Blue Silver Vampire 作:WaT=Vermillion
休日の10時前、切歌からゲーム屋ぱおでのまとめ売りがある、という情報を聞きつけ、俺と切歌はぱおでまとめ売りセットを買いに行った。
「ソフトが三本以上あって、3000円は安いな」
「アタシ、楽しみデスよーッ! 折角だから第七機関の遊戯室でやるデスッ!」
「いいな、そんじゃ行くか」
あの時の切歌はとても可愛らしく、活き活きとしていた。その無邪気な笑顔を見て、俺も思わず微笑む。
「いいのが当たるといいな」
「はいデスッ!」
そして、冬だというのに酷暑の中、第七機関研究所まで辿り着いた俺と切歌は、遊戯室でまとめ売りの袋を開ける段取りになっていた。しかし、
「仕事も恋だって レバー操作は単純よ♪」
入った途端に、マリアが唄っているのを目撃した。流石アーティストなだけあって可憐だ。
賑やかしに零菜と調がタンバリンを持っていた。
「忙しそうデスね」
「そうだな。俺の家にするか?」
カラオケを切ったマリアが俺たちに近づいてくる。
「いやいや待て待て待ちなさい」
マリアに止められて俺と切歌は遊戯室の入り口に立たされた。
「どうしたんデスか? 続けても……」
「あなたたちが遠慮する理由がわからないわよ。それに二人してなんなの? その袋は?」
マリアに遠慮させてしまったな。折角気持ちよさそうに唄っていたのに。
「なに、二人してゲーム屋に行ってきたんだ。その開封をここで行おうと思ってな」
「そうデス。一緒に買ってきたのデス」
マリアが訝しげに俺たちを見つめた。
「二人とも、どこのゲーム屋に行ってきたの?」
「ゲーム専門店、ぱおデスよ?」
「銀次が買いに行く店じゃなくて?」
「おい、切歌を連れてエロゲー買いに行かねぇよ、馬鹿」
俺をエロゲーの売人だと思ってんのか? マリアの奴は。いや、マリアだけじゃねぇな。零菜にも睨まれてんだけど。
「えろげやに行ってないの?」
「行ってねぇ。切歌がいるのになに言ってんだお前ら」
「ジー」
「大丈夫だっての、健全な店だって」
ねえ、そんなに信頼ないの? 調が睨んでくるんだけど。
「わかったよッ! だったら、中身見せればいいんだろッ!」
「お兄さんッ! 開封するデスかッ!」
「当たり前だッ! 疑われて済む話じゃねぇッ!」
俺と切歌はテーブル席に座り、袋を開封する。
「あ、言っておくデスよ。出たゲームは交換や譲渡はしないデスからね」
意気揚々と切歌が言い出してきた。
「いいけど、その言葉、後悔すんなよ」
「折角ですからお先にどうぞデス」
「じゃあ、いくぞッ! 一本目ッ!」
『ファイアーエムブレム Echoes もう一人の英雄王』
販売元:任天堂
「おッ! マリアがやっているシリーズデスね」
そういや、こいつ将棋とか得意だもんな。案外シミュレーションRPGが好きだろうとは思っていたが。
「あら、アルムとセリカの物語じゃない」
「やったことあるのか?」
「ええ、まだ途中だけど、面白いわよ」
こいつのことだ、どうせクラシックモードでやっているんだろうな。それで全員生存させちゃうんだろうな。
次のソフトを引き出す。
『バイオハザード リベレーションズ』
販売元:カプコン
「よかった。ナンバリング以外持ってなかったんだよ」
「アタシそっちにしなくて正解デス……」
意外なことに切歌が怖がりなのだ。でも、バイオハザードシリーズは抵抗できる分、怖くはないと思うんだが……。
さて、これも楽しみにするとして次は。
『GUNDAM 0079 The War For Earth』
販売元:バンダイ
「クソゲーじゃねぇかぁぁぁぁぁッ!」
「あれ? お兄さん、ガンダムのゲームやり込んでるデスよね? これは……」
「なにを落ち込んでるの? 兄さん」
「切歌、調……これはな……ガンダムじゃないんだ……」
「え? でも、ガンダムが載ってるデスよ?」
「YouTubeでからすまっていう投稿者がやっているのを見たんだ……」
「どんな内容なんデスか?」
「ザクマシンガン数発でやられるガンダム」
「うわぁ……」
切歌が引き気味に俺のクソゲーを見る。
「しかも、アクション要素皆無ッ!」
「完全に抱き合わせで処分しに来てるわね……」
マリアさん、その通りだと思います。
まだ中身はある。クソゲーは勘弁だ。次は。
「SDガンダム ガシャポンウォーズ」
販売元:バンダイナムコゲームス
「やったッ! 探し求めてたんだよッ! このソフトッ! しかも移植版ッ!」
「さっきのガンダムとはえらい違いデスね……」
「これ、戦略シミュレーション要素とアクション要素があって面白かったんだよッ! バトルロイヤルも、いざ手に入ると、感動ものだッ!」
「意外と可愛いサイズだね、このガンダム」
零菜がパッケージを見て、感想を述べた。
「まあな。このモビルスーツたちがテクテク走っていくのがいいんだよッ!」
「兄さん、ここ一番の当たりって顔してる……」
調の言う通り、ここ一番で欲しかったソフトが手に入ったんだから、嬉しいに決まってるッ!
「銀次君、エロゲーと、このソフトの検索履歴が残ってたからね」
うん、そうそう。あれ? なんで、零菜が俺の検索履歴知ってんの?
「次で入っているソフトがラストだ」
「五本入ってたんデスね」
「あのクソゲーを一本に入れるな」
ラスト、ソフトは――ッ!
『イナズマイレブン1・2・3!! 円堂守伝説』
販売元:レベルファイブ
「これ、知ってるデス。サッカーゲームデスよね?」
「そうだな。ゴールずらしとか、ど根性バットとかの必殺技があったな」
「なんで、ゴットハンドとか、ファイアートルネードとか、エターナルブリザードよりその技をピックアップしたの?」
「あれ? 零菜、知ってんのか?」
「うん、アニメはね。古城君が持ってたから」
「どういうアニメなの?」
「まあ、普通のサッカー、じゃないよ?」
「なんで疑問形なのよ」
「今度持ってくるよ」
「楽しみにしてるわ」
マリアめ、きっと驚くだろうな。サッカーアニメじゃないもん。異次元サッカーだからな。
イナズマイレブンで俺の袋は終わりを迎えたが、次はワクワクしながら袋を握っている切歌の番だ。
「切歌、開けていいぞッ!」
「一気に出すデスよーッ!」
ゲーム袋を逆さにして一気にソフトを出していく。
『バイオハザード ヴィレッジ』
販売元:カプコン
「あれ?」
「よかったな。俺より最新だぞ」
「よくないデス……」
切歌の機嫌を損なった。
『ナナシノゲエム 目』
販売元:スクウェア・エニックス
「これは……」
「お兄さん、これ――」
「譲渡はなしのはずだぜ」
「そんな~」
『イケニエノヨル』
販売元:マーベラスエンターテイメント
「お兄さん、これ、どういうゲームデスか?」
「探索ホラーだぞ」
顔が青ざめてる。あれ? イケニエと同じ顔色じゃないか?
「あれ? 袋にもう一個ソフトがつっかえてるデスよ?」
「本当か? それはよかったな」
「はいッ! これでホラーとはおさらばデスッ!」
切歌の最後の一本は。
『恐怖体感 呪怨』
販売元:AQインタラクティブ
最後の最後でとんでもねえもん引き当てやがったぞ、切歌。
「……」
「切歌?」
「アタシ、テイルズオブデスティニーのディレクターズカットが手に入るかもって、兄さんのように引きが強い、って信じてたデス……」
「切歌……」
ショックだろうな。一本だけじゃないもん。四本すべてがホラーだもの。切歌が落ち込むのは仕方ないよ。
「切ちゃん……」
「調~」
「わたし、呪怨が気になっているんだけど」
「調ッ!?」
まさかの助け舟かと思いきや、沈めに来た駆逐艦だった。
「もしかしてだが、調、こないだ三人で観に行ったからじゃないよな?」
「それもあるけど、図書館で小説を読んだら興味が出て」
「ちょっと待って、三人ってあなたたちと誰と行ったの?」
「わたしだよ。休日に一緒に見に行ったの」
そうだな。俺が三人分のチケットを渡されたから、ちょうどよくいた零菜と調と一緒に行ったんだ。ってか――。
「だいたい、お前断って来ただろ。マリア」
「だって、仕方ないじゃない……」
「素直に怖いって言えよ……」
「怖くなんてッ!」
「はいはい、強がんなくていいからな」
マリアの意地っ張りは放っておいて、調が呪怨のパッケージを開け始めた。調ぐいぐい来るやん。切ちゃんが止めに入ったぞ。
「あのー、調? やめとくデスよ? 呪われるデスよ?」
「いいよ。わたし一人でプレイするから」
「やめときなさいッ! 調にもしものことがあったらッ!」
「いいねぇ。じゃ、わたし照明落とすね」
マリアが止めるのに対して、零菜も調に乗じてプレイする気満々だ。
それに対し、俺は。
「コントローラー取ってくる」
「「ちょっとッ!?」」
俺がプレイをする方針を見せると、切歌とマリアが止めに入る。
「考え直すデスよッ! 呪われたらどうするデスかッ!」
「今からでも間に合うわッ! 取り消しなさいッ!」
「えー、でも配線繋げたしー」
切歌とマリアが俺をコンビネーションで俺を絞めに入ったッ! いてぇッ!
「ダダだだだッ! テメェらそこまで見たくないなら見なきゃいいだろッ! 俺たち三人で遊ぶからッ!」
「嫌デスよッ! 調が呪いのゲームにはまっていくのはッ!」
「そうよ、だからお願いよッ! 止めて頂戴ッ!」
「ゲーム起動するね、兄さん」
調が電源を入れた。それを知った切歌とマリアが俺を解放する。
「いだだ、ったく……大袈裟なんだよ、たかがゲームなんだから」
「兄さんも、映画観に行った時、悲鳴上げてましたよね?」
そうだな。俺が一番ビビってたからな。
「そりゃ、ホラーだもん。怖い時は怖いよ」
「ちょっとッ!? あなた攻魔師なんでしょッ!?」
「攻魔師があの危険物件を解決できると思ったら、大間違いだぞッ!」
「なんでキレられるのよッ!」
呪怨、すごく怖かったよ。
「とにかく、ゲーム起動するね」
「ちょっとッ!? ゲーム開始前から女の人に睨まれてるデスよッ!?」
「ホントだ。伽椰子さんが睨んできてる」
「伽椰子?」
「うん、佐伯家の奥さんだよ。呪怨で呪い殺してくるのはこの人だね」
それを聞いた切歌が顔を青ざめていく。
「とりあえず、ゲーム起動ッ!」
「了解」
零菜と調が容赦なくゲームスタートする。
ここから先はオープニングが流れる。一人称の視点らしい。
「なんで現実世界の映像なんデス?」
「すごいね。映画みたいだね」
「なんか散らかった部屋……水場に髪がッ!」
「それより、人影がッ!?」
「切歌ちゃん、マリア、落ち着いてよ。ただ、二階に行くだけだって」
「二階の襖? いったいなにが?」
「あれ? なにがあるの?」
「うーん、これ、ネタバレになっちゃうから言いたくないけど――」
「ぎゃあああッ!」
「きゃあああッ!」
「いだだだだだッ!」
切歌、マリアッ! 二人とも、俺を絞めんのはやめろッ!
「伽椰子さんお怒りだね」
「そりゃ、人の家を勝手に入ったからね」
それでオープニング映像が終わると、やっと俺は解放される。
「やっとタイトルだね」
「どうするんだ?」
「新データ作成するね」
「調、ぐいぐい行くよな」
「だって、このまま遊ばれずに置かれるのも不憫じゃありませんか?」
「だからってここまでやるかね」
調、俺以上に耐性があるのかな……?
零菜も完全に楽しんでるし……。
「よし、設定完了したよ」
「じゃあ、まずは廃工場からのスタートだね」
「「ホントにやるの?」」
「往生際が悪いなぁ。二人は移動してていいから」
「「う……」」
それより、二人とも、俺から離れてくれませんか? また絞められたくないんすよ。
「「それじゃスタート」」
「「ひッ!」」
「やめんか、お前ら」
怖がるたびに俺を攻撃すんな。
ここから先は調のプレイでお送りしますが、小説とは思えない形式で描写することをお許しください。はい、WaTからも。
「描写不足でお送りします。お許しくださいッ!」
廃工場の付近を散歩する犬。犬は廃工場の白い足の人を追いかけていった。
調:明穂。このプレイヤーのことかな?
零菜:じゃないの? あのワンちゃんアイビーって言うらしいんだけど、それを連れ戻すのかな?
切歌:こんな明らかな廃工場に入っちゃダメデスよッ! 引き返して家族と相談するデスッ!
マリア:いえ、アイビーを連れてこないと帰れないじゃないッ!
銀次:意外に律儀だな。こういうことには。
調:じゃあ、色々見ていきながら、進んでみよっか。
銀次:切歌、どうやら2Pプレイができるらしいぞ。
切歌:ホントですか? でもなぁ……。
零菜:そんじゃわたしが――
切歌&マリア:きゃあああッ!
調:少し邪魔だったな……。
銀次:すごいな。脅かし役もできるゲームなんて――。
切歌:お兄さん、知ってて言ったのデスか?
銀次:いや、よく見たら書いてあったから試してもらおうと――。
切歌からパンチを受ける俺。
銀次:すみませんでした……。
切歌:もう、いたずらごころはポケモンの世界だけにしてほしいデスッ!
調:じゃあ、扉開けるか。
扉を開けるキャラクター、開けた瞬間、俊雄が猫の声で驚かす。
切歌&マリア:ひゃあッ!
銀次:うわぁッ!
調:邪魔されちゃった。大丈夫、切ちゃん?
切歌:大丈夫に見えるデスかッ!?
マリア:ちょっと、銀次ッ! なんであなたまで驚くのッ!?
銀次:いや、怖いものは怖いじゃん?
零菜:こないだ、ここで『P.T.』やってた時もビビってたもんね。
銀次:そういう零菜もだろッ!。
零菜:いや、怖いものは怖いじゃん?
マリア:絶対そのゲームやらないでよッ! 聞いただけで危険な気がするからッ!
銀次&零菜:ハイハイ(聞き流し)。
マリア:ちゃんと返事しなさいッ!
調:進めていい?
マリア:いいわよ……って電池がッ!
気が付けば画面に表示されている電池が赤く点滅していた。
調:まずい……急いで電池を……。
切歌:あッ、電池切れデスね……。
プレイヤーが持っている懐中電灯が点滅し、周りを見渡す。そして電池が切れると同時に画面が暗転。「あ゛あ゛あ゛……」という声と共に伽椰子が画面に登場する。
切歌&マリア:きゃあああッ!
銀次&零菜&シルバ:うわあッ!
調:シルバッ!?
赤くなって『Game Over』と表示される。調はタイミング悪く部屋に入って腰を抜かしたシルバを立ち上げさせる。
調:大丈夫? シルバ?
シルバ:う、うん……なにこれ……?
調:呪怨のゲーム版。
シルバ:呪怨ッ!? あの呪怨ッ!?
調:多分、その呪怨。
銀次:ジ・Oじゃないぞ。
シルバ:モビルスーツじゃないのはわかってるよ……。
調:ステージ選択からになってる……。
切歌:そりゃあ、中間地点に到達……。
銀次:ねぇぞ。
切歌&マリア:え?
銀次:攻略サイト見た感じだと、中間ないぞ。しかも、中盤から難易度上がるらしい。
零菜:うわぁ……鬼畜難易度だね……。
調:でも、どうすればよかったんだろう?
銀次:道中に電池を集めなければならないらしい。電池は集めただけで次の電池に移行するそうだ。
調:わかりました。やってみます。
切歌&マリア:続行するの(デス)~ッ!?
調:次は大丈夫だよ。
銀次:あと、QTEにも気をつけろ。ミスしたらやり直しだ。
調:了解。でも、どうすれば?
銀次:指定された方向へコントローラーを振るだけだ。
零菜:簡単そうだけど……。
銀次:攻略サイトを見ただけだとな……。
マリア:あぁ、待って、アイビーッ!
調:もう明穂になってる……。
しばらくゲームが進み、問題の電池を回収、次の部屋への鍵を入手する。
調:これで次のエリアに行けるね。
銀次:……そうだな。
シルバ:伽椰子が見かけないのが気がかりだけど……。
零菜:大丈夫でしょ。ギガデイン使えば。
銀次:このゲームにドラクエ要素はねぇぞ。
マリア:ハンドガンは?
銀次:バイオハザード要素もございませんッ!
調:さて、次の部屋は――
次の部屋ヘ進むプレイヤー。しかしドアノブを掴んでいる腕を伽椰子が握りしめ睨みつけられる。
切歌&マリア:きゃあああッ!
零菜&シルバ:うわあッ!
銀次:調ッ! ここだッ! QTEだッ!
調:はいッ!
調が即座にQTEをクリアし、腕を振りほどく。
調:この後、どうすれば……?
銀次:もう一回あの扉を調べて。次は出ないはずだ。
調:はい。
切歌:ってか、お兄さんだけずるいデスよッ! 自分だけ攻略サイトを見てッ!
銀次:これでも譲歩した方だ。普段はこんなことしない。それに……。
マリア:なによ、あの女が出るタイミングがわかるんでしょ?
銀次:いや、載っていない……。
マリア:なんですって?
銀次:載っているのは、攻略手順と電池の場所、最終ステージに行くためのアイテムの収集だ、
零菜:そーなんだ。じゃあ……。
シルバ:伽椰子と俊雄の出現ポイントはわからないってこと?
銀次:そういうことだ。
調:兄さん、収集アイテムの方だけ教えてください。可能な限り自力でどうにかしたい。
銀次:わかった。その通りにしよう。
切歌&マリア:うう……。
俊雄登場。
切歌&マリア:ひゃああッ!」
銀次:……先が思いやられる。
その後幾つかのポイントを超えて、ようやっとエレベーターに向かっていく。ここまでの道中、幾つか、ビビったポイントがあったのだが、調は冷静だった。ホラーゲームの世界観をぶち壊さんばかりに。切歌とマリアは常時怖がっていたが……。
調:取りこぼしは、ないよね?
銀次:安心しろ。取りこぼしはないぞ。
零菜:エレベーターに向かって、どうすんの?
調:とりあえず、乗るしかないよ。ほら、開いてる。
エレベーターに乗り込む瞬間、伽椰子が天井から落ちてきた。
切歌&マリア:ひぎゃあああッ!
調:この程度のQTEはッ!
調の華麗なコントローラー捌きが窮地を脱した。
調:ふう……。
銀次:調じゃなきゃ、やられていたな。
シルバ:僕たち呆けていたもんね。
零菜:で? どうするの?
調:もう一回エレベーターに乗り込む。
切歌:だ、大丈夫デスかッ!?
調:多分、二度も来ないとは思うから……。
銀次:その決断力、すごいと思うんだが……。
エレベーターに乗り込むプレイヤー。そこへ間一髪エレベーターが閉まる瞬間にペットの犬が入り込んだ。
マリア:アイビーッ!
零菜:マリア、そこは覚えてんだね……。
銀次:これで案内終了だな。
調:えッ? アイビーと工場から出るんじゃ……。
銀次:マジでここで終わりだ――。
エレベーターがガタンとなり「あ゛あ゛あ゛……」という声が鳴り響く。アイビーは扉に向かって吠え出す。
切歌&マリア:嘘ッ!?
調:ホントに終わりなのッ!? 兄さんッ!?
銀次:これ以上、載っていないぞ。
開かれるエレベーター、そこには無限に続くかのような闇が。ペットはそこへ向かって噛みかかっていく。最期に鳴き声を上げて『Episode Clear』と表示する。
マリア:アイビーッ!
調:これって、アイビーがやられちゃった、ってこと?
銀次:そうかもしれないな。明穂もろともかもしれないが……。
マリア:アイビーがここまで頑張ったのよッ! 犬死になんて許せないわッ!
銀次:動物愛護団体の方?
ステージ選択に病院が映し出される。
零菜:やったねッ! 調ちゃんッ! ステージが増えたよッ!
調:少し休憩しよ……。
マリア:待ちなさいッ! このまま放置するのッ!?
調:少し疲れたから……。
銀次:じゃあ、次はしばらく後ってことで……。
マリア:はぁ……わかったわよ。どうせクリアする気なんでしょ。なら、手伝うしかないわね。
切歌:マリアッ!? もう勘弁して、お兄さんのガンダムでもやった方がいいんじゃ……。
マリア:毒を喰らわば皿までよッ!
マリアが吹っ切れたようだが、ここから先はダイジェストでお送りします。
病院 プレイヤー:マリア 三度もGAMEOVERを迎えるものの、恐怖から怒りに変わったのか知らんが、QTEの時に、
マリア:来なさいッ! もうお前の手は見切っているッ!
零菜:いや、それ髪の毛だよ?
なんとかクリア。
団地 プレイヤー:零菜→調 プレイヤー変更の理由は、途中のQTEに零菜が対応できなかったからである。わかる、あの丸にコントローラー合わせろって難しいよな。細かい操作が得意な調に切り替わると難なくクリアする。
切歌&マリア:手が、手があぁぁぁッ!
銀次:マスターハンドがいっぱいだな。
シルバ:スマブラじゃないよ!?
デパート プレイヤー:銀次(俺)
攻略サイトを見たおかげか、QTE以外は問題なくクリアする。
切歌:お兄さん、やられないでくださいよ……。
と言われた傍から失敗する。
銀次:ごめんごめん、これからは気をつけるよ(笑)。
マリア:ヘラヘラするなッ!
ともかく、みんなのおかげで収集アイテムは揃い、最終ステージの我が家が出現する。
銀次:ここまで、ようやっと来たな……。
切歌:来ちゃったデスね……。
マリア:ちょっとわたしたち、離れていくわね。
零菜&調:わたしも。
シルバ:僕、トイレ。
銀次:こら、みんなが誤魔化してるのに言うんじゃ――。
調から蹴りを、零菜からパンチを、マリアからチョップを受け、三連撃を喰らった。
零菜&マリア&調:余計な気遣いをしないで、馬鹿ッ!
そう言い残して、三人と俺を聖隷術で回復させたシルバはテレビの薄暗いモニタだけがあ狩りの遊戯室から出た。
銀次:いたた……。
切歌:お兄さん、大丈夫デスか?
銀次:心配してくれて――。
切歌:馬鹿を慰めているだけデス。
そんな切歌の目は少し冷ややかだった。
薄暗いステージセレクトの画面のモニタを明かりにした部屋には二人しかいない。
「お前こそ、大丈夫か? かなり無理しているようだが」
俺は二人きりになったのをいいことに切歌の調子を尋ねた。調たちの前では気を貼ってしまうだろうから。それを感じ取ってくれたのか、眉をハの字にして本音を言ってくれた。
「そうデスね……結構怖いデスよ……でも、やらないと呪われそうな気がして……」
「その気持ちはわかるな……」
確かに、クリアしないと解呪されない感じがするよな。こういうゲームって。呪怨なら尚更そう思わせる。
「あの、お兄さん。一つ尋ねていいデスか?」
「なんだ?」
珍しく、真面目な表情を俺に向ける。俺も真摯に受け答えする構えを取った。
「ラストステージって、多分、オープニングに出てきた家デスよね?」
「だろうな。いや、呪怨はそこから始まると言っていいだろう。今まで操っていたのはそこに住んでいる家族だったからな」
「もし、お兄さんがこういう物件に関わったら、どうするんデスか?」
「基本、そんな物件には関わらない。もし、こういう物件だと知ったら、俺はお前らとの縁を切ることを優先するだろうな」
俺は淡々と迷いなく答えた。その答えに切歌は俺の手を握ってきた。
「なんでそんな悲しいことを言うデスかッ!? もしかしたら、みんなの力があればッ!」
「どうにもならないこともあるんだよ。吸血鬼がそれで自殺するほどな」
「そんな……だからって、アタシたちは……ッ!」
「もし、俺が逆の立場なら、すぐに助けてあげられない。那月ちゃんに相談してから考える」
「でも、お兄さんは違うじゃないデスか……どんだけ、絶望的でも手を差し伸べるでしょ?」
痛いところを突かれた。確かに、切歌の言う通りなら、俺は那月ちゃんを通さずに、真っ直ぐ助けに行くかもしれない。理論的に考えても、感情的な行動が先にでてしまう。
「お兄さんが米国政府からアタシたちを助けてくれなかったら、今もこうして怖がっていないデスよ……」
「切歌……」
そう言う切歌の表情は涙をこらえ愛おしい顔で微笑みながら、俺の手にもう片方の手を添えた。俺はその手を振りほどこうかとも考えたが、切歌の顔を見てそんな気は起きなかった。
ザーッ
突然、モニターが砂嵐に見舞われる。
「きゃあッ!」
「切歌ッ!」
すぐに切歌を抱きしめ、無事を確かめる。切歌に異常はない。ようやっと、いや、今になって異変に気付いた。
「あ、あ、あ、……」
何者か、女の声を聞いて、俺は安堵の息を漏らした。
「伽椰子じゃなくて安心したぜッ!」
半透明な女の姿を捉えた。切歌の両手を解き、解かれた片手に拳銃を構えた。
「あまり悪戯すると、地獄を見るぞッ!」
切歌が俺の肩で震えている。ここで仕留めないとッ!
「待って……」
「?」
霊が攻撃してこない……。その声に切歌も顔を俺の肩から離し、横目で見つめる。
しばらくして悪霊、と呼ぶにはいささか肌の色が生きている人に近かった。なにより、人の形を保っていた。それと気付いたのは、穢れが感じられないことだ。
「アンタは?」
「わたしは、そのゲームの元の持ち主。主人に暴力を振るわれて、意識を失ったの……」
「そっか……身体は?」
「今、病院で眠ってるの……」
「病院に?」
切歌が聞き返すと同時に、生霊の女性にある特徴が見られた。
「アンタ、吸血鬼か?」
「ええ……」
「それで無事だったのデスね」
「俺とマリアは死にかけからの吸血鬼だからな」
同族、とは言えないのかもしれない。俺は特殊な血によって、マリアもウェルの野郎が作った俺の血から薬によって吸血鬼になったからな、普通の吸血鬼ではない。
「その姿は眷獣の力によるものか?」
「ええ、名はハクレイ、意識を外に飛ばすものよ……」
「地味な眷獣デスね……」
「第四真祖(バカ)の眷獣よりかはいいだろ」
意識を飛ばす眷獣……なんでそれがこのゲームに? それに今の今まで気配を感じなかったのは……。
「あなたは、どうして……」
「ゲームを楽しむ姿を見ていたら、なんだか声をかけづらくて」
「生霊みたいなのに、デスか?」
はい、と生霊は言った。
「でも、最終ステージまで進めちゃったデスよ?」
「攻略サイトを見ながらやったぞ?」
それでも、と生霊は続けた。
「みんなで楽しんでいるならそれでいいと思ったわ。わたしにはそんな人がいなかったから……」
「あなたは、それで終わるつもりなのか?」
「ええ、みんなが楽しんでクリアできることを祈っているわ」
「あなたが眠っている場所は?」
「場所は――」
モニターの砂嵐で聞き取りづらかったが、銀次と切歌は生霊のいる病院と病室はわかった。
「わかったデス……終わったら、このゲーム返しに行くデスよ」
「切歌……」
「ありがとう……見守らせてもらうわ……」
そうやって生霊は消え、モニターの砂嵐が止み、ステージセレクト画面に戻る。
切歌は涙を拭いて、置いてあるコントローラーを握る。
「切歌?」
「お兄さん、最後のステージ、アタシにやらせてほしいデス」
コントローラーを握る手は震えていた。
「あの人のためか? そんなの……」
「お兄さんだって、同じ気持ちデスよね?」
あの人のためにクリアしたい、か。ビビってるくせによく言うよ。
「わかった。だけど、無理なら俺に交代しろ」
「はいデス」
調:あれ? 切ちゃんがコントローラーを持ってる。
マリア:どうしたの? いったい?
切歌:最終ステージはアタシがやるデスッ!
零菜:なにかあったの?
銀次:さぁな。怖がりがこんなところで待機してたら嫌でも、精神がおかしくなるだろ。
切歌:失礼なッ! もう始めるデスよッ!
ステージ:我が家 プレイヤー:切歌
やっとの思いで、家へと向かうキャラクター。鍵を使って家に入る。
切歌:明穂……最初のステージと同じデスね。
マリア:やっぱり、今までの様子だと、さっきまで操っていたプレイヤーって……。
調:そうだね。すべてはこの家に引っ越してきたからだったんだよね。
シルバ:でも最終ステージだよ? これで運命が変わるの?
零菜:多分、変わらないんじゃないかな。だって、病院にいた母親の人は……。
マリア:そうよね。最期まで足掻くしかないのよね……。
銀次:始まったぞ。進めよう。
ここから先はネタバレになるので、それを伏せるため切歌の実況を基に想像してください。もしくは、実況動画を見ることをお勧めします。あと、WaTの記憶があやふやなため、間違えている可能性もあります。今になって言いますが、WaTはこのソフトを持っていません。あしからず。ぶっちゃけ、これを題材にしたのだって、ガッチマンさんが動画を上げたからです。WaTもホラーが苦手です。ホラー実況は見る癖に。
切歌:お兄さん、メタい発言はそこまでデスよッ!
切歌:二階に行くんデスか……。
調:気をつけて、伽椰子が捨てられた場所と一緒だよ。
切歌:その情報は後でもよかったデス……。
切歌:なんデスか? この日記は?
シルバ:確か、伽椰子が綴った日記だよね?
調:そうだね。伽椰子が片想いしていた人への想いがギッシリの日記だよ。
零菜:ママの日記も古城君への想いでいっぱいだったような……。
マリア:大丈夫よ、あなたはそれ以上だから。
零菜:はい? それを言うなら――。
切歌:そんなこと言ってたら襲われたデスよッ!
銀次:そういや、殺した家族や家に入ってきた人も載っていなかったか?
調:そういや、そうでしたね。
切歌:なに冷静に話してるデスかああッ!
マリア:まあ、可愛い黒猫♪
切歌:あの、嫌な予感が……やっぱりッ!
銀次:気をつけろぉ。黒猫のマーは俊雄の眷属だぞ。
切歌:そんな気はなんとなくしたデスよッ!
銀次:思い出すんだッ! コナンのパラパラの感じをッ!
切歌:そんな感じでQTEをこなせるもんデスかッ!
マリア:大丈夫? 黒猫をそんな扱いにして動物愛護団体に――?
銀次:どこの心配してんだよ。
切歌:おわッ! 人がッ!
銀次:待てッ! この人、お父さんじゃないか?
切歌:言われてみれば、警備員の……。でも、血塗れデスよ?
調:消えたね……。もしかして、魂が?
シルバ:今度は宅急便だよッ!?
零菜:確か、明穂さんの兄さんだよね?
マリア:ってことは……やっぱり、お母さんもいるのね……。
切歌:アイビー以外家族が戻ってきているのに、アイビーが……。
調:電話が鳴っているよ……。
切歌:出たくないけど、出るしかないデスよね?
調:アイビーの鳴き声……。
切歌:家族の分まで、生き残ってやるデスッ!
銀次:切歌ッ! 最後の大盤振る舞いだッ!
切歌:お兄さんッ! 了解デスッ!
調:そういや、切ちゃんもマリアもビビらなくなったね。
マリア:まあ、こんな画面を見せ続けられたらね……。
零菜:流石にゲームが上手いよ、切歌ちゃんッ!
シルバ:すぐの指示に応えていくッ!
切歌:ふうー。どうデスかッ! アタシのゲームセンスで明穂だけでもッ!
銀次:あれ? 様子がおかしいな?
切歌:ダメデスッ! コントローラーが反応しないデスッ!
マリア:えッ? じゃあ、もう終わり?
調:やっぱり、最終的にこんな結末を迎えるんだね……。
シルバ:QTEの操作もなしでッ!?
切歌&マリア:来ないで、来ないでええーッ!
調:やっぱりビビるんだね。
切歌:やっとクリアできたと思ったら……。
マリア:こんな結末なんて……。
銀次:お疲れさん、よくやったな。切歌。
切歌:すごく胸糞悪いデスよ……。
調:あ、主人公の手が……。
切歌:スタッフロールが流れたデス……。
調:お疲れ様、切ちゃん……。
切歌:……アタシだけじゃないデスよ。
銀次:まぁ、俺たちが一丸となってクリアしたからな。
零菜:だったら、次は『バイオハザード ヴィレッジ』やろうよ。
切歌&マリア:勘弁してください。
調:口を揃えたね。
「助けて……」
「今のはッ!?」
全員が聞き取り、マリアが聞き返した。
エンディング画面が終わって俺と切歌は立ち上がった。
「クリアしたぞッ! 切歌ッ!」
「はいッ! 行くデスッ!」
「ちょっと、二人ともッ!?」
マリアが訳も分からぬまま、
「悪い、用事があるッ!」
俺と切歌は並んで進んでいった。
ガレージからバイクを運んでヘルメットを二人分持ってくる。
「お兄さんッ! 今のはッ!」
「あの人になにかあったかもしれんッ! 急ぐぞッ!」
俺と切歌はあの人の眠る病院へ、バイクにまたがって走らせた。
バイクを病院の駐輪場に置いていき、俺たちは走って病院の内部に入っていく。
なにやら、病院が騒がしい。騒ぐナースの人を捕まえて語気を強めて尋ねた。
「いったい、なにがあったッ!」
「それが、ナイフを持った覆面の男が病院に入ってきてッ! ナースを人質に病室を次々と探し回ってッ!」
俺は危機的状況だと知らされると、切歌が尋ねた。
「204号室はッ!? この人、攻魔師デスッ!」
「二階にありますッ! しかし、どうしてそれを?」
「訳はいいッ! 先回りするぞ、切歌ッ!」
「はいデスッ!」
ナースの疑問を振り切り、病院の階段を昇っていき、204号室へと向かった。
しかし、ナースを抱えた覆面の男が204号室の部屋の前にいた。
俺はすかさず拳銃を構える。
「動くなッ! それ以上の行動は、罪を重くするぞッ!」
「黙れ、黙れッ! 俺の邪魔をすんじゃねぇッ!」
こいつ、話を聞いてわかった。完全に自己中心的で保身のためにあの人を殺そうとしている。
「だから、警察ごときが、邪魔すんじゃねえッ!」
「よほど、タチの悪いクズらしいなッ! 奥さんを殺そうとする理由が安すぎるッ!」
「なんだとッ! ガキごときがッ!」
「そのガキに負けんのはアンタだ」
ここに来たのは俺だけじゃない。
行け、切歌ッ!
「このガキ、近づくんじゃ――ッ!」
「鳴雷ッ!」
切歌の壁を蹴った反動を利用した蹴りが覆面男に直撃するッ! 俺はすかさず、加速して自由になったナースを救出に入る、そして。
「おまけだ、響(ゆらぎ)」ッ!」
男に殴打の連撃をかませる。男は攻撃をまともに受け、倒れ――なかった。こいつ……。
「お前、獣人族かッ!」
「正直、この手は使いたくなかったがなッ!」
覆面の男は、身体の筋肉を膨張させ、服を破っていく、やがて、身体の表面に毛が覆われ覆面も破かれ、素顔は狼の獣人だ。狭い病棟内で戦うには、あまりに巨体だった。
切歌には退かせておくか――。
「Zeios Igalima raizen tron――」
切歌が聖詠を、イガリマを纏った。
「馬鹿かッ! LiNKERもなしにッ!」
「仕方ないデスよッ! 短期決着は必至デスよッ!」
「なにをごちゃごちゃとッ!」
狼の獣人が俺たちを襲った。病棟内で暴れられたら、眠っているあの人だけじゃない、他の患者に影響を与えてしまう。
切歌の言う通りに短期決着がマストだ。
俺も銀翼を右腕の籠手だけ出すか、全身にやる必要はねぇからな。
「お兄さん、動きを止めるから、一撃でお見舞いしてあげるデスよッ!」
「ああッ!」
「ガキごときが、なめんじゃねえッ!」
切歌が獣人の攻撃を鎌で受け止め、両肩のアンカーを射出し、獣人の動きを止める。
「この、クソガキがッ!」
「今デスよッ!」
切歌の射出した両肩のアンカーの鎖で動けなくなった獣人に向けて、右腕の突きの構えを取っていく。
右腕の籠手ごと黒い爪を展開していくと、男に掌底を叩き込む。
「イグニッションッ! 銀雷(ぎんかずち)ッ!」
鎖が床に深く食い込んでいるおかげか、吹き飛ばされなかった。続けていくぞッ!
「銀雷・爪牙ッ!」
獣人を黒い爪で斬り裂いていく。無論、手加減はしてある。獣人が動かなくなったことを確認すると、切歌がイガリマを解いて、ハイタッチしてくる。それに俺も応えた。
「しかし、お前、イガリマを使ってくるなんて……」
「いいじゃないデスか。目撃者もいないわけデスし」
「いなくても、反応は検知されてるよ……」
「説教されるんデスかね?」
「多分、な」
俺も、受けるんだろうな……。
「馬鹿共が、雁首揃えてここでなにをしている?」
その声……。
「那月ちゃ……南宮、攻魔官……」
「ちゃん付けで呼ぶなと何度も言ったはずだ」
那月ちゃんが来た。暴れた獣人の男を魔術の鎖で拘束している。
「身柄はこちらで拘束させてもらうぞ」
ところで、と那月ちゃんが、
「貴様ら、どうしてここにいるんだ? ここには学園の関係者がいないはずだが?」
「それは、デスね……」
「話して、信じてもらえるか……実は――」
俺はここに来たいきさつを一通り話した。那月ちゃんがなるほど、と頷いた。
「その眷獣を使った女を狙って、この獣人が殺しに来た、と」
「主人が獣人なんて、今知ったぞ。教えてくれてもよかったのに……」
「その女には会ったのか?」
「いえ、本体とはまだ会っていません」
「そうか。折角だ、その女から聞かせてもらおうか。こいつには余罪がありそうだからな」
俺と切歌は那月ちゃんについていく形で、204号室に入っていく。
そこには、上半身を起き上がらせた美女が俺たちと目を合わせた。それと同時に間違いのない既視感を抱いた。
「はじめまして」
その後、獣人の武田剛は殺人未遂等の現行犯で逮捕され、意識の戻った旧姓:武田佐夜子から強姦、家庭内暴力などの証言を得ることができた。
その後、裁判が開かれることになり、武田剛は無期懲役を言い渡された。離婚も成立し、慰謝料の請求もできた。あの男は上告したそうだが、棄却された。取り押さえた俺の情報が決め手だと、那月ちゃんから言われた。切歌も目撃者なんだが。
ついでと言ってはなんだが、俺と切歌は後に、お偉方ではなく、マリアにこっぴどく叱られた。イガリマを使った件もそうだが、なにより、事情を話してくれなかったことに怒っていた。
あのゲームクリア、殺人阻止をして一週間後、俺と切歌は佐夜子さんが退院すると聞きつけ、病院まで駆け付けた。
「退院、おめでとうデス」
「甲斐田佐夜子さん、おめでとうございます」
「ありがとう、切歌ちゃん、銀次さん」
その姿はバツイチの女性とは思えないほど、綺麗で若々しかった。まあ、吸血鬼だから、しょうがないか。
「あなたたちのおかげで、ようやく、自由になれたわ」
「次からはあんな男に掴まれちゃダメデスよ」
「もし、よければ知り合いの結婚紹介士を紹介できますが……」
「ありがと、でもしばらくはゲームに専念したいわ」
「だったらデスけど……」
切歌が呪怨のゲームソフトを渡す。
「これ、返すデスよ……」
「あら、いいの?」
佐夜子さんが受け取ると、切歌はやっと胸を撫で下ろす。
「パッケージがあるだけで呪われそうデス……」
「確かに……」
「そう、ありがとね」
佐夜子さんは呪怨のソフトを受け取ると、嬉しそうにふふん、鼻を鳴らした。
「このソフトを遊ぶ時は、あなたたちのことを思い出すわね」
「複雑デス……」
「まあ、またなんかあったらハクレイで呼んでください」
「そうさせてもらうわ」
切歌の背中をゾゾッとした感触が襲った。
「勘弁してほしいデスよ……モニターが砂嵐になるなんて……」
「えッ? わたしそんなことしてないよ?」
「「えッ?」」
俺と切歌が口を揃えた。
「ハクレイは、意識を飛ばすだけで……いじれないわよ?」
「えッ? 待って? じゃあ、あの砂嵐は?」
「デス? デーーーーーーーーーーース?」
切歌? あれ? 切歌?
「立ったまま気絶しちゃってるわね……」
「弁慶か、とツッコみたいが、切歌にそんな余裕はありませんよッ!」
しょうがない、ちょうどあの店の近くだし……。
切歌をおぶっていくと、そのまま佐夜子さんに背を向ける形になった。
「それじゃ、元気でねッ!」
「また、今度は連絡でお願いしますよッ!」
俺たちと佐夜子さんは別れることになった。
切歌が気絶して十五分かそこら、切歌が目を覚ました。
「大丈夫か? 切歌?」
背中の切歌がうん、と小声で呟いた。
「まったく、おぶっていくの大変だったぞ?」
「はッ! それより砂嵐はッ!? いったいッ!?」
聞かれるとは思った。だから、俺はさっき店で買った品を見せた。
「オブってぱおに行ったら、ちょうど、オブの作品見つけたぞ」
『テイルズオブデスティニー ディレクターズカット』
販売元:バンダイナムコゲームス
「そ、それはッ!」
切歌が背中から離れてソフトを取り出す。
「これ、欲しかったものデスよッ! なんでッ!?」
「まぁ、呪怨の代わりだ。ご褒美だよ」
「いいんデスか? これ、市場に出回らないって……」
「いいんだよ。今回だけ特別だ」
よしよし、これで砂嵐の件は忘れたな。
と、思ったら今度はもじもじし始めたぞ。
「あの、デスね……」
「なんだ、言ってみ」
「残りのホラーゲーム、もしやる時になったら、また手伝ってくれるデスか?」
「そんなことか、仕事が空いた時や、休日なら付き合ってもいいぞ」
「ありがとうデスッ!」
切歌がそう喜んでいくと、ソフトを持って俺から走っていった。
「じゃあ、早速このゲームを遊ぶデスよーッ!」
「切歌、待てってッ!」
かくして、切歌の恐怖体感は終わりを告げた。切歌が一段階大きく見えたのは、気のせいなのだろうか。とにかく、俺は無邪気に喜ぶ切歌の笑顔を護ろうとは思えた。
その夜。みんなで俺の家に集まっていた。その目的は、
切歌&マリア:ぎゃあああッ! 来たあああッ!
調:また呪われたね、切ちゃん……。
切歌:うぅ……イケニエが怖いデスよ……。
積みゲーにならないように、『イケニエノヨル』をプレイしていた。企画したのは、調と零菜である。
ちなみにプレイヤー名は、
ブルー:切歌
イエロー:調
ピンク:零菜
レッド:マリア
グレー:銀次(俺)
――になっている。
適当に配役したのだが、これが面白いことに偶然呪われた渓谷に来たプレイヤー、切歌、調、俺のストーリーがあるらしく、それぞれを担当する羽目に。
零菜:折角のオールナイトだよッ! 盛り上げていかないとッ!
シルバ:みんな、ジュースを持ってきたよ。
マリア:さて、酒でも――。
零菜:ダメ、銀次君やわたしが襲われるから。
マリア:そんなぁ~。
銀次:結局、こうなるのか……。
俺は昼頃の無邪気で可愛らしい笑顔の切歌が、未だにホラーに囚われていることを実感させると、悲しくて涙が出そうだ……。
切歌:勘弁してほしいデスよお~ッ!