あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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どうも無事二話目投稿出来ました。しばらくはプロローグになりそうです。


それでは……


本編どうぞ!




0-2 愉悦猫

外道(そとみち)丸野助(まるのすけ)……軽視派の影響を強く受けた新米が、例の鎮守府に着任した。これは忌々しき事態だ」

 

「……はい」

 

「だが我らはしてやられた。上手いこと後釜に付かせよった。阻止しようにも既に遅い……今頃提督の座について高笑いでもしているだろうな」

 

「……そうですね。事故に遭ったと聞いた時は驚きましたが、既に退院してそのままの足で鎮守府へ向かったそうです」

 

「事故に遭ったと情報がこちらに回って来ていれば対応できた。何とかして提督の資格を剥奪出来れば良かったのだが何もまだやっていないため手出しできぬ……クソ!男だからと言って甘やかされた連中は礼儀がなっていない!このままでは軽視派の奴らがのさばるばかりではないか!!」

 

 

 机に拳を叩きつける女性……元帥の地位にいる彼女は海軍の状況に嘆いており、秘書である眼鏡をかけた女性も悔しそうにしていた。

 

 

 世界は不公平だ。整った顔立ちにシミもない肌、目元も口元もしっかりしているのは醜い証。不細工の象徴なのだ。女性は皆美人揃いで、小学生から大人まで皆が歪な顔をしていたりシミやそばかすだらけである。顔面偏差値は高い……が稀に不細工な女性が生まれて来る。生まれて来た子供は過酷な運命を背負って生きねばならない。不細工と言う理由で虐げられる。醜いと言う理由でバイトも面接も受からないこともあり、この世界は不細工に対して厳しい。それも女性は美人と言うのが当たり前で、その中でも更に美人な女性であればハーレムを作れるぐらいだ。男性は美人な女性と結婚したいのは当たり前なことだ。わざわざ不細工な女性と結婚したいと思う輩などいないだろう。

 男性は特別視され、女性よりも価値が高い。その為なのか傲慢な態度をとっても許されると言う偏見な考え方も生まれてしまっており、不細工な女性に対して態度が悪い男性が多いこの世界で、まともに対応してくれる男性の方が少ないだろう。

 

 

 不公平ではあるが、ちゃんと不細工な女性にも人権は認められている。しかし艦娘はそうではない。彼女達は女性に見えるが『兵器』であり、何よりも醜い……ただ醜いだけでなく、とても醜い容姿だとこの世界の住人達には見えるのだ。そんな彼女達と交流を持ちたい男はいない。しかし仕事などでは仕方なく嫌々ながらも付き合うことはある。『提督』もその一つでもある。同性の美人から見ても嫌悪感を向けられる……艦娘達にとっては住みにくい世界だ。

 

 

 そんな艦娘達に寄り添う一人の女性がいた。

 

 

 名は美船(みふね)と言う。

 

 

 美船元帥……彼女はこの世界では珍しく不細工の部類に入り、幼少期の頃から苦い思いをしていた人物だ。今までは人間には人権がある為に何とかなっていた。バイトも就職も難を示し、諦めかけていた時にある資格を持っていると判明する。妖精さんが見えたのだ。すぐさま行動に移し、縋る思いで軍に入隊したのは忘れることのない思い出だ。

 その後、数少ない不細工提督として苦痛の日々を過ごし、長く我慢してきた。日頃の鬱憤を深海棲艦にぶつけ前元帥の信頼を勝ち取り、汗と努力で元帥の地位にまで上り詰めた強者だが、周りの軽視派からはいいように思われていない。艦娘達には同じ悩みで意気投合しており、艦娘達の数少ない良き理解者であった。穏健派の支持はあるものの、容姿が醜いため個人的には会いたくない人物№1に選ばれている悲しき女性である。

 

 

 そして美船元帥と傍に仕える秘書もこれはまた醜い姿をしていた。彼女は大淀と言い、なんと艦娘なのである。美船元帥は信用ならない相手を秘書としておくことはせず、同志として見ている艦娘を傍に控えさせている。そちらの方が気も楽で陰口を叩かれたくない。仲良くしていると思っていた同僚相手が実は陰口で自分のことを馬鹿にしていたと知ってしまった時の落ち込み具合は半端ではなかった。その為、恩恵派である人間も軽視派よりマシだと思っているぐらいだ。挨拶を交わす程度の付き合いしかしないっと言うか一緒に居酒屋に行こうと誘っても何か理由を付けて断られることが多かったからそこまで信用しているわけではない。美船元帥は艦娘の味方であり、そんな元帥のことを信頼している。大淀もその一人である。

 その二人が注意している人物とはA基地に着任した丸野助(まるのすけ)提督だ。女性から見た彼は少々目つきが悪くギザ歯が特徴的な怖さがあるがイケメン青年である。その青年が訓練学校を卒業し提督として人生を歩み出した訳だが、軽視派の息がかかった人物であった。艦娘は道具であり、沈んでも変わりがあるからと気にも留めない連中の一味なのだ。これに美船元帥は遺憾の意を示すが、例え元帥と言えどもまだ何もしていない一人の青年を逮捕することなどできない。しかも着任する場所が前提督によって艦娘達が酷い扱いを受けた鎮守府なのだ。そこにまた軽視派の手が伸びる……このままでは艦娘達がまた同じ目に遭ってしまう。それを考えただけ拳に力がこもる。

 

 

 美船元帥にとって艦娘達は心のよりどころになっていた。同じ不細工者同士通じるものがあり、お互いに必要としているのだ。一人暮らししていた時の食事はどれも冷めた味しかしなかったが、彼女達と出会い過ごすうちに共に食事をするだけで心が温かくなる。母のように慕ってくれて「お母さん」と呼ばれた時は血液すべて鼻から流れ出るところだった。まるで家族のようだった……そんな家族が酷い目に遭うと思うと怒りが湧き上がってくる。

 

 

「あそこには駆逐艦の子達しかいない。人間である我らに手が出せぬことをいい事に暴力を振るい、傷ついても入渠すらさせてもらえず、まともな食事もできていない。艦娘達が居るところは魔物の巣窟と呼ばれたりするが、あの子達は悪いことを何一つしていないじゃない!我らを命がけで守ってくれる大切なパートナーに対してそんな態度がとれる輩の方がおかしいのよ!!」

 

 

 美船元帥の怒りは収まらない。だが怒るだけでは何の解決にもならない……だからこそ、大淀に指示を出す。

 

 

「大淀、あなたに命を与えるわ」

 

「なんでしょうか美船元帥」

 

外道(そとみち)丸野助(まるのすけ)を監視しなさい。あなたは新米提督の補佐としてA基地に着任すること。それにあの子達も環境の改善と称して動向を探り、怪しいことや問題が起きればすぐに報告すること。あなたにも辛い罵倒や暴力が振るわれるかもしれない……けれど提督を辞めさせるには証拠が必要なの。相手も馬鹿じゃない、ボロを出すまで時間がかかるかもしれないけど……できる?」

 

「大丈夫です。私は美船元帥の味方です。辛くても任務を達成してみせます!」

 

「頼むわね。それと……ごめんなさい」

 

 

 娘のように思っている大淀を谷底へと突き落とすような辛い選択だ。遠ざかり扉から姿が見えなくなった大淀に対して美船元帥は謝ることしかできなかった。

 

 

 ★------------------★

 

 

「……知らない天井だ」

 

 

 一人の青年が薄っすらと暗雲から目を覚ます。

 

 

 なんだこのデジャブ……って言うか確か俺は身に起こった出来事を確かめるためにA基地へとやってきたはずなんだが?

 

 

 不思議に思い辺りを見て見るとどうやら誰かが寝かせてくれたらしい。高級なベッドのふかふか感に包まれながらも少しベッドから嫌な臭いがして離れるように立ち上がり、そこで気づく。ここが軍の偉い人間の寝室であることを主張している前提督の銅像が置かれていた。場違い感が半端ではない。

 

 

「こいつがここにあるということは……A基地にいるのは間違いないようだな。悪趣味な自分の銅像を置くとはな。すると俺はさっきまで前提督が寝たベッドで寝ていたと?うえぇ、最悪だ。きたねぇおっさんが寝たベッドで寝ていたとか悪夢だ」

 

 

 青年は早くお風呂に入りたいと思った。しかしその後に大切なことを忘れていたことに気づく。

 

 

「……確か吹雪とか言ったな。あの餓鬼はどこ行った?あの餓鬼じゃ俺を持ち運ぶなんてできるわけが……いや、艤装を装着すれば船と同じ力が出せるとか聞いたな。それで俺を運んだのか?」

 

 

 艦娘に関して教えられていた情報を引き出し、今の状況について考えを改めてみる。

 

 

 だが、前提督のせいでまともな艤装もなく修理もできなかったと聞いていた。艦娘共は小破や中破しても入渠?だったかお風呂のようなものにも入らせてもらえなかった。そして今も上層部の圧力からか俺が着任することになった為に改善は俺の一存に任せるとのことだった。俺の一声で直すも直さぬもできる状況にしておいて、艦娘共が反抗的な態度を取らないように従わせる為の布石なのだ。問題だらけの鎮守府がここだ。提督と言う存在に対して憎悪しているはずだ。それでもこの俺をここまで運んだということは……艦娘共に何か事情があるのかそれとも……んぁ?

 

 

 青年は考え込んでいると背後から風が吹き込んできた。なんだと思い振り返ると窓が開かれそこには一匹の猫がいた。その猫に見覚えがあった。

 

 

「あの時の猫じゃねぇか!?」

 

 

 そう、青年が足を踏み外した原因にもなった猫がいた。あの恥ずかしい失態の原因が目の前にいる……勿論この青年がそう簡単に逃したりはしない。捕まえてどこかの保健所にでも送り込んでやると手を伸ばそうとした時だ。

 

 

『「ニャ~、記憶と感覚が戻っても性格はそのままなのかニャ~?」』

 

「ふぁっ!?」

 

 

 しゃ、喋った!?猫が人間の言葉を喋っただと!!?バカなあり得ない!!!

 

 

 なんと猫が人間の言葉を話したのだ。これには今日一番の驚きだ。

 

 

『「ビックリしているようだね。提督さん」』

 

 

 空耳でもなんでもない。確かに猫が喋っていた。もしかしたら自分の頭が遂におかしくなったのではないかと考えてしまう。美人が不細工、不細工が美人に見えたのも頭がおかしくなったからではないのか。そう思うのも無理はないことだが、猫はそれすら否定した。

 

 

『「提督さん、提督さん、提督さんの頭がおかしくなったわけではないのニャ~。猫の言葉が聞こえるのは提督さんだけなのニャ~よ」』

 

「俺だけに聞こえる……っと言うことはやっぱり頭がおかしくなったからもしくは幻聴か!?」

 

『「幻聴ではないニャ~、提督さんは()()()()()を受けたから猫の声が聞こえるようになったのニャ~よ」』

 

()()()()()だと?」

 

 

 猫の言葉に反応する。何かこの猫は知っている……自分の身に起きていることについて。青年は猫の傍に恐る恐る近づいて質問する。

 

 

「おい猫、もしかして俺の身に起きている出来事について何か知っているのか?」

 

『「知っているニャ~。提督さんは()()()()()()()()が戻ったのニャ~よ」』

 

「……()()()()()()()()?」

 

 

 この時、青年は『艦隊これくしょん-艦これ-』と言う文字を思い出す。何故か懐かしく思えた。何故かはわからない不思議な感覚だったが、猫が言うには()()()()()()()()を取り戻したからなんだとか。

 

 

 猫が語るのはこうだ。猫は神様的な存在で、俺は運悪くこいつのせいで事故に遭った。なんでも昨日発売予定のキャットフードを狙って急いでおり、街中をかけていた途中俺の足元を横切った。驚いた猫はその時に力を行使してしまい、俺に影響が出てしまったらしい……キャットフードって神がそれでいいのか?まぁその影響と言うのは今の俺よりも前の俺……つまり前世の頃の記憶と感覚を取り戻してしまったとか。

 前世では俺が生きているこの世界はゲームの世界だったらしい。『艦隊これくしょん-艦これ-』と言うゲームの世界が今の俺が生きる世界で、前世の俺はそれで楽しんでいたとか……こんなことがあり得るのか!?今まで必死に勉強し、厳しい訓練に耐えて生きて来た世界がゲームの世界だったなんて!!?

 

 

 青年は困惑した。今生きている世界が実はゲームの世界だと言われたのだから……しかも前世では不細工に見えていた女性が美人として扱われていた。

 

 

 自分の生きる世界が前世ではゲームの世界で美的感覚も真逆……それを思い出してしまった青年は混乱の中にいた。今までの自分は何だったんだっと。

 

 

『「確かに前世の提督さんではゲームの世界だけど、今は違うニャ~よ。今の提督さんにとってこっちが現実世界なのニャ~。だから取り乱す必要はないニャ~」』

 

 

 陽気な態度を変えずに平然と真実を突き付けて来る猫に苛立ちを覚えた。猫にとって青年の身に起きたことは事故であり、意図してやったことではない。寧ろどうでもいいかと思えた程だが、猫は考えた。これは面白いことになるのではないか?この世界にとってのイレギュラーな存在である青年を眺めるのは一つの楽しみになろうとしていた。

 神様的な存在の猫はつまらないことばかりの日々に嫌気がさしていた。記憶と感覚を取り戻した青年にとって今の世界の視点は180度回転した新世界に見えるが、猫にとっては何も変わらぬ世界……変わらぬものほど面白くないものはない。そんな時にたった一人のイレギュラーが生まれたのであるならば退屈な日々から解放されると言う期待がこの青年に込められた。だからこそ青年の前に現れて真実を語り、困惑する姿を楽しみこれからどう進んで行くのかワクワクが止まらない。

 

 

 神様の気まぐれで青年の身に起きた真実を語られたのだ。困惑する姿を楽しみにしていると言われて腹が立たない訳はない。

 

 

「このクソ猫!てめぇのせいで今まで美人だと感じていた女が不細工にしか見えなくなったじゃねぇか!!」

 

『「逆に今まで醜いと感じていたメス達が美人に見えているじゃないかニャ~?」』

 

「た、確かにそうだが……だが、てめぇのせいで事故に遭うわ、美的感覚がおかしくなる、ファンタジー要素盛りだくさんの記憶が蘇る……わけわかんねぇことばかりだ!どう責任とるつもりだクソ猫!!」

 

 

 今にもこのクソ猫を干したい気分だ。こいつのせいで今まで読み漁って来た薄い本が俺の記憶では醜いケダモノの発展場にしか見えなくなったじゃねぇか!思い出すだけで吐き気がしてきた……うぅ!?

 

 

 青年も男、綺麗な女性とあんな事やこんな事を想像しいくつもの薄い本にお世話になった。しかし前世の記憶と感覚を取り戻した結果……思い出せば気分が悪くなり、息子♂がしぼんでいくのを感じる。これからは今までお世話になった薄い本では一生立つことはないだろう。しかし……

 

 

『「責任?提督さんにとって悪いことばかりではないはずニャ~よ?猫は知ってるニャ~、吹雪氏のパンツで興奮する変態さん♪」』

 

 

 ――ッブシュ!!

 

 

 紅い鮮血が飛び散る。猫はそれを難なく躱して嘲笑う。

 

 

 こ、こいつ……なんてやろうなんだ!?このクソ猫が神様とかあり得ねぇ!こいつが神様だなんて俺は認めねぇぞ!!

 

 

 鼻を押さえながらも猫を睨みつけるが本人は涼しい顔のまま、しまいには毛づくろいをし始める。その姿にまたしても苛立ちを覚える。

 

 

『「猫は提督さんを応援しているニャ~、提督さんの記憶と感覚は戻ったけれどそれは前世のモノだニャ~。提督さんは艦娘に対して今まではいい反応を示していなかった。このまま以前のように艦娘達に対して不細工だからと暴力を振るうもよし、逆に美人に見える彼女達に寄り添うもよしだニャ~」』

 

「……艦娘に優しくしろとは言わないのか?」

 

『「猫は神様的存在なだけであって世界の(ことわり)に苦しむ艦娘の味方ではないニャ~。猫は面白いものにしか興味を示さない。提督さんは面白そうなので拝見させていただくだけだニャ~。結果は良くも悪くも面白ければそれでいい……面白ければ人間が死のうが艦娘がどうなろうと猫にとってはどうでもいいのニャ~♪」』

 

 

 悪びれる様子もなく、未だに毛づくろいに夢中の猫に背筋が寒くなるのを感じる。猫にとって人間も艦娘もただの面白い玩具にしか見えていないらしい……自分達の必死に生きる人生がこの猫にとってはただの余興なのだと青年は感じた。

 

 

 愉悦に浸る……この猫は愉悦を求めているのだ。偶然の出来事だが、愉悦の為だけに人生を狂わされた人間がこの青年だっただけのこと。猫は笑みを絶やさず語り掛ける。

 

 

『「猫は提督さんの行く末を草葉の陰から見守っているニャ~。しっかりと艦娘を扱ってあげなよ。生かすも殺すも提督さん次第で変わっていく……それまでの過程はきっと面白いものになると猫は考えている。だから猫が満足できる面白い展開を期待しているニャ~♪」』

 

 

 猫はその言葉を残して霧のように消えた。残された青年は猫が居た場所をしばらく呆然と眺めていた。

 

 

 ……俺、猫嫌いだわ。

 

 

 この日から青年は猫が嫌いになった。

 

 

 ★------------------★

 

 

「どうしてあんな奴を運んだの!!海にでも捨ててくればよかったのに!!」

 

「お、落ち着いて叢雲ちゃん!」

 

「そ、そうなのです。叢雲さん落ち着くのです!」

 

「睦月と電の言う通り落ち着いて叢雲。僕も以前の提督のことを思い出すだけで吐き気がする。けれど……」

 

「けれど、なに?時雨も嫌なんでしょ?司令官なんてどいつもこいつも私達のことは道具……使い捨てとしか見ていない連中ばかりよ!」

 

 

 食堂が騒がしい。そこには幼さの残る子供数名に中学生程度の年齢に見える女の子達が集まっていた。吹雪に姉妹艦である叢雲が詰め寄っている姿が見え他の駆逐艦娘達が宥めようとしていた。

 

 

「でも……今度の司令官は……大丈夫な気がする」

 

「気がするですって?はっ!あれだけ痛い目に遭っておきながら信じようとするだなんて……吹雪あんたってやっぱりバカね。司令官なんていらないわよ」

 

「でも……私達には司令官が必要で……!」

 

「何を言っても無駄なようね。バカな姉を持って疲れるわ。吹雪よりも()()()()()()()()()()()のに……あっ」

 

「――ッ!?」

 

 

 つい口走ってしまった言葉に気づいた叢雲……吹雪を見れば、拳を握りしめて歯を食いしばっており、様々な感情がそこには籠っていた。

 

 

「叢雲ちゃん!今のは吹雪ちゃんに謝るっぽい!」

 

「……ふん!」

 

 

 夕立が注意するも叢雲は踵を返して去って行く。去って行く際に時雨の傍を通り過ぎた。その際に様子を窺った時雨はこう言うだろう……彼女はきっと悲しみに沈んでいると。

 

 

「吹雪ちゃん……」

 

「大丈夫だよ睦月ちゃん……私ちょっと外の空気吸って来るね」

 

 

 吹雪もこの場を去る。誰もが暗い雰囲気の中で時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 吹雪は一人でポツンと港に腰を下ろしてため息をつく。静かな海を見ても綺麗だとも思わなければ今では寂しさが彼女を包む。

 

 

 あれからどれぐらい経ったのか……わからない。後悔が私を覆いつくそうとする……

 

 

 姉妹艦である白雪、初雪、深雪が沈んだ。その報に私は理解が追い付きませんでした。理解したくなかったのだと思います。比較的軽傷だった私はその日、遠征のメンバーとして出撃しました。クタクタな体で誰一人沈むこと無く帰ることが出来て一安心しているところに告げられたのが「お前の姉妹艦が沈んだからその穴埋めとしてお前が前線に出ろ」と心無い司令官の言葉でした。それだけ告げてさっさとその場を去ろうとする司令官にいつの間にか詰め寄っていました。当然そんなことをしてしまった私を司令官は打ちました。そしてそのままの状態で出撃させられて……後のことは憶えていません。

 気がつけばいつの間にか鎮守府に帰って来ていたらしく今までのことは夢だったのだと一瞬希望を見てしまいましたが、叢雲ちゃんから告げられたのは変わらない事実でした。汚い寝床で家具も何もない空っぽの空間で私は泣きました。その間ずっと叢雲ちゃんが傍に居てくれていたのが支えになっていたのだと思います。叢雲ちゃんも声を押し殺して泣いていました。

 

 

 叢雲ちゃんが司令官のことを信じないのは仕方のないことだと思います。暴力を振るわれ、罵倒されて不細工だからと言う理由で土下座までさせられました。私も受けたことがあるので気持ちがわかります。睦月ちゃんや夕立ちゃん、時雨ちゃんや電ちゃん……みんなも不安に思っているに違いありません。私も不安です。

 そろそろやってくる時間、入り口に立っている司令官は男の方で、ギザ歯が特徴的で目つきが怖かったです……でもとてもカッコイイ若い人でした。以前の司令官も男性でしたが、でっぷりとした体型で小柄のだるまのような人でした。見た目は優しそうな方でもありましたけど実際は酷い人でした。カッコイイからと言っても人の中身まではわかりません。司令官の機嫌を損ねないように対応したつもりでしたが……

 

 

 いきなり鼻血を出して倒れた時はどうしたいいのかわかりませんでした。だって……

 

 

 「ぱ、ぱん……つ……」っと呟いて司令官は気を失ってしまい残された私は訳がわかりませんでした。あたふたしていた時に時雨ちゃんと夕立ちゃんが心配になって私を追いかけて来て驚いていました。とりあえず二人に手伝ってもらって執務室の以前の司令官が使っていたベッドに寝かせることにしました。二人に何があったかと聞かれたけれどどう答えたらいいのか……正直に答えたら二人共首を傾げるだけで当然の反応だと思います。

 この人が今度の司令官……ベッドの上にいる司令官の顔は安らかな表情で私達もこんな風に眠れたらいいのにと思いながら部屋を後にしました。

 

 

 そのことをみんなに話して……後はこの通りです。叢雲ちゃんは悪くない。妹達が沈んだのは仕方ないことなんです。でも今度こそはみんなを守ってみせる。私よりも先にこの鎮守府に居たみんなはもういない。この中で一番戦闘経験が豊富なのは私、でも一人では深海棲艦には勝てない。強い敵がいっぱいこの海に蔓延っている……私は強くならないといけない。だから……だから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官が良い人でありますように……!」

 

 

 夕暮れの空に薄っすらと輝いて見える星々に願いが届くように祈る吹雪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?なんだこのチビは?」

 

 

 その頃、執務室を抜け出し艦娘を探していた青年の前に見慣れぬ小さな存在がひょっこりと顔を出していた。

 

 

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