Blue Silver Vampire 作:WaT=Vermillion
零菜がコイントスした。
その様子を見ていた銀次とマリアとシルバが近づいた。
「あら、カーラーン金貨じゃない」
「昨日、部屋の掃除をしてたら入ってて……」
「それ、アイゼンが持ってたカーラーン金貨だよね? 持って帰ってたの?」
「うん、そうだね」
「要は借りパクしたのか、お前」
「うん、借りてたけど、返すの忘れたまま、帰ってきちゃった」
零菜が暗い顔をし始めた。
マリアは、ちょっと、といって肘で銀次をつついた。
コホン、と咳払いして銀次がフォローする。
「でも、無理もないな。帰る時慌ただしかったから」
「ううん、このカーラーン金貨のおかげでみんな帰ってこられたんだから、持って帰ってきてよかったかも」
零菜が一転、明るい顔を取り戻し、銀次たちに微笑んだ。
「その金貨ってか、お前のおかげでみんな帰ってこられたんだからな」
「確かに、あなたは幸運の女神だものね」
「そういや、金貨の面は?」
「じゃ、見せるね――」
その光景に三人はある光景を思い出した。
海の上を漂う海賊船、バンエルティア号の甲板。そこで副長のアイゼンが立っていた。
アイゼンがカーラーン金貨を宙に上げる。そして落ちてきた金貨を掴み取る。
それを見ていた零菜とマリアとシルバが不思議に思って見ていた。
シルバが思わず尋ねた。
「それ、ずっとやってるよね。どうだったの?」
アイゼンが手を開けて金貨を見せた。
それは裏の魔王ダオスが描かれた絵が出ていた。
「裏、なんだね……」
「まあな。銀次たちから聞かなかったのか?」
零菜とマリアがコクリと頷いた。
「はい。アイゼンさんが表を出せなくて困っているとか……」
「違うでしょ。死神の呪いで裏ばかり出るんでしょ?」
「そうだな。マリアの言っていることが正しいな」
「そうですか……。その金貨が呪われているんじゃありませんか?」
「なんだと?」
零菜の思わぬ発言に、眉をひそめた。
すると、アイゼンが零菜に向けて金貨を投げつけ、零菜が受け止めた。
「そう言うなら、お前がやってみろ」
「わかりました。やってみますね」
金貨を指で弾いて宙に上げる。落ちた金貨を手の甲に包み、手の甲の金貨を見る。
それには女神マーテルが描かれた面が出ていた。
「表、ですね……」
「あなたの説は外れたわね、零菜」
アイゼンが少し睨みを強めた目で零菜を見ていた。
「……もう一回やってみろ」
「えッ? でも、ちゃんと表も出ることがわかったから返し――」
「続けてみろ。頼む」
どういう意図で頼んだかはわからないが、零菜はもう一度金貨でコイントスした。
「表です」
「続けろ」
アイゼンに言われ、もう一度コイントスをした。
「表ですッ!」
「続けろッ!」
もう一度コイントスをした。
「表ッ!」
「続けろッ!」
コイントス。
「表ぇッ!」
「続けろぉッ!」
「いい加減にしなさいッ!」
延々と続けるコイントスにマリアが怒気を含めた声で止めに入った。
そんなことに関せず、シルバが目を輝かせる。
「すごいッ! 五連続も面を出すなんてッ!」
「それほどでもあるよ~」
アイゼンもそれを認めた。
「確かにな。その幸運、才能かもしれん」
「いやいや、ただのコイントスでしょ?」
その騒ぎを聞いたロクロウ、ライフィセット、エレノアが近づいてきた。
「そうか。零菜が幸運の持ち主か。だったら、零菜に近づけば表が出るかもな」
「どういうことだ?」
「零菜がアイゼンに近づいた状態で金貨を投げれば、表が出るんじゃないかな」
ロクロウとライフィセットの言葉を黙考して受け止める。
「それに、これで表が出たら、死神の呪いが一時的に解けて、妹と会えるのではないでしょうか?」
「……ッ!」
エレノアの言葉に零菜がアイゼンに近づいた。
「やってみましょうッ! アイゼンさんッ!」
「……いいのか? 仮に表が出て死神の呪いが解けたとすれば、お前を引っ張っていくことになるんだぞ」
「それぐらいはかまいませんよ」
零菜の同意にマリアも頷く。
「そうよ、折角の妹に会えるチャンスでしょ。試してみる価値はあるわ」
「しかし、お前たちを――」
「兄妹を会わせるのに、理由はいらないわ。生きているなら尚更ね」
「……」
アイゼンは再び黙った。彼女の環境を知っていたからだ。
妹と死に別れている彼女にとっては離れて暮らす自分は幸福な方だと。
そう考えると、答えは決まっていた。
「頼む、俺の傍にいてくれ」
「はい。こういうセリフを銀次君が言ったら……」
「フッ、上手くいったらそれなりにムードを盛り上げてやる」
「じゃ、期待しますね」
アイゼンは零菜から金貨を受け取り、金貨を打ち上げる準備をした。
「いくぞ……ッ!」
全員が固唾を飲み込み、見守っていた。
彼がいかに不幸な体質か知っていたからだ。
もしかしたら、決定的瞬間が見られるかもしれない。
そして金貨が宙に舞った瞬間、突然の荒波がバンエルティア号を襲った。
甲板にいた全員が身構える中、零菜の元へ金貨が落ちた。
その瞬間、滑った荷台がアイゼンを突っ込んでいった。
滑った方から、アイフリード海賊団とダイル、銀次とラグナが慌てて荷台を引っ張っていった。
「なにやってんのッ! 銀次君、ラグナさんッ!」
「悪いッ! 俺たち、荷台を離してしまってッ!」
「みんな、怪我はッ! 轢かれた奴はいねぇよなッ!?」
「アイゼンさんが轢かれたんですッ!」
「「なにッ!?」」
波が落ち着いたところで荷台を引っ張ってアイゼンを救出する。
「無事かッ!? アイゼンッ!? ラグナ、もっと引っ張ってくれッ!」
「おうッ!」
「う、う……」
アイゼンが意識を取り戻した。
エレノアがダイルを含めた海賊団に向けて怒気を込めて注意をした。
「なにをしているんですかッ! おかげでアイゼンが轢かれて――ッ!」
「す、すまねえッ! アイゼンに頼まれたから……」
「……はい?」
アイゼンが自身の聖隷術で回復をし、立ち直った。
「ああ、ダイルの言う通りだ……。俺が指示した……」
それを聞いた一同は零菜に目を向けた。
いや、正確に言うと、零菜の握っている金貨に、だった。
零菜も察し、金貨を握った手を開いた。
そこに描かれたのは、女神マーテルの面だった。
「表……です」
それを見た全員が、ああ……、と言いたげな顔をしていた。
銀次とラグナが首を傾げた。
「いったいなにをしてたんだ?」
「零菜が表を出すのは不思議じゃないだろ?」
「実はね……」
マリアがかくかくしかじかと事情を話した。
「……それで表を出そうと?」
「そんなことで表が出れば苦労はないだろ?」
銀次とラグナが懐疑的になって行為を否定する。
「ブレードロールを使うよ? 二人とも」
「いやいやいやいやッ!」
「そんな脅し方するかッ!?」
銀次とラグナは自分たちに向けられた術の詠唱を始める零菜を止めに入る。
「なら、見守っててね」
「わ、わかった」
「頼むから聖隷術は勘弁してくれ……」
「よし、問題なしッ! アイゼンさんッ!」
「あ、ああ……」
アイゼンはよろけながら零菜に近づいてきた。
「いえ、最初に回復すべきではッ!?」
「あ、そうでした……」
零菜が詠唱を始めた。
「ヒールッ!」
「ああ、助かった」
アイゼンがようやくまともに歩き出し、零菜から金貨を受け取ろうとする。
「ちょっと待ったッ! それだと、裏が出る可能性もあるだろ?」
「「まさか……」」
ロクロウが金貨を持ち込んできた。
アイゼンはそれを見て戸惑った。
「両表のコインだ。クロガネが作ったものだ。使ってくれ」
「いやいや待て待て待ちなさいッ! いくらなんでもズルすぎるわよッ!」
マリアの言葉に構わずにアイゼンが両表の金貨を受け取る。
「いや、これも努力の結果だ。これで今度こそ、表を出してやるッ!」
マリアはこのセリフからなにか嫌な予感を感じて、ライフィセットに尋ねた。
「両表、使ったことあるの?」
「う、うん……。でも、出なかったんだ……」
マリアはこれを聞いて背筋をゾクッとさせた。
両表にしてなお、表が出ないとはどういうことだ。
「よし、いくぞ……ッ!」
一同が緊張してアイゼンを見守った。
先ほどの荷台はもう倉庫に片付けた。
荒波が来ても、アイゼンたちが襲われる事態はない。
アイゼンが金貨を打ち上げた。
その瞬間、突風に帆が吹き荒れた。
アイゼンが金貨を掴もうとした瞬間、巨大な人形、ミネルヴァがアイゼンにぶつかり、海へと吹き飛ばされた。
零菜はアイゼンが掴み損ねた金貨を掴み取った。
ミネルヴァとは反対側にいたベルベットとセリカが叫んだ。
「フィーッ! みんなッ! 大丈夫ッ!?」
「ミネルヴァが飛ばされちゃったーッ! ごめーんッ!」
今度は銀次とラグナが答えた。
「俺たちは大丈夫だッ!」
「アイゼンが海に放り出されたけどなッ!」
「なら、大丈夫でしょッ! アイゼン、浮き輪持っているから浮き上がってくるでしょッ!」
シルバが足元に滑ってきた物を拾った。
それを見たライフィセットの顔が青ざめた。
「ベルベット、ダメッ! アイゼンの浮き輪がこっちに落ちてるッ!」
「なんですってッ!?」
「ミネルヴァッ! 起きてッ! アイゼンさん探しに行こうッ!」
「……ッ!」
セリカの声に応じてミネルヴァが飛行形態に変形した。
「俺も探しに行くッ! 銀翼展開ッ!」
銀次も蒼銀の翼でアイゼンを探しに行った。
しばらくして、海底に沈んでいたアイゼンを救出したセリカと銀次。
ミネルヴァはともかく、一緒に潜ったセリカと銀次もびしょ濡れである。
そんなセリカと銀次にベルベットがタオルを渡す。
「ほら、セリカに銀次、そのままだと風邪引くわよ」
「ありがとうね、ベルベット」
「サンキュ」
「風邪引かれたら困るのよ。ただでさえ人がいっぱいなのに」
「へへへ、ベルベット。お姉ちゃんみたいに優しいね」
「言い過ぎよ、ほら拭いた拭いた」
そのやりとりを見たマリアが銀次の止まっている銀次の手からタオルを取り上げ拭いてあげた。
「あなたもよ。潮水があとで身体にべたつくわよ」
「よ、よせよ、そこまで子供じゃない」
その様子をジーッと見つめる零菜。
零菜の肩をラグナが叩いた。
「おい零菜、アイゼンを蘇生してやれ」
「あ、そうでした。ごめんなさい」
術の詠唱を始めた零菜。
ライフィセットたちはアイゼンの身体を拭いていた。
「レイズデッドッ!」
零菜の術で蘇生したアイゼンは跳び起きた。
「はあ、はあ、俺は……?」
「大丈夫、アイゼン?」
ライフィセットが右手で二本、左手で四本出して意識を確認する。
「六本だ……」
「無事でよかった……」
「しかし、よくもまあ、お前も吹き飛ばされたよな」
「やはり、中止すべきでは? これ以上は危険過ぎます」
エレノアがそう唱えると、ベルベットとセリカが、なんの話? と首を傾げた。
マギルゥが船室から出てあくびを漏らした。
「~~ッ! なんじゃ? 敵襲か?」
ビエンフーが零菜の握っている手の中になにかあると見た。
「零菜さん、なんでフか? その手に握っているのは?」
「ああ、これ? 両表の金貨」
手を開いて見せた。絵は女神マーテルで間違いない。
「両表の金貨? なんでそんなもの使うんでフか?」
「ははん、読めたぞ。お前さんら、アイゼンに表を出そうとしていたのじゃろ?」
それを聞いたベルベットは呆れ、セリカはできるの?、と言いそうな顔でアイゼンを見つめた。
そんな中、マリアが修正する。
「正確に言うと、零菜の幸運も利用してたわ」
「してた、とは違うな。まだ、終わっちゃいない……」
アイゼンは諦めてはいなかった。
「あと一回、一回だけチャンスをくれ」
「あと、一回」
零菜も呟いた。
それが天に届いたのか、雲行きが荒くなってしまった。
「おや? 雲行きが怪しくなったぞよ?」
「これも死神の呪いでフか?」
「あたしは勧めないわ。いや、もうやめてほしい」
ベルベットが中止を要求してきた。
「頼む。あと一回だけやらせてくれ」
「あと一回だけッ! わたしからもお願いしますッ!」
アイゼンだけでなく、零菜も頭を下げた。
雨が降ってきた。強風もやってきた。不幸の確定演出まっしぐらだ。
「……わかったわ。全員が避難してからよ。いいわね?」
「すまない」
「ありがとうございますッ!」
ベルベットが譲歩案を頂き、喜ぶアイゼンと零菜。
雨は強くなり、風もさらに強くなっていった。
地は風に弱い。地の聖隷のアイゼンが、立っているのがやっと、といったほどだ。
「フィー。シルバ。みんなも、船室に入るわよ」
「だけど、ベルベット……」
「死神の呪いで生きてきたのよ。心配することないわ、マリア」
「わかったわ。だけど、いつでも助けに入れるようにするわ」
「好きにするといいわ。巻き込まれないように気をつけなさいよ」
ベルベットはマリアと銀次以外を船室に入れるように誘導した。
船室の入り口近くの外で待機している銀次に、二人は驚きはしなかった。
「ま、保険がいるだろ?」
「そうね、保険だからね」
銀次とマリアはそう言葉を交わし、最後にベルベットが船室に入るのを見送った。
アイゼンと零菜はすでに手を繋いで準備を整えた。
雨足はどんどん強くなり、風も嵐に近いほど吹いていた。
「いくぞ、零菜ッ!」
「はいッ! アイゼンさんッ!」
二人が合図すると、アイゼンの手から両表の金貨が打ち上げた。
その瞬間、船の近くに落ち、零菜がつないでいた腕が急速に強く引っ張られた。
突然強まった嵐に、アイゼンの身体が吹き飛ばされそうになっていた。
「くッ! 零菜ッ!」
「大丈夫ッ! アイゼンさんッ!」
船室の入り口で待機していた銀次とマリアが零菜の身体と腕を強く抱きしめた。
「結局、こうなんのかッ!」
「悪い予想が当たっていいのか、悪いのかッ!」
そんな銀次とマリアに心配していたライフィセットたちが強く掴んでいた。
「大丈夫ッ!? 二人ともッ!?」
「やっぱ、死神の呪いが強いってことかッ!」
「言っている場合ですかッ! わたしたちで支えないとッ!」
「二人とも、粘ってッ!」
ライフィセットたちが引っ張っている最後尾のシルバの身体をラグナとミネルヴァが掴んでいた。
「ミネルヴァ、ラグナッ! せーのッ!」
「……ッ!」
「おおッ!」
二人が全力で引っ張ると、吹き飛ばされかけ、零菜たちと繋がっているアイゼンを甲板上に引っ張り出した。
アイゼンは命からがら甲板上で零菜に立ち上げさせられた。
「ありがとう。零菜」
「いいえ。アイゼンさん」
「――表だよッ!」
「本当にラッキーだね、零菜は」
あの嵐の出来事を思い出した。
その後、ベルベットがロクロウから両表の金貨を取り上げたのは言うまでもなかったことも。
「しかし、アイゼンを思い出させるわね」
「そういや、あの投げた両表の金貨はどこいったんだろうな?」
銀次がそう言うと、マリアと顔を合わせて首を傾げた。
「あ、それならね……」
零菜が制服の胸ポケットから取り出したのは、件の両表の金貨だった。
「胸ポケットに入ってたみたい」
「お前、やっぱり……」
「ラッキーガールね」
マリアがそう言うと一同は笑い合った。