あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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新たな鎮守府の提督として昇進の夢に突き進む青年。そして吹雪達。しかし大淀達から見ればそれはおかしな光景でしか映らない。様々な思考から推測するが……大淀達は答えを見つけられるのか?


それでは……


本編どうぞ!




○○鎮守府A基地編
1-1 おかしな鎮守府


「俺の執務室にあるベッドと銅像を処分してくれ。金になるなら変えてそれを経費に充てる」

 

「吹雪達の艤装はどうだ?明石ならばこれぐらい直すことなど容易だろう?頼りにしているぞ」

 

「鳳翔と間宮は食事を頼む。好きなメニューを提供してもらっても構わない。わかっていると思うが健康には気をつけて朝昼晩と食事をきちんととらせるようにしてくれ」

 

「しばらくはボーキサイトの備蓄が乏しい。不知火と木曾は問題ないが、龍驤は出撃を控えることにする。代わりに吹雪達の訓練を手伝ってやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大淀達が○○鎮守府A基地にやってきてから数日が経った。

 

 

 時刻はヒトフタマルマル。

 

 

 問題が山積みの鎮守府に軽視派の青年が提督として着任してからまたもや問題が起きた……ことはなく、寧ろ山積みであった原因を少しずつではあるが取り除いていった。それでもまだまだ残っているのだが、数日で底を尽きそうになっていた資材もある程度確保することができた。毎日食べる為に仕入れる食材は肉だけに偏らず、野菜もキッチリ仕入れ健康に考慮していた。衛生面も見違える程に綺麗になった○○鎮守府A基地……ここが本当にあの惨劇の舞台だったのかと言われると疑ってしまう。それに何よりも……

 

 

「これとあれと……これもか!?昨日あんだけ処理したのにまだ書類がこんなにあるのかよ!?ええい、全部今日中に終わらせてやる!!」

 

「あの……提督、そろそろお昼ですし食事のお時間かと……」

 

「もうそんな時間かよ。俺はこれらの書類を終わらせるから吹雪と大淀は先に飯食ってろ」

 

「司令官ダメですぅ!適度に休まないと体を壊してしまいます!」

 

「私も同感です。一人でこの量はあまりにも多すぎます。今日中でも流石にこれは……それでもと言うなら私も一緒に……」

 

 

 問題が山積みであるなら書類も山積みである。前提督が我が物顔で座っていた椅子も机も触れたであろうもの全て処分か売り払い経費に充てた。そして経費節約の為に安物で代用している。安物の机の上には書類の山……それを今日中に終わらせようとする青年だが、どう考えても一日で終わらせられる量ではない。最近青年は働きづめで吹雪達に心配されているにも関わらず、まだ仕事を進めようとする。大淀も流石に見ているだけでは心が痛み、手を貸そうとするが青年は拒否した。 

 

 

「いい、これは提督のサインが必要な書類つまり俺がしなければならない仕事だ。お前達はちゃんと食べてこい。規則正しい食生活は大事だからな。健康は仕事効率に大いに影響するこれ常識」

 

「……司令官はどうするのですか?」

 

「んぁ?そんなもん備えて安心、置いて嬉しい、財布に優しいカップ麺でも食えばいいさ」

 

「また買っていたのですか!?カップ麺ばかり食べていると健康に悪いって司令官自身が言っていたじゃないですか!」

 

「忙しい時は片手間に食べれて楽なんだよ……それにカップ麺だからってバカにすんな。吹雪お前に食べさせてやった時に美味いって言ってたじゃねぇか」

 

「そ、それはそうですけど……食べ過ぎです!司令官が倒れたら私もみんなも困ります!!だから一緒に食堂に行きましょう!!」

 

「吹雪ちゃんの言う通りです提督。また鳳翔さんと間宮さんに叱られますよ?」

 

「……」

 

 

 吹雪に心配されても何かと理由をつけて頑なに仕事を進めようとした青年は、大淀が鳳翔と間宮の名を出せば途端に手を止めてピタリと動かなくなった。

 

 

 ここ数日で食材の仕入れは真っ先に行ったことで、食事は鳳翔と間宮により美味しい手料理が毎日提供されることになった。三食毎日欠かさずに食べられる喜びに吹雪達は震えた。今では食事が楽しみとなり、鳳翔と間宮に明日のメニューが何なのか聞く程である。

 朝昼晩と健康重視のメニューが出され、お代わりも自由だ。それに食堂にはお菓子が常備されている……が、食べ過ぎは良くないので、鳳翔と間宮の監視の目が光っている。二人の前では妖精達も節度をわきまえている。艦娘達も妖精達も毎日食堂へ足を運ぶようになったが、一人だけ姿を現さず隠れるように執務室に籠りっきりの青年は問題の解決を独自に進めていた。睡眠を削ってでも取り組まなくてはならないもの……それはこの鎮守府に染みついたように残る問題をいち早く解決し、海域の制海権を手に入れなければならなかったからだ。

 

 

 海域の制海権は今も深海棲艦に奪われたままだ。今はまだ相手側からの攻撃を受けていない。少なくともこの付近の海域は比較的安全圏と言ってもいい。前提督はそのおかげで数が少なくなったボロボロの状態の艦娘達でも何とかなったのだ。だが、それがいつまでも続くとは限らない。嵐の前の静けさか、深海棲艦の影が見当たらない。そうなってほしくはないが、軍勢を集めているかもしれない。もしそうなってしまえば問題だらけで、出撃もまともにできなければその時点で詰んだも同然だ。昇進も自身の命すら危険な状況を少しでも何とかしたかった青年は寝る間も惜しんでやれることをやろうとしていた。

 しかし運悪く、夜中にトイレに目が覚めた吹雪が執務室の前を通ろうとした時に、見つけた。男でありながらも、暴力も罵倒もなく、苦痛の日々から救い上げてくれた青年……コンプレックスである醜い容姿を見ても嫌な顔一つせずに接してくれる人が扉越しにいる。色々と不思議な青年のことをもっと知りたかった吹雪は興味が勝ってしまい、扉から中を覗くとそこには何個も空になった床に散らばるカップ麺と栄養ドリンク片手に机と睨めっこしている青年の姿を発見した。その瞳は血走っており、眠気に襲われても栄養ドリンクで何とか気分を紛らわせていたようだった。

 

 

 青年は執務室に吹雪達や大淀達を寄り付かせたくなかった。唯一自分のプライベートの空間にまで入って来られたら溜まったものではないからだ。そのこともあって青年が何をしているのか周りは知らなかったぐらいで、このことを吹雪は皆に相談することにした。すると鳳翔と間宮が立ち上がり執務室へと乗り込んでいく。急に乗り込んできた二人の様子に唖然とした青年だったが詰め寄られ「健康に気をつけろと言った本人が蔑ろにしているとは何事ですか!!」と叱られた。カップ麺と栄養ドリンクは没収されてしまい、吹雪達にも体の心配をされたのは記憶に新しい。

 

 

 そんなこともあって、青年を監視する役割として秘書艦と補佐の二人が傍に付くことになった。補佐が基本大淀が担当し、秘書艦は○○鎮守府A基地の所属である吹雪達六人の交代制で務めることになった。

 

 

 執務室襲撃事件以来、青年は鳳翔と間宮が苦手……いや、二人にビビっていた。大淀達がやってきたあの日、そして今回の件に関して、みっちりと絞られたようで体が今でも説教を憶えているようだ。

 

 

「……チッ、まぁなんだ。規則正しい食生活は大切だから仕方ない。偏った生活をしていれば仕事に支障が生まれるからな。だから決して……けっっっっっして!あいつらの説教が怖いからだとかそう言うのではないからな!!」

 

「「ア、ハイ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい。

 

 

 数日共に業務に打ち込んでいた大淀が抱いた感情はそれだった。軽視派の人間……本当に?艦娘である自分達はたとえ国の為、平和の為に轟沈覚悟の気持ちで深海棲艦と戦っている。けれど、多くの人はそれでは自分達を受け入れてもらえない。それもこれもこの醜い容姿が原因である。なのに青年は一切嫌な顔をしなかった。寧ろ瞳を見つめ合っているだけで照れている様子の青年にこちらも照れてしまう。軽視派である彼を監視する為に暴力や罵倒の一つや二つ受ける覚悟を持って気持ちを準備していたがそのようなことは一度もなかった。

 軽視派の連中は艦娘を兵器として扱い、沈んでも構わないと思っているはず……だが青年に「沈むことは許さない」と言われた。「頼りにしている」そんな言葉が出てくるなどありえない。少ない資材で簡易に建造でき、使い捨てと扱われていた吹雪達に懐かれている。特に男性は特別視される傾向にあり、醜い艦娘に近寄られるだけで嫌な顔をされることなんて当然の如くである。その当然がここにはない。

 

 

 食堂へと辿り着いた大淀達は厨房にいる人物に声をかけた。今ではこの鎮守府の食堂を牛耳る間宮と鳳翔の二人だ。

 

「間宮さん、鳳翔さん、ご飯いただきにきました」

 

「あら、吹雪ちゃんに大淀さん。そして……提督、今日はちゃんと食べてくれるのですね?」

 

「あ、ああ……健康には食生活が一番だからな。食事を抜くなんてことはしない」

 

「この前みたいにカップ麵で済まそうとしていた……なんてことはありませんよね?」

 

「………………………………………………そんなことはしていないから安心しろ」

 

「「……」」

 

 

 間宮と鳳翔が疑い深い目で見ていたが、その視線を合わせられない青年は冷や汗をかいていた。たとえ提督の座に青年が鎮座していてもこの二人には勝てないようだ……恐るべし。

 

 

「吹雪ちゃん、提督がもしまたカップ麵で済まそうとしていたら……報告してね♪」

 

「はい、わかりました鳳翔さん!吹雪にお任せください!!」

 

「――くっ!?」

 

 

 元気いっぱいに返事をする吹雪は真面目なので青年がもしカップ麵に手を伸ばそうものなら間宮と鳳翔に報告しに行くだろう。悔しそうな青年……当分カップ麵生活は出来なくなってしまった様子である。

 

 

「ふふ、お願いね。それじゃ、これ今日のご飯ですよ」

 

「うわぁ!ありがとうございます間宮さん!」

 

 

 間宮から今日の食事が各自に手渡される。カレーライスだった。鍋で温められ、湯気が立ち上りカレーの濃厚な香りが食欲を誘う。

 

 

「司令官、どうぞ!」

 

「おう」

 

 

 トレイに乗せられたカレーライスと共に席につくが、青年と吹雪の距離が近い。椅子を引いて青年にここに座ってほしいと瞳が強く訴えていた。青年はその瞳に気づかずとも吹雪の隣に座ることが当たり前のようであったことに大淀は強い衝撃を受けた。

 

 

 なんて羨ましい……はっ!?わ、私は何を思ってしまったのでしょうか!!?

 

 

 大淀の視界に映る光景に今だ慣れていない。ここ数日で何度か見た光景なのだが……こんなことがあるのだろうかと疑ってしまう。

 

 

 同じテーブルしかも隣に艦娘が座ることを許す……いや、自ら隣に陣取ることなど考えられないのだ。我らの美船元帥でも同じテーブルで食事をしたいと思う人物は艦娘以外にほぼいない。しかも男性がである。大淀が着任してから意味不明なことばかり起きていて、しまいにはこれが普通なのではないかと錯覚してしまいそうだ。

 

 

 気持ちをしっかり持って私!きっとこれも何かの作戦なのでしょう。私達を信用させて後で裏切る……大事な作戦の為に誰かを犠牲にしなければならない場面、編成でその犠牲を決めるのは提督の決定。周りから非難の目を(あざむ)く為、日頃はいい人間を演じ、轟沈しても「仕方なかったことだ」「私だって悔しい」と理由を用意できる。周りも納得してしまい、悲劇の提督として見られるようになる……内心ではそんなこと微塵にも感じていないにも関わらず。実際にそう言った人もいました。悲しいことですが、私達に向き合ってくれる人は美船さんぐらいしか私は知りません。全ての人がそうとは言い切れません。中にも仕事だからと割り切って諦めて接してくれる方もいますが、そう言った人と出会えるだけでも幸せな方です。幸せな方ですが……心にモヤモヤとしたしこりが残るのは仕方ないことだと思っていました。思っていましたよ……

 

 

 大淀は羨ましかった。美船元帥は同性……人とは生まれ方が違う艦娘を女性と表現したらいいのかはこの際置いておくとしても、同じ女性である。しかし青年は男性で、傲慢な態度もみせず、仕事だからと諦めて交流している素振りはない。口は悪くても艦娘である自分達の健康や疲労など気遣ってくれている。少々見えるギザ歯が怖さを現しているが、顔はいい。彼が軽視派だと知らなければ優しさに付け込んで犯罪にならない程度のセクハラまがいなことを仕出かしていたかもしれない。

 ハッキリ言うと……理想的なのだ。美船元帥がそうだったように、この青年も彼女の面影を感じさせる温かさを抱いているように大淀には見えていた。だから……おかしいのだ。

 

 

「美味しそうですね!大淀さんもそう思いませんか!?」

 

「……」

 

「……大淀さん?」

 

「――はっ!?な、なんでしょうか?」

 

「ボケっとするな。考えごとなら後にしろ。食事時は余計なことは抱かず味を楽しみ、腹を満たす。だからと言って早食いはよくないぞ。ゆっくりよく噛んで食べる。噛まずに飲み込むのは健康によくはないし、食べ終わってもすぐに運動はせずに少し休憩だ。それが終わってから仕事の続きをするぞ。だからボケっと突っ立ってないで座れ。冷めちまうだろうが」

 

「あっ、す、すみません」

 

 

 吹雪だけでなく青年にも声をかけられ思考は停止する。椅子に座る……吹雪の正面に。

 

 

 四人掛けのテーブル席だが大淀はまだ青年の正面に座る勇気はない。信じてはいけない。軽視派の連中は無能ばかりではない。軽視派の連中から目をかけられた青年はもしかしたらこの姿は仮の姿で、裏では言葉にできぬほどの悪事に手を染めているかもしれないのだ。「人は見かけで判断するな」そう美船元帥から教えられたことだ。

 

 

 人間とは欲深い生き物だ。

 

 

 どんなに優しい相手の方からわざわざ接してくれて、自分に心を許したとしても後で裏切られ捨てられる……そんな経験をして絶望の中、轟沈した艦娘だって居たではないか。

 艦娘は醜い……これは変えられぬ事実。それと真正面に向き合ってくれる人は果たして何人いるのだろうか?両手で数えられるのか?もしかしたら片手で数えられる程しかいないのか?答えはわからないが、大淀は願う。

 

 

「ちゃんと食材に感謝するんだ。俺達は命を食らい、命に生かされている。食材に感謝しないと調理された命から恨まれちまうからな」

 

「はい司令官!いつものですね!」

 

「ああ、大淀も食べる前の感謝を忘れるなよ?」

 

「ええ、わかっています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 この青年の優しさが()()でありますように……と。

 

 

 ★------------------★

 

 

「っぽい」

 

「……」

 

「にゃしぃ~」

 

「……」

 

「はわわわわ!?」

 

「……」

 

「ごめんね不知火、みんな君に興味があるみたいなんだ」

 

「……不知火にですか?それで先ほどからずっと視線を向けられていたわけですね」

 

 

 時雨達は何度目かの遠征だったが、今まで青年に提督の座が変わってから失敗を犯していない。楽な遠征であった。燃料を少しでも節約する為に鎮守府からそれほど遠くない場所へ向かい、資材を見つけては無理せずに持って帰る。過酷な状況を生き残った彼女達にとって楽過ぎる任務だ。今回も小島を発見し、そこで見つけた資材を持ち帰る途中の出来事であった。

 

 

 旗艦を時雨とした遠征組に新たなメンバーが加わった。不知火だ。

 

 

 不知火は今回の遠征は初である。美船元帥の下ならば何度か任務に当たったことがある。しかし今回が初と言うのは○○鎮守府A基地での話だ。数日間は備蓄が極めて限りある状況であり、燃料の消費量を少しでも抑えたかったことで、今まで遠征組は四人だった。そして今日ようやく出撃の許可がおりて、不知火は時雨を旗艦とする第二艦隊に配属されることになった。五人に増えた第二艦隊の新人……練度では不知火の方が上だ。初めて出会う自分達と同じ駆逐艦。夕立達は気になって仕方なかった。

 不知火とはあまり話せていない。男性であるにも関わらず、自分達のような容姿に対しても嫌な顔せずに接してくれる青年と彼の期待に応えたいと頑張る吹雪達から距離を取っていたからだ。なんせ彼女は青年の秘密を知っているのだ。だからこそ思う。

 

 

 『捨てられる』

 

 

 ○○鎮守府A基地はおかしい場所であるのは確かだ。艦娘相手に真正面から受け答えする青年の姿。何故嫌がらない?気持ち悪がらないのか?どうして視線を逸らさない?上げればきりがない程に青年は自分達艦娘に対して寛大な態度を取る……だが、それは偽りのものだ。

 

 

 『艦娘軽視派』

 

 

 艦娘を醜悪な容姿に人外の力を持つだけで化け物と扱い、道具として利用する者がいる。いくらでも資材があれば生み出すことのできる彼女達に対して人ではないからとぞんざいに扱う人々の中にいるのが青年だった。だからこそ不知火は青年と楽しそうに話す吹雪達が哀れで声をかけられなかった。きっとその姿は偽者で、内心吹雪達と関わることすら嫌だと思っているのだろう……それだけならまだいい。はらわたが煮えくり返り、最後には信じていた相手に裏切られる……吹雪達が手を伸ばしても掴んでも、青年は笑いながら振り払う。

 

 

 

 絶望するだろう。涙するだろう。後悔するだろう。

 

 

 先のない未来を想像してしまい、不知火は距離を取ってしまった。しかし彼女はそんな未来を現実にさせることは絶対にしないと心に決めている。美船元帥の下で知った温かさ、目には見えない艤装()と言うものをいつも身に付けている。吹雪達を青年の魔の手から守ること……それが不知火の役目だった。

 駆逐艦同士のみでしか語れぬ話もあるだろうと美船元帥は不知火を選んだ。青年を監視するだけでなく、時雨達を魔の手から守りぬき、素顔を暴くこと。忠義心が高く、堅物である彼女は必ず任務を成功してみせると意気込んでいる。

 

 

 そんな彼女の心境など知らない夕立達は不知火に興味を持った。他の鎮守府との交流は前提督によって悪行がバレるのを防ぐために避けられていたこともあり、初めてで、自分達は休みなしの出撃で疲労しており、今まで他の鎮守府にいる艦娘の存在など気にしている余裕などなかった。しかし青年のおかげで心に余裕が生まれて、新しい仲間のことを知りたくなったのだ。

 

 

「それで?不知火に興味とは……何かあるのですか?」

 

「っぽい!」

 

 

 手を上げる夕立。はい!ではなく、っぽい!とは夕立らしい。

 

 

「不知火ちゃんは()()っぽい?」

 

()()()?装甲は駆逐艦ですのでそれほど()()はないですが?」

 

「あっ、それは多分夕立が言ったのは装甲のことじゃなくて性格の方だと思うよ」

 

「性格?」

 

 

 時雨が間違いを訂正する。

 

 

「喋り方も雰囲気もお堅いのにゃ。もっと砕けた性格なら提督と仲良くなれるにゃしぃ」

 

「……司令と?」

 

 

 何故ここで青年のことが出てくるのか……不知火には睦月が言った意味がわからない。

 

 

 「不知火ちゃんは提督さんのこと避けているっぽい」

 

 

 夕立の言葉に不知火は思い当たる節がある。指摘された時に眉が動いた。

 

 

「不安なのはわかります。でも電達は司令官さんに助けられたのです。初めは電も怖かったのです。けど司令官さんは優しかったのです。食事も寝床も改善してくれました。だから不知火さんも初めは怖いと思いますが、きっと司令官さんのことを好きになるのです!」

 

 

 電の無邪気な笑顔を直視できずに逸らしてしまう。ここまで信頼しているのに待っているのは裏切り……最期にこの子に残るのは何なのか。「違う」「騙されている」そう言いたかったが、電達の心の支えとなっている青年が軽視派の人間であることを伝えることはできない。支えが失った者が最後に辿った結末は……語りたくもない。不知火の胸には罪悪感が突き刺さる。

 

 

「……不知火?」

 

「大丈夫です時雨さん。心配はいりません……この不知火が皆さんを守ってみせます」

 

「んっ?そっか……ありがとう。それに時雨さんなんて堅苦しいよ。時雨でいいよ」

 

「夕立も夕立でいいっぽい!」

 

「睦月も同じにゃしぃ♪」

 

「電もなのです」

 

「……ふっ、かしこまりました」

 

 

 自然と小さな笑みを浮かべることができた。時雨達との交流は上手いこと進んだようだ。不知火が馴染めるのも時間はかからないだろう。

 

 

 だからこそ自分が守らなければならない……時雨達、そして吹雪達を。仲間の為にもあの忌々しい軽視派の人間の魔の手から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

「そう思っていました。しかし観察している内におかしなことに気づいたのです」

 

「……それはなんや?」

 

「何もしていないのです。いえ、正確には悪事に一切手を染めていませんでした。軽視派の人間であるはずなのに……です」

 

「私もなんだか変な感じです。艦娘の私にわざわざ差し入れしに来る提督っていますか?開発の為に工廠に籠っていたら誰かが入って来たので、大淀かな?って思ったら提督で、手には飲み物とタオルを持って現れたんですよ?そして『熱が籠る工廠内での作業は気を付けろ。水分補給はしっかりしろ』って言われた時、開いた口が塞がりませんでしたよ」

 

「あら?明石さん()?」

 

()?と言うことは……間宮さん()?」

 

「はい。私と鳳翔さんは差し入れではありませんでしたけど、足りない食材や料理器具があれば遠慮なく言ってくれと言われました。そうでしたね鳳翔さん」

 

「ええ、あの時の提督は優しかったですよ。それに……ふふっ、カップ麺を隠れて食べていないか確認した時なんか縮こまっていましたもの。なんだかその姿が可愛らしくって庇護欲を駆り立てられそうでした」

 

「アカン……軽視派のイメージ像が崩れてきたで!?」

 

「おい!明石さんも間宮さんも鳳翔さんもどうしたんだ!?あの男は軽視派なんだぞ!!?」

 

 

 更に数日後が過ぎた鎮守府の出来事……一つの部屋に集まっていたのは大淀達だった。

 

 

 時刻はフタサンマルマル。

 

 

 良い子が寝る時間は過ぎている。青年も執務室でぐっすりと寝ており、吹雪達も今頃は夢の中だろう。深海棲艦に注意しなくて良いのかと言われてもここには妖精達が沢山いる。今は人数が少ないので、疲労を溜めないよう配慮して遠征は昼のみにし、人間よりも役立つ妖精達が憲兵となり、鎮守府内だけでなく、海上も監視してほしいと青年はお願いした。

 妖精達にとって昼も夜も関係なく、睡眠も必要ないようでやはり人間とは異なった生き物なのだなと思い知らされた。そんな妖精達は青年からの夜の海上監視のアルバイトを持ち掛けられ承諾。報酬は勿論お菓子だ。お菓子が手に入るなら妖精達はいくらでも頑張れるのだ。

 

 

 だから何かあれば妖精達が知らせてくれる。いつもはだらけた様子な妖精であっても仕事であればシャキッとやるべきことをきちんとやってくれるので心配無用だ。妖精達はこの鎮守府の小さな救世主達であった。

 

 

 そして現在、その夜中に何故大淀達が集まっているのかと言えば、軽視派である青年の動向調査の報告の為に集まったのだが……結果は予想とは反するものであった。

 

 

「あの男は影で何かを企んでいるに決まっている。そうだろ!なあ不知火!?」

 

「……」

 

 

 木曾は我慢ならなかった。軽視派である青年を調べていたが何も出て来ない結果に終わった。寧ろ艦娘である吹雪達や自分達に労いの言葉や差し入れをしてくれていた。初めは美船元帥から直属の艦娘である為、機嫌取りや悪行を隠すための演技かに思われたが、いくら鎮守府内を探しても悪行を行った形跡は見つからず、青年はここ数日外へ出かけていない。ずっと艦娘である自分達と行動を共にしていることの方が多かった。それに仕事も次々にこなして山積みだった書類等は今では半分程度まで落ち着いたほどだ。青年が執務室の簡易なベッドに仕事疲れでぐっすり寝ているのはそのせいである。ハッキリ言ってしまえば他の提督よりもかなり優秀な提督であると断言できる。優秀な提督が艦娘を率いれば勝率は上昇、深海棲艦から海域の制海権を奪い返すこともできるだろうが、青年は軽視派である。艦娘を道具としてしか見ない美船元帥が心から憎悪する連中の一人なのだ。だから木曾は認められないのだ。

 青年と美船元帥の姿が重なったように見えたのは大淀達……つまり木曾にも見えたのだ。救ってくれた恩人と最も毛嫌いしている軽視派の人間が同じだなんて彼女は認めない……認めたくない。

 

 

 不知火もそうだった。第二艦隊遠征組に選ばれ新たなメンバーとして加わった彼女は遠征をこなしつつ、時雨達を通じて探りを入れていたが、帰って来る答えはいつも笑顔だ。時雨達からは情報は得られないだろうと思考し、ならば自身の目で得るのみと行動に移す。身を隠しながら青年を尾行したり、執務室に秘密が隠されていないか潜入し探ってみたが全て空振りに終わる。鎮守府内も隈なく探りを入れてみたが答えは変わらなかった。

 不知火だけでなく、大淀達も探っていたが結果は言った通りだった。吹雪を旗艦とした第一艦隊に組み込まれた木曾も吹雪達から色々と探ったが結果は同じだった。青年が起こす行動の真意はわからず、違和感が増すばかりであった。

 

 

「ちいっと落ち着きって」

 

「これが落ち着いていられるか!ああもうっ!俺はもう寝る!!」

 

 

 苛立ちが募り、木曾は出て行った。気持ちの整理を付ける為にも今は一人にさせておいた方がいいだろう。

 

 

「しかしおかしなことになりましたね」

 

 

 大淀はこの状況に対して不可解な心境に陥っていた。軽視派だとわかっているはずなのに、どこか温かい日常がある。辛く苦しい牢獄から解放された吹雪達は毎日青年と言葉を交わし笑顔だ。たとえその笑顔が汚物のように醜くても青年は拒絶せずに、視線を合わせてくれる男性はこの青年を除いて知らない。

 そのことが女である大淀にとって嬉しいのだ。大淀は仕事上男性と接触する機会は多かったが、男性からは眼鏡が不細工をかけていると笑われたことだってあった。比べて鳳翔や間宮に明石は男性との接触はあまりない。話をすることもそれほど仕事上なく、慣れてはいない。だが、青年と話をすると安心感があった。青年のその姿は偽りのもののはずなのに、まるで美船元帥と共に居る時のような安心感が。

 

 

「……もう少し様子を探るしかなさそうやな。木曾は……あの調子やし、不知火頑張ってや!」

 

「は、はい。何としてでも秘密を暴いてみせます!」

 

 

 不知火の瞳に闘志が燃えていた。今度こそ必ず青年の悪事を暴いてやると。

 

 

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