それでは改めまして……
本編どうぞ!
「つ、疲れた……」
「あ、あの……だ、大丈夫ですか?」
○○鎮守府A基地へと戻って来た青年は疲労状態だった。
「ああ……問題ねぇ(ちくしょう、一航戦め、俺から根掘り葉掘り聞き出そうとしやがって……おかげで夜になっちまったじゃねぇか!)」
現時刻はフタマルマルマル。
深海棲艦との戦闘が終わってからすぐに大本営から大勢の憲兵隊が駆けつけて来た。憲兵達は穏健派の人間達だろう。軽視派の力を削ごうと半壊した鎮守府内を捜索、豚野の行方を追っていた様子だったが、チラチラと性的な視線で青年を盗み見る態度にイラっとした。しかし彼は視線よりも目の前の問題を先に相手にしないといけなくなった。
深海棲艦が上陸しかけたのを退けた青年の功績は勲章ものだろう。日ノ本の危機を救ったのだから絶賛されてもおかしくない。だが長門達からかけられたのは絶賛の声はなく「何故この場に居たのか」「元々の提督はどこへいったのか」「艦娘の数が合ってないのはどういうことか」と言う追求の声だった。青年の帰りが遅くなったのは○○鎮守府R基地で今まで長門達にしつこく事情聴取されていたからだ。しかし彼が内部のことを知っているわけでもないので全てに応えられる訳がない。最も豚野との会談の内容を知られる訳にはいかなかったが、そこは持ち前のいい人間ロールで誤魔化した。それでもいつまでも続くかに思われた事情聴取だったが、夕張が青年を何かと擁護してくれたこと事で解放されたはずだったのだ。それでもまだしつこく問いただそうとする二人の艦娘がいた。
一航戦の赤城と加賀だ。二人は鳳翔のことが気がかりなのだ。深い縁で結ばれ鳳翔は二人にとって「母」そのものであった。慕う鳳翔が青年の下に居る……それも軽視派の人間の下に。二人が向ける表情は鬼ですら泣いて逃げる程に恐ろしかった。戦艦の長門や陸奥ですら今の一航戦のオーラの前では身を縮めている程だ。しかし青年は平然と佇んでいた……ように見えているが、実は今にも崩れそうなジェンガのようにガタガタと震え「こ、これは……む、武者震いだ!!!」と主張するだろうが、完全にビビっていた。冷静沈着な印象で、あまり感情を表に出さないはずの加賀ですら感情を出したのだ。彼女は怒れば怖かった。流石青年に苦手意識を植え付けるほど説教した鳳翔が育てた子達、そんな彼女達の怒りの矛先を直接向けられていたのだからビビるのも仕方ない。
一航戦の鬼二匹に睨まれながらも平静を装い対応していった。やがて太陽が沈み、辺りが暗くなったところで話の続きは後日ということになったことでようやく真の意味で解放されたが、疲労はピークを迎えていた。このようなことがあって帰りが遅くなった。ちなみに初め夕張は長門達と共に付いて行くことになっていたが、彼女は青年について行きたいと申し出たことで長門達では止めることはできずに同伴する形となった。
夕張に心配されながらも疲労が溜まった体を揺らしながら
「(一航戦の奴らめ、滅茶苦茶怖k……って、び、ビビッてねぇからな!?あ、あの程度でビビるなんてあ、ありえねぇから!ま、まぁそれはいいとしてっだ、結局豚野郎といけ好かねぇ守衛はどこかに消えてしまったらしいが発見される日も近いはず……穏健派の連中は軽視派を抑え込みたいはずだから豚野郎は丁度いい餌な訳だ。だがあの野郎が捕まったら俺の件をペラペラ喋るんじゃないか?寧ろ全てを俺の責任だと押し付けられでもしたら……チッ、そう思うと胸糞わりぃぜ!しかしもうどうしようもない……ちくしょう、足元を見られるわ、散々な目に遭うわ、深海棲艦共の砲撃に晒されるわで死ぬかと思ったぜ。俺自身でもよく生きていられたと思う。今でも鼓動の音が聞こえてきやがる……が、とりあえず疲れた。今はただゆっくりと風呂に浸かりてぇな)」
「司令官!!」
「んぁ?吹雪……それにお前達も」
聞きなれた声を耳にし、視線を向けると吹雪含め艦娘達総出で青年と夕張を出迎えた。そしてそこには彼女達以外も……
「鈴谷、翔鶴、瑞鶴、利根、筑摩……お前達もか。吹雪、帰って休めと言ったはずだが?」
「だって司令官が帰って来るのが遅くて……また何かあったんじゃないかって思ったら……」
「睦月も提督が居ないと寂しかったのにゃ……」
「はわわわ!?ご、ごめんなさいなのです」
「ふ、ふん!わ、私はあんたなんて待っていないわよ!?ただあんたが居ないと吹雪達が煩くて……ごにょごにょ……」
「ごめんね?でもみんな心配だったんだ。それに鈴谷さん達が提督に用があるみたいだよ」
「なに?」
ボロボロだった鈴谷達の姿はすっかり元通り……艤装と服は入渠では直らないが、痛々しい傷痕は綺麗に消えていた。○○鎮守府A基地にはまだ入渠ドックは一つしか解放していない。帰りが遅くなったとはいえ、ゲーム内でもそうだったが、鈴谷達のような重巡洋艦や正規空母は修復するには時間が凄くかかるので、この場に全員いるということは
ハッキリ言えば彼女達の表情は暗い……何を思っているのかわからない。しかし何かを伝えようとしているのは確かだ。一体何を伝えようとしているのだろうか?
「あ、あの……ていとk……」
鈴谷は何かを言いかけて押し殺した。言ってしまえば求めてしまうから……
「……っ、外道さん……申し訳ありませんでした」
感情を押し殺して代わりに出たのは謝罪の言葉だった。
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青年の前には頭を下げる鈴谷達の姿があった。何故こんなことになったのか……それは豚野の代わりに指揮してくれたことへの感謝の気持ちと深海棲艦の砲撃と爆撃に晒され、青年の命を危機に陥れてしまった。もっと頑張れば鎮守府への被害も最小限にできたはず、それなのに自分達は役に立てず、しまいには大きな損傷を受けてしまった。それだけでなく、○○鎮守府A基地で入渠させてもらい貴重な
「……」
青年は鈴谷達の謝罪に対して何も言わず、ジッと見つめている。吹雪達も妖精達もこの状況を固唾を飲んで見守り、夕張は不安そうな表情をしていた。緊迫した空気が這い詰める中で、一人だけ事情が違っていた。
肉着いたムチムチの太もも……だと……っ!?素晴らしい!!!もう少し、もうちょっとだけ屈んでくれ。あと少しで見え、見えr……はっ!?お、俺はなんてことを期待しているんだ?!やめろやめろ!俺は変態野郎なんかじゃねぇ……くっ、あともうちょっとだけ屈めよ!!もう少しなのに見えねぇじゃねぇか!!!
たった一人、一人だけこの空気の中で場違いな思考に陥っている人物……青年だった。先ほどまでの疲労はどこへ行ったのやら、パッチリと目が
鈴谷達は青年に期待されたのにも関わらず、無様な姿を晒してしまったことから彼女達の中ではこれ以上迷惑はかけられないと大淀達の親切を断っていたが、そこへ彼が帰って来たことで艦娘総出で出迎えることになった。忘れているかもしれないが鈴谷は大破、小破だけで留まった瑞鶴を除く残りのメンバーは中破した状態のまま。「何か着ないと寒いですよ」と間宮と鳳翔に声をかけられ上着を差し出しても誰一人として受け取らなかった。彼女達はこれ以上迷惑をかけたくない一心で断っていたがそれが
筑摩め、なんてけしからんおっp……ゴホン、胸に太ももなんだ!?尻も魅力的すぎる!!それに比べて姉の癖にガキっぽいところがある利根の奴だが、体はしっかりしていて姉妹揃ってスケベなショートスカートを装備しやがって……100点満点!翔鶴もいい太ももじゃねぇか。いい体しやがって……プラス100点追加だ!そして鈴谷、お前も筑摩に負けないおっp……ではなく、形が仕上がった胸、そして体のラインに沿って生み出されたへそ、極めつけはニーソックスとは卑怯だぞ!!だが瑞鶴、何故お前だけ小破なんだ!?空気を読んでこの場で中破しても罰は当たらないぞ?クソッ、損傷しただけでこの破壊力とは……な、なんて破廉恥な奴らなんだ!!?
欲望に走るだけだ。青年は欲望に忠実に従い、提督の座を利用してこの場で堂々と怪しまれることなく自らの脳内フォルダに鈴谷達の姿を保存していく。
透き通るかのような肌、ダイヤモンドよりも価値のある太もも、魅惑のお尻、ダイナマイトよりも危険な胸が彼の脳内フォルダを埋め尽くしていく。目の前に広がる光景はまさに
「提督、どうしたの?」
「……どうした那珂?俺は今忙しいのだ(脳内フォルダに保存するので)」
「何が忙しいのか那珂ちゃんにはわからないけど、鼻血出てるよー?」
「――ッ!!?」
不思議そうに見つめる那珂に言われて気づく。鼻血がたらりと流れ出ていた。理性が自らの役目を放棄しようとも、木曾のパジャマ姿や島風のあざとい姿にも見事に耐えきることができた(?)ことで、脳内フォルダは以前よりも
目の前に広がる光景は
ま、まずい!?このままだと俺がこいつらの体を見て……こ、興奮している変態野郎だと思われちまう!?お、俺は健全な男だぞ!こいつらは人間じゃねぇんだ。昇進の為に利用でき、価値ある駒なんだ。そんな奴らの体如きで興奮する変態じゃねぇんだ!!と、とにかく俺から意識を逸らさなければ……!!
「――ゴホン、んぁ……お前達から何の謝罪かは聞いたが、そんなことはどうでもいいさ」
「ど、どうでもいいって……す、鈴谷達は
「おい、鈴谷」
「――は、はい?!」
青年の態度は鈴谷達から想像していたものとはかけ離れていた。謝罪を受け入れるどころかどうでもいいと突っぱねた。高速修復材は入手方法が限られ、艦娘が受けた損傷を一瞬のうちに直してしまう優れもの。資材も無駄遣いできないのに、それを他の鎮守府の艦娘に使うなど鈴谷達からしてみればあり得ない事だったから鈴谷から弁解の言葉が出たのも頷けたが、青年は違ったようだ。なにやら鋭い視線で鈴谷達を睨みつけ、ビクリと彼女達の体が反応する。何を言われるのか、もしかしたら逆鱗に触れてしまい解体されてしまうのか……豚野から味わった恐怖が再び彼女達の中で湧き上がろうとしていた。
「お前達は自分のことを
「……えっ?」
「お前達は立派な艦娘だ。何故か、それは今日の出来事が語っている。お前達はたった五人で三十もの深海棲艦から耐えて時間を稼いだ。たった五人でだぞ?しかもあの深海棲艦相手にだ。そこらの虫が三十匹とは訳が違う。一体だけでも脅威な存在が三十だ。それを相手取ったんだ。道具だったなら時間を稼ぐことなんて出来なかったさ」
「で、ですが……!」
「それにだ、これは言っておく。俺はたかが道具程度では深海棲艦を倒せるなどと甘い考えを持っちゃいねぇ。鈴谷、利根、筑摩、翔鶴、瑞鶴、そして夕張、お前達は深海棲艦と戦い、見事に勝利を手にした。時間を稼ぐことで日ノ本を守ることができた。お前達が居なければ陸は火の海となっていただろう。
「そ、外道さん……」
「それに畏まるんじゃねぇよ。本来のお前達と接したい。言っただろ?そっちの方がお前らしくて良いとな」
「……あ、ありがとう……」
鈴谷達は青年の言葉に誰の心にも光が溢れる。自分達は
……チッ、チビ共のご機嫌取り&大淀達に疑われないよういい人間を演じただけだが、バカな奴らだな。俺の策にまんまとハマりやがって。元々はこいつらは俺の艦娘共ではないし、近々こいつらとはおさらばだが……まぁ、ここに居る間は面倒みてやるよ。本来ならばチビ共が居なければ用済みなんだが仕方なくだからな。それを忘れるなよ。
青年が内心ぶつくさと考えを巡らせている時だった。
天使か悪魔の悪戯か、一陣の風が通り過ぎた。「きゃっ!?」と不意を突かれて数名から声が出る。その拍子に損傷してボロボロだったスカートがふわりと舞い、そこから各艦の個性を象徴する
――ッブシュ!!
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「……以上が報告でした」
「「「「「……」」」」」
朝一に鈴谷達は執務室へと集められていた。昨日は色々とあって複雑な気持ちのまま今日と言う日を迎えることになったのはどうしようもないことだった。彼女達の中に巣くっている不安が今この場に報告と言う形で君臨してしまったのだ。
鈴谷達は昨日の雰囲気とは一転して妙な胸騒ぎを感じつつも入室すればそこには青年と大淀、そして秘書艦であろう吹雪の姿があった。いつも彼の傍にいる妖精達はいない……妖精達はいつもと違う空気を感じ取り既にこの場から去っていた。妖精達の気遣いと言ってもいいかもしれない。鈴谷達が見た青年の表情は打って変わり真剣なものだった。そして胸騒ぎは当たってしまった。
大淀から告げられたのは同じR基地に所属していた駆逐艦の子達の行方だった。結果を言えば駆逐艦の子達は帰って来なかった……誰一人として。捜索は引き続き行う予定ではあるが、夕張は受け取った無線から想像すれば深海棲艦と遭遇したことは待逃れず、運よく生き残れたとしても絶望的な状況であった。
執務室には重い空気に満ちていた。心の奥底ではこの事実を誰もが認めたくなかったことだろうが、現実は非情なもの。しかしわかっていたことだ。元々犠牲が出ても構わないと編成された遠征組である。休み無しの遠征続きで疲労が溜まっていた彼女達は深海棲艦から逃げきれない……わかりきったことだった。
豚野が怖かった……故に止められなかった。鈴谷達は自分達だけが生き残ったことは一生の苦痛となることだろう。今もそうだ。彼女達の表情を見ずともわかる……大粒の液体が執務室の床へと雫となって落ちていたからだ。
「……おい大淀、大本営からの視察は午後だったな」
「えっ?あ、はい、そうです」
早朝、駆逐艦の子達の報と共に午後から視察隊が事情聴取の続きを兼ねてここへと訪れる約束をした。午後にはまだ十分な時間があると青年は確認すると……
「なら時間はあるな」
「司令官?」
「吹雪、タクシーを手配してくれ。大淀、少し出かけて来るぞ。吹雪も付いて来い」
「はい、わかりました」
「お前達も付いて来い。拒否権はないぞ」
「「「「「……はい……」」」」」
青年は動き出した。気力のない返事が返って来るが吹雪と大淀は信じている。青年なら深く沈んだ鈴谷達の心を何とかしてくれると。
それからしばらくして二台のタクシーが鎮守府へと到着。お通夜状態と変わらない鈴谷達を乗せて走り出すが、どこへ向かっているかも知らされていない状況の中で途中青年が「寄るところがある」と言って一度タクシーを止めた。そこは花屋の前で、いくつもの花を青年が買っているのを鈴谷達は見たが、その時は何も思わなかった。駆逐艦の子達を犠牲に生き残った自分達に負い目を感じそれどころではなかったからだ。
再びタクシーは走り出し、鈴谷達を引き連れ青年が向かった先は○○鎮守府R基地が見える場所に位置する岸。ここには
そう鈴谷達が思っていると青年は花屋で購入した花束を岸にそっと置いた。そしてそこには深海棲艦との激闘など感じさせない静かな海に敬礼する青年の姿があった。
静かな海に向かって敬礼する青年に何事か訳がわからない鈴谷達。彼の初期艦娘の一人である吹雪だけはその行動の意味が理解できた。吹雪も青年の傍へと近づき同じように敬礼する。
「何してるの?」
二人の行動の意図がわからない鈴谷は青年達に声をかけた。
「見てわからないのか?花を手向け、敬礼しているんだ」
「……何の意味があるの?」
「駆逐艦の子達の為、追悼ですよね司令官?」
「ああ、吹雪の言う通りだ」
「……どうしてそんなことしてくれるの?」
「沈めたのは深海棲艦だ。だが沈む原因を作ったのは人間だ。そして同じ提督だ。同じ人間、提督である俺の責だ。人間は艦娘に無理難題を押し付け自分は高みの見物だけしかせず、労わることもしなかった。俺はあの場にいながらも愚行を止められなかった。それに……
「
彼はまだ若い新米提督である。例え愉悦猫によるハプニング(美醜逆転)がなくとも青年も人間だ。醜い、醜くないに関わらず、自分よりも小さい子供の命が散れば気分が悪くなる。女性が傷つき涙を流す姿を見れば胸が締め付けられる。
「お前達は残された側だ。だがそれをいつまでも負い目だと感じるな。グチグチしていると沈んだ者達が浮かばれないだろ。お前達は沈んだ者達の分まで幸せにならないとな」
「幸せに……」
鈴谷の中で「わたくし達の分まで生きて……幸せになって……」かつて熊野との約束が頭に浮かぶ。
「外道さん……鈴谷は……鈴谷達は……幸せになれる?」
「なれるって聞くな、なるんだよ。幸せってのは手を伸ばさなければ向こうも伸ばしてくれない。幸せになるのを諦めている奴の下にはやって来ないし、諦めている奴は何が幸せかなんてわからない。幸せってのは待っているだけじゃダメなんだ」
「……そう、なんだ……」
「今はまだわからなくていい。きっとわかる時が来る……それまで考え続ければいいんだからよ。鈴谷だけじゃなく、お前達全員もだ。わかったな?」
「「「「「……はい」」」」」
静かなる海に向かって敬礼する一人の青年と艦娘達の姿がそこにあった。
「(チッ、こいつらはどうせ別の鎮守府に引き取られるのに……なんで引き取り先が決まっているような奴らの面倒をみてんだ?得にもならないのに何やってんだ俺……)」
自身の矛盾した行動に内心ため息をついていた青年だった。