あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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どうもお待たせいたしました作者です。色々と考えさせられる期間で悩みましたが、この小説を楽しみにしてくださっている読者の皆様の為にも続けようと決めての投稿となります。


必ず注意書きを読んでからご覧になって楽しんでいってください。


それでは……


本編どうぞ!







2-9 手を伸ばせ

 美船元帥は鈴谷達と折り入った話があるとのことでしばらく彼女達だけの時間が欲しいと青年を遠ざけた。一時的に自由となった時間だが、元帥を放って自分は仕事をするのは流石にまずいので暇そうに時間を潰しているとそっと小さな影が近づいてきた。

 

 

「ゴホン、()()()()にちょっとご質問があるんですけどよろしいでしょうか?」

 

「んぁ?なんだ?」

 

 

 話しかけてきたのは美船元帥と共に視察に来た駆逐艦娘の漣だ。吹雪や叢雲と同じ特型駆逐艦それの19番目、綾波型でいうと9番艦の彼女の性格を青年は知っている。

 漣は風変りな言動と行動で人を惑わす駆逐艦娘であるが、今は仕事モードらしい。普段の口調では「キタコレ!!」「メシウマ!」などかなりアクの強いものの「提督」のことを「提督さま」などと呼ぶことはせず「ご主人さま」と呼ぶ辺り変わり者の彼女だが今はそれがない。目の前に居る青年に対しておふざけなどする気も起きないだろう。何故なら彼女は青年が軽視派の人間だと言うことを知っているからだ。

 

 

 漣は軽視派の連中が嫌いだ。彼女も醜き艦娘の一人で、未来永劫容姿をバカにされ続けるしかないと半ば諦めていた部分があった。しかし新米提督として強制的に着任させられた美船が現れたことで運命は変わった。艦娘でもないのに自分達と変わらぬ醜い容姿を兼ね備えた人間がやって来た時は驚いた。しかしその人間は軍人と言えどまだ半人前、知識もまだ浅く素人同然、そんな彼女に同じ鎮守府に所属していた五月雨と共に艦娘のことや深海棲艦のことをあれこれ教えた。初めは仕事にもミスが多く、指揮も浅はかなものだったが、美船は必死に覚えようとした。わからないことは二人にわかるまで教えてもらい、損傷した子が居たら自らも率先して手伝いをしていた。お互いのことをまだよくわからない時期でもあり、会話も詰まったことだって何度あったことか。しかし辛いことも悲しいこと、楽しいことや悩みを打ち明けていく内に信頼関係が結ばれていた。

 美船は艦娘達の為に海軍全体の改変に取り組んでいく。艦娘を捨て艦として扱うブラック鎮守府を次々に暴いていき、粗末に扱った人間を捕まえて来た。醜いと称され道具のように扱われて来た艦娘達の心に光が差し込んだ。こんな醜い自分達の為に本気になってくれた初めての人。この人ならばどこまでもついていきたい……そう思った。漣はその一人である。そしてそんな彼女の前に軽視派の人間である青年があろうことか提督の座についているのだ。大淀の報告書通りに吹雪達に接する姿は敬愛する美船とそっくりであるが……ありえない。

 

 

 軽視派の人間であることは確かなのだ。しかも今回深海棲艦の襲撃を受けた○○鎮守府R基地の提督であった豚野と会っていたのだ。これは何かある……漣は青年が何かを隠していると疑っている。無理やり付いてきた一航戦コンビは敵意を隠すこともせずに鳳翔のところに付きっきりで役に立たない。美船元帥は今は鈴谷達と大事な話の最中であり、この場に居るのは彼と漣に味方の五月雨だけ。今がチャンスの時、彼女は彼女なりに青年に探りを入れるつもりなのだ。

 

 

「小さなことですけど小耳に挟んだんで気になっていることがありまして……五月雨の容姿についてなんですが、如何お思いですか?」

 

「……なに?」

 

「さ、漣さん!!?」

 

 

 五月雨は心臓が飛び出るぐらいに驚きの声が出た。待っているには余りにも暇であり、なにしろ漣にとってこの青年は敵視しなければならない存在のはずだった。しかし大淀の報告書に目を通して「ありえねぇ~!?」と度肝を抜かれた程に不可解な内容だった為、正直なところ気になっていたのだ。

 視察している間に青年の目を盗んで不知火達とこっそり情報を交換したが、報告書に偽りはない様子であれだけ警戒心丸出しだった木曾や任務に忠実な不知火が大人しいのだ。送り出した時と今とでは別人ではないかと思うほどだった。龍驤には「色々あってん」と言われる始末で、鳳翔は赤城と加賀の面倒を見ているが雰囲気は柔らかく、ここへ来る前の優しい彼女と変わっていなかった。あれだけ間宮と共に覚悟を決めていたのになにがあったのか?何やら意味不明な事ばかり起きているようで、明石も張りきって装備の開発に手を染めており、妖精達は青年に懐きお菓子を強請る姿が確認されている。軽視派のような艦娘を蔑ろに扱う人間には近づかない妖精達なのだが……何故だ?大淀もまるで青年のことを信用しているみたいであった。

 

 

 瞳の中に熱い覚悟と闘争心を宿した仲間がこうも変わって……いや、元に戻ってしまっている。美船元帥と一緒に居た時となんら変わらない姿がここにある。何故だ?何があった?前提督から酷い目にあったにもかかわらず吹雪達も笑顔を浮かべていた。ここで建造された熊野達も青年のことに対して微塵も疑いを持っていない。そして先ほど見た鈴谷達とも嫌悪感を現すことなく平然と会話をしていた。艦娘のような醜さの塊を好む輩はいない。男なら尚更だ。艦娘達の容姿は極めて醜悪、軽視派の人間でなくても仕事として接するのが主だ。「優しく扱ってしまって好かれでもしたら堪ったものではない!」と多くの者は思っているだろう。元帥の前だからと嫌悪感を隠しているだけかと窺っていたがそうではないらしい……特に島風と言う艦娘が居たことが何よりの証拠だ。

 建造された艦娘の詳細を大本営に通達する際、青葉のカメラで容姿を収めた写真が元帥の下へと届いた時に漣と五月雨も一緒にその姿を拝見していた。自らの醜さをわざわざ晒すように肌を披露している彼女を見て同じ艦娘であっても一瞬戸惑ったぐらいだ。しかしどうだ?青年は島風を見ても嫌そうな顔はせず、話している最中は目を離すことはなかった。実はちゃっかり麗しき生肩にムチムチのお尻、魅惑の太もも、見れば見るほど吸い寄せられてしまいそうなおへそをしっかり盗み見ていたが、それは漣の知らぬところであり、知らない方がいいことだ。

 

 

 豚野と会っていたことも気になるがそれを追求するのは自分の役ではない。漣は己の感性で青年の化けの皮を見極めようとしていた。そこで艦娘の容姿に対してどう思っているのかを本人の口から聞き出そうとしているのだ。

 

 

「五月雨の容姿についてだと?」

 

 

 青年の顔が渋る。やはり艦娘に対して寛大な態度は嘘だったのか……我慢強く、演技力がずば抜けていただけで吹雪達を騙し続けていたのか!?このクズ野郎ー!!!と漣の内心では結論が出そうになったが、意外も意外な言葉が青年から漏れた。

 

 

「ふむ……かわいいな」

 

「ふぇ!!?」

 

「……はにゃ?」 

 

「ん?……んぁ!?」

 

 

 今なんと言った?漣の聞き間違えなのか耳を疑ったが気になる人物をふっと見ると、五月雨の顔が真っ赤に染まっている。反応を見るに聞き間違いではないようだ。質問に答えたと言うよりも呟きが聞こえた。本人もうっかり口走ったようで気づいて慌てている様子だ。

 

 

「あっ、い、今のは口が滑っただけで……ってそうじゃなくてだな!」

 

 

 漣は慌てふためく青年の様子から想像とは裏腹な印象を受ける。真面目だが何処か抜けているところなんてまるで「ご主人さま」と呼ぶ彼女のようだ。そんな訳があるはずがない……そう否定したい。だがその姿と重なってしまい、複雑な感情が生まれる。

 

 

「――ゴホン、んぁ……お、俺が言いたいのはだな、容姿なんて関係ないと言うことだ」

 

「……どういうことですかそれは?」

 

「それは……そう!吹雪達と約束したからな」

 

「約束……ですか?」

 

「ああ、ここはおっさn……前提督の所業で仲間を失った吹雪達は辛い思いを今までずっとしてきたんだ。俺は訓練学校を卒業したての新米だがこの若さで提督になることができた。しかし俺も一人の人間だ。艤装を扱い、軍艦と同じ力が発揮できる艦娘達を化け物と呼ぶ者がいるが、吹雪達を見ていると人間とどう違う?と疑問に思う。確かに建造で生まれ、傷もドックに入れば(たちま)ち元通りになってしまう。しかしあいつらが見せる表情は人間と差なんてない。姿も形も人間の女の子と変わらない。苦しい、痛いと感じれば涙だって流したし、嬉しいと笑うんだぜ?それなのに最前線で人間ではどうしようもできない深海棲艦相手に戦っているんだ。深海棲艦は馬鹿ではない、学び、強くなり何度でも向かって来る。提督……いや、人間と艦娘がバラバラで勝てるほど甘い相手ではないんだ。このままでは確実に日ノ本は落ちる」

 

「だから容姿なんて関係ないと?」

 

「……まぁ、それもある。それなりの答えを言ったつもり……だが簡単に言えば俺がそうしたいと思ったからだ。容姿でどうこう言うよりもまず提督なったからにはやるべきことをやらねばならない。まずあいつらの待遇改善を約束したがそれだけで終わりじゃない。あいつらは共に戦う仲間なんだ。俺は前線に出ることはできないが、サポートすることはできる。戦えない俺の代わりに最前線に出るあいつらを支えてやるのが提督の役目だ。気を張り詰める必要なく生活でき、笑って暮らしていける毎日を与えてやらなければならない。戦争は非情だ、だが俺はそれでも誰も轟沈しない鎮守府を作るつもりだ。他人がどうこう言おうと俺がそうしたいと思ったんだ。それに仲間に対して無礼で接するなんてカッコ悪いだろ?」

 

「「……」」

 

 

 軽視派の人間から出た言葉とは思えないものだった。人間の言葉なんてものはそれらしく振舞えば美しく見えるものだ。嘘偽りで塗り固めた言葉のはず……思い描いていたイメージと異なっていた。大淀の報告書通りの善人に見えているのは全てが演技だと……そう思っていた。しかし実際に本人に会って見ればその思いが揺らぎ、二人の心に彼の言葉が直接響いた。彼女達の瞳にはそこには居ない人物の姿が浮かぶ……己の心情を語る青年と自分達の敬愛する人物と重なってしまったのは錯覚ではなかった。

 まさにこの人は善人の鑑のような人物だ!と思われるかもしれないがそんなことはない。これも姑息な青年の作戦だった。漣に「五月雨の容姿はどうか?」と聞かれ、ちらりと五月雨を窺えば、いきなり話題を振られてしまって焦る彼女の姿はとても愛らしく、呟きを拾われてしまった青年は焦った。しかしその時ティンと来た。「この状況利用できる!」と判断し実行に移す。

 

 

 ここは青年にとってあべこべ世界である。艦娘達は自身の容姿に対してコンプレックスを持っているので、いい人間を演じるならばそれを利用するのが一番である。「容姿など関係ない」と強調することによって艦娘の警戒心は緩み心に隙間が生まれる。そこにそれらしい理由を並べて艦娘を信頼していると語れば青年のことを軽視派の人間だと理解していても敵意は揺らぎ、迷いが生じてしまうわけだ。そう簡単には信用を得られないことなど承知の上ではあるが『自身の容姿を貶されなかった』ということは記憶の片隅に植え付けることができる。後はゆっくりと迷いが意志を侵食していくのを待つだけ。ミスを姑息な手で誤魔化してついでと言わんばかりに人心掌握しようと咄嗟に行動できるあたり青年はやはり汚かった。

 

 

 それから少しして漣と五月雨が呆然としていたところ部屋から美船元帥が出て来た。美船元帥は一度○○鎮守府R基地に所属している鈴谷達と折り入った話があるとのことで彼女達だけの対談が終わったようだったが、今度は青年と二人っきりで話がしたいと申し出た。彼は当然これを承諾すると漣と五月雨と別れ、粗相が無いように美船元帥を執務室へ案内した。ちょっとお高めのお茶を出そうかと思ったが必要ないと断られてほんのちょっぴり凹んだがそれはともかく早く本題に入りたい様子の彼女だったのだが……

 

 

「外道提督、彼女達をここで養ってもらえないだろうか?」

 

「………………………………………………はっ?」

 

 

 予想外の発言により青年の目が点になってしまった。間抜けな面を見せてしまっただろうがこれは仕方ない。美船元帥が鈴谷達を管理した方が適任のはずだったのだ。理解が追い付かない彼に対して美船元帥は一度咳払いをして改めて詳しい内容を語りだした。

 

 

 まず○○鎮守府R基地の豚野提督の所在だが、病院に入院中だそうだ。何故病院?と思ったことだが、豚野は逃げる際に慌てて車道に飛び出しトラックと衝突し、死にはしなかったが重傷を負ったそうだ。しかも事故に遭ったせいか記憶を失っており、自身が提督であったことを忘れてしまっている様子だった。これには青年も驚いたがすぐに笑みに変わる。豚野の結末に「自業自得だ!ざまあみろwww」と積もり積もった言葉が口から出そうになったが我慢した。代わりに内心大笑いしており肩を震わせていた。守衛も確保され、尋問を受けているそうだ。すぐにでもあの鎮守府が抱えていた闇は表舞台に明るみになることだろう。そして守衛程度が青年と豚野の会談内容まで知ることはないので、彼にとって都合の悪いことのみが闇に葬られることになった。風向きは青年に向いている……まるで()()が彼を擁護しているかのようだった。

 

 

 

 責任問題が残ることになるが、関係のないことだと青年は思っていた。何故なら彼はただ『()()()()()()()()()()()()』に呼ばれただけなのだから。偶然あの場に居ただけなので無関係なのだ。逃げ出した豚野の代わりに深海棲艦から鎮守府を守り抜いたのだから絶賛されるべきであって責任問題は発生しない……っと思っていた。

 なのに何故美船元帥は鈴谷達を養ってもらえないかと言って来たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し前に遡る。大切な話をする為に青年にわざわざ時間を作ってもらい鈴谷達と対面する美船元帥。立ち話もあれなので、座ってゆっくりと落ち着いて話し合おうとしたが、様子を窺うと彼女達は緊張していた。そもそもの話、いきなり軍のトップの登場で頭が混乱している状態で「話がしたい」と言われれば落ち着ける訳が無い。幸いなことに鈴谷達にとって少しばかりか心に平穏が訪れている。美船元帥が艦娘の味方であることを知っていたこと、失礼なことだが自分達のような醜い容姿と対等な顔を持っていたことが緊張をほんの少しだけ和らげてくれている……微々たるものであったが無いよりかはマシだ。

 カチコチの鈴谷達……そんな彼女達に対して美船元帥はいきなり本題をブッ込んでいくことはしない。まずは緊張を(ほぐ)す為に体の調子から他愛もない話までゆっくりと会話する。今まで辛い人生を送って来た艦娘達と向かい合うことでどうすれば心を開いてくれるのか、警戒心を解くにはどうしたら一番いいのか、自身は元帥の立場であるが故に階級の差から本心を打ち明けてくれないことも多い。彼女達の本心を聞き出す為には対等に見られなくてはならない為どう接すればいいか経験に経験を積んで身に付けた技術だ。この技術は役に立つが出来ればこんな技術を身に付けたくはなかったと思っている。それほどまでに心に傷を背負った艦娘が多かったことを証明する証になっているのだからままならぬ気持ちになってしまうのだから。

 

 

 初めはカチコチで話すのも遠慮しがちになっていた鈴谷達だったが、意外と話している内に緊張が(ほぐ)れるのは早かった。美船元帥に対して敬語で話していた鈴谷が普段通りの彼女になったことから周りも崩れていき、対面した時よりも空気が軽くなった。

 

 

「聞きたいことがあるの。外道提督は何しにあそこに居たか知ってる?」

 

「出迎えたのは鈴谷だから……何か知っている?」

 

「ううん、鈴谷も案内しろって言われただけで……」

 

「ふむ(この子達は何も聞かされていないか。『制海権を取り戻した祝宴会』を開くならこの子達も多少のことは知っているはずなのに……)」

 

 

 夕張も案内した鈴谷も詳しいことは知らなかった。長門からの報告と一致する。隠しごとをしているのは明白ではある。しかし偶然にも訪れていたあの日に深海棲艦の侵攻と重なったことで皮肉にも国は守られた。豚野だけであったなら未来はなかったと言える。まるで青年は()()にでも愛されているかのようだ。

 それからあまり思い出したくない過去を話さなくてはならず鈴谷達の表情が優れなくなるが、どうしても確認しておきたいことが美船元帥にはあった。

 

 

「あなた達に聞きたいことがあるわ。あなた達にとって外道提督はどう映ったかしら?」

 

「どう……ってどういうこと?」

 

「……あなた達、豚野提督の下に帰りたい?」

 

「「「「「いや!!(です!!)(じゃ!!)」」」」」

 

 

 誰もが同じ意見で咄嗟に口から出た言葉だった。言ってから気づく……自分達は元帥相手に何を言っているのだろうと。しかし全員の意思は揺るがぬ一つの結果が言葉として形となっていた。

 

 

「あいつの下に帰るぐらいなら……いっそ解体された方がいい!!」

 

 

 ○○鎮守府R基地で第一艦隊の旗艦を務めていた鈴谷が心の底からの思いを言葉にした。誰もが止めなかった。それはこの場にいる全員の意思だった。息も絶え絶えに美船元帥を睨む……美船は何も悪くない。しかしまるで美船元帥を敵視していたのは豚野の下に帰されると思ったからだ。またあのような地獄を受け入れなければならないのなら解体された方がましだと……

 「はぁ……」と沈黙する間に美船元帥のため息だけが響く。

 

 

「これじゃまるで私が悪党みたいじゃない」

 

「当然じゃ。吾輩らに意地悪するお主の方が悪いと思うぞ?」

 

「と、利根姉さん!?す、すみません元帥!!」

 

 

 ムスッとした態度の利根に姉の代わりに謝り倒す筑摩だが、全員心の中では利根と同じ意見だった。美船元帥のちょっとした意地悪だったようだがさっきの質問は心臓に悪い。元帥を睨みつけている翔鶴と夕張の姿もそこにあったぐらいだ。

 

 

「謝る必要ないわ。ごめんね、ちょっと意地悪だったわね。豚野は今は病院だからあなた達が帰されることはありえないから心配しないで」

 

 

 何故病院?と思ったが豚野のことなんでどうでもよかった。姿を思い出すだけで嫌な思い出が蘇る奴の話題など考えたくもなかった。しかし何故このような質問をしたのだろうか?と不思議に思う。

 

 

「ねぇ、元帥さんはどうして外道t……外道さんがどう映ったか?なんて質問したの?」

 

 

 瑞鶴が尋ねる。外道提督……青年の名が出た時、誰もが彼を提督と呼びたかった。でも呼んではいけなかった……彼は彼女達の提督ではないのだ。しかし逃げ出した豚野に代わり、夕張と共にサポートしてくれた人であり、唯一自分達の身を心配してくれた人だった。彼の存在が彼女達の中で大きく残るのは当然のことだった。

 艦娘は提督を求めている。しかし瑞鶴達には提督と呼べる存在がいなかった。豚野のことを提督だと思いたくなかった。心にぽっかりと空いた穴は一生埋まることがないと思っていた……しかし運命とはこのことを意味するのだろう。彼女達の前に現れた一人の青年は深海棲艦に逃げずに立ち向かい、醜い自分達と共に崩壊した鎮守府から命をかけて支えてくれた。まさに彼こそが彼女達が求めていた提督だった。この人について行きたい……けれど現実はそうはいかない。諦めていた……だからだろう、瑞鶴だけではない。

 

 

 誰もが青年のことを『提督』と呼べなかった理由だ。決して言ってはいけない……言ってしまえば更に求めてしまう。ただただ虚しい思いが募るばかりで無駄な思いを抱いてはダメだと思っていた。

 

 

「それはね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達、彼の艦娘にならない?」

 

 

 きっとこれは神が与えたチャンスだと誰もが疑うことをしなかった。だが同時に思った……迷惑をかけてしまうと。鈴谷達の心の中で葛藤が生まれる。望んでいたチャンスをものにできるが、自分達があの人の艦娘として相応しいのか、求めて良いのか、先ほどまで諦めていたのに手のひらを反すように考えを変えてしまっている自分は卑しいだろう。それでも提督を求めてしまっている鈴谷達の渇望は留まるところを知らない。悩み、悩み、悩みに悩んでも答えが出て来ない。もうどうすればいいのかわからなくなってしまった時、それは彼女達の脳内に響いた。

 

 

 『「なれるって聞くな、なるんだよ。幸せってのは手を伸ばさなければ向こうも伸ばしてくれない。幸せになるのを諦めている奴の下にはやって来ないし、諦めている奴は何が幸せかなんてわからない。幸せってのは待っているだけじゃダメなんだ」』

 

 

 だから彼女達は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 己の幸せの為に……求める為にその手を伸ばした。

 

 

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