あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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初期艦娘達の回その2となっております。


それでは……


本編どうぞ!




1-EX 夕立と時雨

「提督さーん!掃除終わったよ!褒めて褒めて!!」

 

「褒めん。まだ残っているからな。次はあっちだ」

 

「ええっ!?まだあるっぽい!!?」

 

「勿論だ。鎮守府内だけじゃなく、正門前も掃き掃除と拭き掃除が残っているぞ」

 

「も、も~!沢山妖精さんがいるんだから頼めばいいのに!!」

 

「夕立、チb……妖精さんばかりに頼っていてはダメだ。自分の力で何とかしなければならない時が必ず来る。そんな時、他人の力ばかりに頼っていてはその壁を乗り越えることはできないぞ」

 

「夕立は一人じゃないよ?時雨も吹雪ちゃん達も居るよ。勿論提督さんも……あっ、もしかして夕立達を置いてどっか行っちゃうの?それは……嫌」

 

「……いや、どこにも行かねぇよ(昇進するまでだがな!)」

 

「なら……!」

 

「それでもだ、それでも一人で戦わなければならない状況が来るだろう。この先厳しい戦いが待っているはずだからな。そんな時の為にも普段から他人ばかりを頼りにするのは控えた方がいい。自分で何とかできるものはやる。勿論、他人を頼るなとは言っていないからな」

 

「……そうすれば夕立もっと強くなれる?」

 

「なれる。それに戦場で()()()()()()()()()()()()()()()()。お前の帰りを待っている仲間が居ればお前は強くなれるだろう」

 

「……うん。夕立、強くなるっぽい。提督さんの為に!」

 

 

 強くならないといけない……っぽいじゃない、これは絶対なこと。強くならないと時雨だけじゃなく吹雪ちゃんや睦月ちゃん、電ちゃんに叢雲ちゃん、それに不知火ちゃん達を守れない。深海棲艦は夕立達から多くの仲間を奪っていった。夕立が弱かったから……逃げることしか出来なかったから救えなかった。ううん、それだけじゃない。夕立はあの男から逃げてた……嫌な奴だった。暴力でなんでも解決すると思っている哀れな男。

 提督さんじゃない提督……それがあの男だった。夕立達のことを使い捨てと言った奴で、時雨にも酷い事をした……本当は夕立が噛みついてやりたかったけど、艦娘って人には手が出せないの。どうしてかはかわからないけど、このままずっと暴力を振るわれる生活が続くと思ってた。

 

 

 でもあの男は急に夕立達の前から消えた。良かったと思う……けど、一発だけ主砲を撃っても許されてもいいと思うっぽい。だって今までずっと吹雪ちゃんも睦月ちゃん達もみんな辛い思いをしてきたのに、責任もとらずにあっさりと消えちゃった。どうしようもない苛立ちを持て余していたけど、もうどうでもよくなったっぽい。だってそんなことよりも嬉しいことがあった。新しい提督さんが夕立の提督さんになってくれた!

 

 

 最初の印象は変な人だって思った。出迎えに行った吹雪ちゃんが心配で時雨と共に正門前まで向かうと提督さんは倒れてた……死んでないっぽい。鼻血を出していただけっぽい。でもどうしてなんだろう?結局その理由はわからなかったの。それから吹雪ちゃんに食堂に集められて、ひと悶着あったけど、提督さんは夕立のことを思ってくれていたみたいだけど、でもその時はまだ信用していなかったの。待遇を改善するって提督さんが頭を下げて、ちょっとだけ期待して……信用しようと思えたのは翌日のあることが原因っぽい。

 夕立本当はお腹ペコペコだった……だってレーションは好きじゃないもん。量も少なくて美味しくない。あんなの食べ物なんて言えないっぽい!でも食べ物はレーションしかなかった。ここには何もなかった……提督さんが来るまでは。

 

 

 提督さんが夕立達の寝室……のつもりの倉庫を見たら外に行っちゃった。時雨のことも夕立のことも憶えていてくれていた提督さんなら帰って来てくれる……帰って来てほしいと思っていた。しばらくお腹ペコペコで待っていると提督さんが手にパンパンに膨らんだ袋を持って帰って来た。それがなんだろうと思ってたら提督さんが取り出した容器には何か入っていた……それから目が離せなくなってた。

 容器に入っていたのはご飯……それもホカホカしてる。それだけじゃなく、他にもお肉と野菜も入っていた。極めつけはカレーが入ってた!カレーって実在してたんだ……それが夕立達の前にある。喉から手が出るほどほしいっぽい。でもみんな我慢してたから夕立も我慢してた……けど叢雲ちゃんが食べ始めて、提督さんも食べろって言ってくれた。そこから無我夢中で食べた。

 

 

 とても美味しかった。夢を見ているみたいだった……夢なら覚めないでって願ったけど、夢じゃなかった。お菓子もお腹いっぱいに食べることができてみんなも嬉しかったっぽい。夕立達の為にわざわざ提督さんがお金を出してくれたんだって!夕立達の為に買い出しに行ってくれた!後でわかることなんだけど、夕立達の為にお布団と枕まで用意してくれたの!それだけじゃないよ?夕立と時雨、睦月ちゃんに電ちゃんが遠征組に選ばれたんだけど正直怖かった。遠征にはいい思い出なんてなかったもん。「命令だ。失敗は許さんぞ」って提督じゃないあの男は言っていた。けど提督さんはそんなこと言わずに「帰って来い」って言ってくれた……四人そろって。

 失敗したら暴力を振るわれた。深海棲艦に会ったら誰かを盾に使えって……資材が少ないって怒られた。何度唇から血が出るぐらい噛みしめたか憶えていないぐらい悔しかった。疲れても休みなんて与えてくれない……みんな遠征が怖かった。当然のように失敗は許されなかった。けれど提督さんはそうじゃなかった。資材も持てるだけでいいって。途中で深海棲艦に出会ったら資材を捨ててでも逃げて来いだって……失敗しても何とかするって言ってくれた。

 

 

 おかしな提督さんだった。でも……嫌いじゃない。資材よりも夕立達のことを優先してくれた。なんだが胸の奥がポカポカするっぽい。でもご飯抜きは冗談抜きでやめてよね?

 

 

 褒めてもらいたくていち早く帰って来ちゃった。すると港には提督さんが居てくれて夕立達の帰りを待っていてくれていたっぽい。そう思うと嬉しくなって、提督さんに褒められたらますます嬉しくなって抱き着いちゃった。でもそれはやっちゃいけないこと……艦娘って醜いから誰も触れられたくないって。時雨が忠告してくれたことがあった。だから男の人に触れちゃダメって。でも触れちゃった……夕立解体されちゃうって思ったけど、そんなことにはならなかった。

 提督さんは許してくれた!夕立のこと必要って言ってくれた!提督さんと出会って嬉しいことばかりでこの人なら信用しようって思った。でもどうして鼻血を出していたんだろう?

 

 

 それから色々あって大淀さん達や熊野さん達と仲良くなれたっぽい!そしてずっと深海棲艦に奪われていた制海権を取り戻すことができたの!その時も夕立のこと褒めてくれた……やっぱり提督さんと出会えて良かった。これからずっと提督さんと一緒にいたい!その為に夕立もっともっと強くなって役に立ってみせる。深海棲艦や悪い奴からみんなを守れるようになるよ!

 

 

「……でも、ちゃんと掃除したら褒めてほしいっぽい」

 

「(煩い奴だ)わかったわかった。掃除が終わったら褒めてやるよ」

 

「絶対約束だよ!!」

 

 

 提督さんに褒めてもらいたい……夕立のおかげだって言ってほしい。だから見てて。夕立もっと強くなってみせるから!!

 

 

 ★------------------★

 

 

「雨だね」

 

「雨だな」

 

「……ねぇ」

 

「んぁ?」

 

「……提督は雨は嫌い?」

 

「俺か?俺は好きだな」

 

「どうしてだい?雨が降れば洗濯物も乾かせないし、ジメジメして気持ち悪いよ?」

 

「だろうな。だけど必要なことだ。水の届かないところに雨が降り、恵みを与えてくれる。だけどそれだけじゃない。子供は雨で出来上がった水たまりで遊べるし、体育祭が嫌いな子は雨で中止で万々歳。それにとあるスーパーでは雨の日セールってやつをやっていてなんと通常価格より割引してくれるんだ。良いこともちゃんとあるから俺は好きだ」

 

「ふふ、提督って色々知っているね。でも、止まない雨は、ないよ?」

 

「そりゃそうだろ?雨なんだから。だからまた降ってほしいし、降って貰ったら困る時もある。時と場合と言う言葉があるだろ?何事にも良いも悪いもあるってことだ。それに時雨って字にも雨が入っているじゃないか。それは良いことだぞ」

 

「それは良いことなの?」

 

「ああ、俺が良いことだと言えば例えそれが無駄なことであってもそれは良いことになるんだよ。提督は偉いんだぞ?その提督である俺が言うことだから間違っていない。ただ雨が降って困るのは傘を差すのが面倒だってことぐらいか」

 

「ぷふ、なにそれ」

 

 

 楽しいって不思議だね。嬉しいって温かいんだ。今まで知ることが出来なかった……いや、知る必要はないと思っていたことだけど、この感情を知ったら元にはもう戻れないや。

 

 

 提督、それは僕達艦娘にとって不可欠な存在なんだ。提督と一緒なら僕はどこまでも突き進むことができる……でもそう思う様になったのは最近のこと。今までは提督のことなんて信じようとは思わなかったんだ。

 

 

 ○○鎮守府A基地で僕は建造された。建造されてすぐに思い知ることになった……ここは地獄なんだって。前提督は僕たちのことを使い捨ての道具として見ていた。轟沈しても構わないと休みも与えられず、入渠すら許してもらえない。冷たい廊下で放置される子や前提督に逆らって解体された子も居た。初めは反抗していた子も居たけどもうそんな気力すら湧かなくなっていて、見ているだけで辛かったよ。僕も何も出来なくて心が痛かった……

 明石さんもここには居たけど彼女も居なくなった。使い捨ての道具である僕達の艤装を直す必要もなく、資材が勿体ないって前提督が明石さんを無理やり出撃させて……轟沈した。僕はそれを見ていることしかできなかった。前提督は明石さんが沈んでも最後まで名前を憶えていてくれなかった。

 

 

 ある日、前提督が連れて行かれた。艦娘に対する暴力等で捕まったって……いい気味だよ。本当なら僕がこの手で……ううん、よそう。そんなことをすれば他の時雨()や姉妹達に迷惑がかかるし、吹雪達にも巻き込んでしまう。だから僕は心を押し殺して提督と言う存在にもう期待することを諦めていたと言ってもいいかもしれない。でも提督が必要なのは変わらない事実……心の奥底で本当は期待していたんだと思う。

 今度新しく提督が着任することになっていた。何かのトラブルがあって一日遅れでやって来た提督……が鼻血を出していた。迎えに行った吹雪に何があったのか聞いてもよくわからなかったよ。前提督も男だったことで嫌だったけど、放って置けば後で何をされるかわからない……とりあえず提督を執務室の提督専用の部屋まで運んだはよかったものの、そのことで吹雪と叢雲が喧嘩して険悪なムードになってしまった。叢雲の気持ちもわかるよ。僕だって前提督のことを思い出すだけで吐き気がするよ。もし今度もそうだったら……

 

 

 結果から言えば……外道提督は僕の理想の提督だった。初めは嫌だなって感じたけど、それも一時的なものだった。疑っていたけどなんか違うって思っちゃって、頭を下げた提督は変わっているとも思えた。よくわからない違和感を抱いて当日は眠りについたよ。翌日から僕は提督を信用しようと思える出来事ばかり起きた。

 僕達の寝室……っと言うより汚い倉庫だけど、そこに提督がいきなり現れた時は驚いたよ。それも妖精さんが居たことにも驚いたけど、一番は提督と吹雪が手を繋いでいたことかな。吹雪の顔が真っ赤になってた……提督は気づいていなかったみたいですぐに手を離したけど、満更嫌そうには見えなかった。提督の方も顔が赤かったし、何よりこんな不思議な光景を見ることができるなんて思ってもいなかった。それに提督は僕の名前を呼んでくれた……気分が良かった。こんなことで信じようかなっと思った僕はちょろいと思う……だけど外道提督には安心感のようなものがあった。それはきっとこの人ならって期待したからそう感じたんだと思う。

 

 

 そして提督は僕達の寝室を見た後に一度外出した。そして帰って来ると僕達にお弁当を与えてくれた……そこで僕は初めて美味しいってことを知った。食事が初めて好きになったよ。熱々のご飯に唐揚げ、シャキシャキした歯ごたえの野菜に漬物、極めつけはカレー……美味しいと無意識に笑顔になれるんだね。お菓子も甘くて手が止まらなかった。妖精さんもお菓子を沢山食べることができて喜んでいるみたいで僕と一緒だった。

 今までは想像もできなかった光景が広がっている。吹雪も叢雲も睦月や電に夕立とこうして食事ができるなんて夢にも思わなかった。これも提督のおかげだね。一言伝えたいことができたから提督の姿を探したんだけど、僕は食事に夢中になっていたみたいで、いつの間にか吹雪と電が居なくなっていることに気づかなかった。そして提督もいなかった。

 

 

 提督が居ないとわかるとなんだか落ち着けなかった。すぐに体が動いていたよ。夕立に「どこ行くの?」と呼び止められて、提督を探しに行くと伝えると夕立も睦月も付いて来るって言った。叢雲だけは動かないと意地を張っていたけど落ち着きがなかった。自分も一言伝えたいことがあるのにプライドが高くて動けないって言ったところだろうね。やっぱり彼女は素直じゃないね。仕方ない、夕立と睦月に叢雲を引き連れてもらって提督を探した。そしたらすぐに見つけることができて何故かホッとした……この人が居なくなってほしくないって僕は思っていたんだろうね。昨日まで疑っていたのに……僕って本当にちょろいや。

 そして僕達は()()を言うことができた。初めて提督に対して心からの本心を告げた。初めて僕達を思ってくれた提督にこのことを伝えたかったんだ。提督はなんて思ってくれただろうね?

 

 

 提督はやっぱり変わっていた。遠征メンバーを決める際、僕を旗艦に選んでくれたのは嬉しかった。旗艦に選ばれるのは艦娘にとって名誉なことだったから……でも前提督の所業をどうしても思い出す。失敗すれば旗艦の責任で罰として鞭打ち……本当に見ていられなかった。その責任を背負うことになるって無意識に感じてしまっていたけど、提督はそんなこと微塵も思っていなかったみたいで、それどころか僕達が無事に帰って来ることの方が大事なんだって……本当に変わっているよ。けど「期待してる」なんて言われたらやるしかないじゃない。

 一足先に帰った夕立がセクハラ行為を働いたことに焦ったけど、それを咎めることもしなかったし、労いの言葉を言ってくれるなんて……実はちょっとだけ期待していた。それが現実になるなんて……やっぱり提督って変わっているけどいい人なんだって確信したよ。それから色々あって、明石さん達も大本営からやってきたり、まさかのお姫様抱っこ案件や建造で新しい仲間が増えるなんて驚くことばっかりだよ……本当にここって地獄だった○○鎮守府A基地なの?夢だったりしないかな?もしそうなら覚めないでほしい。でも温かい布団から目覚めてもそれは夢なんかじゃなかったことに安堵している僕が居た。

 

 

 でね、今まで深海棲艦に奪われていた制海権をやっと取り戻すことができたんだ。その時も提督は僕達一人ずつ名前を呼んでくれて、労いの言葉までかけてくれた。みんな感極まって泣いていた人もいたよ……僕だって泣きそうだったなんて言えない……恥ずかしかったから。

 

 

 みんなここが好きになった。こんなに居心地のいい鎮守府なんて他にあるのか逆に教えてほしいぐらいだよ。それもこれも提督が居るからだよ?提督が居ない鎮守府なんて僕は嫌だ。きっと夕立もみんなそう思っているよ。

 

 

「ねぇ提督」

 

「んぁ?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

「?なんなんだよ?」

 

「ふふ、だからなんでもないってば♪」

 

「(変な奴だな)」

 

 

 提督が来てくれて僕達は救われたよ。もしも提督が居なくなったら……そんなことは考えたくない。だからね提督、僕達を置いて勝手に居なくならないでね?

 

 

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