あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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ふぅ……ようやく書けましたので投稿します。


鈴谷の危機に現れた熊野!さぁ、反撃の時だ!


それでは……


本編どうぞ!




2-6 援軍到着

「ほ、ほんとう……本当に熊野……なの?」

 

「当たり前ですわ。他の誰に見えるのです?」

 

「――熊野っ!!!」

 

「きゃっ!?もう一体なんなのですの……あっ」

 

 

 鈴谷が熊野に勢いよく抱き着いたことでバランスを崩して海面に倒れそうになった。いきなり何をするのかと熊野は問おうとしたが、その言葉は洩れることはなかった。熊野の瞳に映る鈴谷は瞳から液体が流れ落ちていた。それは決して赤い血ではない……冷たい暗闇の底へと沈んだはずの(熊野)と再び出会えたことの喜びが輝く液体()となって姉妹の再会を称えていた。

 

 

「く、くま……熊野……熊野!あい、会いたかった……」

 

「……わたくしも会いたかったですわ……鈴谷」

 

 

 震える声で必死に熊野の名を何度も呼ぶ。もう離さないように……離れないように腕に力を込めていた。熊野もそんな鈴谷に身を任せていた。

 熊野は気づいていた。鈴谷が熊野と呼ぶのはおそらくここ○○鎮守府R基地の熊野であり自分ではないと言う事を。しかしそれでも今は彼女が溜め込んでいた寂しさや悲しみを受け止めてあげることが自身の役目だと理解していた。だがここは戦場だ。そんな二人の再会を羨むように、また妬ましそうに歯を食いしばり熊野と鈴谷を睨む深海棲艦。まるで自分達もそうでありたかったと吠えるように艤装を二人に向け、恨みの籠った一撃を放とうとする。

 

 

「させへんで!攻撃隊、いったれや!!」

 

 

 深海棲艦に無数の爆撃が降り注ぐ。空には深海棲艦とは別物、翔鶴や瑞鶴、利根や筑摩とは別の艦載機が舞っており、翔鶴達を守るように艦載機が深海棲艦を撃破していく。突然の出来事に呆気に取られる翔鶴達だが、声の主が姿を現す。

 

 

「あなたは……龍驤さん!?」

 

「せやで、翔鶴と瑞鶴、利根に筑摩やな。初めまして龍驤や。そんで皆無事か?」

 

「え、ええ……なんとか無事ではないですけど……」

 

「吾輩もなんとか生きておるぞ……」

 

「ですが私達ではもう持ちこたえられません」

 

「もしかして龍驤さんが……援軍?」

 

 

 颯爽と現れた龍驤に対して翔鶴の肩で担ぐ瑞鶴は期待の眼差しを込めて聞いた。

 

 

「勿論や。だけどな。援軍はウチだけやないで。頼れる仲間達も一緒やで!」

 

 

 そう龍驤が翔鶴達に言う。すると次々と砲撃が深海棲艦に直撃し爆発する。その光景を見ていた翔鶴達の横を高速で通り過ぎた影があった。

 

 

「俺に続け!このまま敵を撃沈するぞぉ!!」

 

「深海棲艦……許さない……いっけぇー!!」

 

「ふん!沈みなさい……沈みなさい!!」

 

 

 辺りを見回せばそこには吹雪達が深海棲艦と戦っており更には……

 

 

「君たちには失望したよ。だからもう……沈んでよね」

 

「っぽい!!ぽいぽいぽい!!!」

 

「魚雷発射なのです!!」

 

「睦月の攻撃くらえぇぇ!!!」

 

「沈め……沈め!」

 

 

 時雨達も深海棲艦相手に怯むことなく突き進んでいた。青年が信頼する第一艦隊と第二艦隊の艦娘達が援軍として駆け付けたのだ。第三艦隊の青葉達は○○鎮守府A基地の守備に回ってここにはいないが、それでも翔鶴達は驚かされた……吹雪達は駆逐艦でありながら戦艦をも凌ぐ攻防を繰り広げていたからだ。

 

 

 それもそうである。深海棲艦の砲撃に晒されている○○鎮守府R基地には青年が居るからだ。青年の危機だと知った吹雪達は早かった。あの40ノットを超える韋駄天の高速性を持つ島風すら超えてしまっているのではないかと錯覚してしまう程に海上を走る彼女達の姿は気迫溢れるものだった。

 ○○鎮守府A基地は地獄だった。そこに取り残されてしまった駆逐艦娘達……それが吹雪達だ。入渠も許されず、休むこともできず、仲間が……大切な姉妹が沈んだ。来る日も来る日も辛い現実が待っており、これから先も永遠に続くものだと思っていた。しかし青年はそんな吹雪達を地獄の底から救い上げたくれた恩人だ。醜いと消耗品の如くの扱いを受けていた吹雪達を艦娘として扱ってくれたことで、彼と出会って生活そのものが激変した。轟沈しても安く替えが利く駆逐艦として認知されていたが彼は違った。誰一人として沈めないと言ってくれた。嬉しかった……感謝の言葉だけでは釣り合いが取れない程の幸福を授けてくれた青年。彼の為なら吹雪達は例え火の中に飛び込むことも水の中……は潜水艦ではないので無理だが、なんだってやってやる勢いだ。自分達を救い出してくれた青年の危機ならば吹雪達が駆け付けないわけがないのだ。

 

 

 そんな吹雪達の瞳に映っているのは深海棲艦ではなかった。労いの言葉を送ってくれる、優しい笑顔を醜い自分達へと向けてくれる青年の姿だった。あの笑顔を向けられてしまったら忘れることはできない……太陽のように輝いて、傍に居るだけで暖かい自分達の提督を傷つけようとする深海棲艦が許せないのだ。重巡リ級や空母ヲ級ですら彼女達の前では無力と化す。木曾と不知火の二人もいつにも増して荒々しい様子なのを龍驤は見逃してはいなかった。内心で「ホンマ恐ろしい若者やな」と改めて青年の影響力(恐ろしさ)に感服しつつも自身もその一人に含まれていることにため息が出てしまう。しかし気分を害するどころか寧ろ気持ちが軽かった。

 

 

「オノ……レ……イマイマシイ……っ!!?」

 

 

 深海棲艦側の旗艦であろう重巡リ級eliteが恨めしそうに艦娘達を睨んだその直後、傍に居た仲間の深海棲艦が()()()の砲撃によって沈んだ。しかし明らかに先ほどの威力は今の吹雪達でも出すことのできない破壊力を秘めていた。そしてそれだけではなかった。空には幾多の艦載機が制空権を支配し始めており、リ級eliteは気づく……これは龍驤の飛ばしたものではないと。砲撃が飛んできた方向へ視線を移すと目を見張る。リ級eliteが見たものそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全主砲、斉射!て――ッ!!」

 

「選り取り見取りね、撃て!」

 

「装備換装を急いで!」

 

「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

 

「これが、漣の本気なのです!」

 

「もうドジっ子なんて言わせませんから!たぁーっ!」

 

 

 世界のビッグ7率いる元帥直属の艦娘達が援軍へと駆けつけた姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オワリ……ナノ……カ……」

 

 

 結果を言えば深海棲艦は負けた。仲間を失い、優勢であった数の差も逆転。駆逐艦ながらも戦艦をも凌ぐ気迫を持った者達の活躍とそれにも負けず劣らず共に戦場を駆けた者達、そして○○鎮守府R基地所属の鈴谷達の時間稼ぎが奇跡の道筋へと歩んだことで辿り着いた結果であり、最後の一人となった重巡リ級eliteが沈んでいく……その時の姿を見た鈴谷は重ねてしまう。

 最上が沈み、三隈も沈み、熊野の最期を看取った彼女の目には暗く深い海の底へと沈んでいくリ級eliteの表情はどこか寂しそうに映っていた。鈴谷は「この子も一緒なんだ」そう感じた。最上も三隈も熊野も……一人ぼっちで海の底へと沈んだ。それに比べて自分だけがこうして生き延び仲間達に囲まれている。『姉妹を犠牲にして生きている卑怯者』誰かが言ったわけでも、この場に居る誰もがそんなことを思っているわけではない。しかし鈴谷の心の奥底では捨てきれない罪悪感と後悔が顔を覗かせていた。彼女の心に刻まれた傷は一生傷として残るのか……そんな時だ。

 

 

「――――――――――――」

 

「……っ!」

 

 

 重巡リ級eliteと目が合った鈴谷はリ級eliteにこう言われた気がした。

 

 

 『「しあわせになって』

 

 

 それはかつて艦娘を敵視していた恨みの籠った瞳ではなかった……先ほどまでとはまるで違う、憑き物が取れたように安らかな表情を浮かべた重巡リ級eliteは暗い海の底へと沈んでいった。

 

 

 もしかしたら先ほどの深海棲艦は……そう頭の中に浮かんだがすぐに四散した。それはこれ以上彼女に辛い思いをさせない為に脳が自らの思考を守ろうと防衛本能が働いたのか、それとも姉妹達が()()()()に来させないようにそうさせたのか……真実はわからない。しかしこれだけは言える。

 

 

 人類の……艦娘達の勝利だ。

 

 

 ★------------------★

 

 

 深海棲艦の砲撃と爆撃に晒され変わり果てた鎮守府R基地、その港では所属の違う艦娘達が集っていた。所属も艦種の違いも関係なく、日ノ本存亡の危機にまで発展しかねなかった可能性がある敵の進行を食い止めたことはまさに勲章ものだろう。共に戦い抜いた仲間達は誰一人として欠けずに勝利できたことに喜びを感じるはずなのだが、その中でも落ち着きのないA基地所属の艦娘達が誰かを探している様子であった。その一人吹雪は気づいた。目的の人物だろうとある人影を発見すると一目散に駆けだしていた。

 

 

司令官!!!ご無事ですか!!?

 

 

 一目散に駆けだした吹雪達一行が見つけた相手……それは当然彼女達自慢の提督である青年だった。

 

 

「なんとか無事だぜ。危ないところだったがな」

 

「うぅ……よかった……本当に良かったです……司令官……わ、私……」

 

「心配かけたな。だがもう大丈夫だ」

 

 

 青年が無事だったことに安堵した吹雪は我慢できずにポロポロと涙が喜びを表すかのように止め処なく溢れ出ていた。

 

 

「睦月も安心した……にゃしぃ……」

 

「生きていて……嬉しいのです……」

 

 

 吹雪め、何をめそめそしてやがるんだ。睦月も電も……クヒヒ♪これはもうすっかり俺のことを信用しているみたいだな。まんまといい人間を演じている俺に騙されやがって、後で捨てられるとも知らずに哀れな奴らだぜ。絶望に染まる顔が楽しみだな!!

 ……ま、まぁ、なんだ、その……こ、今回は……と、特別に褒めてやるよ。ヤバかったのは本当だからな、お前らが来てくれなかったら、危うく日ノ本が崩壊して昇進どころではなくなってしまうところだったからな。だから……仕方ねぇ、思いっきり褒めてやるか。

 

 

 青年とこうして再び会えたことに吹雪だけでなく睦月と電も同じように涙を流していた。そんな吹雪達に一言言おうとした時、衝撃が飛び込んできた。

 

 

「提督さ~ん!!!」

 

「んぁぁ!!?」

 

 

 夕立は行動派だ。嬉しさと安心感から青年の胸にダイブしたことで勢い余って夕立に押し倒されてしまう。

 

 

 い、いきなり抱き着くんじゃねぇよ!?こいつ犬かよ……ああ、夕立は()()()だったわ。こいつ改二になるとより犬っぽくなるんだったな。しかしでっかい犬と思えれば良かったんだが、またしてもムニュっといったぞ!!?やはり程よい弾力だ。尊い、ものすごく尊いっぽい!!じゃなくって、離れろ!いや、後もう少し堪能しておくか……はっ!?け、決してやましい気持ちはないぞ!ほ、本当だぞ!!?

 

 

 嘘をつけ青年よ、魚雷(息子)の元気は100%である。このままいけば限界を超えてしまうだろう。名残惜しいが恥ずかしい人生の幕閉めを経験するわけにはいかず、夕立を無理やり引き剝がすことに成功した。引き剥がされた夕立はシュンと落ち込んでいた……その姿はまさに犬だった。

 

 

「提督、無事で良かったよ」

 

「んぁ、心配かけたな」

 

「うん、僕達本当に心配したんだよ?」

 

 

 落ち着いているように見えていた時雨だが、目元を見ると瞳が赤く、静かに涙を流していた証拠だ。きっとそのことを知られるのがちょっぴり恥ずかしいらしい……なんでもないと振舞うが残念なことに今も瞳には涙が溜まっていて隠しきれていなかった。

 

 

「ふ、ふん!あんたがくたばったら誰が私達の面倒みるのよ?あんたは最後まで私達の待遇改善に全力を注いでもらわないといけないし、べ、別にあんたが心配だったとかそんなこと思ってないから!か、勘違いしないでほしいけどこれだけは聞いておいてあげるわ……怪我は、ない?」

 

「どこも怪我してねぇよ」

 

「そう……よかった

 

「なんか言ったか?」

 

「な、なんでもないわよバカ!!!」

 

 

 いきなり罵倒されて訳がわからない苛立ちが芽生えたが、視線を感じればそこには世界のビックセブンと言われた長門型戦艦のネームシップである長門率いる美船元帥所属の艦娘達がこの場に居た。何故彼女達がここに居るのか、それは青年自ら大淀に指示を出したからだ。

 

 

 

 大淀は元帥直属の艦娘であり、彼女ならば直接元帥に直接物申すことができる。一介の新人提督である青年が元帥に援軍要請しても彼女のもとに至るまでに様々な面倒なやり取りが予想された。無駄な時間をかけている暇はない状況であった為、大淀に頼ったことは結果的に言えば大正解であった。すぐに事態の深刻さを理解した美船元帥は長門達を援軍として派遣、吹雪達と共に見事深海棲艦を打ち負かしたのである。

 援軍として駆け付けた長門達の視線は青年に釘付けだが険しいものだ。それもそうだろう、青年は軽視派だとバレている。長門は美船元帥から大淀の報告内容を聞いていたとしても信じられるものではなかった。今も疑いの目を向けている……が、それは長門だけではない。姉妹艦である陸奥もそうだ。そして加賀と赤城も同じ疑いの瞳を持って青年を観察している。一航戦の二人はある人物を心から慕っている。その人物と言うのは鳳翔だ。

 

 

 日本初の航空母艦「鳳翔」であり、空母である赤城と加賀、全ての艦娘にとって「母」とも言える存在である。しかしそれは艦娘以前の軍艦としての歴史としてである。しかしこれも運命の導きか、鳳翔と赤城と加賀の三人は深い縁で結ばれていた。

 二人はまだ美船元帥所属では無かった頃、容姿が醜いと言う理由だけで、日に何度も出撃を強要されたにも関わらず燃費が悪いと文句を言われ続け、出撃しないで食事を取っていれば働いていない癖に食べることだけ一人前のポンコツと認識されて倉庫送りとなった。それからは食事もろくに与えられず、一航戦としてのプライドもズタボロにされた。後に提督だった頃の美船に引き取られることになったが、その当時はもはや抜け殻となっており、反応すら乏しかった。しかしそんな二人を救い上げたのが鳳翔だった。

 

 

 昔、間宮と共にただ居るだけで、何もさせてもらえず『鳳翔は居るだけで艦娘の士気を保つことができる便()()()()()』と扱われ、ただ見ている事しかできなかったあの頃を思い出してしまう。鳳翔は同じ空母同士、赤城と加賀の一航戦としての誇りと魂を再び灯す為に名乗りを上げたのだ。そこから彼女はずっと二人を支え続けたことで、次第に抜け殻となっていた心に炎が灯り、一航戦の二人は再び海上へ立つことができたのだ。鳳翔は恩人であり、正真正銘の彼女達にとっての「母」とも呼べる存在となった。

 

 

 赤城と加賀の二人は当然鳳翔が○○鎮守府A基地へ行くのを止めた。「母」と言葉では恥ずかしいので呼ばぬものの、心の中ではいつも慕っている彼女が酷い目に遭うことを望まないのは当然のこと。鳳翔が行くなら我々もと長門と同じ覚悟を決めるも、鳳翔も赤城と加賀のことは「子供」のように可愛がっており、彼女も二人と同じ思いを抱いていた。お互いに譲れぬものがあったが、最終的には長門と同じ理由で二人は鳳翔の帰りを待つしかなくなってしまった。

 一時は○○鎮守府A基地へ押しかけようとしたが止められ「鳳翔の思いを無駄にするのか」と美船元帥から諭されたこともあって拳を握りしめて我慢するしかなかった時期もあった。しかし例の報告書の件を伝えられた時は何が起きているのかわからなかった。大淀が嘘の報告をしているわけでも、脅されている様子でもない。ますますわからなくなっても深海棲艦の進撃は止まってはくれなかった。理解不能のまま時間は過ぎて、積もる思いが限界を超えそうになった直後に大淀から援軍要請の連絡が入った。それも○○鎮守府A基地に着任した例の提督からの要請でもあり、赤城と加賀は見極める為、鳳翔の為にと美船元帥に直談判し、援軍部隊の一員として○○鎮守府R基地へとやってきたのであった。

 

 

 長門と陸奥も一航戦の二人と同じ思いで自ら援軍部隊を率いることになった。漣と五月雨は美船元帥が提督時代の頃からの艦娘で最も練度が高く、もしものことがあればストッパーとしての役割を担い、状況を一歩下がったところから観察していた。

 

 

『「ていとくさん、わたしたちやったよ!」』

 

『「よくやったとほめるがよいぞ」』

 

『「しぬかとおもったよー!!!」』

 

『「ほうび、もとむ」』

 

『「けつさわらせろー!!!」』

 

 

 うるさいぞお前ら!!お前達に今構っている暇は……まぁ、お前達が居てくれたおかげで戦力アップに繋がったのは事実か。仕方ない、後でたらっふくお菓子でも与えてやるか。後、尻触らせろって言った奴出てこい!お仕置きしてやる!!

 

 

 いつもの制止力となっている妖精達は相変わらずである。褒美を強請る妖精達に群がられている青年だが、今回妖精達がいなければ鈴谷達が時間を稼ぐことはままならなかったであろう。それを考えればお菓子程度の褒美で済むのは嬉しいことであり、更に妖精達には頭が上がらなくなるだろう。ちなみに尻を撫でまわそうとした不埒な妖精は摘まみ上げられ海へとシュートされたが、すぐに何事もなく戻って来た。

 そしてこの光景を間近で見ていた長門達の視線は驚きと困惑が入り混じっており、やはり大淀達が着任した時と同じ反応を示していた。

 

 

「ゴホン……ま、まぁ、吹雪達に心配かけてしまったのは悪かった。それに不知火も木曾も龍驤にも迷惑かけたな。熊野も……みんなありがとう。俺達を救ってくれたこと感謝しているぞ」

 

「し、司令が謝る必要も……不知火は当然のことをしたまでで……」

 

「お、俺は別にお前なんて……」

 

「(すっかり餌付けされてしもて……しかし美船に援軍を頼むとは中々やるやないか。近場の提督相手に援軍要請してもこんなにも早くには到着でけへんはずやし、下手したら誰か轟沈してたかもしれへん。比べて長門達ならそうそうやられはせえへんし、仲間の危機と聞けばより一層に奮起する。そこまで見越していたんかわからんけど、やはり優秀やな。いや、計算だったと言うよりもウチら艦娘のことを思っての行動やったんか?もしそうだとしたら……とんだお人好しの提督さんやで)」

 

「ふふ、当然のことをしたまでですわ」

 

 

 欠かさず謝罪とお礼を龍驤達にかける辺り、何も知らない艦娘が青年の優しさに触れれば骨抜きにされてしまうだろう。ますます龍驤は青年の影響力(恐ろしさ)を思い知らされるが、自然と笑みが生まれていた。

 

 

「まぁ、結果みんな無事やったんやし良しとしようや。それよりもまずは負傷した子を入渠させる方がええんと違うか?」

 

「そうですわ。鈴谷達を一刻も早く入渠させませんと!」

 

「そうだなっと言いたいところだが、ここの入渠ドックは砲撃と爆撃に晒されて破壊されてしまったらしくてな。俺の鎮守府に鈴谷達を連れていく。吹雪達はあいつらを連れて先に帰ってくれ。既に青葉達も近くまで迎えにこさせるよう連絡を入れておいたから全員帰ったら入渠して体を休めるんだ。高速修復材は好きなだけ使って構わんからな」

 

「流石だね提督、そんなに行動が早いなんて僕尊敬しちゃうよ」

 

「そんなことはないぞ。ここはもはや半壊してしまっている。しかし鈴谷達は負傷しているんだからすぐに入渠ドックに入れなくてはならない。それならば入渠ドックが無事かどうかを確認しただけだ。まぁ、予想通り破壊されてしまって使い物にならなくなっていたがな。誰だってできることだ。尊敬する程でもないぞ?」

 

「そんなことないよ。僕達のような艦娘にそこまで気を使ってくれる人はそうそういないよ」

 

「そうか?」

 

 

 時雨に褒められても青年にとっては当たり前の行動だった。勝利したと言えども後を疎かにしてはならない精神を心掛けており、敵の奇襲がすぐに来ないとも限らない。戦力(艦娘)を失わない為にすぐに入渠ドックへ向かわせることなど特に褒められる行動ではなく自然なもので、対応の速さと真っ先に艦娘を優先してくれた行動に鈴谷と長門達は驚いている様子だった。

 

 

「それで……司令官はこの後どうするんですか?」

 

「俺はこっちの方々と少し話があるからな。それに状況についてなら夕張も証言してくれるから気にするな」

 

「……わかりました。ですが必ず帰って来てくださいね」

 

「安心しろ。あそこは俺の鎮守府()だからな」

 

 

 吹雪達は名残惜しいが負傷したままの鈴谷達を放っておけない。深海棲艦の襲撃で鎮守府はボロボロとなってしまい、入渠ドックは使い物にならなくなってしまった。青年の言う通りに○○鎮守府A基地へ鈴谷達を護衛しながら案内する。

 

 

「鈴谷、行きますわよ」

 

「……う、うん……」

 

 

 その中で熊野に肩を貸されていた鈴谷は遠のいていく青年を静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、あの……私はどうしたら?」

 

「夕張はここに居てくれ。さてと……援軍ならびに救援感謝する。長門と陸奥に赤城と加賀、そして漣と五月雨だな?」

 

「我々のことを知っているのか?」

 

 

 艦娘の名を憶えている提督は数少ない。目の前の青年は一人ずつ視線を合わしてまで名を刻んだことに表情には出さないものの驚いていた。報告書の内容と合致しているが油断はできない。彼は艦娘を蔑ろに扱う美船元帥が最も憎悪する軽視派なのだから。

 

 

「当然だ。特に長門はこの国の誇りとまで言われていたからな」

 

「それは軍艦の長門の話だ。艦娘の長門()には程遠いものだ……」

 

 

 青年と対峙する長門の表情は少し曇ったように見えた。艦娘としてこの世に建造されてからと言うもの扱いは言うまでもなく雑なものであった。深海棲艦を倒す為だけの道具であり、守るべき人間から向けられる視線は冷たい物だった。それほどまでに醜悪な姿はこの世界では受け入れられない罪のようだ。

 美船元帥に出会うまでの長門は何の為に戦っているのかと何度も自問自答したものだ。あの頃を思い出せば、歴戦を闘い抜いた百戦錬磨の武人といった堂々たる気丈夫さと凛々しさを醸しだす長門でさえ心が苦しくなるものだ。

 

 

「……そうか、だが気にすることはないぞ。世界のビックセブンと言われていたのは事実だ。それに今は元帥殿が傍にいるだろう?周りの声など微々たるもの、見ず知らずの相手より仲間の声の方が身に染みるだろ?そう言うものかとその程度ぐらいで聞き流していればいいんだよ。だからと言って何でもかんでも聞き流していたんじゃ自分の為にはならないぞ。数ある声の中で自分の為になるものを受け入れれば新たなる自分を見つけられるかもしれないからな」

 

「う、うむ……」

 

「それにだ、軍艦の長門と艦娘の長門は別だ。軍艦の長門がそうだったからとか関係ねぇ、お前は元帥殿所属の長門だろ?周りがどうこう言おうと胸を張っていればいい、これが私なんだ文句あるかってな。お前はお前なんだからよ」

 

「そ、そうか。そう言ってもらえると……気持ちが楽になる」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 青年の励まし(?)の言葉に少したじろいでしまった長門。それもそうだ、今まで醜いと蔑まれて来た艦娘相手に面と向かってこれ程の言葉をかけてくれる……それも適当に並べた言葉とは思えない気持ちの籠った言葉だったのだから、長門は自然と気分が楽になっていた。傍に居る陸奥達も驚いていたぐらいだ。

 

 

 戦艦とか艦娘とかどうでもいいことだ。過去よりも今と未来を大事にしやがれってんだ。だがこれはチャンスだ!俺が軽視派の影響を受けているとお前達が把握していても実際に見たところ聞いていた話とはまるで違い、印象が大いに異なっていれば疑問が生まれることになる。その疑問を巧みに突いていけば「あれ?もしかしたらこの人……いい人なんじゃ?」っと思うわけだ。そうなればこっちのもんだ。俺がいい人である訳がないのに、周りが俺のことを敵視していてもそれに同調できなくなる。「あの人がそんなことをするわけが……」っと都合よく脳が解釈してくれるようになり、更に上手くいけば俺をいい人間だと仲間達に弁明してくれることにもなるかもしれないからな。これこそ印象操作……見た目は大事だからな。この世界では特にな……クヒヒ♪

 

 

 姑息な技が静かに潜んでいた。内心ほくそ笑む青年……汚い、流石汚い!!

 

 

「長門、今は急いで私達もやらなければならないことがあるんじゃないの?」

 

「陸奥よ、わかっている。すまないが、我々も()()()()問わねばならないことがあるからな」

 

「ああ、よろしくお願いする」

 

 

 深海棲艦の脅威は去ったが、安らぐ時間はまだ訪れることはない……しかし己の欲望を叶える為に艦娘を利用する悪しき若者は、目の前に壁が立ち塞がろうと歩みを止めることはしないのだ。

 

 

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