あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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遅くなりましたね。それでも待っていてくれる読者の皆様には感謝です!


それではそろそろ……


本編どうぞ!




2-10 提督と元帥と艦娘達

「……と言うわけだ」

 

「そ、そうでしたか……」

 

 

 結論から言えば、鈴谷達の引き取り先はここ○○鎮守府A基地に決まり、面倒は俺が見ることになった……ってなんでやねん!俺はあんたから見たら憎き軽視派の人間だぞ!?艦娘をボロ雑巾のようにこき使い、挙句の果てに仕えなくなった道具のように捨てる奴だぞ?それはあんたが一番嫌いな相手だろが。それなのに預けるか?自宅に侵入していた泥棒に鉢合わせして「全財産預かってくれない?」って言っているようなもんだぞ!?いや、戦力が増える意味ではありがたい、ありがたいのだが……おかしいだろ!!?

 

 

 そう思うのも無理はない。執務室へと案内した青年はこれから『俺はいい人間様だぞアピール大作戦』を実行に移そうと思っていた矢先、前振りなどなく美船元帥から鈴谷達を引き取って欲しいと申し出た。腹の探り合いをしながらの息を呑むほど緊迫した空気の中での駆け引きを行うつもりであったのにこれである。軽視派の人間に我が子のように愛する艦娘を預けようとするなんてどうかしている。この人物なら尚更だ。それなのにどうして……?

 

 

「し、しかしこんな小さな鎮守府よりももっと良いところが沢山あるはずですが?」

 

……そうであったならばどれほど良かったか……

 

「元帥殿?」

 

「いや、なんでもない。しかしだ、彼女達がここに居たいと言ったんだ。たった一日とは言え彼女達と共に無数の深海棲艦相手に戦った。本来ならば豚野提督……いや、今は提督ですらないな。豚野が指揮を取らなければならなかったところを君が代わり、深海棲艦を撃退したことは素晴らしい結果だ。損害も小さくはなかったが立て直しすることはできる。しかし命に代わりなんてない。中には艦娘は建造できるからと……代わりがいくらでもいるからと粗末に扱う輩が居るようだがね」

 

 

 後者の言葉には怒りが込められていた。やはり艦娘を家族同然に接してる美船元帥にとって言葉にするだけでも腸が煮えくりかえるのだろう。

 

 

「戦争は非情よ、誰かが犠牲になることは避けられないことだってある……でも君は誰一人として轟沈させることなく勝利を掴んだ。君の話は夕張から主に聞いているわ。ずっと夕張と共に鈴谷達をサポートしてくれていたみたいね」

 

「いえ、あれは提督として当然のことをしたまでで……」

 

「当然のことを……ね」

 

 

 何か言いたそうだな。まぁ、あんたからしたら俺は敵な訳だし、思うことは沢山あるだろう。しかし予想外の出来事が発生してしまった。俺にとっては利益になる話だが、あんたにとっては損な結果となるだろうに……例え鈴谷達がここに居たいと申し出ても軽視派の人間が嫌いなあんたなら認めないはずなのにどういう風の吹きまわしだ?これは何かあるな……少し小突いてみるか。

 

 

「美船元帥殿、確かにおr……ワタシは鈴谷達をサポートしました。何より自国の存亡の危機で豚野r……豚野提督が責務を放棄したことで急遽未熟者であるワタシが代わりに指揮したまでのことです。運よく深海棲艦を撃退することに成功しましたが、もっとワタシに実戦経験があれば彼女達の負担を減らせたかもしれませんし、ただ提督としての仕事を全うしただけであって何も特別なことはしていません。彼女達が申し出たとしてもここは小規模な鎮守府です。彼女達の実力はこの目で拝見しました。彼女達の実力ならばもっとその力を発揮できる場所に配属された方がお国の為にもなるかと……」

 

「外道提督」

 

「……な、なんでしょうか?」

 

 

 美船元帥の声質は低く、真剣な眼差しが青年を射抜く。

 

 

「あの子達はね……外道提督がいいと言ったんだ」

 

「……んぁ?どういうことでしょうか?」

 

「私は今まで多くの艦娘達と関わって来たつもりだ。しかしその多くは心の底から笑ったことがない子達ばかりだった」

 

「……」

 

「全ての艦娘がそうではない。中にはちゃんと笑っていた子も居たのだが、どこか物足りなさを抱えていた。艦娘全員に共通しているたった一つの問題点が原因だ。しかしそのたった一つのせいで彼女達には真の幸せを手に入れることができない……君から見てもわかる通りだ」

 

「……何が、でしょうか?」

 

「わかっているだろう?艦娘は……いえ、彼女達だけではない。私も……()()だろう?」

 

「いえ、すt……」

 

 

 「いえ、素敵ですが?」と口に出てしまいそうだったが噤んだ。仕方ないと言えばそうである。この世界はあべこべ世界、前世の記憶が蘇る前までは美船元帥の容姿は不細工に見えていた。今では青年がイレギュラーな存在となり、不細工に対して厳しい世界だ。彼女も艦娘に負けていない容姿の持ち主。しかしイレギュラーは青年のみ、彼の瞳に映る彼女はとても美しく見えるが、その美しさとは裏腹に自らのことを()()と称している彼女の瞳はどこか寂し気である。

 

 

「……醜いか、そうでないかなんて関係ありませんよ」

 

「……なに?」

 

「あなたの活躍は耳に届いています。美船元帥殿は今まで艦娘達の為に身を(てい)して彼女達を救ってきました。人間は欲深い生き物です。口では綺麗な言葉で飾っても内心ではそんなことこれっぽっちも思っていないなんてことがありえます。ですがあなたは艦娘達の為に実際に行動を起こしたのは多くの人が知っている事実です。あなたは彼女達が苦しむ姿が耐えられなかった、女性の姿をしているのに道具のような扱いを受ける彼女達を救いたかったはずです。それを間違っているなんてワタシは思いませんし、自らを誇ればいいじゃないですか」

 

()()だと?」

 

「はい、醜いからなんだ、それがどうしたって文句を言って来る奴に胸を張って言ってやればいいじゃないですか。実際艦娘が活躍しなければ人間なんてちっぽけな存在です。艦娘が味方についていなければ深海棲艦に蹂躙されるのを指を咥えて黙って見ているしか出来なくなってしまうと言うのに……ですが艦娘はそんな人間達を、提督を求めてくれました。彼女達が必要ないと言えば人間なんて価値のない存在になっていたんですよ今頃は。でも必要としてくれた。だから我々は彼女達の想いに応えて上げなければならないのです」

 

「……」

 

「そもそも艦娘には人間にはない力があります。艤装を装備すれば軍艦の力が発揮でき、その力で深海棲艦を撃退できる唯一の存在です。ワタシは訓練学校卒業した後、ここへ配属されましたが、来て早々艦娘が抱える闇を見ました。吹雪達が散々酷い目にあったことは本人達の口から聞きましたし、あいつらの目を見ているとわかりました。国の為、人の為と頑張ってきたのに容姿のせいで受け入れてもらえず辛い日々を送って来たんだと……この鎮守府の有様がまさに証拠でした。醜いから理不尽な目に遭う……しかし艦娘がいなければ今頃自分達は既に深海棲艦に滅ぼされていたに決まっています。彼女達が居るから人間がいる。人間がいるから彼女達が戦えるのです。身勝手なことばかりしている我々の為に必死に戦ってくれる彼女達を蔑ろに扱う方がどうかとしていると思います」

 

「……」

 

「美船元帥殿は艦娘達と共に数々の功績を世に示して来ました。それなのに醜いからと言うちっぽけな理由を武器にして攻撃してくる人物はいるはずですが、そんなの気にするなとは言えません。ですが胸に誇りをもって堂々としていればいいのです!それでも攻撃してくる奴には『だったらお前達も同じことができるのか?』って言ってやればいいんだ。まぁ、外見に囚われ能力をろくに見ずに判断しているならそもそも功績なんて残せるものではないし、他人を蔑ろにする奴にそんな偉大なことが出来るとは到底俺には思えねぇけどな……クヒヒ♪」

 

「……」

 

「――はっ!?あ、いえ、今の言葉遣いは失礼でした!!申し訳ありません!!それと先ほどの語りはただ何と言うかその……熱くなったと言うか……そ、そんなことよりも美船元帥殿は偉いお方ですので堂々としていればいいと思いますねはい!」

 

「……ふっ、堂々としていればいい……か。そう言えば長門にもそのようなことを言ってくれたらしいな?」

 

「えっ!?あ、はいそう……でしたっけ?」

 

「ああ、そうだったぞ」

 

 

 確かに昨日そんなやり取りをしていた気がする。軍艦としての名に引っ張られ自身を見失っていたな。軍艦の長門と艦娘の長門は別だってことを教えてやった。ああいうリーダーシップを持つ奴は色々と他人に相談できない悩みを持っていやがる。弱みを見せられないとかつまらないことで胸の内にどんどん抱え込んでしまうタイプが多いからな。「そう言ってもらえると……気持ちが楽になる」とあいつは言っていたが、まさかまた小さなことで悩んでいるんじゃないだろうな?メンタルケアは欠かせませんぜ美船元帥さんよ、ちゃんと面倒見てやんな……ってまた得にもならないこと考えてんだ。俺にとって関係のないことだろうがよ……

 

 

 何故か自身の戦力とは関係なく、別に心配せずとも自分のところとは何の影響もないだろう元帥側所属の長門の体調を心配してしまう自分自身が嫌になる。もしも誰かが心を読むことができるならば彼をお人好しと呼ぶのかもしれない。本人は決して認めないだろうが……

 

 

「ふぅ、愚痴を言ったみたいですまないね。そうだ、君の言う通り容姿なんて関係ない。仲間内でこんなことに時間をかけてしまっている今の状況は馬鹿げている。私達が今やることは深海棲艦から国と人を守り、艦娘と共に良き隣人としてお互いに手を取り合える未来を創ること。その一歩として鈴谷達の思いを無駄にしたくはないと私は思っているのよ。辛い現実から目を背け、人間に反旗を翻してもおかしくない心境のはずなのに、君は彼女達の信頼を勝ち取った。そんな君に彼女達を任せたい。引き受けてもらえるか?」

 

 

 戦力が増えることは優位に立つことだ。まだまだ○○鎮守府A基地は戦力が乏しいのは事実であり、青年が断る理由はなくなった。当然答えはYES。こうして鈴谷達、元○○鎮守府R基地の最後の戦力が彼の下へ降ることになった。

 

 

 予想外の収穫だったが、結果的には俺が得したから問題ない。しかしだ、俺が軽視派の人間だと知っているはずなのに鈴谷達を引き止めることなく任せようとするとは……あいつらの意思を尊重したわけか。ずいぶん艦娘には甘いようだ。まぁ、俺が得したわけだからこれ以上何も言わないでおくが……美船元帥さん、あんたはすげぇ奴だよ。不細工な奴が理不尽な目に遭うのが当たり前のこの世界で、前元帥さんの信頼をその容姿で勝ち取ったんだ。それだけじゃねぇ、人間に対して良い感情を持っていなかったであろう艦娘達も味方につけた。こうして軽視派である俺に対しても一歩も引かずに自ら視察に出向くなんてそうそう出来ねぇことだ。あんたのこと……ちょっとは見直したぜ。気に入らないが海軍のトップに居る訳だし、俺が昇進していくにはあんたが元帥を続けてもらわなければ困るからな。いいぜ、鈴谷達の面倒は俺が見てやるよ。

 だが俺に戦力を与えて良かったのか?俺の()()()()ムーブで吹雪達はコロッと騙されやがった。最後には捨てられるなんて微塵も感じずにな。いつかは後悔することだろうよ、あんたが俺を利用しようとしているのか胸の内に何を隠しているか知らねぇが、俺が数々の成果を上げ、英雄視されればあんたが反対しようとも世の中が俺に味方し、逆にあんたよりも俺が元帥に相応しいと周りが声を上げるだろう。そうなれば俺が元帥の座に就くことになる。その時は快くあんたから元帥の座を譲り受けてもらうから覚悟しとけよ!! 

 

 

 ★------------------★

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 

 ……っと擬音が目に見えるほど緊迫した空気が食堂を支配していた。

 

 

 ○○鎮守府A基地の食堂は食事をする場所だけでなく、この鎮守府に所属する艦娘達の団欒の場でもある。この場で普段とは違う空気を生み出していた人物がいた。

 

 

「……二人共、わかっていますか?」

 

「「すみませんでした鳳翔さん」」

 

 

 『お艦』こと鳳翔が正座した赤城と加賀を見下ろしてお怒りだ。何故このような状況になったのか説明すると……

 

 

 青年が軽視派だと知っている赤城と加賀は当然彼に対して敵意を持っている。そんな相手の下で二人が「母」として慕う鳳翔が囚われている(別に囚われていない)彼女の身を案じるあまり周りのことなど目にも入っていない。傍で会話を聞いていた大淀はこの状況は非常にまずいことだと判断する。何故なら青年が軽視派の影響を強く受けていることを知っているのは秘密であり、○○鎮守府A基地に元々所属している吹雪達や新たに建造された熊野達はそのことを知らないのである。自身が信頼していた提督が艦娘を道具程度にしか思わぬ連中の仲間であったなんて知れたら……熊野達は少々戸惑うぐらいで済むかもしれないが、吹雪達は違う。

 彼女達は今まで軽視派の前提督から酷い仕打ちを受けて姉妹艦を失っている子も居る。軽視派と言うだけで恐怖の対象になっていた。またあの光景を思い出すかもしれない。もし信じていたのに裏切られたと感じてしまったら精神的に大きなダメージを負って誰も信用しなくなってしまうかもしれない。自暴自棄になり何が起こるかわからない危険な状況に陥ってしまうかもしれない。それは避けねばならなかった……が、案外そんなことは起きないのでは?とも思えてしまう。

 

 

 どこか憎めない若者、ちょっと怖いけどイケメン顔だが鼻血を頻繁に出す変人、隠れて悪行三昧なことをしている証拠もなく、寧ろ不細工な艦娘に優しく接してくれる不思議な提督……それが青年だ。イメージと全くもってかけ離れていた人物であったが、吹雪達の事を考えて彼が軽視派であることを伝えるのを避けている。最悪な状況にならない為にも保険はかけておいた方が安全だ。

 ……っと言うわけで、大淀は鳳翔と一航戦コンビとの成り行きを見守っていた。大淀に視線を向けられても気にも留まらぬ赤城と加賀は鳳翔を説得するのに必死になっていた。このまま鳳翔をここに置いておけばいつかは酷い目に遭ってしまう。周りのことなど眼中に収まることすらなく、一航戦とは思えない程だ。

 

 

 一航戦と言えども赤城と加賀であっても同じとは限らない。別の鎮守府に居る赤城と加賀であるならばこうはいかないだろう。ここに居る赤城と加賀は「母」と慕う鳳翔を一番に考えてしまうタイプのようだ。周りのことなどお構いなしに……今までのことを考えれば仕方ないが、このままだと非常にまずいと大淀と同じ考えの鳳翔は感じている。落ち着くように言っても興奮状態の二人には届かず「あの男は危険なんです!」「あの男、頭に来ます」と隠すことなど頭の中から抜け落ちてバレバレだ。吹雪達や熊野達のことよりも鳳翔を優先する彼女達の気持ちもわかるが、このままでは青年にも耳に届くはずだ。自分達がスパイとして探りを入れていたことがバレてしまう。目の前の我が子同然の赤城と加賀、「母」として慕ってくれる彼女達の行動が自分のことを最優先に考えて行動してくれているものだとわかるし、それはとても嬉しいものだが……どうしても鳳翔は我慢できないことがある。

 

 

「で、でも……鳳翔さん」

 

「赤城ちゃん、あの方はまだお若いけど今は私達の提督なの。それを『あんな男』と言わないで。加賀ちゃんもわかった?」

 

「「……」」

 

「返事は?」

 

「「………………………………………………はい」

 

 

 鳳翔はここへやって来てから青年を間近でよく見てきた一人だ。軽視派なのか疑いたくなるような善良な男性だった。『鳳翔は居るだけで艦娘の士気を保つことができる便利な置物』として美船元帥と出会う前は仕事一つこなすことも許されなかった。しかし青年は鳳翔と間宮に食事を一任して、必要な物があればなんでもリクエストできるようにカタログまで備えてくれた。「包丁や火を扱う時は気をつけろ」と注意してくれたり「水を使うことが多いからな手袋を使え」と些細な事まで気遣ってくれた。美船元帥を除いて彼だけだ。何の力もなれなかった自分に仕事を与えるだけでなく、気にかけてくれることが嬉しかった。美船元帥と一緒に居るような安心感があった。彼女自身もこの青年の優しさに何度も触れている内に毒されてしまったのかもしれなかったが、居心地はとても良いものだと感じられた。

 初めは鳳翔も敵視していた。動向を探る為、残された子達を救い出す為に自ら名乗り出た身ではあったが、共に生活をしていく内に考えを改めることになった。青年が悪い人には見えなくなっていた。彼が時折見せる笑顔は嘘偽りのないものだと感じられ、醜い艦娘相手に対して嫌な顔一つせずに接する姿に悪い要素があるとは思えない。赤城と加賀が敵視するのは正しいはずだ、正しいはずなのだが……敵には見えないし、思えない。いや、思いたくないのだ。他人には「健康には気を付けろ」と言っておきながら、仕事を優先しようとするあまり食事の時間や睡眠時間を減らそうとして間宮と鳳翔に怒られたこともあった。怒られるのが怖くて言い訳をして逃れようとするが結局は説教魔の二人に抗えずブルブル震える姿は大きなお子様のようで、実は保護欲を掻き立てられてしまっていたりする。それを抜きにしても青年は鳳翔から見ても理想の提督の姿だった。

 

 

 ここ○○鎮守府A基地で過ごした時間は温かいものだった。そう感じたのは鳳翔だけではない。共に食堂を切り盛りする間宮、大淀と明石もそうだ。龍驤だって想像とかけ離れた現実に何度も頭を抱え、堅物であった不知火や敵意を隠しきれていなかった木曾ですら青年の虜に(本人は否定するだろうが)なってしまっていた。色々あったがどれも楽しい時間で演技によるものだとは思えなかった。しかし軽視派の人間である矛盾……それでも鳳翔にとって今の提督は彼である。

 前提督から酷い仕打ちを受けていた吹雪達を自分達が来る前に既に救い出してしまった彼、同じ空間で過ごしていれば性格や好き嫌いをある程度把握できるようになった。その人の良さも……そんな彼に対しての知らぬとは言え、無礼を働く赤城と加賀の二人に我慢が出来なかったのだ。

 

 

「いい?赤城ちゃん、加賀ちゃんも自分の行いを反省しなさい」

 

「「……」」

 

「へ・ん・じはどうしたのかしら?」

 

「「………………………………………………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~流石鳳翔さんですね。あ、一枚……」

 

「もう青葉さん写真撮っちゃダメですぅ」

 

 

 一航戦コンビが怒られる光景はきっとレア物だろう。青葉は特ダネになるとカメラを手にシャッターを切る。その行動に呆れかえる吹雪。一航戦コンビが怒られている詳細は吹雪達からしたらよくわからないものだったが○○鎮守府A基地に所属する艦娘誰ものが共通認識として鳳翔を怒らせたらダメだと再認識させられる。鳳翔と間宮を怒らせたら待っているのは説教(ありがたいお言葉)を頂戴することになる為、そのお言葉を何度も授かっている青年が苦手意識を持ってしまうのも無理はないことだ。そのことがもはや暗黙の了解となっていたことは言うまでもない。

 

 

「……赤城さんと加賀さんって思っていたのと何だか違う……」

 

「なんだ吹雪?あの二人に何か思うことがあるのか?」

 

 

 吹雪はボソリと呟きを拾ったのは木曾だ。

 

 

「いえ……ちょっと一航戦の赤城さんと加賀さんってカッコいいイメージがあったのに、想像と今のお二人の姿が違うかったので……」

 

「そうなんですか?青葉は建造されてからそこまで経っていませんのでわかりませんが……木曾さん、そこのところどうなんでしょうか?」

 

「カメラを向けるな!ったく、まぁあれは鳳翔さん限定だな。あの二人も昔は色々と苦労したんだよ……」

 

 

 吹雪は一航戦の赤城に密かな憧れを抱いていた。まだ前提督だった頃、辛い現実から少しでも目を背けようと仲間内で流れて来る話を聞いたことがある。その中で一航戦の話があった。容姿は醜くとも誇り高く深海棲艦を撃破する一航戦の話を聞き、自分もそんな活躍をしてみたいと心の隅で思ったことがあったがすぐに捨てた。あの頃では今こんなにも幸せに浸ることが出来るだなんて想像も出来なかったからそんな思いを抱いても無駄だと諦めていた。だが心に余裕が生まれた今では意味がある。

 期待していたのだ。美船元帥が突如現れたことで気が動転したが、憧れの人物である赤城が居るのだ。声をかけてみようと思っていたが、二人は吹雪には目もくれなかった。二人の目は鳳翔にしか向いておらず(青年には殺気を向ける)今目の前では縮こまって正座した一航戦の姿が憧れた姿と異なっており不思議に思った。

 

 

 しかし目の前の一航戦の二人にも辛い過去があることを吹雪は知る。酷い仕打ちを受け、どん底に居た二人を救ったのは鳳翔だった。そこから鳳翔を「母」と慕う経緯について木曾から語られて納得した。その話を聞いた吹雪と青葉の表情が曇るのは必然であったが、二人の曇り方は明らかに差があった。青葉は酷い人間が居るぐらいの認識だが、吹雪は前提督と同じ人間が他にも居たことに恐怖する。散々手荒に扱われ、来る日も来る日も怯える毎日でいつか自分も海の底に沈んでいただろう。そう考えると体に震えが出る。ここまで二人に認識の差が生まれるのは経験の差であったが、こんな苦しい経験ならば味わわない方が断然いい。でも忘れてはならない、今まで沈んでいった仲間達そして姉妹艦の分まで生きていかなければならない。だからこそ、○○鎮守府A基地に残された初期艦娘六人の心は青年の存在により支えられているといっても過言ではない。

 

 

「そうだったんですか……でも赤城さんと加賀さんは幸せだと思います。鳳翔さんや元帥さんに会えたんですから」

 

「……なぁ吹雪、お前は……青年(あいつ)に会えて幸せか?」

 

「はい!!司令官は私……ううん、司令官は私達にとって大切な人なんですから!!」

 

「……そうか」

 

 

 笑顔で答えた吹雪の言葉に偽りはない。人間と艦娘との距離が縮まれば深海棲艦に優位に立つことができる。しかし距離がグッと縮まることを許さぬように『醜さ』と言う壁が立ちはだかるが、ここでは何の意味もない。この場に居る誰もが同じことを思っていることだ。青年と出会えたことで人間を嫌いにならずに済す、今こうして毎日を楽しく過ごすことができる。木曾もそんな吹雪を見て否定することがなくなった。きっと彼女も変わったのだろう。周りを見渡せば吹雪や写真を撮ることに夢中な青葉と同じように誰一人として苦痛の表情を浮かべているものはいない……一航戦コンビを除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤城さんと加賀さんは相変わらずですね。安心しました」

 

「あの二人は鳳翔のことになると手が付けられへんようになるからな……そんで?漣は何の相談なんや?」

 

 

 一航戦が怒られている一方で食卓でお菓子を摘まみながら不知火と龍驤は釈然としない様子の漣と向かい合っている。大淀に聞こうにも今は忙しく、明石は夕張に会いたがっており熊野と共に鈴谷達に会いにこの場に行っていない。間宮は厨房での作業で邪魔はできず、木曾は吹雪と青葉を相手にしている。手が空いていた不知火と龍驤に相談を持ち掛けた漣であった。ちなみに五月雨は姉妹艦の時雨と夕立、那珂や島風と共に甘いお菓子を堪能中である。

 

 

「ありえねぇ~!?出来事があったんです」

 

 

 漣の「ありえねぇ~!?出来事」とは五月雨が青年に「かわいい」と言われたことだ。醜い象徴である艦娘の自分達を「かわいい」などと言う人間はいない。しかも男性がである。大淀の報告書通りのことが理解不能なのである。本人は容姿など関係ないと言っていたが、あの慌てっぷりから口を滑らせたものだと漣は見抜いている……つまり本音なのではないか?そう思ったのだ。実に艦娘にとっては「ありえねぇ~!?出来事」であった。そのことについてスパイとして潜入している仲間に相談しようと思い立ったのだった。

 その話を聞いて不知火は少し……いや、めっちゃ羨ましいと思っていたことは表情には出さぬものの、甘いお菓子を姉妹艦と共に食べている五月雨に嫉妬の念を向けていた。そのことを知らぬ五月雨はどこからともなく嫉妬の念を向けられているのを感じて震えており、その様子に首を傾げる時雨達の姿があった。

 

 

「ああ……そうか。まぁ、そないなこともあるわ……ここならな」

 

「ほぇ?どういうことですかね?」

 

「大淀の報告書見たやろ?つまりそういうことや」

 

「ますますありえねぇ~!?なんですがそれだと……」

 

 

 聞けば聞くほど理解できない話だ。龍驤も不知火も心では理解できないでいるが慣れと言うものは恐ろしく、慣れてしまえば「そういうもの」と納得してしまっている自分がいた。

 

 

「ウチにもようわからん。不知火もこんな感じになってもうて……腑抜けになってしもたわ」

 

「し、不知火は腑抜けになってなどおりません!!」

 

「せやろか?自分の心に聞いてみ?」

 

「……不知火に落ち度はありませんね」

 

「ほほう……お姫様抱っこされてどうなったっけ?」

 

「そ、そそ、そそそれは!?」

 

「不知火がここまで動揺する姿……レア物!?キタコレ!!気になり過ぎて何があったか聞かざるを得ない!!」

 

「不知火、言ってええか?」

 

「だ、ダメです!!!」

 

 

 龍驤のおちょくりに顔を真っ赤にして抗議する不知火。漣も滅多に見られない慌てふためく彼女の姿に興奮を隠しきれない。そもそも絶頂したなんて漣が知る訳がない。流石に報告書にはかけるはずもなく、彼女の名誉の為でもあったのだから。

 

 

「まぁ、お遊びをこれぐらいにして……」

 

「お、お遊び……」

 

「ウチが言えることは……想像していたよりも変人やったってことや。不細工ばかりが理不尽な目に遭ってきた環境がここではなんも意味ないねん。まるでここだけが別世界にでもなったと言われたら納得するぐらいにおかしな鎮守府……いや、あの若者が居るからそうなっていると言った方がええな」

 

「超絶ありえねぇ~!?話になってきているんですけど……理解不能」

 

「そない言うたってなどうしようもないねん。あの若者を他の連中と一緒にしたらアカンのや。折角やけどウチもわからんものはわからんのや。すまんな」

 

 

 青年の美的感覚が逆転していることなど誰にもわからない。ここに探りを入れる為にスパイとして入り込んだ龍驤も不知火もその事実を決定づける証拠はない。少なくとも数々の場面でやらかし(鼻血や魚雷装填(息子))てはいるが、それでまさかファンタジー要素が現実に存在するとは思いもよらないのだ。

 

 

「ウチらがここで過ごしている間は特に何も悪さをしている素振りはなかったわ。ホンマはそっちの方がええねんけどな」

 

「……ムムム、ご主人様になんて報告すれば……あっ、そう言えばご主人様からご報告があったんです」

 

「不知火達にご報告ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、そろそろ頃合いやと思っとったで」

 

「司令……不知火は……」

 

 

 龍驤と不知火の表情は浮かないものだった。漣からのもたらされた報告とは?

 

 

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