Blue Silver Vampire 作:WaT=Vermillion
「調のかんこものッ!」
「切ちゃんのわからずやッ!」
朝、わたしは切ちゃんと喧嘩をした。
プリンを食べられたのが原因だった。
なぜか、切ちゃんは謝ってくれないのでそれを指摘した。
すると、切ちゃんは怒ってきた。
なんでか、収めるところに収まらなくなったわたしたちは互いに顔を引き離した。
「調なんて、もう知らないデスッ!」
「こっちの台詞だよッ!」
切ちゃんは出て行ってしまった。
今日の気温は30度越え、いつもの気温だ。
だからきっと、すぐに戻ってくるだろう。
そして、泣いて謝ってくるだろう。
そう思った。
だけど、一時間経っても帰ってこなかった。
わたしは思わず外へ出てしまった。
切ちゃんを探すためじゃない。
ただ、苛立ちを抑えたかったからだ。
しかし、熱帯のこの国ではそれを抑えることができなかった。
だから、わたしはある場所へ歩き出した。
その場所は家から少し遠かったが、通り慣れた道なので耐えることができた。
そして、辿り着いた。
その庭にわたしより年上の少年がいた。
「なにやってんだ、うん?」
遠山銀次。
わたしと切ちゃん、マリアの三人をこの国で保護してもらったきっかけになった人だ。
今日は研究所の仕事は休みだと知っていたので、銀次兄さんの家に来たのだ。
しかし、わたしを見るなり不思議そうな目で見つめてくる。
「切歌はどうした?」
「知りません」
わたしは即答した。
その様子に兄さんは困っていた。
「ケンカでもしたのか?」
わたしはコクリと頷いた。
「はぁ……なんで俺の家に?」
「家にジッといると、思い出すので……」
兄さんは溜め息を吐いた。
「まぁいいや。花壇の整理を手伝ってくれ」
「えぇ……こんな暑い中?」
なんのために歩いてきたというのだ。
頼むから、家で涼ませてほしい。
「いいだろ。どうせ家で涼もう、とか考えてんだろ?」
兄さん、心を読んだ?
「わかりました……。でも、なんで花を?」
そう言ったら、兄さんが花壇を指差した。
花壇の花が枯れていた。
「母さんが日本の花を育ててたんだけど、やっぱ環境が違うから、枯れちまってさ」
「それ、なんとかならないんですか?」
「枯れる前なら、研究所の試作品試しても良かったんだがな……」
「そっか……」
兄さんがスコップを持ってくると、枯れた花ごと土を掘り返した。
「それで、なにを手伝えばいいんですか?」
わたしは首を傾げた。
兄さんは花壇を掘り返すと、色々な花の鉢植えを持ってきた。
中には、草の鉢植えもあった。
そして、わたしに軍手を渡してきた。
「それをお前の手で自由に植えてくれ」
「わたしが……?」
正直戸惑った。
「でも、品種もよく知らないのに……」
「大丈夫だよ。研究所で飼育されてたのを分けてもらったから、ここで育てる分には問題ないはずだ」
そう言うと、わたしに青い花の鉢植えを渡してきた。
「まぁ、それらだけど、まだ外に口外できるもんじゃねぇから、俺たちだけの秘密な」
「そんなものを貰ってこないでください」
所長とはいえ、職権乱用が過ぎる。
だが、綺麗だしいい香りがする。
「とりあえず、植えてくれ。あとでアイスぐらい奢ってやる」
「はい。やってみます」
とりあえず、草以外の花を種類別に、色とりどりに植えた。
それを兄さんがしっかりと新しい土で固めてきた。
「ふぅ、こんなもんか」
「暑いこと以外、特に問題なかったです」
「楽しかったか?」
「喉が渇きました」
そう言うと、自分の声が浮いているのを感じた。
楽しかったからかもしれない。
兄さんから冷えたスポーツドリンクのペットボトルを受け取った。
開けて飲んでみると、生き返ってくる。
猛暑の中で、労働した後の冷えた飲み物は生き返らせる。
吸血鬼の界隈じゃ生き返るなんて常套文句のように使われるのだが、人間でも使える。
「ぷはぁ……。あとはその草ですね」
「あぁ、それなんだが、食虫植物だってさ」
なんとなく、兄さんが一番欲しかったのはこれだろうな、と察した。
「それ、効果あるんですか?」
「コバエとかを食べてくれるんだって」
「へえ……。あッ」
目の前に蝶に似た蛾が飛んできた。
名前は知らないが、この国で進化したものの気がする。
突然巨大化した食虫植物は蔦でその蛾を捕え、蕾が開いて蛾を呑み込んだ。
そして、何事もなかったかのように元の草に戻った。
「あの、これは……」
「あぁ、花壇には植えないでおこう」
「じゃあ――」
「植木鉢に移して各部屋に置いておこう」
「気は確かかッ!?」
わたしは思わず声を荒らげた。
これを家に置く神経が考えられない。
「だって考えてみろ、調。俺と母さんは虫が大の苦手だ。むしタイプは10倍弱点なんだ」
「ポケモンのありえない数値で例えないでくださいッ! いい加減耐性ついてくださいよッ!」
「だって考えてみろ。いつもあのゲジゲジや多足虫、Gを対処してもらうのは、零菜とシルバとマリアなんだぞ」
「知ってますよッ! マリアと零菜が、虫で泣き叫ぶのはやめてほしい、って愚痴を言っていましたからッ!」
「マジでッ!?」
「マジですッ!」
この人、普段冷静なのに、虫が出るとパニックになるから困るんだよなぁ。
「まぁ、その点はガマグチフラワーに解決してもらうとして――」
「まさか、その草の名前はガマグチフラワーですか?」
「そうだけど、なんだ」
「センスが絶望的です」
「マジでッ!?」
「マジですッ!」
兄さんが名付けたんだろうな……。この反応……。
「まぁ、ガマグチ君は置いといてだな――」
「可愛くないです」
「マジでッ!?」
「マジですッ!」
もう、三度目……。
「とりあえず、花壇がまだ空いてるよな?」
いわれてみれば、ガマグチ……食虫植物の分のスペースが空いていた。
「どうするんですか?」
「まぁ、おいおい花屋のものと植えていいか、訊いてみるさ」
そう言って笑ってみせた。
なんというか、兄さんはいつも涼しい顔をしている。
わたしたちの命が懸かっている時は必死の形相になるのに……。
「とりあえず、助かった。家に上がって涼んで――」
兄さんが家の鍵を取り出した瞬間、携帯の着信が鳴った。
兄さんはすぐさま携帯を取って応答した。
「もしもし、遠山です。那月ちゃ――那月さん、なんの用ですか?」
那月、と口にしたのを聞いた。
南宮那月はわたしたちが通っている彩海学園の高等部の先生で、国家攻魔師だ。
付き合いの長い兄さんや零菜からは、年上であるのに「那月ちゃん」と呼んでいる。
「はい。はい。了解。すぐに現場へ――」
ジーー--。
わたしは兄さんの顔を直視した。
寸分違わず、目を合わせることに集中した。
「あの、いえ、一人で……」
ジー---。
なにがあっても、目を離すものか。
「……すみません。念のため一人連れてきます……」
よし。
わたしは勝ち誇った顔をしているのだろう。
兄さんは溜め息を吐いてわたしに言う。
「……頼むから、指示には従ってくれよ?」
「イエス、サー」
わたしは銀次隊長に敬礼をした。
「誰を連れてきたんだ、馬鹿者がッ!」
廃れたビルの入り口近くで兄さんが那月ちゃんに扇子で叩かれた。
「まったく、わたしの知る馬鹿は女がいないと戦えんのかッ!?」
「だって、断り切れなかったんですよ……」
それを聞いた那月先生は深く溜め息を吐いた。
「まぁいい。アイドルの代役は欲しかったところだからな」
マリアの代役?
「それって、那月ちゃ――」
那月先生は兄さんを睨みつけた。
「……那月さん、アルカ・ノイズがいる、という解釈で?」
「ああ。幸い死者は出ていない。だが厄介なことにノイズどもを操っているのが――」
それを聞いて安心した。
彼女たちには対アルカ・ノイズ兵装は持ち合わせていない。
だが、兄さんが「那月ちゃんの召喚獣だったら、ノイズ諸共皆殺しの芸当はできる」と畏れていた。
「吸血鬼、ってことか」
「ああ、眷獣も使ってくる厄介な奴だ。いつ、このビルから飛び出すか」
吸血鬼特有の召喚獣、眷獣。
限りなく永い寿命を使って召喚される眷獣は大なり小なり戦闘力に比例される。
「それで、俺とマリアが必要、だったんですね」
「ああ。だが、中学生をたぶらかしてくるとは思わなんだ」
なんだかわたしは馬鹿にされた気がした。
「わたしだって、シンフォギア装者です。那月先生」
わたしは那月先生に胸を張って言った。
「貴様、場所を判って言っているのか?」
「わかってます……」
目を逸らして答えた。
那月先生は鋭かった。
わたしのシュルシャガナでは入り組んだ建物で戦うには向いていない。
下手すれば建物の倒壊。
下手しなくても足手まとい……。
急激に自信がなくなってきた。
肩を落とすと、兄さんが叩いてきた。
「大丈夫ですよ」
わたしは肩を揺さぶられて、高揚した。
「こいつはそれぐらいのハンデがあっても、どうにかできます」
自信が湧き上がってくる。
わたしは再び那月先生に目を合わせた。
那月先生はフン、と鼻を鳴らした。
「まあいい。逃げ道は封鎖しておく。生かして捕えろよ」
「「はいッ!」」
わたしと兄さんは元気よく返事した。
わたしと兄さんはビルの内部に入って足音を立てないように移動した。
「……いませんね……」
「……多分、高いとこから外を見下ろしているから……」
「……上にいる、ってことですね……」
「……ああ、用心して進もうぜ……」
階段を一歩ずつゆっくりと昇っていく。
所々着裂が入っている屋内だったが、崩落はしないとは思った。
直感でしかないけど。
それでも、眷獣という大きな力が召喚されればどうなるかわからない。
アルカ・ノイズの分解も気になるところだけど、それはわたしがどうにかすればいいだけ。
そう思いながら、LiNKERを首に打った。
「……大丈夫か?……」
「……兄さんが大丈夫なら、大丈夫だと思ってます……」
「……状況が、じゃねぇよ。LiNKERの副作用だよ……」
心配してくれてるんだ。
わたしを推していたにも関わらず、わたしの身体を気にしてくれているんだ。
ホント矛盾してるよ。
「……今更気にしないでください。このLiNKERはわたしに合ってます……」
「……そうか……」
仕返しをしてやろう。
「……わたしから見たら、精神的に障害抱えているのに、前線に突っ込む兄さんが危なっかしいと思います……」
「……一応、Cカードと拳銃の免許はあるんだがな……」
「……イグナイトのこともありますし……」
「……それはお互い様だろうが……」
そんな話をしながら屋上下の最上階まで辿り着いた。
兄さんが携帯に見取り図を表示して見せる。
それと同時に壁を蹴る音が響いた。
わたしたちのじゃない。
おそらく――。
「……ここ、ですね……」
わたしは音の方向から、マップのある部屋に指を差した。
兄さんも「だろうな」と頷いた。
「……敵が賢くなくてよかったぜ。こういう点ではな……」
兄さんがなにかを心配している素振りをした。
「……問題でも?……」
「……なにも考えてねぇからこそ、眷獣もアルカ・ノイズも出す可能性が高いってことだ……」
「……そういうこと……」
「……念のため、お前は部屋の外で待機していろ。一応、俺の方で説得をしてみる……」
この状況で説得……。
「……応じて、くれるんでしょうか?……」
「……だったら、楽なんだがな……。……あんな様子じゃ、それは期待できそうにないな……」
「……それでも、やるんですか?……」
「……万に一つでも、何事が起こらなきゃそれでいい。だが、警戒は怠らんさ……」
「……わかりました……」
わたしは兄さんに従った。
部屋の前まで行くと、兄さんが手で制して待つように促してきた。
わたしはペンダントを握りながら従った。
そして、兄さんはわざと足音を立てて中に入った。
中から、兄さんとは違う男の声、吸血鬼の唸り声が聞こえた。
「まぁまぁ、そう息を荒立てんな。それ以上くだらないことはよせって。じゃねぇと、やべぇ刑務所に幽閉されるぞ」
「黙れ黙れッ! 俺に近づくんじゃねぇッ!」
吸血鬼が声を荒らげると、建物が振動した。
まるで地震が起こったかのような感覚。
だけど、この振動は地震によるものではない。
眷獣を使ってきたのだ。
眷獣の鳴き声が部屋から聞こえてきた。
わたしは聖詠を唄う。
「-Various shul shagana tronー」
わたしの身体はピンクの機械の装備を身に包んだ。
アームドギアを片手ずつ構え、戦闘に備えた。
「テメェは、もう終わりだッ!」
吸血鬼の呂律の回らない声と、ガラスが砕けた音が聞こえた。
わたしは隠れるのをやめ、部屋に入ると、アルカ・ノイズの大群が現れてきた。
「兄さんッ!」
「あぁッ! 出番だッ! 眷獣は俺がどうにかするッ! 調はアルカ・ノイズに――ッ!」
眷獣?
目の前には、涎の垂れているスーツの男、いや吸血鬼が一人しか――?
「あぶねぇッ!」
瞬間、兄さんに抱きしめられながら床に倒された。
その時に兄さんの背中を炎のリスみたいな小動物の眷獣が斬り裂こうとしたのが見えた。
しばらくして、兄さんは半身を起こした。
「怪我はッ!?」
「ご、ごめんなさい……」
「俺も注意が遅れた。だが、あれは俺に任せて、アルカ・ノイズの方を頼む」
「う、うん……」
兄さんと共に身体を起こし、身構えた。
小動物のような眷獣は、天井や壁を走り回りながらタイミングを窺っているようだ。
だが、あれの相手は兄さんがやる。
だったら、わたしはわたしのするべきことをやればいいッ!
「~♪」
わたしは歌を唄い始めた。
それがシンフォギアのフォニックゲインを、ギアの出力を上げるための手段だ。
ギアの出力を上げたことによって、わたしのヘッドギアから多くの丸鋸が放出される。
丸鋸に当たったアルカ・ノイズの群れは霧散していく。
さして、アルカ・ノイズの数は多くなかった。
わたしの両手から放ったヨーヨーのアームドギアで、残り少ないアルカ・ノイズを消していく。
残りが数えるほどになったころ、小動物の眷獣がわたしの顔の横を通っていった。
「調ッ!」
「大丈夫ッ!」
わたしは兄さんに返事をした。
だが、小動物がまたわたしの後ろを横切った。
狙われてるのは、わたしッ!?
「いっひひひッ! 死ねッ! 死ねッ!」
吸血鬼の下種な声が聞こえてくる。
だがおかしい。
アルカ・ノイズの数が少ないのに、兄さんが手こずっている。
眷獣がここにいるなら、奴は無防備なはず。
そうでないってことは……。
「まさかッ!」
そうとしか考えられない。
わたしは最後のアルカ・ノイズを消すと、兄さんへ駆け寄った。
「兄さんッ!」
「調ッ! もう下がれ――ッ!」
その瞬間、兄さんの頭に目掛けて飛んでくるのが見えた。
おそらく、わたしの後ろからも。
わたしと兄さんは互いの右手を握り締め、くるりとダンスをするように回った。
やはり。これで兄さんも気づいたはず。
「兄さん、眷獣が二体いる」
「そのようだな……。こんなことに騙されちまうなんて、情けねぇ」
「仕方ありませんよ。だけど……」
二体目の眷獣、同じタイプのようだが、その宿主が見えない。
どこにいる?
「こうなってくると、禁じ手を使わざるを得ないかな……」
兄さんの右手が氷のように冷たくなってくる。
「おっと、ごめん」
兄さんが気づいて右手を離すと、右手を凍らせ始める。
「兄さん、どうするつもり?」
兄さんが悪魔の笑みを浮かべた。
「少し離れてろ」
そう言っている間に兄さんの右腕が蒼く凍り付いていく。
そして、小動物の眷獣も迫ってくるのも見えた。一匹だけしか。
兄さんが凍った右手を床に叩きつけた。
「守護氷蒼陣ッ!」
叩きつけた床が凍っていき、壁どころか、天井まで氷漬けにした。
わたしの周囲には氷じゃなく、蒼い炎が境界線を作ってくれていた。
吸血鬼は凍り付いたか、と思ったが、すぐに砕いて、兄さんに殴りかかってきた。
眷獣も一緒に襲い掛かってきた。
兄さんの右腕が今度は金色の雷を纏わせていた。
「そっちの方は頼むッ!」
わたしはそっち、とはどういうことか、理解した。
「はいッ!」
わたしは吸血鬼に向かって直進していった。
そして、零距離まで詰めて――。
「若雷ッ!」
両腕を吸血鬼の腹に呪力を込めて壁に叩きつけた。
兄さんも仕上げに入った。
右腕の雷が轟き始めた。
「獅子戦吼ッ!」
兄さんは眷獣を雷撃で消滅させていった。
兄さんの雷撃は眷獣に対抗できる力だ。
疑似眷獣、と呼んでいるその力を使ったのは久しぶりに見た。
わたしはもう一匹の眷獣を探したが、それは先ほどとは違って、透明になっていき姿を消していった。
「お前がもう一匹の方の宿主を倒したから、消えたんだよ」
そうか。
じゃあ、運が良かったんだ。
でもそうなると、兄さんが倒した方の宿主は?
いったい、どこに?
「調、伏せろッ!」
わたしはすぐに伏せた。
それと同時に兄さんが小太刀を一振り投げたのを見た。
「ぐッ!」
その先には、先ほどの男と同じ顔をしたスッキリとした印象を持つ吸血鬼がいた。
その左肩には兄さんの愛刀の小太刀が刺さっていた。
兄さんは、もう一振りを握りながら、拳銃を吸血鬼に向けて距離を詰めた。
「ここ、までかよ……ッ!」
「悪いが、治療なんてしねぇぞ。こちらの警告を無視したんだ。弁護士も呼ばねぇぞ」
吸血鬼の目つきが変わり、刺さった小太刀を抜いて、わたしに向かってきた。
兄さんが拳銃を発砲するが、吸血鬼の足は止まらなかった。
わたしはそれを――。
胸倉を掴んで背負い投げをした。
「そ、そんな、馬鹿な……ッ!」
兄さんが吸血鬼たちに手錠をかける。
「正直、肝が冷えたぞ」
「なんせ、あなたの一番弟子ですから」
わたしはえっへんと胸を張った。
「正直、ちっちゃい胸で威張られても」
カチン。
なんだろう……、切ちゃんとのケンカがどうでもよくなったようなこの怒りは……。
「あの、調?」
ジーー-。
「調、さん?」
ジーー-。
「……眷獣やアルカ・ノイズより、お前の方が怖いな……」
ジー--。
その後、兄さんの手によって、吸血鬼二人はお縄につき、監獄結界に幽閉されるそうです。
那月先生がアルカ・ノイズの入手経路について尋問してくれるそうです。
そして、わたしは今――、
「なぁ、調……」
「なんですか? 兄さん?」
「いや、もう機嫌を直して、くれないかなぁって……」
「じゃあ、金の皿を取ってもいい?」
「……わかったよ。取ってもいいから、口を利いてくれ……」
回転寿司屋に来ています。
もちろん、兄さんの奢りで。
こんなにいっぱい食べたのは初めてです。
「あの、調……」
「これ以上食べたら太るぞ、というのなら無視します」
「いや、そんなことは思ってもいなかったんだがな? じゃなくてな、こんなのもあるけど」
兄さんが店のタブレットを持ってみせてきた。
「本マグロ、全身尽くし……ッ!?」
「この店、たまにこういうイベントがあるから楽しいんだよな。頼むよな?」
「うん、食べたいッ!」
そう答えると、兄さんは二人前を注文した。
正直、楽しみです。
「おいおい、調? あの怒りはどうしたんだよ?」
「今日はこれで勘弁してあげます」
「ちげぇよ。切歌とのケンカだよ」
「……」
そういえば、それをすっかり忘れてた……。
たかがプリンでケンカして、それで……。
「……どうしよ」
「なんだよ。元気を取り戻したんじゃねぇのか」
「どう誤れば、いいんだろ?」
すると、兄さんが頭を撫でてきた。
「悩むのはいいけど、答えが見えたんなら、もうハッキリしたほうがいいんじゃねぇか」
「兄さん……」
「今日はケンカ別れして、俺のところに来てくれたけど、やっぱりお前ら二人が仲良くしてんのが一番なんだよ」
「うん……」
「喰い終わったら、土産を一緒に買っていこうぜ。臨時報酬もあるしな」
「いいの?」
「妹分が遠慮するなって。今日の件はお前のおかげで怪我しなかったんだからさ」
そう言うと、再びわたしの頭を撫でてきた。
なんだか子ども扱いされてるようで悔しいけど、悪い気はしない。
「ありがとう、ございます」
「ハハハ……」
なんで兄さんは笑ったんだろ?
「どこかおかしいところありましたか?」
「だってお前、可愛い顔で笑ってんぜ」
「えッ!?」
わたしは思わず兄さんの足を蹴った。
顔が火照っているのを触って確認した。
「いてて……。蹴んなよ……」
「そういう台詞を軽々しく言わないでくださいッ!」
「なんで?」
兄さんって、なんで平気でそういうことが言えるのかな?
なんか腹が立つけど、嬉しくなくはない……。
「はい、そこのカップルさんッ! マグロ尽くし二人前お待ちッ!」
気のいい店員さんにからかわれた。
恥ずかしい。
「おいおい……」
「兄さんのせいですよ」
「俺のせい?」
「はい」
「マジで?」
「マジです」
すると、兄さんがマグロの寿司に違和感を感じたようだ。
「あの、大トロが二貫、多いんですけど……?」
「ああ、それはカップルサービスだよッ!」
「「えぇッ!?」」
嘘ッ!?
「……というのは冗談で、そちらの兄さんが常連さんだったからサービスしてあげたんだ」
「あ、そういう……」
でも、大トロが二貫も……。
サービスが良すぎる……。
クリス先輩の言葉を借りるなら、「安さが爆発しすぎている」?
いや、サービスで付いてきたんだ。
兄さんに奢ってもらってなんだけど。
「ありがとう、ございます……」
わたしは素直に店員さんにお礼した。
店員さんが「お幸せに~」と言って立ち退いていった。
「まぁ、とりあえず食おうぜ」
わたしは携帯を取り出し写真に収めた。
「お前って、SNSってやってたの?」
「違いますよ。切ちゃんに見せようと思って」
「なるほどね」
そう言うと兄さんは笑った。
「今度は切歌も連れてくるか」
「はい。お願いします」
切ちゃんに会うのが楽しみになってきた。
誤って、仲直りして、そして、なにを話そう。
きっと切ちゃんも許してくれる。きっと笑い合える。
それを楽しみにしながら、わたしは兄さんと食事を楽しんだ。