出会いがあれば別れもある……遂に大淀達とのお別れですがその前に。
それでは……
本編どうぞ!
雲一つない大空に君臨する太陽が地上へ己の存在を知らしめるかのように光を
「ふわぁ……あさ……かぁ……」
大きなあくびをして目が覚めた一人の艦娘……最上型の3番艦である鈴谷だ。ボケっとした表情で光が差し込む窓を眺めており、髪はボサボサだ。しばらくボケっとしていたが、ふとした拍子に我に返り、慌てながら隣の布団を確認するともぬけの殻。その結果に顔色が悪くなるが、テーブルに置かれた写真立てを見て安堵の吐息が出る。心臓の高鳴りも顔色も徐々に元通りに戻っていくが明らかに挙動がおかしいのには理由がある。
「よ、よかった……ビックリしたじゃん……」
写真立てには姉妹艦である熊野とのツーショット写真が飾られていたことでここが○○鎮守府A基地だと言う現実に安堵したのだ。
鈴谷は以前は○○鎮守府R基地に所属していたが、R基地が機能を停止してしまい現在は○○鎮守府A基地に所属することになった艦娘の一人だ。しかし彼女が居た鎮守府は言わばブラック鎮守府と呼ばれる地獄だった。ここに所属してまた一週間と経っておらず、この鎮守府の空気にまだ慣れきっていないが以前とは天と地ほど……いや、天国と地獄の差がある。無理のない遠征や出撃、ちゃんと整備された艤装を使っての訓練など自分達が役に立てていることを実感できている。前まで生きた感じがしなかったが、ようやく自身の鼓動を感じられるようになった。
今の環境は天国である。○○鎮守府A基地へ所属できたことはまさに運命と言っていいだろう。あの日、深海棲艦が侵攻して来た日に○○鎮守府A基地の提督こと青年との出会いによって今があるのだから。
「まだ慣れないなぁ……ここは大丈夫ってみんな言ってくれたのに。やっぱり怖いんだ……私は」
目覚めた時よりも意識がハッキリとしているのは錯覚などではない。鈴谷は怖いのだ。寝て目が覚めた途端に今と言う時間が夢で、忘れようとしている憎き豚野にこき使われている方がもしも現実だったらと思ってしまうのだ。あの地獄から自分達は解放された。もう気にしなくてもいいはずなのに……それでも一度刻まれた傷は治すのは難しい。
でも不安だけではない。希望も見つけた。それが青年だ。
美船元帥から『「あなた達、彼の艦娘にならない?」』その言葉を聞いた時、誰もがチャンスだと思った。だが葛藤も生まれた。今まで提督を求めていた。豚野が提督だなんて認めたくなかったし、受け入れられなかった。そんな時に青年と出会い、共に死地を切り抜いて生き残った。鈴谷達が戦場へ出て行っても椅子にふんぞり返りただ眺めていることはせず、仲間の夕張と共に全力でサポートしてくれた。初めてのことだった。まさに自分達が求めていた提督が青年だった。すぐに答えは出せなかった。誰もが手のひらを反すようで迷いがあったが最後に背中を押したのが何よりも青年自身が鈴谷達に言った言葉だった。
『「なれるって聞くな、なるんだよ。幸せってのは手を伸ばさなければ向こうも伸ばしてくれない。幸せになるのを諦めている奴の下にはやって来ないし、諦めている奴は何が幸せかなんてわからない。幸せってのは待っているだけじゃダメなんだ」』
深海棲艦の侵攻時に遠征に出ていた駆逐艦の子達は誰一人として帰って来なかった。その子達の分まで自分達は生きなければならないのだ。それに鈴谷にはもう一つ、R基地で轟沈した最上達そして熊野が最後に言った『「わたくし達の分まで生きて……幸せになって……」』あの言葉を忘れない。自分は沈んでいった者達の分まで幸せを手に入れなくちゃいけないと誓った……だから今ここに居る。
「鈴谷、そろそろ起きてください……ってもう起きていらしたのね。ごめんなさい、いつもなら鈴谷が起きるまで隣に居ますのに……ちょっとお花を摘みに行ってましたわ」
「熊野は気にすることないって。布団がもぬけの殻だったからちょっち焦ったけど問題なかったよ。その程度では狼狽えないし♪」
「……ちょっち焦ったとか言っていましたけど?」
「ナ、ナンノコトカナー!?」
「ふふ、聞かなかったことにしておきますわ。鈴谷、今日もやることがあるでしょう。早くパジャマを着替えてください」
「あっ、そうだった。明日は
パジャマを着替えていつもの慣れ親しんだ服装へと着替えて部屋を出るとそこには○○鎮守府R基地の仲間達がいた。
「お主遅いぞ。キッチリ起床時間通りに目が覚めた吾輩を見習うがよい!」
「筑摩に起こされなかったら延々と寝ている癖に……利根は子供よね」
「なんじゃと!?夕張はメロンの癖に!!」
「だ、誰がメロンよ!?関係ないでしょ!!?」
「まぁまぁ
「筑摩も今メロンって言った!?」
「おはようございます鈴谷さん、よく眠れましたか?」
「おはよう鈴谷。熊野もおはよう」
「お二人共おはようですわ」
「おっはよう翔鶴、
こうやってふざけ合えるなんて夢のようだ。毎日が楽しくて仕方がない鈴谷達であったが、でも今日の主役は彼女達ではなかった。
「「「「「……」」」」」
○○鎮守府A基地では食堂が皆の集いの場となっている。いつもは賑やかで美味しい料理を食べつつ、お菓子を片手に艦娘同士が団欒している場面があるばずだが違っていた。鈴谷達は談笑しながら食堂を訪れたがその瞬間から言葉を控えた。扉を開けようとする手に躊躇が生まれる……何故?
鈴谷達はここへ所属することになった。今までまともな訓練をしたことのない彼女達にとってこの鎮守府で得られるものは多い。その一つにこの食堂が関わっている。朝食を食べる為に訪れた理由があるのだが、それとは別にもう一つの理由があった。とある艦娘達からの指導……しかしそれも今日限り。彼女達は短い間ながらもこの時間を失いたくなかった。しかしいつまでも扉の前で立ち止まっている訳にはいかない。意を決して扉を開ける……
「みんなおはよう、朝食を用意するからちょっと待っててね。それが食べ終わったら……最後の料理教室を始めましょうか」
鳳翔と間宮が出迎えた。いつもの笑顔が今日は寂しそうに見えたのは錯覚などではない。
大淀、明石、鳳翔、間宮、龍驤、不知火、木曾の七名が美船元帥の下へ帰る日が明日なのだ。
★------------------★
「……はぁ」
秘書艦である吹雪達に残しておく戦闘記録や遠征地点の詳細な図など必要な書類をまとめていた大淀の口から吐き出されたのはため息だった。そのため息は疲れや呆れが籠ったものではなく、どこか寂しさを含んでいた。
これで吹雪ちゃん達に役立つ資料はよし。明日には大本営に帰ることになる……長かったような短かった時間でしたね。
執務室で手元の資料を机の上に丁寧に置いて辺りを見回した。初めてここへやって来た日の事を思い出す。
「……提督」
いつもそこに居るはずの青年はいない。留守は大淀達に任せて用事があって出かけている。ここへやって来た頃ならば何か悪事を働くのではないかと疑い、尾行なりなんなりしたはずだが今はそんな気も起きなかった。
正直に言えばここでの生活は快適だったと大淀は思う。美船元帥との生活が悪いとは言わない。ただ……やはり大淀も女である。艦娘は総じて容姿が醜く、多くの人間から距離を置かれている。不細工が損をする理不尽な世界と言ってもいい。この世界の中で美船元帥のような稀な人間と出会えた。彼女自身が人間でも珍しい不細工に当てはまる人物だったからなのかもしれないが、中には巡り合うこと無く冷たい深海へと落ちていく艦娘達がいるのだから幸福なことだろう。醜い自分達を兵器や化け物扱いする訳もなく接してくれる人物……もしもそれが男性ならばどうだろうか?
艦娘である大淀は深海棲艦から人間を、国を、平和な海を守ることが役目だ。しかし醜いと言えども体は女性であり、心もそうだ。容姿を除けば人間の女性となんら変わらないが。人間の女性からしたら艤装を装備するだけで軍艦の力が発揮できる怪物と同じにされるなど拒むだろう。男性もそんな危険なしかも容姿が汚らわしい相手に意識を向けることはしない。しかし青年は違った。
私は誇りを持っています。艦娘と生まれてきて良かったと思う気持ちと悲痛な現実が艦娘としての生を恨んだことがあります。それも……この容姿ですから多くの方に蔑まれてきました。男性の方もまともに目を見てくれませんでしたし、好きでもない容姿をバカにされ、私達が必死になって命を賭けて戦っている中で掛けてくれる言葉は冷めていました。見返りは求めるつもりはありません……ありませんがあんまりだと思いました。美船元帥に出会わなければいずれ私は人間の方々を見限っていたかもしれません……いえ、見限っていたと思います。
提督あなたもその一人になると思っていました。しかしそうはならなかったのは、きっと提督はお優しい方だからなんだと思います。
提督は仕事熱心ですが、私や吹雪ちゃん達を気遣ってくれて小休憩を必ず間に何度も挟んでくれたり、空気の入れ替えをやってくれることを知っています。そもそも艦娘と一緒の空間で事務仕事をしようとする提督はあなたか美船元帥ぐらいですよ?ちゃんと三食キッチリ栄養と重視した食事を欠かせず食べさせようとしてくれますし、事務仕事ばかりだと体が鈍ってしまうとラジオ体操まで仕事の一部として投入しましたよね?工廠に居る明石には熱中症や脱水症状を引き起こさないように水分補給を言い渡しました。他にも色々と用意してくれました。あれは全て私達艦娘の為に導入してくれたものだと理解しています。ここまで艦娘の為にと親身になってくれた方は男性ではあなただけです。
だからでしょうか、正直言えば吹雪ちゃん達が羨ましいです。あの子達と私は違う……提督の艦娘かそうでないか。それさえなければ……
「私は……」
大淀は「あなたの艦娘だったら良かったのに」とは言えなかった。美船元帥も素晴らしい人間だと言い張れる。艦娘を優先して行動し、共に歩んできた家族だ。青年は今まで見てきた男性では一番だと言える程に素晴らしい人間だ。軽視派であるにも関わらず艦娘に優しく接するのは未だに不明だが、それでも間違いはないと思える。だが大淀は美船元帥の艦娘だ。今もこの世界のどこかで深海棲艦との激戦が繰り広げられる。その為に自分は戻らなければならない……深海棲艦と戦う艦娘なのだから。
「大淀、居るよね?」
「明石?」
そんな時だ。ドアをノックして声をかけてきたのは明石だ。扉を開けるとそこには工廠の新たな責任者となる夕張も一緒だった。
「夕張さんも一緒だったんですね。二人揃ってどうかしましたか?」
明石がここを去る前に夕張に徹底的に工廠でのルールを教え込んでいる。初めは沢山の妖精達に彼女は大変驚いたが、それよりも○○鎮守府R基地よりも小規模だが艤装や設備の状態が良かったことに感銘を受けた。妖精達と明石が日々手入れをしていたおかげでもあり、夕張はたった一人で工廠と司令部での入電対応をさせられ睡眠時間すらまともに確保できなかった。それと比べたら天と地ほどの差で、残り少ない時間で引き継がないといけない為、覚えることは沢山あるがそれでもここで生活は快適そのもので何不自由のない最高の空間に文句などあるはずがない。執務室を訪問する意味とはなんだろうか?
「大淀、あのね、提督を探していたんだけど知らない?」
「提督ですか?提督なら用事で出かけていますよ」
「そうだったの。聞きたいことがあったんだけどな……」
「何かあったのですか?」
「妖精達の数が少ないのよ。昨日はあんなにいたのにいつの間にか居なくなっちゃってたの。あの子達に聞いても言葉はわからないし」
「私はここに来たばかりで妖精さん達が沢山居ることは知っていましたけど、今日は数人しか見ていません。だから明石と一緒に提督にお伺いしようと思ってたんですけど……提督いないんだ」
今では提督呼びとなった夕張。初めて提督と呼べる理想の相手と巡り合い、共に鈴谷達をサポートし、豚野から自分を庇ってくれたあの時の青年の横顔を彼女は忘れていない。着任したての夕張にも声をかけてくれて「熱が籠るから必ず水分補給と休息、換気を怠るなよ」と心配してくれた。明石が「提督に聞いて来る」と執務室へ向かおうとする。夕張には工廠で待っているように言ったが自分も付いていくと主張した。少しでも青年とお喋りしたいがまだここにも慣れておらず、やっぱり一番気にしている自身の容姿で一人で会いに行く勇気が出なかった。吹雪達から「司令官はそんなこと気にしません」と夢のような言葉を貰ったが、それでもやはり勇気がいる。だが今回の件で「一人が無理なら二人なら!」とチャンスが到来したと思った矢先、肝心の青年はおらずガッカリしている様子である。
ふふ、夕張さんったら……それにしても妖精さん達が居なくなるだなんて不思議です。私達に愛想尽かして出て行ったことはないでしょうけど……もしかして提督の用事と何か関係あるのでしょうか?あの人は私の予想だにしない行動を取る方ですからあり得ますね。それならば心配する必要ないのですけど、もし何かあった時が怖いですから補佐として妖精さん達の様子をこの目で見ておきましょう。補佐としての役目も今日で終わり……か。
提督、あなたは初め寝る間も惜しんで仕事を一人でこなそうとして間宮さんと鳳翔さんに怒られていましたね。それから私と吹雪ちゃん達とで監視兼補佐役として働くことになりましたね。そこから私はあなたを傍で見ていました。自らのお金で私達にお給料を渡してくださった時、とても嬉しかったです。こんな容姿である為、外見で判断されて来た私達をあなたは中身で見てくださいました。それにあなたと共に居ると驚かされることばかりで未知の体験で、それを全部含めてここでの生活は楽しかったです。私達はここを去ります……正直言えば寂しいです。でも私達は戻らなければなりません。あなたなら吹雪ちゃん達を任せられそうです。あの子達を幸せにしてくれると信じていますよ。
「お前ら、言葉だけの送り出しなんかつまらないだろ?ほら、パーティーするから席につけ」
……ホント、あなたは予想外のことばかりするんですから……
★------------------★
「お前ら、言葉だけの送り出しなんかつまらないだろ?ほら、パーティーするから席につけ」
時刻はヒトハチマルマル。
少し晩飯には早い時刻に○○鎮守府A基地の艦娘が一堂に会していた。初めそのような予定はなかったが、大淀達との最後の時間を楽しもうとしていた吹雪達一同が急にやって来た妖精達に無理やり連れて来られる形で食堂に集められたのだ。何が起こっているのか訳もわからず、厨房担当の間宮や鳳翔も困惑している様子であり、誰もこの状況が理解できない。そんな中、食堂の扉が開かれ現れたのはやはり青年だ。肩や頭の上に妖精達がおり、この光景も前見たことがあった。しかし以前と異なっていたのは青年の背後からも沢山の妖精達が現れた。報告にあった姿を眩ませていた妖精達だったが衣装が変わっていた。
コックの姿やウエイトレスの姿、中にはサーカス団のような派手な衣装を着ていた。一体なんなのだこれは?困惑に困惑が重なる状況で誰もが頭にクエスチョンマークが表示されるが、青年は気にせず言い放った言葉が先ほどのものだった。
「……パーティーって……あれですよね司令官?」
「みんなで集まってにゃー!って騒ぐあれでしょ?」
「へぇー、にゃーって騒げばいいっぽい?電ちゃんも一緒にやるっぽい。にゃー!!!」
「はわぁ!?え、えっと……にゃ、にゃー!!!は、恥ずかしいのです……」
「ちょっとあんた達は何をやってんのよ……」
「提督どうしちゃったの?熱でもあるの?僕とても心配なんだけど……」
夕立と電の猫真似だと……!?危うく轟沈するところだったじゃねぇか!!?あの
誰もが驚いているようだな。それもそうだろう、いきなり集められて何事かと思ったらパーティーをするんだからな。サプライズって言う奴だ。だがただのサプライズではない。当然だろうが!俺がこいつらの為にただのパーティーをすると思っていたか?冗談抜かせ、昇進の為に必要な準備の一つなんだ。ちょっとした事かも知れねぇけど、
実はこれは青年が仕込んだことだ。大淀達が帰ると知ってから入念に計画を練って今日実行することにしたのだ。『楽しいサプライズで艦娘共の心を操ろう大作戦』さてその内容とは一体何なのだろうか?
「提督、那珂ちゃん質問いいですかー?」
「なんだ那珂?」
「パーティーって何のパーティーなの?」
「大淀達が明日帰る。ここに居るのは最後なんだから盛大にパーティーをしようって算段だ。大淀達から多くのものを学ばせてもらっただろ?こんな小さな鎮守府の為に貢献してくれた。そのお礼と言うわけだ」
「「「「「えっ?」」」」」
驚く大淀達、木曾なんかは唖然として口が塞がらないぐらいだ。提督である青年自らがわざわざ自分達の為にと計画していたのだから当然ことだ。他の艦娘が元の所属地に帰るだけでパーティーしようとする輩は美船元帥を除いていないはずなのだ……普通であったならば。だが彼はイレギュラーであった。
楽しい思い出って言うのは記憶に強く残る。それを利用して俺がミスを犯して黒い証拠が残ったとしよう。その証拠を軍法会議で突き出され、重罪が下されかねない状況でふっと思い出す。楽しかった記憶、そしてサプライズと言う普段とは違う出来事は記憶に強く刻まれ、ちょっとした拍子に今回のパーティーの光景を思い出してしまい「あの時のこの人は優しかった。でも深海棲艦との衝突や様々な事情があって心が疲れ果ててきっと道を踏み外してしまったんだ。でもこの人は戻ってくれる……あの優しかった頃に」と勝手なイメージビデオでも脳内に流すだろうぜ。そうなれば美船元帥さんに俺の処遇を和らげてもらえないか進言するはずだからな。まぁ、俺が軍法会議にかけられるヘマなんてしないがな。だが先輩方はあの
しかし内面はあべこべ世界でのイレギュラー的存在である青年。己の昇進の為に大淀達の帰還まで利用しようと企てている。利用できるものは全てを利用するつもりなのだこの若者は……なんて奴なのだろうか。
「あ、あの……提督、私達は
間宮は言った。妖精さん達がやる気が満々で準備に取り掛かっていて今更言い出すのはどうかと思ったが、ここまで大それたことを自分達の為にする必要はないのではないかと謙虚な彼女だから言わずにはいられなかった。
「間宮の言う通りだろうな。だがお前達にとって
「提督……」
クヒヒ♪感傷に浸っているようだが……バカめ!!!俺の昇進の為、身の安全の為、そしてお前達の監視から解放される俺への祝杯を兼ねてのパーティーなんだ。目的に利用されていることも知らずに喜びやがってよ、本当にバカな連中だぜ。お前達が居なくなったらこっちはやりたい放題なんだよ!
わざわざ「
大淀達はパーティーをしたことはあるが、それは美船元帥とだけだ。醜い艦娘の為にパーティーを開くなんてことは普通ならあり得ない。ただ単なる戦力として戦場で働かされ、帰るならさっさと帰れと言われてもおかしくないのに、妖精達にお菓子を大量に用意してまで協力を得た……報酬がお菓子なのは絶対に譲れないらしい。
「だからお前達はここで座って楽しんでいろ」
「青葉もですか?」
「あの、わたくしもですか?」
「そうだ。青葉も熊野も全員座って待ってろ。勿論鈴谷達もだ」
「えっ?て、提督さん……鈴谷はまだ着任したばかりで役に立ってないじゃん。私にもお手伝いさせてほしんだけど?」
「ダメだ」
「ええ!?ダメなの!!?」
「ああ、ダメだ」
着任して日が浅い鈴谷はそれほど役に立っていないのに熊野達と同じような待遇を受けて良いのだろうかと思って自ら申し出たがあっさりと断られてしまう。
「なら吾輩の出番じゃな!」
「利根姉さん一人では危ないので私も……」
「ちくま!?吾輩は一人でも問題ないのじゃ!!」
「利根も筑摩もダメだぞ」
「なんじゃと!!?」
「で、ですが……」
鈴谷が思っていることは利根や筑摩も同じ。ここぞと申し出たが同じく断られてしまった。
「翔鶴と瑞鶴もダメだぞ。夕張も立とうとせずにくつろいで座ってろ」
「で、でも提督さん……翔鶴姉どうしよう?」
「そ、そうよね。あの提督、どうしてもお手伝いしてはダメですか?」
「わ、私も……工廠を任される身だけど手伝いぐらいは……」
「断固拒否する」
誰が申し出ても青年は首を縦に振らぬだろう。彼の決意は固い。
「いいか、これは俺が主催者でお前達が御客様だ。大淀達……いや、艦娘が今日の主役だ。戦場で戦い傷つくのはお前達、そんなお前達に対して俺は大したことをしていない。丁度いいチャンスだったんだ。これは日頃の行いの感謝も込めて俺からの贈り物だと思え。だから今日は楽しむ側で要ろ。用意は俺と妖精さん達でする」
「「「「「提督(司令官)……」」」」」
艦娘達の心が一つになった気がした。こんなにも温かい鎮守府が今まであっただろうか?誰もがここから離れたくないと思う。艦娘として生まれた以上自分達の使命を忘れることはできない。だが今日ぐらいは忘れてもいいだろう。
大淀達だけパーティーを楽しませたら扱いの格差に不満が出る。俺がそんなこともわからねぇようなバカではないさ。吹雪達に熊野達、そして鈴谷達も一緒に楽しませればストレス解消、不満が生まれず、戦力を維持……いや、もしかしたら戦力が向上する可能性が大いにある。士気が右肩上がりなんてことに……クヒヒ♪なんて恐ろしい作戦だ。俺は軍師になれる才能があるのかもな♪
パーティーに隠された計画を知らない艦娘達。その計画が進むにつれて青年は内心笑いが止まらなかった。
「パーティー始めるのおっそーいー!」
「わかってるから急かすな!島風も席について待ってろ」
「速くしてよー!」
「準備は整った。今まで共に戦い、共に過ごし、共に己を高め合った仲間。鈴谷達はまだ着任してから日は経ってないが、パーティーに遠慮も付き合いの長さなんて関係ねぇ!お前達、今日と言う日を思う存分楽しみな!!!」
歓声が上がる。各々好きな料理やお菓子、飲み物を自由に手に取り飲み干す。ざわざわと煩さを増すがそれが逆に心地よいBGMとなる。
「那珂、こういう時にこそアイドル(自称)の出番じゃないのか?」
「ええ!?那珂ちゃんの単独ライブ開催していいの?」
「当然だ。パーティーだぞ?盛り上がっていい日なんだ。それに『艦娘が今日の主役だ』と言っただろ。だから日頃からアイドル(自称)の訓練をしていた出来栄えを俺に見せてくれよ」
「那珂ちゃんのこと……知ってくれていたんだ」
「俺は提督だぞ?お前達のことを知らずに提督なんて名乗れるかってんだ」
「提督……うん♪那珂ちゃんの単独ライブで更に盛り上げるから提督は目を離さないでね!!」
更に場は那珂の単独ライブが急遽開催されて大盛り上がりを見せる。その光景をほくそ笑みながら眺める青年。
クヒ、クヒヒ♪流石俺が考えた『楽しいサプライズで艦娘共の心を操ろう大作戦』だぜ。見えない操り糸でお前達の心は拘束されつつあるんだよ。那珂の奴にも日頃から影でアイドル(自称)の練習していたが、それを披露する機会がなかったから丁度いい機会だったぜ。やりたいことを我慢するのは大事だが、ここぞと言う時に発散させないと次第にストレスの原因になることは避けるべきである。その為にも那珂には俺の為に働いてもらわないと困る。
今まで親しい仲だった大淀達が居なくなるんだ。吹雪達は顔には出さないが精神的に寂しさを抱くことだろう。これもストレスや戦力の低下に繋がる可能性がある。そこで那珂にはアイドル(自称)として全員の士気を上げてもらう為に鼓舞してもらう。クッヒッヒ♪アイドルと言う名の操り人形として今は楽しめよ。
料理をするコック姿の妖精、注文を聞きに来る(言葉がわからぬから雰囲気でそうなのだろう)ウエイトレス姿の妖精、マジックや曲芸で楽しませるサーカス団のような派手な衣装姿の妖精達が場を盛り合げ、急遽始まった那珂のライブにより更に白熱した空気が充満する。
中々いいライブだったな。ここでお開きと普通はなるのだが……もう一押しは必要だな。クッヒヒ♪その為に計画を入念に練ったんだ。そこで導き出した答えが俺自らが料理をして胃袋を掴んでやる。上司が部下に対して手作りの物を渡すと好感度アップに繋がる……これを利用してやる!我ながら恐ろしい計画だぜ。待ってろよ、腕によりをかけて料理を振舞ってやる!!おっと今日ぐらいは栄養バランスよりも満足度の方を優先してやるかな。締めは勿論デザートは欠かせねぇから、わざわざ俺自身が高級店まで出向いてプリンを購入して来たんだ。めっちゃ高かったんだからな!自腹で買ったんだ。その値段以上の利益を俺にもたらせてくれよ……絶対だぞ!!!
締めの高級プリンは皆のハートは鷲掴みにし、それはそれは大変賑やかな盛り上がりを見せた。
「あっ……ああっ!!?」
「い、いきなりどうしたんですか青葉さん?」
青葉が慌てて立ち上がる姿に疑問を持った吹雪。青葉がこりゃいかんと慌ててあるものを取り出した。
「カメラっぽいよ?」
「夕立さん、ぽいではなくカメラなのです。そう言えば青葉さん、今日はまだカメラで撮ってないのです」
「そうなんですよ電さん!!ああ……こんなスクープだらけの現場でカメラを構えることを忘れて楽しんでしまいました。記者として未熟です……青葉一生の不覚っ!!!」
思い出したのはパーティーが終盤に差し掛かった時だった。提督が艦娘と一緒にパーティーに出席、主催するまさに国宝級のスクープ場面を撮り忘れていたことにガックリを項垂れる青葉の姿を見て時雨が言った。
「じゃあ、みんなで思い出作りに記念撮影でもしたらどう?」
「それです!!!」
その一言を皮切りに全員で記念写真を撮ることになった。青年は初めは嫌がってはいたが、大淀達とも最後だからと「特別だぞ!!」と言って中央に陣取った。本人曰く「一番偉い人物は前ではなく中央なのだ!」と言っていたが、主張が合っているかはともかく自然と彼の周りには醜い艦娘達が密着する程に近づく。不知火や木曾の顔が赤かったのは……ここで言うのは野暮のようなので言わないでおこう。
もしも第三者がこれを見たらまさに地獄絵図となっただろうが、ここには地獄などは存在しないようだ。ちなみに肌が触れ合いそうな状況で青年はと言うと……
ふぅわ……いい匂いだ。なんで女っていい匂いがするんだよ?癒されるじゃねぇか♪んぁ?睦月どうし……んぁ!?いきなり抱き着くなっての!!っと、んぁぁ!!?夕立も抱き着くな!!ま、待て……や、やばい俺の
その記念写真に写っている誰もが笑っていた。心の底から楽しいを表現していた。光が満ち溢れていたがそんな時間も終わりの時は必ず来る。
「……疲れた」
青年は執務室で一服していた。大いに盛り上がったパーティーもお開きとなり皆が寝静まる時刻だった。本来ならば彼自身も既に就寝しているはずだが、今日は目が覚めて眠れずいた(主に
「んぁ、誰だ?」
「大淀です提督」
大淀だと?何の用だ?明日は早朝に出発予定でもう寝ているはずなんだがな。
青年は立ち上がり扉を開けるとそこには居たのは大淀だけではなく……
「司令、突然の訪問申し訳ございません」
「不知火?」
「もう寝てなアカン時間やけど今日は許してや」
「龍驤?」
「提督、お疲れのところ申し訳ありません」
「いきなり大勢で訪れたことお詫び申し上げます」
「間宮?それに鳳翔?」
「私も当然いるわよ」
「明石も?」
「………………………………………………」
「……六人だけか」
「おい!?俺を無視するのかよ!!?」
「今の流れで何も喋らなかったからな。無視して良いのかと思ったぞ?それで木曾まで……一体なんだ?」
美船元帥側の艦娘七名が訪れた。いきなりのことであった驚いたが、今日は思う存分に働いたので疲れている。手短にしてくれと伝えると……
「提督、私達の為にパーティーを開いてくださいありがとうございます」
「司令、不知火は……司令に会えたことを誇りに思います」
「まぁなんや、色々と言いたいことあるけど……提督……いや、
「私は料理を作る事しか取り柄がありません。ですが提督はそんな私に対して気遣ってくれて、何よりここで皆さんの為に働けたことが私の喜びです」
「間宮さんと同じように私にも気遣ってくれました。提督あなたは素晴らしい方です。この鳳翔、提督のことは決して忘れません……ですが私が居なくてもカップ麺ばかり食べようとしたらダメですからね?」
「色々あったけど楽しかった。もうね、楽しかった記憶ばかりで……なんだろう?ううん……上手く言えないけど私、提督に出会えて良かったわ」
「……吹雪達のこと頼んだ。俺が居なくなっても大丈夫だろうがな。明日になればお前ともおさらばだ。まぁ、一応お前には寝床と食事を提供してくれたし、礼をしないで帰る無礼者にはなりたくないんでね……世話になった。それと………………………………………………ありがとよ」
「……そうか。もう寝ろ。明日は早いだろ」
「……はい、そうします」
大淀はそう言うと各自最後の自室へと帰って行った。
……ったく、早朝に帰るんだろがよ。俺に礼を言うぐらいなら寝てろっての。利用されているとも知らないで……本当にバカな奴らだぜ。
青年はそんなことを思いつつもベッドに潜り込む。先ほどまで感じていた疲れもいつの間にか抜け落ちていたような気がしたが……そんな気も確かめる間もなく夢の中へと旅立った。
そして翌日、大淀含む七名の艦娘が○○鎮守府A基地を去っていった。