それでは……
本編どうぞ!
「……見えました。敵艦おおよその数は三十と言ったところですね。それにあれは重巡リ級……しかも
「ぬぅ、カタパルトが不調ではなければ吾輩の索敵機が活躍したのに……筑摩のやつに先を越されてしまった……」
「と、利根姉さん!?お、落ち込まないでください!大丈夫ですよ、これから利根姉さんは活躍できますよ!!」
「索敵で活躍したかったのじゃ!!」
「ちょっと利根、あなた緊張感ぐらい持ったらどうなのよ……」
「ふふ、そう言う瑞鶴は緊張している感じがしないわよ?」
「わ、私は……なんでだろう?今も深海棲艦が向かって来ているのに落ち着いていられるのはどうして……もしかして翔鶴姉も?」
「ええ、でもなんとなく理由はわかるわ。ねぇ、鈴谷さん」
「うん、やっぱり外道提督のおかげだと鈴谷思うねー」
「あの提督さんのおかげってこと?」
「そっ」
索敵機により深海棲艦の姿を捉えることに成功した筑摩に対して活躍の場を奪われ子供のように落ち込む利根を励まそうとする妹と言う光景が繰り広げられている。その傍で緊張の色など感じさせない五航戦の翔鶴、瑞鶴の姉妹と旗艦鈴谷の会話が彼女達の心境を映していた。不安は確かにある……自分達が敗北すれば未来は無く、未だに安否が確認されていない駆逐艦の子達も心配だ。落ち着きを取り戻したが、不安は完全に消え去ることはない。
『「きをしっかりもって!」』
『「まえをみて!」』
『「いまはきみたちがたのみのつな!」』
『「「「だいじょうぶ、もしものときはわたしたちがついているから!!!」」」』
鈴谷の艤装にしがみついている妖精達が何か言っている。言葉はわからずとも自分のことを勇気づけようとしているのは確かだ。鈴谷はそんな妖精達に「ありがとう」と告げるとサムズアップする。
「……来ましたよ」
筑摩の声が鮮明に聞こえた。水平線に視線を向けると遠くの方で蠢く影、数多い……それら全てが深海棲艦である。たったの五人で三十もの深海棲艦を止めることができるのか?しかしやらねばならない。誰一人としてここを通すわけにはいかないのだから。
「最上型重巡、鈴谷!いっくよー!」
「利根、出撃するぞ!」
「筑摩、準備万端、出撃します」
「五航戦、瑞鶴出撃よ!」
「五航戦、翔鶴、出撃します!」
未来をかけた持久戦が今始まる。
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正直に言えば戦力差が大きすぎる……たったの五人だけで防衛できるのか言った俺でも不安しかない。深海棲艦が地上に上陸すれば昇進どころか未来そのものがなくなっちまう。失敗すれば俺達は……人類は終わりか。つまり俺には逃げ道はないってわけだ……チッ、だがやるしかねぇ!贅沢三昧な未来の為に俺は負けることは許されねぇし、途中で逃げ出すなんてできっか!!来いよ深海棲艦!艤装なんか捨ててかかって来い!!
絶望的状況でも青年は提督として指揮しなければならない。本来○○鎮守府R基地の提督である豚野が動かない以上深海棲艦に無残にも敗れ去る未来……いや、豚野が動いたとしても未来に希望の欠片もないことなど青年のみならずこの場に居る夕張、サポートとして司令部に残った妖精の誰もが思ったことだ。豚野は自身は優秀だと思い込んでおり、援軍要請などみっともない行動は不要だと決めつけ鈴谷達だけで返り討ちに出来ると思っているようだ。それを考えてみれば青年がここに居ること自体が幸運なことであろう。
「だ、大丈夫……なんですか?」
目の下のくまが疲労度を物語っていても今の彼女にはそれを気にしている余裕はない。青年と同じくたったの五人で守り切ることができるのか不安を抱いていた。敵は三十隻、こちらは五隻……深海棲艦側には駆逐艦や軽巡洋艦のみならず、軽空母に重巡洋艦更には正規空母である空母ヲ級が確認された。そして更にそれらを従えているのが重巡洋艦だ。「戦艦ではないなら安心だ」などと侮るなかれ、そいつはただの重巡洋艦ではなかった。
『重巡リ級elite』と呼ばれる重巡リ級の強化体が確認されたのだ。他の深海棲艦をまとめ上げてここへ向かって来ているのである。普通に考えれば絶望的状況で勝ち目がないように見える。しかし青年はそれでも諦めることはできない。昇進の為、贅沢三昧の生活を送る毎日を夢見ていたとしても彼は立派な軍人であるのだ。逃げれば未来がない状況で敵前逃亡など新米提督ながらも彼のプライドが許さなかった。
「大丈夫とは言い切れないがやるしかない。やらねば誰がやってくれるってんだ?俺達でやるしかねぇんだ……負けは認められねぇ。あいつらだけでは時間を稼ぐのは難しい……だから俺達はここであいつらを全力でサポートするぞ夕張、共に戦い抜いて深海棲艦共をぶちのめしてやるぞ!」
「……っ!」
戦場と化す海上を見つめている青年に言われて気づかされた。鈴谷達がここへやってきた時から夕張は疑問に思っていたことがあった。裏方仕事で戦場に出ることがなかったことで生き延びることができたおかげで古参となる彼女は鈴谷の身に起きた悲劇も知っていた。そのこともあり、いつも鈴谷の表情は偽りの仮面で覆われていたはずだった……何故彼女達の表情が和らいでいたのか不思議だった。
しかし今ならわかる。夕張の見つめる先にいる青年が彼女達を変えたのだ。そして夕張自身も変わるのだ。司令部でのやり取り、そして艦娘一人一人に対する意志、逃げ出すことができるのに彼は残った……共に戦うと言ってくれた。この人こそ「提督」と呼べる人物なのだと気づいたのだ。
失っていた艦娘としての情熱が夕張の胸に湧き上がって来るのを感じていた。
「やりましょう!必ず深海棲艦からこの国を守ってみせます!!」
「お、おう……だが鎮守府を囮に使って悪いな。夕張も危険な目に遭うのに」
「元々ここにいい思い出はありません。けれどもみんなと出会えた場所なのでちょっと……ほんのちょっとだけ後悔なのかわからないですけど思うところはありますが私も艦娘です。前線に出ずともみんなをサポートできるならもしここで息絶えても本望です」
「……そうか、だが俺は誰も失うつもりはない(士気が落ちるから)夕張もその一人だ。共に鈴谷達をサポートするぞ。お前にも
「――ッ!?は、はい!!私、頑張ります!!!」
目の下のくまも消し去ってしまう程の生気に満ちた表情を浮かべた夕張の気迫に若干引き気味の青年。夕張も艦娘でありながらも豚野にこき使われる存在としていた彼女だが、長らく求めていた本来の「提督」の姿を感じさせる青年に期待の眼差しと「
こ、こいついきなりどうしたんだ?おい、先ほどまで目の下にくまがあったはずだがどこに消えたんだ!?表情が生き返ったようで疲労が原因で、サポートに支障が出るか少々不安だったが回復(?)したようで何よりだ。しかし本当にどうしたんだよ?絶望的状況でおかしくなった……わけではなさそうだが、後でカウンセリングでも受けさせてやるか。精神的ストレスは溜め込むと取り返しのつかないことになってしまう。心身ともに大事にしてこそ健康であると言えるんだからな。
それにしてもメロン色だなこいつは……夕張だからか?だが胸は……特大メロン級とはいかず、小玉メロン級だったようだな、しかしそれがいい。更にコンパクトボディとも言える細い腰回りにへそ出しだと!?更に更にミニスカートに黒のストッキングだ……とぉ!!?記憶の中で容姿のことは知っていたが、木曾もお前もなんでへそ出し出す?何故お前も叢雲のように黒色で攻めるんだよ……そそられるじゃねぇか!!!……ってこんな緊急事態に変なことを考えている場合じゃねぇよ!!?落ち着け俺の
「……あの、鼻血出ていますけど?」
「……ッ!?な、なんでもない……ぞ」
「なんでもないわけが……」
「なんでもなかった、なんでもないんだ。い・い・な?」
「ア、ハイ」
妙な威圧感に押し黙るしか選択肢を選べなかった夕張は下半身のもっこりに気づけなかった。不覚にも鼻血を出してしまった青年であったが、これは仕方がなかったと言うことにした。何故なら本能と言うのはどんな時でも忠実なのだから。
再び戦場と化す海上に視線を向ければ深海棲艦の影が近づいている。もうすぐこの鎮守府が深海棲艦の射程距離に入るだろう。この司令部にも砲撃が直撃するかもしれないことに夕張も気づいていた。「外道さんだけでも安全な場所に移動した方がいい」と進言するが、青年は受け入れることはなかった。
備え付けられた機材をここから持ち運ぶことはできないし、妖精達が居たとしても今から無線機等の物を開発している時間はない。鈴谷達をサポートする為にはこの場から動くことができないのだ。いや、例え敵の砲撃範囲内で命の危険があっても青年はこの場から動こうとはしないのだ。輝かしい未来の為、昇進と言う名の夢に向かう為に青年は絶望的な今を乗り越えなくてはならない。例えそれが命をかけることになってもだ。
だ、大丈夫だ。俺は常に
夕張の目には凛々しい青年の横顔から鮮血の滝が流れ落ちている姿が映っていた。
「んぁ!!?い、今のは危なかったな……!」
鈴谷達が深海棲艦との時間稼ぎを目的とした激闘が繰り広げられた。その証拠に鎮守府には深海棲艦の砲撃が向けられていた。降り注ぐ敵機の爆撃、砲撃が鎮守府に着弾する。その度に爆風と爆音が周囲を吹き飛ばす。
あ、あぶねぇー!!?今のは近かったな……だがこれは好都合だ。やはり俺の思った通りに深海棲艦は人間が憎くて堪らないらしい。鎮守府を優先的に狙っていやがるぜ。何がそこまでして奴らに憎悪を募らせるのかは知らないが、おかげで鈴谷達に攻撃が集中していないことが幸いか……知性はあるが、感情的過ぎて優先順位を誤るなど戦場では二流だぜ深海棲艦さんよ♪しかし余裕面している暇はないなこりゃ。いつここに砲撃が直撃するかわからん。チビ共が気を利かせて分厚い鉄板をどこからともなく持って来やがった。その鉄板で壁を補強してくれたが無いよりマシな程度だろうな。相手は艦なんだからその砲撃を食らえば木端微塵……ちくしょう、俺だって死にたくないわ!だがここで負ければどの道待っているのは死だけだ。だからと言って俺は死にたくない。死ぬわけにはいけねぇんだよ、俺はまだ夢を叶えちゃいない。夢を叶えるまで……いや、叶えてからもそう簡単に死んでたまるか!なので……お願いします砲撃が飛んできませんようにっ!!!
司令部にて、堂々と佇む青年だったが、内心では敵の砲撃と爆撃がいつ身に降りかかるかわからない現状にビビりまくりの青年であった。
「そ、外道さん!危ないですから隠れてください!!」
『「きけんだー!!!」』
『「てっき、しゅうらい!!!」』
『「みをひそめろー!!!」』
そんな青年を無理やり引っ張って少しでも身を守れるように机の下に避難した。妖精達も攻撃から身を潜めようと様々な箇所に隠れる。
「(身を潜めてもこれじゃ毛が生えた程度……もしかして私達負けるの?ははっ、そうだよね、こんな戦力の差で私達が勝てるわけないよね……初めからわかりきっていたことだったんだから)」
夕張も机の下で青年と二人……きりではないが、男と密着できたことに本来ならば興奮することになるだろうが今はこんな状況である。「やりましょう!必ず深海棲艦からこの国を守ってみせます!!」と意気込んでいた夕張であっても、実際に身の危険を感じれば不安が生まれ、もう勝てないのでは?と心が屈しそうになってしまっていた。そんな彼女を勇気づける存在がこの場に居た。
「おい夕張、そんな諦めた顔をするな。まだ勝負はついていないだろ!諦めてんじゃねぇよ、鈴谷達は今も頑張っているんだぞ。俺達が諦めたらあいつらはどうなるんだ!!?」
「――ッ!?」
諦めかけていた夕張に喝を入れたのは青年だった。彼の言葉で夕張の心に巣くおうとしていた不安は希望に成り代わった。忘れかけていた、ここには自分だけじゃない。妖精も居て青年もいる。そして戦場と化した海上には
「そうですよね、私達がサポートしなければならないのに……ありがとうございます。あなたが居てくれなかったら私達は今頃……」
「そんなことは後だ。今はやるべきことをするぞ」
「はい!」
青年が居なかったらと思うと夕張はゾッとした。彼の言葉にこんなにも勇気づけられるとは思ってもいなかった。もし彼が逃げ出していたら……そんなことを思っていた時のことだ。突如として扉が荒々しく開け放たれ駆け込んできたのはなんと豚野提督だった。
「ぶ、ぶひぅうううううう!!!ど、どういうことだ貴様らぁああ!!!」
様子から激昂しているのがわかる。執務室でふんぞり返っていた豚野は自ら育て上げた(と思っている)
砲撃から身を屈めていても怒りは静まる様子はなく、この状況を作った青年と夕張を睨む豚野。特に夕張は顔色が悪くなり、体が震えだした。どれほど豚野のことを恐れているのか見てわかる。
「き、貴様らのせいで私の鎮守府が滅茶苦茶ではないか!!!」
「ひぃっ!!?」
夕張の体に追い打ちをかけるように怒号が二人に放たれる。小さな悲鳴を上げて瞳に涙が浮かんでいた。
チッ、こんな状況でこいつが来るなんて邪魔にしかならない。俺に全部押し付けておいて今更出てくんじゃねぇよ。お前なんぞに構っている暇はないし、夕張がいつまでもこんな状態なら鈴谷達をサポートできないじゃねぇかよ!ええい仕方ねぇな!!
机の下から這い出た青年は夕張を庇うよう背後に隠した。
「そ、外道……さん?」
「貴様!!どういうつもりなんだ!?」
「どういうつもりもなにもないですよ。そこまで言うのであるならば貴様が指揮すれば良いではないか!っとそう言ったのは先輩の方ですよ?俺は先輩の許可を頂いたので、鈴谷達に鎮守府を囮にして戦えと指示を出しただけです」
「な、なんだと!?それではこの状況は貴様が招いたのか……!!?」
「そういうことになりますね。おっと、ここも戦場と化すなら先にお伝えしておいた方が良かったですね。これは申し訳ありませんでした」
「き、貴様ぁ!!!何をぬけぬけと!!!それに何故あのグズ共があそこにいる?何故グズ共を出撃させなかったんだ!!?」
「ちゃんと出撃していますよ。ただあいつらを轟沈させない為に、何も障害物がない海上で取り囲まれて叩かれるよりも鎮守府を囮にし、背後を気にせず前方だけに集中できるこの策しかなかったのですよ」
「さ、策だと!?あんなグズ共の為に私と私の鎮守府を危険に晒しただとぉおおおお!!?」
豚野は顔を真っ赤にして怒っている……激昂を通り越す勢いだ。たかが醜い艦娘の為にこの鎮守府を囮にしただけでなく、提督である自分の身を危険に晒したことが豚野の怒りに触れたようだ。そんな豚野に対して青年は内心高笑いしていた。
へっ、ざまあみろ。俺から資材を搾り取ろうとした罰だ。あれだけ俺のことを見下したんだからこれぐらい仕返しされても文句言うんじゃねぇよ。だがいい姿だぜ、あんたにはお似合いだな……クヒヒ♪
「き、貴様……私は提督だぞ!?その私を危険に晒してただで許されると思っているのか!!?貴様のような無能な奴見たことないわ!!!」
……はぁ?無能だって?俺がぁ?そろそろ限界だぜ……こんな奴に今までへこへこしていたのかと思うと腸が煮えくり返って来るぜ!!!
豚野の言葉に青年は我慢は限界を超えた。
「……提督?提督だって?先輩、あなたは何か勘違いしていませんか?」
「なにっ!?なにをだ!!」
「ただ椅子に座ってふんぞり返るのが提督なんですか?違う、提督ってのは部下のことをちゃんと管理し、的確な指揮を執り、職務に真っ当でなければならない。艦娘が主力の中、戦場に出られない分、我々はその他のことで死力を尽くさなくてはならない……今がその時です。戦場で戦うのは艦娘です。しかし我々だって艦娘と共に戦場に居るんです。あいつらをサポートし、誰一人として轟沈することなく帰還したあいつらに労いの言葉をかけてやり(戦意低下を避ける為)戦場で傷ついた心と体を癒す(士気の低下に繋がらない為)休息の場所、それが鎮守府です。艦娘達が安心して帰りたいと思える鎮守府を作るのが我々の役目なのです。それなのに何もしないでただふんぞり返っているだけだなんてそんなものは提督失格です……お前は提督失格だ!」
「ぶ、ぶひぃ!!?」
今までの鬱憤をぶつけるように青年の言葉は棘があるものだった。青年は我慢ならなかった。怒鳴り散らすだけでこちらには見返りを要求し、面倒ごとを押し付け、自分のことを無能だと言った豚野に堪忍袋の緒が切れた瞬間だった。みるみる豚野の顔に青筋が浮かんで何か言おうとした時、また鎮守府に砲撃が着弾したようだ。轟音と共にどこかが吹き飛ばされる音が聞こえて来る。
「ぶひぅぅぅぅぅう!!?」
汚い悲鳴が鎮守府全体に響いた。今まで何とか我慢していたのだろうが、豚野は一目散に逃げ出した……床に水たまりを作って。
……チッ、汚ねぇもん残していきやがって。一発ぶん殴ってやりたかったが、俺は軍人であり、提督だ。私情よりもあいつらを優先してやらねぇとな。それにしてもこの様子だと既にあのいけ好かない憲兵も逃げ出しているはずだ。先輩も逃げ出したし、残っているのは俺達だけだな。これで心置きなくサポートに集中できるってもんだ。しかし後で俺は責任を執らされるんだろうな……だが今はそんなこと考えている暇はない。深海棲艦に集中しないと……!
「これで邪魔者は消えたな。おい夕張、サポートの続きするぞ」
「……」
「おい夕張どうした?さっさと鈴谷達をサポートするぞ。時間は待ってくれねぇんだからよ」
「――はっ!?りょ、了解しました!」
「チb……妖精達も頼むぜ!」
『「がってん!」』
『「しょうち!」』
『「のすけ!」』
「お前ら……真面目にやれ」
青年は気づくことはなかった。夕張は豚野に『提督とは何か』を説いていた青年に見惚れていたことを。
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「のじゃぁ!!?こ、この程度では……吾輩は沈まぬぞ!」
「利根姉さん大丈夫ですか!?……いたっ!?」
「いっ、痛っ……やられました!瑞鶴はまだいける?」
「私は大丈夫。でもこのままじゃ翔鶴姉も……」
ヤバイじゃん……わかっていたことだけどここまで持ったと思う。でももう流石に鈴谷達も限界が近づいてきたみたい……覚悟決める時かな。
鈴谷達は三十もの深海棲艦相手に善戦を繰り広げていた。妖精達が艤装に宿ってくれたおかげで以前の戦力とは比べものにならないものとなっていた。鎮守府を囮に使うことで人間を憎む深海棲艦は優先的に鎮守府へ攻撃してくれたおかげで鈴谷達を狙う深海棲艦の数が分散したことで被弾率も低下した。しかし鎮守府には青年と夕張が居ることもあり、心の中では気が気ではなかった。砲撃や爆撃が着弾する度に二人の安否を気にしていたが、自分達のやるべきことをやらねばならないのが現状だ。鈴谷達は奮起し、深海棲艦をたった五人だけで相手取っていたが、今まで持ち堪えることはできたものの、敵も鎮守府から鈴谷達に狙いを変えたことで被弾し始めた。流れが押され始めている……多勢に無勢の状況で良くここまで持った方だ。
既に五人共小破状態にまで押され始めており、妖精達も頑張ってはいたそんな状況下の中で一発の砲撃が飛んでいく……
「――ッ!?鈴谷危ない!!」
「えっ?」
瑞鶴の叫びが聞こえ、気づいた時には遅かった。
「きゃぁっ!!?」
鈴谷に砲撃が着弾、全身がボロボロとなり所々から血が流れる。どう見ても大破状態であり、鈴谷はその場に膝を付いてしまった。大破した状態では自身だけの力で動くことはかなり辛い……仲間達が鈴谷を助けようと駆け寄るが深海棲艦の砲撃によって阻まれてしまった。そして鈴谷だけでなく、翔鶴達にも砲撃が飛んでいく。
「きゃあああ!?」
「翔鶴姉!?こいつら!!」
「翔鶴よ、大丈夫……のじゃぁ!!?」
「と、利根姉さん!?くっ、利根姉さんも翔鶴さんも私の後ろに……きゃぁっ!!?」
「(そ、そんな……利根に筑摩、翔鶴姉までもが中破しちゃった。鈴谷はもっと危険だし……もう終わりなの私達……誰も助けになんて来てくれないの?)」
深海棲艦の砲撃により翔鶴、利根、筑摩の三人は中破してしまう。幸運なことに瑞鶴は今だに小破状態止まりだが、鈴谷は大破までしてしまい未だに援軍が来ないことに焦りが見える。そうしている間にも敵はこちらを仕留めようとする気のようだ。そしてそのターゲットが鈴谷だ。彼女を狙う一隻の深海棲艦がいた。
「――ッ!!」
鈴谷の視線の先には両手を覆う艤装を向ける重巡リ級eliteの姿が映し出された。リ級eliteの瞳は赤く、まるで募りに募った怒りや悲しみを燃やしているかのようであった。その瞳は真っすぐに鈴谷を捉えそして……
「「「「鈴谷!!!(鈴谷さん!!!)」」」」
仲間達の悲鳴の叫びよりも先に砲撃の発射音が聞こえる……すぐに理解できた。
ああ、もうダメみたい……でも鈴谷達がここまで頑張れたのってきっとあの人のおかげだね。でも、でも悔しい……私達ようやく艦娘らしいことが出来たと思ったのにこれで終わりだなんて……ううん、そうじゃないよね。あの人が居てくれたから鈴谷はこうして戦えたんだ……艦娘として沈むことができる。ありがとう
最上、三隈、そして熊野には嘘ついちゃった。「幸せになる」約束守れそうにないみたい……ごめんね、でもこれでみんなで海の底……もう一人じゃなくなるね。
瞳を閉じる。
深海棲艦の砲撃が一人の艦娘に直撃する……
……はずだったのだが、爆音が聞こえても痛みはなかった。寧ろ当たった感触すらなく、不思議と瞳を閉じるとそこには見忘れるはずのない背中があった。
「あら、こんなところで睡眠ですか?それではいけませんわ。レディたるもの、きちんとベッドで眠ることをお勧めしますわよ?鈴谷」
「………………………………………………熊野?」
沈んだ熊野と同じ艦……○○鎮守府A基地の熊野が大破状態の鈴谷を守ってくれていた。