あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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お待たせしました建造回です。資材を大量に積み込んで求めていた艦娘が出た時は嬉しいですよね。例え被っても……怒らないであげてくださいね。


それでは……


本編どうぞ!


1-7 初めての建造

「お願い!当たってくださぁい!」

 

 

 夜の海に水柱が跳ね上がる。雷撃戦が繰り広げられ、敵艦が海の底へと沈んでいく。

 

 

「やりました!敵影……なし」

 

 

 その光景を見て旗艦である吹雪は喜びを露わにしたが、それも一瞬のこと。すぐさま気を引き締めた。以前深海棲艦と初めて対峙した時、損害ゼロの完全勝利だと思い込んだ吹雪は大はしゃぎしてしまった。しかし潜んでいた敵に狙われており、吹雪を庇った木曾が大破。油断が招いた失敗に前提督ならば問答無用で罵倒と暴力が振るわれていたであろうし、油断しなければ起こることがなかった失敗と仲間を危険に晒した後悔が吹雪の心を蝕むかに思えた。しかし青年はそれを許した。

 「失敗を次に活かせ」「次は木曾を守ってやれ」「その後悔を力に変えろ。お前ならばきっとできる」と優しい言葉をかけられた。それからの吹雪は目に見えて瞳に熱が籠っている。

 

 

 司令官に期待されている。こんなことが今まであっただろうか?「旗艦を任せたのは吹雪が適任だと思ったからだ」などと言われたことがあっただろうか?答えはない……前提督から期待などされたこともなく、優しさなど微塵も感じなかった。比べて青年は吹雪の心を支える中核となっていた。だからこそ期待に応えたいと吹雪は己に喝を入れ、まだ未熟ながらもすぐさま気持ちを変えることができるようになったのは確実に成長している証であった。

 

 

「当然の結果だ、別に騒ぐほどのこともない」

 

「そっ。当然の結果よね。不満なんてないわ」

 

「木曾さんお疲れ様です。叢雲ちゃんもお疲れ様。帰って司令官にうんっっっと!褒めてもらいましょう!」

 

「ふ、ふん!あいつに褒められるなんて……嬉しいとは思っていないわ。これっぽっちも思ってないからね!」

 

「お、俺もそうだ。別に褒められたいとは思ってないし……

 

「木曾さん声が小さいですけど?」

 

「な、なんでもない!ゴホン……だがその前に言いたいことがある。吹雪は気づいているか?敵も手強くなってきているってことを。順調に進んでいるようだが、戦力が乏しい。このままだと俺達の方が押され始めてしまう」

 

「そう……ですよね」

 

 

 海域の制海権を深海棲艦から奪い返す為に出撃を繰り返しており、徐々に範囲を広げている。しかし○○鎮守府A基地の戦力は乏しい。進むにつれて敵勢力には新たな深海棲艦の存在が確認されている。こちらは駆逐艦と軽巡洋艦に軽空母の編成に比べ、相手は加えて重巡リ級の存在が確認されたのだ。

 戦艦クラスには劣るものの高い耐久力と火力を持ち、尚且つ巡洋艦であるため雷撃戦にも参加できる。駆逐艦や軽巡洋艦では荷が重い相手でもある。勝てないことはないが、危険が伴う相手である。近いうちに戦闘になるかもしれない。不知火や木曾は戦闘経験と今まで美船元帥の下で訓練も行って来たことからある程度の対処は可能だろう。まだまだ未熟な吹雪や叢雲、時雨達は重巡リ級に対処できるか正直なところ不安があった。それに今回の編成は吹雪、叢雲、木曾の三人での出撃だった。

 

 

 元々第一艦隊は旗艦吹雪として叢雲、木曾、龍驤の四人で編成されているが、今回の出撃は警備中の妖精からの報で深海棲艦を確認。夜の暗闇に紛れて襲撃するつもりであったらしい。軽空母である龍驤は夜戦では参加できない為、鎮守府でお留守番だ。しかも運が悪いことに時雨達が遠征で深海棲艦と遭遇し、帰投したが疲労が溜まっている状態だ。

 疲労が抜けきっていない状態で第一艦隊に組み込むのはどうかと悩んだ。疲労が蓄積すればそれだけ攻撃ミスや被弾率が上がる。最悪それが原因で轟沈する可能性もあり、ゲームと現実は違う。大破していなければ大丈夫と思わないことだ。木曾の姿を垣間見てそんな生易しい世界ではないことを思い知ったばかりだ。その危険性もあるので三人だけで対処できるだろうか……そう考えていると青年は思い出した。「大淀達がいるじゃないか!」と……しかし大淀からの回答は出撃出来ないとのことだ。何故だと驚いたが語られたのはこうだ。

 

 

 なんと大淀達は艤装を装備できるが、活用することはできないとのことだった。何故かはわからないが、建造された時からそうらしい。だから大淀、明石、間宮の役割は提督とそこの鎮守府にいる艦娘達の補助を任されているのだそうだ。鳳翔は例外であるらしいが、龍驤と同じく軽空母で夜戦では無力である。これを聞いた青年は「そんな馬鹿なことが!?」と衝撃を受けたが、記憶の中にある三人は『艦隊これくしょん』に登場するNPCのイメージが強い。艦娘としてではなくNPC……つまりゲームプレイヤーに任務の案内やアイテムなどを提供する事でサポートしているキャラクターで、そのままでは戦地に赴く事はないのである。

 「こんなところにゲーム要素を入れて来るのかよ!?」と現実でありながらもゲーム要素が組み込まれた世界に苛立ちを感じた。もし大淀達を運用するならば別途艦娘として入手する必要があるのではないか?もしくは戦えるようにする何らかの手があるのかもしれないが、現時点では不可能なことが判明する。これにより大淀達を使う手段は無くなった。青年は最後まで悩み続け出した結果、吹雪達が危険だと判断すれば即撤退するように指示を出し、時雨達をいつでも救援に向かわせられるように待機をさせておくことだった。時雨達の疲労を回復させるには博打を打つしかなかった。

 

 

 吹雪達が早くに負傷すればその分、時雨達の疲労は残ったまま。最悪轟沈されてしまい、そのまま鎮守府に攻め込んで来る可能性もあるのだ。そうなれば終わりだ。富も名声も昇進も……儚く散る。青年はこれ以上ない緊張感の中、吹雪達が小破もせずに勝利したことに安堵した。予想とは裏腹にかすり傷程度の吹雪達、実はこれほど無傷で済んだのは仲間を守りたいと思う強い意志、そして青年の下へと帰りたいと心に宿した熱い気持ちが彼女達に力を与えたことなど誰もわかっていなかった。当の本人達ですらも。

 そんなことも知らずに、帰還した吹雪達を出迎えた青年は労いの言葉を送った。吹雪はふにゃけた顔をして喜び、叢雲はツンとしていたが頬が赤かった。木曾は睨みつけることがなくなり、視線を逸らすようになっていた。こちらも叢雲と同じく頬が赤くなっていることを大淀に指摘された時なんか「た、戦った後だから体が熱いだけだ!!」と主張していたが、その姿をクスクスと笑われ顔を真っ赤にしていた。温かい光景だったが、青年だけは沈黙の表情を浮かべていた。

 

 

 このままではこの鎮守府は終わる……青年はそう考えていた。何しろ艦娘が少なすぎるのだ。深海棲艦の数は無数にいるのに対してこちらは一人の負担が大きい。艦娘が増えればそれだけ維持費はかかる問題はあるが、備蓄は初めの頃と比べると安心できる量は確保してある。遂に動く時……翌日青年は工廠へと向かった。

 

 

 ★------------------★

 

 

 遂にこの時が来たか。今までは備蓄に余裕がなく、現状での戦力増強を維持してきたが、流石に負担が大きいのはまずいな。疲労が溜まり、肝心な時に出撃できないようになったら意味がない。今回のようなことがこの先何度もあるだろうし丁度いい。今は備蓄に余裕があるからな……これで大食い共が現れない限りの話だがな。それでおっさんが熱心に取り組んでいた建造をしてみようと思ったわけだ。おっさんは何度でも建造できるからと轟沈しても気にも留めずに建造を頻繁に使っていた。俺は何度でも建造できるとは思っていない。建造すると言えども同じ艦が出てくるなんて建造してみないとわからないわけだ。それに俺には昇進と言う夢がある。その為には戦艦などの能力や火力が必要だが、それだけで倒せるような深海棲艦じゃない。相手は機械じゃねぇ……学習とは恐ろしいものだ。奴らは学習し、戦い方を身に付けていくだろう。だからこそこちらも練度だけでなく、統率の取れた陣形、コンディション(健康状態)が大切になってくる。誰か一人でも轟沈すればそれら全てが無駄になる。

 一人の訓練の為にかけた時間も苦労も水の泡。更には仲間が轟沈したことで士気が下がり、そのせいで本来の力を発揮できなくなったらどうする。俺は誰一人として轟沈させる気はねぇぞ。これから建造する艦娘共も全員同じだ。俺の下に居るからには永遠に尽くす人柱……いや、艦娘柱にでもなってもらうとするか!クヒヒ、覚悟してろよ!!

 

 

 青年は工廠についた。当然そこには担当の明石が居る。気づいた明石は近寄って来て御用は何かと尋ねると事情を説明すればすぐに妖精達が動き出した。青年が着任してから初めての建造にやる気が十分の様子である。

 

 

「提督、それでなんだけど建造についていくつか説明しておかないといけないことがあるの」

 

 

 クヒヒ♪チビ共め、俺の為に頑張っているようだな。まぁ、今の俺は()()()()だから当然と言えば当然だろうな。日頃からお菓子で餌付けしておいてよかったぜ。それはそうと建造するには色々とあったっけな。改めて明石から説明を受けることになった。

 特殊な装置に資材を投入し、艦娘が建造される。投入する資材の量で多少艦種が変わるのはゲームと同じだったが、同じ鎮守府で同じ艦娘は建造されないようだ。被りがないのはいいことだが、その場合は被った艦娘の力が強化されると聞いた。これはある意味で近代化改修ともとれる。だが既存の艦娘の性能を向上させるが、数値に表すとはごく僅かだそうだ。資材の消費に対して吊りあわない数値……これには多くの提督共が残念がるようで、確かにわかる気がするぜ。それよりも俺が気にしているのは別のことだ。建造にはリスクもあるようで、ゲームとは違い資材を投入してもハズレがあるようだ。その場合は資材が消滅してしまい無駄となる……ハズレ入りのくじ引きのようなものか。それでも戦力強化の為に建造しなければならない。俺はやるぞ!

 

 

『「じゅんびできたー!」』

 

『「できたできた!」』

 

『「けんぞう♪けんぞう♪』

 

「準備できたみたいね。提督お待たせしました」

 

 

 明石が説明している間に妖精達の準備が整ったようで、言葉のわからない明石にぴょんぴょんと飛び跳ねて行動で示していた。

 

 

「それで提督、資材の量と分配はどうします?」

 

 

 明石の問いに青年は迷わず決めていた量を提示し、指示を出す。

 

 

「燃料400、弾薬100、鋼鉄600、ボーキ30を投入しろ」

 

「えっ?これは何か意味のあることなんですか?」

 

「別に気にするな。それよりも早く建造してくれ。時間は待ってくれないぞ」

 

「わ、わかりました」

 

 

 明石は迷わず提示した青年を不思議に思ったが、これはいわゆる戦艦レシピだ。この世界の認識ではどれだけの量、分配でどの艦種が建造されるか知られていない。この量と分配ならこの艦種が出やすいなど誰も知らないのだ……青年以外は。前世の記憶で何度も回したレシピでもあり、建造時間によってある程度誰が建造されるか絞り込める。四つある建造装置の一つでまずは様子見をするつもりである。

 

 

 ひとまずこれで様子を見るか。流石に資材が自動で増えないのは厳しい……だが誰も轟沈させない為にも火力不足を補わないといけない。それには戦艦または重巡洋艦が必要だ。出来れば戦艦が欲しいところだが……心配なのは確実に成功するかわからない点だ。失敗すれば資材が……頼むから失敗するんじゃないぞチビ共!お前達には俺のポケットマネーで食わせてやっているんだから期待に応えてみせろって言うかマジで頼むからな!!?

 

 

 青年の指示により、妖精達が資材を投入する。妖精達の頑張り次第で成功率に補正が付くことはないのだが、それでも失敗しないでほしいという想いがヒシヒシと伝わって来る気迫を振りまいていた。そのせいで明石がギョッとしていたが、そんなことなど気にもならない。そうして妖精達が資材を投入し終え、装置が大きな音を立てて起動し始めた。モニターと思われる画面には『1:30:00』と言う数値が表示された。これは成功したと見て間違いないだろう。

 

 

 んおぉ!!?よくやったぞチビ共!!!これで失敗したらお菓子抜き……にはしないが、チビ共からクソチビ共に降格するところだったな。だがチビ共、お前達はよくやった。この時間は重巡洋艦だな。戦艦ではなかったが、十分な戦力になる。後でジュースでも奢ってやろう。

 

 

 青年は内心喜びに打ち震えていた。明石も初めての建造で成功したことにホッとしている様子である。

 

 

「それで提督、残りは三つありますがどうしましょうか?」

 

 

 むむ……重巡洋艦一人じゃ心もとないが、戦艦レシピで失敗は怖い……余裕はあると言えども遠征でしか資材が手に入らないからな。もしもの時が恐ろしい……仕方ない。

 

 

「今度は燃料250、弾薬30、鋼鉄200、ボーキ30を投入だ」

 

 

 今度の分配はいわゆるレア駆逐艦レシピだ。先ほどと同じように妖精達が資材を投入していく。再び装置が大きな音を立てて起動し始め、モニター画面に今度は『1:00:00』と言う数値が表示される。二回連続して成功したことに内心ホッとする。

 

 

 これは……軽巡洋艦か?レア駆逐艦ではないが、重巡洋艦は確実に手に入れられるし、失敗しなかっただけでも良しとしよう。俺が建造してやったんだから特別待遇として多めに働いてもらわないといけないよな?クヒヒ、これから俺にこき使われると思うと不憫で仕方がないぜ♪

 

 

 青年はほくそ笑む。建造されるのだから使われて当たり前。消費した資材分働かせようと思っている……その割にはちゃんと無理のない環境を作り、心身ともに休めるようにシフトを頭の中で考えている青年だったりする。

 

 

 それから前提督によって既に解放されていた残り二つの装置の内一つは今度こそレア駆逐艦狙う為に投入する。資材を投入して一つ目には『0:30:00』と数値が現れる。これに青年は驚愕してしまった。モニターの画面に映し出された数値を二度見してしまったぐらいだ。

 

 

 なに!?この建造時間は……あいつしかいねぇじゃねえか!これはラッキーだぜ♪前世の記憶がこれほど役に立つなんてな!今日はついてるぜ。失敗もなし、重巡洋艦とレア駆逐艦は確実に確保できた。欲しいものは手に入るし、後は適当に回すか。

 

 

 残り一つの装置には資材を投入できる最低値で遠征要員を狙い『1:00:00』と言う数値が表示された。

 

 

 この時間は軽巡洋艦か……誰が出てくるかわからんな。だが……クヒヒ♪可哀想だよな。四人共これから俺の為に使われるんだから……他の奴に使われた方がマシだったと思っても無駄だぜ。この鎮守府は俺のもの、お前達艦娘共も俺のものなんだからよ!!!

 

 

 上機嫌であった。初めての建造で失敗せずに戦力強化できることに大変喜んでいる様子である。戦艦は出なかったが、それでもいい結果に大満足。そして連続して四回成功させた青年の運に明石は大変驚いていたようだった。これには何故驚いているのか青年は疑問に思っていると彼女が説明した。

 

 

 少量の資材を投入して建造した場合なら成功する確率は高く、逆に大量投入しての建造で成功する確率は低いらしい。しかし資材を少量投入して建造される場合は駆逐艦や軽巡洋艦が大半だ。大量の資材を投入しても建造されたのが駆逐艦や軽巡洋艦なら提督の怒りをかうことだってあるそうだ。それ故に資材を貯め込んでまで戦艦を求める提督は数多くいるが、戦艦狙いで資材を消費して成功しても、重巡洋艦が建造されればそれはハズレを引き当ててしまったことになり、重巡洋艦は戦艦の劣化品とも見なされていたりしているのだ。駆逐艦も少ない資材で高確率で建造され、大量の資材を投入しても建造されることもある為、消耗品として見られていたのはその為だ。

 美船元帥以外で連続して成功させた人物は初めて見るとのことで、明石が驚いていた理由がよくわかった。中には十数回建造に挑戦しても一度も成功しなかった提督もいるそうだ。しかし何故と言う疑問も浮かぶ。

 

 

 俺と美船元帥だけだと?それは気になるが、偶然かもしれない。今はここで大人しく待っておくか。一時間半程度ならば工廠で待っていても邪魔にはなることはなさそうだからな。仕事の邪魔をすればそれだけ新たな装備開発に遅れが出る。明石には開発を任せており、こいつはいい物を開発してくれる。初めは警戒されていたようで、接するのも少なかったが、最近はこいつの方から話しかけて来ることが多くなった。次第に俺に信頼を寄せ始めている可能性があるな……クヒヒ♪いいぞその調子で信用しろ。俺が()()()()だと信じ込めば俺の勝ちだ。俺の為だけに深海棲艦共をぶちのめす装備を開発し、思い通りに動く玩具になるんだ。他の誰かが俺を疑っても俺を庇い、密告してくれるようになるはずだ。落ちろ……俺の下へ落ちてこい。そうして俺のものになるんだ……クヒ、クヒヒ♪

 

 

 青年は建造されるまでの間、明石の仕事の邪魔にならないよう隅っこでちょこんと座って待機しておくことにした。

 

 

 ★------------------★

 

 

 初めての印象は怖いけどかっこいい……でも最低な男。そう思っていた。

 

 

 おかしかった。○○鎮守府A基地(ここ)は異常だと思った。

 

 

 軽視派の人間である前提督のせいで崩壊寸前だったはずの鎮守府がここだったと元帥から私は聞いた。元帥からの命で私は大淀と間宮さんと他のメンバーと共にここへとやってきたけど……唖然としてしまった。内装が綺麗で聞いていた話とは違ったこと。それに出迎えてくれた駆逐艦の子達は笑顔だった。叢雲ちゃんはムスッとしていたけど。脅されているって考えたけど、彼女達の表情からそれはないと断言できた。そして私は気になるところがあった。

 場所は工廠……私が担当する聖域とも呼べる場所へ行きたかった。そこには居るはずもない妖精達が居て驚いてしまった。ここに着任したまだ若い訓練学校卒業したての新米提督は前提督と同じ軽視派だと聞いていたから……それに妖精達が彼に懐いている姿にまたしても唖然としていた自分がいた。

 

 

 私は工作艦、明石。けれど戦場へは出たことがない。だって私は艤装を活用できない……他の私は出来る子がいたみたい。ここに居た私もそうだったみたいだけどいない。資材が勿体ない、艤装も直す必要もないからと前提督が出撃を強要させてそのまま沈んだみたい……時雨ちゃんが教えてくれた。私じゃない私が沈んで、私じゃない私がここへやってきて複雑な心境だったと思う。けれども時雨ちゃんは笑ってくれた。「会いたかった」と言ってくれた。笑顔を浮かべてくれたその姿に安堵の気持ちよりも私は疑問を感じてしまった。

 今まで酷い目に遭って来たはずなのに、ここに居るみんなは笑顔だ。それも自然な表情をしていた。恐怖よりも……あれは期待?それも新しくやってきた提督に期待しているみたいだった。彼が着任してから私達がやって来るまで何があったの?吹雪ちゃんが語ってくれたけど……ありえないことが起きていた。

 

 

 お弁当?えっ?どうして私達のような不細工相手に優しくするの?語られた内容は嬉しいはずのことなのに、大淀含め私達みんな困惑の方が強かった。でもこれは私達を油断させるための演技かも知れない……私は油断しないと決めていた。艦娘はみんな……不細工だから男性が優しく扱ってくれるなんてことはない。きっと私達のことを警戒しての演技に決まっている!そう思っていたけど……会議の時も私達に意見を求めたり、龍驤さんの大胆な発言に対して頭を下げたり、お風呂にも入らせてくれるだけじゃなく、提督自ら料理なんてありえなかった。

 初めて男性からの手料理……保存できないかなって思ってしまった私は馬鹿だと思った。気を取り直して彼の手料理を食べてみたけど……なんだろう?味は違うのに元帥が作ってくれたのと同じ感じがするのは気のせいだったのかな?それに私達の分まで用意された布団と枕は、これから増えていくだろう艦娘の為にと自腹で買ったと聞いた。これには開いた口が塞がらなかったな。

 

 

 私達艦娘は不細工で、見た目だけで誰からも煙たがられて軽視派からは暴力を振われる。元帥と出会うまでは辛い生活だったけど、今ではそんなことなくなった。元帥によって救われたけど、ここにいる時雨ちゃん含んだ駆逐艦の子達もその時の私とそっくりな目をしていた……救われた時の目と同じ。

 

 

 何度首を傾げたことだろう……その日はわからないことだらけで寝たけど、それから特に悪事に手を染めている様子もなく、私達を気にかけてくれた。とある日に私が工廠に籠っていたら提督が来て『熱が籠る工廠内での作業は気を付けろ。水分補給はしっかりしろ』ってタオルと飲み物の差し入れされて開いた口が塞がらなかった。この人なんなの?と思って大淀と話し合ってみた。初めは大淀も困惑していたけど、最近じゃ提督のことを信用しようとしているみたい。軽視派なのにとも思っていた私でも納得してしまいそうになる提督の行動の数々に否定できない。

 私は装備の開発を任されている。深海棲艦も簡単に倒せない。勝つ為には初期装備の艤装では限界がある。新たな装備を開発する為に私はここで妖精達と共に日々試行錯誤を繰り返してより良い装備を生み出そうとしている。今なんて仕事の邪魔をしないように提督は隅っこで座っている。他の提督なら「こんな油だらけで汚いところに座らせるつもりか!?」なんて怒鳴る人だっているのに、彼は一切そんなことは言わない。

 

 

 男性なのに傲慢な態度を取ることなく、私達艦娘と対等に話をする人ってこの世にいたんだと思い知らされた。いつの間にか私は提督が軽視派なのも忘れてよく話しかけるようになっていた。寧ろ話していると楽しかったり……って何を考えているの!?用事があるから話しかけるだけであって、提督とお話して仲良くなりたいとかそういうことでは……ごにょごにょ

 

 

 ……はっ!?と、とにかく!!資材を迷わず決まった量と分配を投入して建造を連続で成功させたり、嫌な顔一つせずに私達に接してくれる提督はおかしい人だってことがわかった。それにこの人……元帥と同じ感じがする。よくわからないけど、何となくそんな気がしてしまう。軽視派の人なのに……なんででしょうね?こればかりは大淀でもわからないみたい。でもこの人といると悪い気がしない。今も妖精達にお菓子を与えている姿を見るとそう思ってしまう。

 

 

 明石は隅っこで妖精達にお菓子を与えている青年を見て……小さく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駆逐艦島風です。スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!」

 

 

 ――ッブシュ!!

 

 

 ……やっぱり提督はおかしい人でした。

 

 

 装置のモニター画面に映る数値が『0:00:00』を示し、中から現れた艦娘を見た途端……真っ赤な滝が流れ落ち、床に血だまりを建造した青年の姿を見た明石はそう思うのであった。

 

 

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