。

 速度はどんどん上がっていき、魔物の頭部を綺麗に撃ち抜いた。

「やった……ぜ……」

 安心のあまり、銀次は背中へ倒れだした。

 それをマリアが受け止め、銀次を起こした。

「大丈夫、銀次?」

「ああ、なんとかな……」

 銀次は背中から掴みマリアの手を右手で触れて感謝する。

「ありがとう……。無茶に付き合ってくれて……」

「それがわたしの役目だもの。他の人に任せられないわ」

 銀次が撃ち抜いた魔物の最期を眺めていた。

 すると異変に気付く。

 魔物は的場を掴みかかろうとしながらも、術式が展開され、身体が膨張していく様子を。

「おっさんッ! すぐにそいつから離れるんだッ!!」

 銀次の悲痛の叫びが高台から響いた。

 

 銀次の忠告を聞いた的場は、魔物から離れることを決意した。

「わかってるよ、今から――ッ!」

 しかし、撃ち抜かれた頭部から触手が的場の足に絡みつき、逃がさなかった。

 そうしている間にも、術式と身体の膨張が進行していった。

「錬金術が発動している?」

 ラムダがそう解析すると、魔物から離れていった。

 やがてグロテスクに膨張していった魔物の身体は赤い光を纏わせながら、自爆していった。

 爆発は黒い液体が飛び散り、灰色の煙となった

「的場ッ!!」

 銀次が身体の無理を承知でマリアを担ぎながら現場へ駆けつけた。

 痛みはマリアを担げるのが耐えられるくらいだ。

「ああ、大丈夫だ……」

 返事があった。しかし、その声は的場より若々しい青年のような声だった。

「「えッ?」」

 銀次とマリアは若々しい声に驚く。

 煙から影が見えた。

「なっ、大丈夫だろ?」

 姿を現したのはエンゲルを纏った若々しい姿の少年だった。

「に、しても身体が軽くなったような……」

 銀次とマリアは驚きつつも、顔を合わせた。

 その顔に見覚えがあるのだ。たった昨日見た資料に出ていた若い時の画像と同じ、いや銀次と同じくらいまで若い姿だった。

 そのおかげか、さっきまでの痛みを忘れられた。

「どういうことッ!? 若返りなんてッ!?」

「俺だって知るかよッ! 若作りならまだしもッ!」

 二人は動揺したその時、近辺の建物が爆発した。

 レーダーで確認すると、フェルが内部にいたはずだ。

「フェルッ!? 無事かッ!?」

 銀次が叫ぶ中、爆発の煙の中からフェルが飛び出してきた。

「すいません……錬金術師たちは自爆をして……逃げるのがやっとで……」

「いや、よく無事に戻ってきてくれた」

 肩を落とすフェルの背中を銀次が叩いた。

 元気を取り戻したフェルが見上げると、白色のムラクモ・ユニットを纏った少年に目が留まった。

「あれは、誰ですか?」

「実はな……」

 銀次がフェルに説明している間に、身体に違和感を抱いた的場が鏡になれる鉄に近づき、自身を映している鉄を凝視した。そして、自身の顔をつねったり、叩いたりして確認してようやく実態を把握した。

「なんじゃこりゃあああああッ!!」

 

 そのまま帰投した四人は、身体検査中の的場を他所に、ロビーで話し合っていた。

「あの錬金術師共はなんで、若返るような術をあの魔物に仕込んだんだ?」

「わからないわよ。大体、それをして彼らに何の得があるの?」

「銀次を幼児化して、弱体化のつもり?」

 ラムダが首を傾げて予測を立てる。

「すみません、僕が捕らえていれば……」

「フェルの責任じゃない」

 落ち込むフェルにラムダが背中をさすった。

「結局、パヴァリア光明結社かどうかもわからずじまいね」

「残骸処理を黒ウサギ隊に任せたんだ。手がかりは欲しいが……」

「少なくとも、関連はあるものだとは思います。アルカ・ノイズを使っていたので……」

 四人が話し込んでいると、学校帰りの零菜、調、切歌が駆けつけた。

「銀次君、みんな、大丈夫ッ!?」

「わたしたちがやられるとでも?」

 マリアの言葉に銀次たちは胸を張って無事を知らせる。

「よかった……」

「駆けつける必要がなかったデスね」

 安堵の息を漏らす調と切歌。

 しばらくして、マイとカジュンが入る。

「カジュン、的場の身体はどうなってるんだ?」

「身体は見た目通り十代、銀次さんと同じくらいですわ。それに、成長が止まっていますの」

「……そういや、マイも似たような状況だよな?」

「わたしのはちょっと違うかな。成長はしてるし」

「胸も大きくなっていますし」

「カジュンッ!」

 それを聞いてボーッと考えていた銀次の頭をマリアが叩いた。

 銀次自身に非があるので文句は言えない。

「あと、これはこっちにとっては好都合かもしれませんが、エンゲルの適合率が上がっているんですの」

「エンゲルの適合率が?」

 頭をさする銀次はカジュンに訊きなおした。

「まさか、本当にテスト装者にするつもりですか?」

 フェルが怒りを込めた声で銀次たちに言った。

「珍しいな。お前が激昂するなんて」

「当たり前ですよッ! あの男は略奪者なんですよッ!」

「そりゃ、そうだが……」

 半分はお前のフォローだったんじゃないか、とツッコみたくなったが、抑え込んだ。

「テスト装者は他を当たるべきですッ! あの男なんかに任せては――」

「残念だが、浅葱が決めたことだ。異論は銀次も言えん」

 ココノエがロビーに入ってくる。

「ココノエ、終わったのか」

「ああ、身体データを送信済みだ」

「S.O.N.G.にか?」

「エルフナインは錬金術の専門家だろ?」

 するとココノエの通信機器が鳴った。

 銀次の携帯端末と違って、外見が少し古いタイプの通信機だが、暗号通信も可能な機器となっている。

 ココノエは通信機器を操作し、壁に映像を映して通話を始める。

 その映像にはエルフナインが映っていた。

『聞こえますか? ココノエさん』

「聞こえている。身体データの解析はどうだ?」

『残念ですが、憶測の段階でしか話せません』

「それでもかまわん、言ってくれ」

『かけられた術式は呪いのようなもので、戦力を落とすつもりだったと思います。キャロルの知識にはないものなので、断言できませんが……」

「例の結社とは関係ありそうか?」

『わかりません。が、術式が完全に発動しているところを見ると、完成されたものだと思います。深く解析してみなければわかりませんが……』

「身体に害はあるのか?」

『見た通りですとありません。解呪法を探してみますから……』

「それの必要はない。奴はあのままにしておく」

『え?』

 そこへズカズカと足音を立てて、ココノエに掴みかかろうとする的場が現れた。

 しかし、的場はココノエに軽くあしらわれて、転ばされた。

「待て、ココノエッ! 俺をこのままにする、ってのはどういうことだッ!」

「なんだ、麻酔が切れたのか」

「眠らせたんか、おのれはッ!」

 銀次がたまらずツッコんだ。

 どこの米国の機関だよ……と頭を痛める。

「ああ、元に戻さない。と言ったら、暴れたからな」

「ふざけんなッ! 俺を元の身体に戻せッ!」

『あの、本人が戻りたがっているようですが……』

「この国に的場を押し付けたのはそっちだろう? だから、こっちで扱いやすい形でな」

 完全に所長の銀次が知らない方向へと話が進んでいることに気づき、

「俺はそんな非道な事、許可したことないけど?」

 思わず発言する。

「逆に考えろ、銀次。あいつらが押し付けた的場が若返ったなんて、どれ程の人間が信じる? むしろ、ここで死んだことにしておいて、こっちで新しく戸籍を作った方が早いだろ」

「それって、もう非合法だろ……」

 本当、どこの米国の機関ですか……。

 調と切歌を見て余計にイメージが深くなる。

「零菜、お前の母親は許可すると思うか?」

「多分、元の的場さんの戸籍は作れないだろうから……」

「そういうわけだ。諦めろ、的場」

「何が諦めろだッ! これじゃ、風俗店にも通えやしねえだろッ!」

 零菜とマリアはすかさず調と切歌の耳を塞いだ。

「なに? 零菜?」

「聞こえないデスよ? マリア?」

「「あああああ……」」

 二人揃ってごまかし始めた。

 的場はマリアが睨んでいる目を見て、自分の言動に気をつけた。

「どうしようもないんだ。それにその身体の方が適合率が高いしな」

「だったら、禁錮部屋に戻すってのはどうです?」

「ぐぬぬ……」

「さて、どうする? 元の身体に戻りたければ牢獄暮らし。その身体のままだったら、好待遇で扱ってやれるが?」

「もう……元の身体に戻るなって言いてえのかよ。お前らは……」

「お前ら流石にひどすぎやしない?」

 銀次に所長権限がないことを思い知らされる。

 すると、ココノエが銀次の方へ

「所長、お前はどうしたい?」

「俺か? 俺は……」

 急に所長権限が戻ってきて動揺する。

 銀次は的場の目と合わせる。

「なんだよ、銀次……」

「エロ本買えるくらいには融通利かせるから」

「「いやいやいや、待て待て待てッ!」」

 零菜とマリアが止めに入る。

「なんだよ、零菜、マリア。今、交渉の途中なんだから」

「口説き方おかしくない?」

「それで納得させられんの? いや出来ると思ってんの?」

 零菜とマリアに言われて、銀次は少し考えた。

「わかったよ……じゃあ、二十歳くらいにするからさ、それで――」

「「いいわけないでしょッ!」」

 零菜が頭を叩きに、マリアが膝に蹴りをかませた。

 銀次が倒れてうずくまった。

 どっちも並の吸血鬼レベルの攻撃じゃない。

 幾多の困難を潜り抜けた力を感じ取った、気がした。

 銀次が倒れながらも反論する。

「だって、不都合がない年齢設定ってこの年だろ? それにおっさんの不都合がないだろ?」

「銀次君、雇うついでにその人にエロ本とかを買わせようとしてない?」

 零菜の言葉に銀次がギクッと動揺する。

「そ、そんなこと、ないよー」

 零菜から目を逸らして立ち上がる銀次。

「目をこっちに向けて話してください、所長」

 笑顔で銀次を問い詰めるマリア。

 銀次はその笑顔が怖くて見ることができない。

「な、なんですかー、マリア?」

 埒が明かないと見たマリアは険しい顔で言った。

「零菜、羽交い絞めッ!」

「アイマムッ!」

 零菜が了解と共に銀次へ急速に接近し、すぐに実行に移った。

「ぎゃあああああッ! 何しやがるッ! 痛いたいたいたいッ! ギブ、ギブ、ギブだってッ!」

 銀次が羽交い絞めされている光景を見て、銀次へ少なからずの侮蔑の目を向けながら

「なんか交渉どころじゃない……」

「見慣れた光景デス……」

 もっとも、見慣れている光景だから侮蔑もなにもないのだが。

「……ふう、バカバカしい」

 的場の態度に変化が起きた。

「的場? いい加減ほどけよ、零菜ッ!」

 零菜がしょうがないなぁ、と言いながら銀次から離れる。

 銀次はやっと回復したのに、と思いながら立ち上がる。

「いいぜ、雇われてやるよ、銀次」

「ホントかッ!」

「正気ですかッ!? 銀次さんッ!」

 反対するフェルの口をラムダが塞いだ。

「銀次が決めたなら何も言うことは無い」

「まあわたしたちも似たようなものだし」

「そうデスッ! 仲間がまた増えたデスッ!」

 ラムダも調も切歌も反対しなかった。

「わたくしを襲ったのはこれからの働きで水に流しますわ」

「カジュンが言うなら、わたしはなにも言うことないかな。よろしく」

 カジュンもマイも快諾する。

「ま、銀次ならそう決めていたんでしょうし、あまり怪しい事をしなければいいわ」

「よろしくお願いします、的場さん」

 マリアと零菜も承諾する。

「ま、難癖付けられるかもだが、そこは勘弁してくれよ」

「癖の強い所員が多いことで」

 的場は周りの面子を見て、言ってやった。

「決まったな。ついでに、エンゲルのプロトタイプのコードネームを言うぞ」

「コードネーム?」

「エンゲルじゃないの?」

「エンゲルは量産機ができてから、この機体はそれまでの繋ぎってことよ」

 零菜の疑問をマリアが推測で答えた。

 ココノエが否定しないところを見ると、間違いないようだ。

「浅葱が名付けた。コードネーム【クーゲル】。的場、お前の専用機になる」

「クーゲル……俺の専用機……」

 自身の左腕に付けられたガントレット

「明日からテストを始めるからな。展開訓練、武装テストに……」

 ココノエが今後の予定を読み上げている中、銀次は的場の様子が気になった。

「どうした、的場?」

「新しい身体に新しい勤務地、新しいことだらけでな」

「じき慣れるよ。ここはお前が思うほどブラックじゃない」

「そうかい。よろしくな、所長」

「おう、よろしくな」

 銀次と的場は熱い握手を交わした。

 こうして、エンゲル強奪騒動は終止符を打った。

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